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おぢばにおかえり

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23部分:第四話 大学の中でその六


第四話 大学の中でその六

「もうなの?」
「もうって」
「四時は充分回ったし」
「それはそうだけれど」
 腕時計をちらりと見ます。確かに時間でした。
「それでももうちょっといないの?」
「だから」
「デートなのよ」
 また楽しげに私に言います。
「それでどうして私達がいるのよ」
「そっ、若い者同士で」
「それはデートの言葉じゃないでしょ」
 お見合いの言葉だって私にもわかります。やっぱり縁起でもないです。
「結局。新一君と一緒なのね」
「どうも、先輩」
「じゃあいいわ」
 いい加減私も観念しました。
「行きましょう。場所は」
「俺が案内しましょうか」
「いいわよ、それは」
 何かここで変にお姉さんみたいな気持ちになりました。やっぱり妹が二人いるせいでしょうか。それに信者さんや他の教会の子供さんの相手もしてきましたし。そうした相手をするのって馴れているんです。こんな背だけ高い子供は知らないですけれど。
「私が案内するから。おぢばのことは新一君より知っているし」
「それはまたどうも」
「よっ、姉さん女房」
「年下キラー」
「その二つは絶対に言わないでっ」
 八重歯を出して友達二人に怒りました。
「仕方なくなんだから」
「はいはい」
「まあ私達はこれでね」
「えっ、帰るの」
「帰るのってねえ」
「だから言ってるじゃない」
 私の言葉に呆れた顔を見せてきます。何を言ってるのって感じで。
「私達はお邪魔虫だって」
「もう邪魔はしないから」
「じゃあ私これから」
 ちらりと新一君を見ます。やっぱり嫌になる位にこにこと笑ってます。
「二人きりじゃない」
「デートだから当然でしょ」
「今更あれこれ言わないの」
「うう・・・・・・」
「それじゃあね」
 本当に足を向こうに向けだしました。
「後は二人で」
「ごゆっくり」
 こうして完全に二人になりました。横には相変わらず新一君がいます。
 その彼が。にこにことしながら私の方に来て。言うんです。
「じゃあさ、先輩」
「何処行くの?」
「あれ、それは先輩がエスコートしてくれるんじゃ」
 さっきの話の流れでした。私の方がずっとおぢばを知ってますから。住みだしてもう四年目です。長いようで短いですけれど月日はそれだけ経っています。
「違うの?」
「こういうのは普通はね」
 相変わらずの調子の新一君に言います。
「男の人がするものだけれど」
「じゃあ居酒屋でも」
「そう言うと思ったわよ」
 いっつもいっつも。ふざけるんだから。
「駄目よ、やっぱり私が案内するわ」
「どうもどうも」
「本当に世話がやけるんだから。自分で何かしたら?」
「これでもしてるよ」
 何処がなんでしょう。次から次に出まかせばかり言うくせに。まんまユースケ=サンタマリアさんです。外見はともかくキャラクターはそのままだと思います。
「先輩の見えないところで」
「常に心掛けてるって言いたいのね」
「そういうこと」
 また出まかせなんですが。口を開けば出まかせです。
「だからさ。安心していいから」
「末の妹より安心できないわよ」
 まだ小学生の子よりも。手間がかかるんですから。
「まあいいわ。じゃあ行くわよ」
「それで何処?」
「何処って言われても」
 そこまで全然考えてません。考えられませんでした。
「とりあえずね」
 それでも何とか口には出します。
「何処か行きましょう」
「ミスタードーナツとか?」
 駅前にあります。結構そこでドーナツ買います。
「あそこでまず、とか」
「そうね。遠いけど」 
 学校から駅まで結構あります。自転車で通う人も多いです。
「それじゃあまずはそこで」
「うん、それじゃあ」
「遠いけれどね」
 そのことに少し溜息です。
「何か嫌なの?いつも通ってる道じゃない」
「道はね」
 歩きはじめながら答えます。もう横には新一君がいます。
「別に構わないけれど」
「俺も一緒にいるのに」
「それが嫌なの」
 そういうことです。はじめての正式なデートの相手が新一君だなんて。これがおみちびきだとしたら親神様はどういう思し召しなんでしょうか。天理教ではそうした人と人の出会いとかをおみちびきと言います。思し召しは親神様のお考えですね。
「全く。皆も何で新一君を応援するんだか」
 私のことは全然お構いなしで。あれでも友達!?と思います。
「わからないわ」
「それが俺の人徳なんだって」
 すっごい図々しい言葉ですよね。
「誰からも慕われる」
「勝手にそう思ってなさい」
 もう処置のしようがありません。
「とにかく。約束は約束だしね」
「じゃあまずはドーナツを」
「ドーナツねえ」
 何かここでふと考えが変わりました。
「それもどうかしら」
「て何かあるの?」
「いえね」
 もう夕食時ですし。何かふと考えが。
「詰所に戻って御飯にする時間だけれど」
「えっ!?」
 それを聞いた新一君の声、顔ときたら。全くの別人でした。特に顔です。何かこの世の終わりが来たって感じの顔でした。天理高校が甲子園の予選で智弁高校に負けた時みたいな。そんな顔になっちゃいました。
「じゃあ帰るの!?あの、その」
「だから」
 何でこんな顔になって狼狽しきった声になっているのかわかりませんが。とりあえず携帯を出しました。
「九、一、三って入れたら?」
「何よそれ」
 それでも変な突っ込みは忘れない新一君です。その番号で何があるのやら。
「とにかく。今日は外で食べるって連絡するから」
「じゃあデートするんだ」
「約束は約束だから」
 約束破るのは嫌いです。ですから。
「一緒に食べましょう、いいわね」
「うん、うん」
 やたらと嬉しそうに頷いてきます。
「じゃあこれからいざ」
「ってこらっ」
 どさくさに紛れて肩を抱こうとしてきます。
「そんなことしたらひっぱたくって言ってるでしょっ」
「あっ、駄目なんだ」
「駄目よ、絶対に」
 また八重歯を出しちゃいました。
「とにかく清く正しく、でいきたいから」
「明るく楽しく陽気ぐらしじゃなくて」
「こんな時だけ言わないのっ」
 都合よく。
「私の肩を抱いていいのは未来の旦那様だけなんだし」
「厳しいね」
「とにかく。行くわよ」
 デートをするだけでも何かあれなのに。あれこれと図々しいんだから。
「わかったわね」
「うん。じゃあ一緒にね」
 何だかんだで私の横に来ました。これ位はいいですけれど。何はともあれ新一君とのデートがはじまりました。はじまるまでにこんなに大騒ぎするものでしょうか、デートって。
「まずはソフト食べようよ」
「はいはい」
 また馬鹿なことを言うのの相手をしながら黒門に向かいます。そこから神殿本部を見ながらデートをはじめるのでした。


第四話   完


                  2007・10・1
 
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