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おぢばにおかえり

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35部分:第六話 レポートその四


第六話 レポートその四

「あれ?史記とか戦国策とか」
「そうそう、そういうのも読んで書くといいよ」
「読めるの?」
「うん、簡単に」
 またわからないことを言ってる、と思いました。中国の古典なんてそう簡単に読める筈がないのに。それでも新一君は言うんです。
「おふでさきやみかぐらうたの原本よりもね」
「あれよりも?」
 おふでさきやみかぐらうたは教祖がお書きになられたものですけれど元々直接筆でお書きになられたものなので普通の印刷の本と比べて読みにくいところがあります。それで今ではちゃんと活字印刷にしているものが出されています、
「そうだよ。だって日本語訳されてるものがあるから」
「へえ」
 これはびっくりです。そんなのがあるんですね。
「それ読んだらいいよ」
「そうね」
 凄くいいことを聞きました。それなら。
「じゃあ後で図書館に行くわ」
「時間あるの?」
「ないかも」
 ここを見てからだとかなり危ないです。残念なことに。
「じゃあ明日にでも行けばどうかな」
「ええ、じゃあそうするわ」
 新一君の提案に頷きます。それならいいですね。
「そういうことね」
「うん。じゃあ今日はここで僕とデートだね」
「仕方ないわね」
 ちょっと微笑んでしまいました。いいことを教えてもらったから。それだといいですよね。
「いいわ」
「やっぱり先輩は優しいなあ」
「こうした場合優しいって言うのかしら」
 ちょっと違うんじゃないかな、と思いますけれど。
「まあまあ」
「まあいいわ。それじゃあ行くわよ」
「うん」
「それにしても」
 歩きはじめてから新一君の方をちらりと見ました。
「何?」
「色々知ってるのね」
 そう彼に言いました。
「そんなのあるの知ってるなんて」
「まあたまたまね」
 新一君は笑って答えました。
「うちに本があるから」
「何か凄いお家みたいね」
 私の家はやっぱり教会ですから天理教とか宗教関係の本が多いんです。お父さんもお母さんもおみちの人ですからそういう本が集まるんです。私や妹達は漫画とかライトノベルが多いです。
「新一君のお家って何やってるかわからないけれど」
「普通のサラリーマンだよ」
 新一君はあっさりと答えてきました。
「別に何の変わりもない」
「普通のサラリーマンの人からこんな子が出て来るなんて」
 突然変異でしょうか。真剣にそう考えました。
「それでどうするの?」 
 私の言葉を無視して言ってきました。
「その本使うの?」
「よかったら」
 私もそういう本があるのなら是非使ってみたいです。だからそれに頷きました。
「御願いできるかしら」
「じゃあ図書館だね」
「何か話が大きくなってるわね。それにして」
「何?」
「史記よね」
 私はそれについて言いました。
「そうだけれど?」
「学校の授業で出て来たわよね」
 古典とか世界史で。覚えなければならなかったので今でも覚えています。東寮の中で苦労して勉強した記憶があります。勉強中に新一君が下から大声で私を呼んだのはもっと覚えています。
「確か」
「だって有名な古典だし」
 新一君もそれを言います。
「やっぱり出るよ」
「そうよね。それって実際に売られてるの」
「そうだよ。だから図書館にね」
「わかったわ。それにしても色々な本があるのね」
 それをあらためて実感しました。いえ、本当に世の中って色々なものがありますね。
「色々な人もいるし」
「先輩みたいな小さい人も」
「背は関係ないでしょ」
 またそれを言ってきます。どうせチビですよ。
「別に。、またそれを言うんだから」
「御免御免」
「今度言ったらデート中断だから」
「えっ!?」
 えっ!?って。急にこの世の終わりみたいな絶望しきった顔になりました。
「そんな。それだけは」
「それだけはって」
 そんな顔を見たらこっちの方が驚きます。
「何よ、その顔」
「それだけは止めて欲しいんだけれど」
 新一君は泣きそうな顔で私に言ってきます。
「駄目!?やっぱりそれは」
「止めて欲しいの?」
「だってさ。その、つまり」
 どうしてこんなに慌ててるんでしょう。別に出直すわけでもないのに。天理教では死ぬことを出直すと言います。一旦死んで生まれ変わるって考えて下さい。
「折角一緒にいるんだし。俺だって別に悪気があって言ったんじゃないし。先輩と、その」
「わかったわよ」
 本当に泣きそうなんで。弟を泣かせたような気持ちってこんなのでしょうか。小さい頃妹達を泣かせたことはありますけれどその時より胸が痛むような。何でこんな気持ちになるんでしょう。
 
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