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転生とらぶる

作者:青竹
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番外編069話 if ゲート編 05話

「……え?」
「え? ちょっと……」

 俺の前で、2人のハイエルフが自分と全く同じ顔をした相手を見て戸惑ったようにお互いを見ている。
 それはこのエルフの集落にいる者達も同様であり、自分達の同胞と全く同じ顔をしたハイエルフ……テュカの姿に、ただ唖然とするだけだ。

「えっと、アルマー代表。これは一体……どういう事です?」

 伊丹が、説明して欲しいといった表情でこっちに向けて聞いてくる。
 ちなみにこの伊丹、数日前に行われた役人のホワイトスター訪問の件以降、何故か俺達の専属的な扱いとなっている。
 まぁ、実際気軽に話し掛けてきたりと、俺に取ってもやりやすい相手だからいいんだけどな。
 伊丹の部下達も、あの時と同様に1つの部隊として動く事になったらしいし。
 恐らく、ホワイトスターで俺と伊丹達のやり取りを見ていた役人が上に報告したのだろう。
 実際、俺としても思考が柔軟な伊丹とは、それなりに付き合いやすいので、文句はなかったが。
 表に出る事の多い政治班の面々も、下手な相手よりは伊丹達の方がいいという事になり、俺達が門世界……伊丹達に言わせれば特地と呼ぶこの世界を出歩くのに、ついてきた訳だ。
 別にこの辺りは日本の支配地域って訳でもないんだし、わざわざ一緒に連れてくる必要もないと思ったんだが、特に断る理由もないからという事で、こうして一緒にテュカが2人という光景を目にしている訳だ。

「まぁ、簡単に言えば……」

 そんな俺の言葉に、伊丹達だけではなく……エルフ達までもが視線を向けてくる。
 ちなみに、伊丹達は以前シャドウミラーが作ったこの世界との間で使える翻訳機を付けているので、問題なくこの世界の住人と会話が出来るようになっていた。
 これらの譲渡については、日本の政治家が交渉で俺達から得た物だ。
 ……もっとも、その交渉した相手がエザリアである以上、代わりに相応の物を引き出させられたのは言うまでもないが。
 日本政府はこの件を大々的に披露し、本位政権の支持率は70%近くになっているらしい。
 日本が何を支払ったのかは特に公表していないが、もしその辺りを公表すれば、恐らくその支持率は急降下していたのは間違いない。
 シャドウミラーにしてみれば、この翻訳機は使い道がなくて死蔵していたものなので、ぶっちゃけボロ儲けというのが正直なところだ。

「平行世界、パラレルワールド……そんな感じだな」

 数秒の溜めの後でそう告げると、伊丹達もエルフ達も理解出来ないといった様子でいたが、それでも伊丹と倉田の2人はこの類の話に対して馴染み深い為に、すぐに理解し、叫ぶ。

「え!? じゃあ、もしかしてシャドウミラーは以前こことは別の特地に!?」

 驚愕、といった表情を浮かべる伊丹だったが、それが本当に驚いてのものなのか、実はそう見せているだけなのか、俺には分からない。

「牧場でワイバーンを見せただろ? あのワイバーンは以前門世界……こことは別の世界と繋がった時に確保した代物だ」
「……ああ」

 その言葉に納得した様子を見せるが、果たしてそれはどうなのやら。
 ともあれ、まだ色々と聞きたそうにしている伊丹を始めとした面々に少し説明をしようとし……だが、こちらに近づいてきた気配に気が付き、その動きを止める。

「アルマー代表?」

 不意に空を見上げた俺に、伊丹が不思議そうに視線を向けてくるが……

「テュカ」
「はい」
「何?」

 ……ああ、そうだった。
 この場にテュカは2人いるんだから、名前だけで呼べば2人共が返事をするのは当然か。

「まぁ、どっちのテュカでもいい。ただ、集落にいる全員を避難させろ」
「え? 何で?」

 この世界のテュカが、何故いきなりそんな事を言うのかと、疑問を向けてくる。
 だが、俺の世界のテュカは、俺が何の意味もなくそのような事を言う筈がないと判断し、もう1人の自分に向かって真剣な様子で告げた。

「このままだと、下手をすればこの集落が崩壊するわよ。それでもいいの? とにかく、全員を避難させて」
「いや、だから何でそんな真似を……何も理由がないままじゃ……」
「炎龍だ」
『……』

 テュカ同士の会話に割り込むようにして俺の口から出た炎龍という言葉に、この世界のテュカだけではなく、こっちの様子を見ていた他のエルフ達までもが無言を返した。
 唯一、俺の世界のテュカだけが、どこか哀れみの視線を空に向ける。
 ……そう、集落のエルフではなく、炎龍がやってくるだろう空へ向けて、だ。

「ね、ねぇ。冗談でした、じゃ済まないのよ?」

 この世界のテュカがそう言って俺の方を見てくる。
 まぁ、無理もない。門世界の住人にとって、炎龍というのは極めて凶悪な……それこそ災害と呼ぶのに相応しい存在なのだから。
 とてもではないが、この世界のテュカが言うように冗談で済ませられる話ではない。

「アクセル様が言うのなら、それは間違いないわ」
「……アクセル、様?」

 俺の世界のテュカが様付けで俺の名前を呼ぶのを聞き、俺の世界のテュカは理解出来ないといった様子を見せる。
 まぁ、混沌精霊としての俺の姿を見せていない以上、それは当然か。
 自衛隊の面々も、どこか不穏な空気を感じたのだろう。それぞれに戦闘準備を整え始める。
 それを見て、この世界のテュカも冗談の類ではないと判断したのか、顔を引き攣らせて集落にいる他の皆に叫ぶ。

