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おぢばにおかえり

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36部分:第六話 レポートその五


第六話 レポートその五

「わかったから。泣かないよ」
「いいの?」
「いいわよ」
 ついつい苦笑いになりました。
「だから泣かないの。いいわね」
「別に泣いていないよ」
「嘘仰い」
 今度は優しい笑みになったような。自分でもわかります。
「そんな顔していたわよ」
「気のせいだって」
 もういつもの新一君に戻っています。
「気のせいだから。じゃあデートだよね」
「ええ。それで今度はね」
「うん」
「台湾のコーナーに行くわよ」
「ああ、あそこね」
 何か知ってるみたいです。
「やっぱり中国だから?」
「っていうかね」
 また新一君に答えます。
「中国と台湾の違いも書かないといけないし」
「色々あるんだ」
「大学生だって色々あるのよ」
 これは本当のことです。といっても高校の時よりはずっとないですけれど。高校の時って何かと色々ありましたから。特に三年になってからは。
「だからね。いいわよね」
「僕は別にいいよ」
 やけに従順で気持ち悪い位です。
「先輩と一緒ならね」
「そうなの。よかったわ」
「だってさ」
 すぐにまたいつもの笑顔になって言います。
「先輩と一緒にいられるんだし」
「いつもそれ言うわね」
 いい加減聞き慣れてきました、はい。
「気にしないでいいけれどね」
「じゃあ気にしないわ」
 何なんでしょう、この子のこれって。高校三年からのことなんですけれど。
 とにかく台湾のところも見回って。それで終わりでした。私達は参考館を出ました。
 そこの入り口で。新一君はまた声をかけてきました。
「これからレポート書くの?」
「それは明日からね」
 そう新一君に答えます。
「図書館でその本を読んでからよ」
「そうするといいね」
 新一君も私の言葉に頷いてきました。
「特に急がないんだよね」
「提出は一週間後よ」
 私はそう答えました。
「ワープロでだから手書きよりも早いし」
「ふうん」
「だから間に合うのよ。明日の夜からかかるわ」
「ワープロってことはあれ?詰所の」
「いつも使わせてもらってるのよ」
 申し訳ないですけれど。主任先生や井本さんご夫婦の好意で。
「そうだったんだ」
「何か今回はかなりいいレポートが書けそうね」
「俺のおかげだね」
「そうね」
 今回はその通りなんで。新一君の顔を見上げて笑いました。
「感謝するわ」
「いやいや、御礼は別にいいけれど」
「私何も言っていないけれど」
 少しむっとなりました。この図々しさが本当に。
「何でそんな話になるのよ」
「違うの?」
「違うわよ」
 そのむっとした顔のまま答えました。
「御礼はさ」
「それでも言うのね」
 自分勝手なんだから。いつもいつも。
「お姫様だっこさせてくれたら」
「明日身上思い切り受けなさい」
 何かあった時に親神様から身体に色々と受けることを身上と言います。天理教の教えでは怪我や病気もこれにあたります。
「よくそれで今まで何もなかったわね」
「日頃の行いがいいから」
「何処がよ」
 ああ言えばこう言う。それでよくもまあって思います。
「とにかくさ。御礼だけれど」
「何がいいのよ」
 仕方ないわね、って感じです。段々本当に弟みたいになってきたような。一番上の妹よりも実は年上なんですけれど。
「今余りお金ないわよ」
「お金じゃなくても御礼はできるよ」
「お姫様だっこはなしよ」
 ええと、そうそう風と共に去りぬでしたよね。あんな感じのだっこで。何かこういうの思い出す私も結構趣味が古いんでしょうか、
「そんなの。絶対に」
「だったら。別のでいいかな」
「別の?」
「明日もデートとか」
 いきなり話を決めてきました。
「それだと駄目かな」
「デートって。図書館で?」
「うん」
 楽しそうににこにこと笑って私に言います。
「本を探すついでにさ」
「本を探すだけじゃない」
 たったそれだけなのに。何を言っているんでしょう。
「それだけだけれどいいの?」
「別に。結構だよ」
「今回は欲張りじゃないのね」
「だってもう満足してるし」
「だったらいいけれど」
 実は新一君って結構無欲です。意外と何が欲しいかとかは言いません。甘えん坊なのは本当ですけれど。
「じゃあ明日ね」
「うん、また明日」
 笑顔で私に言います。
「今日はこれでね」
「もう帰るの」
「僕も忙しいから」
 すぐに嘘だとわかる言葉でした。
「じゃあこれで。また明日」
「何に忙しいのよ」
「ゲーム」
 ほら来たって感じです。
「今やり込んでるから。それでね」
「そうだったの」
「そういうこと。スパロボね」
 スパロボ!?何なんでしょう、それって。
「スーパーロボット大戦パーフェクト。これが凄く長くてさ」
「長いってどれ位よ」
「二百話以上あるんだ」
「・・・・・・本当に凄いわね」
 世の中色々なゲームがあるものですけれどそんなに長いゲームもあるんですね。シナリオを考えるだけでかなり大変そうなのがわかります。
 
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