「取りあえず、逃げましょう! 本当に炎龍が来るのなら、どうしようもないわ!」

 そう叫ぶと、他のエルフ達も我に返ったように逃げ出す。
 だが、この世界のテュカは、特に動揺した様子を見せずに、俺に話し掛けてくる。

「それで、どうします?」
「前は殺すことしか出来なかったからな。骨格標本はホワイトスターにあるけど、出来れば生きている炎龍が欲しい。力の差を見せつければ、きちんと俺に従うようになると思うか?」
「……アクセル様なら問題ないと思います」
「何を言ってるのよ!?」

 俺とテュカの会話を聞き、この世界のテュカが冗談ではないと叫ぶ。
 まぁ、炎龍は災害と同様の存在だ。
 この世界のテュカにとって、俺は全く理解不能な事を言ってるようなものなのだろう。
 言うなれば、台風や地震、津波といった存在を従えると、そう言ってるようなものなのだから。
 だが、俺の世界のテュカにとっては、俺が言ってるのは別に誇大妄想でも何でもない。
 厳然たる事実でしかないのだ。

「大丈夫よ、アクセル様なら」
「ちょっ、いいの? 炎龍よ、炎龍!」
「あのー……話についていけないんですが、炎龍というのはどのような存在なので?」

 俺とテュカ達の話を聞いていた伊丹が、恐る恐るといった様子で声を掛けてくる。
 その表情が若干引き攣っているように見えるのは、俺達の話に不吉な感じがしたからだろう。

「炎龍は……いや、いいや。テュカ、説明は任せた。俺は炎龍をしつけてくる。……こういうのも、テイムするって言うのか?」
「大丈夫だとは思いますけど、お気を付けて。雑事は私に任せて下さい」

 一礼するテュカをその場に残し、俺は空中に浮かび上がる。
 そんな俺を見て、伊丹達が驚愕して叫び声を上げていたが……ホワイトスターで虚空瞬動とかを見たんだし、そこまで驚くような事はないと思うけどな。
 もっとも、俺が空を飛ぶのと虚空瞬動というのは色々と原理が違うのだが。
 ともあれ、エルフ族の集落がある森から上空に浮き上がると、視線の先にはこちらに向かって飛んできている炎龍の姿があった。
 ……さて、召喚の契約とかならグリとした事があるけど、そういう召喚の契約じゃなくて、テイム……従える事が出来るか?
 そんな風に思いながら、エルフの集落の森に真っ直ぐ近づいてくる炎龍に向かう。
 最初は向こうも、俺を見て特に敵らしい敵だとは思わなかったのか、特に攻撃してくるような事もなかったが……俺が近づいてくる炎龍を前にしても、全く逃げ出したりするような姿を見せなかったのが、気にくわなかったのだろう。
 不意に大きく口を開け、自分の強さを示すように吠える。

「ガアアアアアアァァアッ!」

 もしこの門世界の人間が、その声を聞けば間違いなく怯えるだろう。
 炎龍というのは、この門世界ではそれだけ恐れられているのだから。
 だが、それはあくまでもこの門世界での話だ。
 俺にとっては、そこまで怯えるような事は一切ない。

「取りあえず、これは挨拶代わりだ」

 大きく手を振り、空中にはその軌跡をなぞるかのように白炎の壁が生み出される。
 炎龍というだけあって、向こうも炎については強い耐久性があるだろうが……さて、俺の白炎をくらっても、問題はないかな?
 そう思ったが、炎龍もその炎に対しては警戒したのか――白い炎なんだから、警戒するのが当然なのだろうが――翼を羽ばたかせながら白炎を避けるようにして飛ぶ。
 炎龍にとって、仮にも炎の白炎から逃げるような真似をするのはプライドが許さないかと思ったんだが……ちっ、勘は鋭いらいしな。

「けど、甘い」

 パチンッ、と指を鳴らすと同時に、壁を作っていた白炎が幾つもの塊になって炎龍に向かって飛んでいく。
 これは炎龍も予想していなかったのか、白炎の一撃をくらって、身体が白炎に包まれる。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 炎龍を燃やす白炎。
 何とも皮肉な表現ではあるが、一応白炎で燃やしつくさないように加減はしている。
 だが、それはあくまでも致命傷を負わせないようにという意味での加減であって、炎龍の身体は間違いなく白炎によって焼かれており……炎龍は、何とか自分の身体を覆っている白炎を引き剥がそうと、空中で激しく身を捻る。
 もっともそのような行為に意味はなく、炎龍の身体から白炎が消えるような事はない。
 最終的に、炎龍は地面に身体を擦りつけて白炎を何とかしようと、地上に向かって急降下していった。
 ふぅ、取りあえずエルフの集落がある森に入る前に撃墜出来たのはよかったな。
 地面に身体を擦りつけ、何とか白炎を消そうとしている炎龍を追い、俺もまた地上に降りる。
 そうして地上に降りたところで、身体を地面に擦りつけている炎龍を見ながら、再び指を鳴らす。
 すると次の瞬間、今まで炎龍の身体を覆っていた白炎が、まるで夢か何かだったかのようにその姿を消す。
 もっとも、炎龍の身体は様々な場所に火傷を負っており、それが白炎が夢でも幻でもないことを示していたが。

「グオオオオオオォッ!」

 炎龍も自分に怪我をさせたのが俺だと理解したのだろう。
 最初に見た時のように、障害物か何かを見るような視線ではなく……明らかに敵を見る目でこっちを見てくる。

「伏せ」

 そう言い、次の瞬間瞬動で炎龍の上に移動すると、その頭部を殴りつけ、強引に地面に伏せさせた。
 そうして虚空瞬動を利用して一度炎龍から距離を取る。

「グラアアオオオアアオアアアッ!」

 俺に殴られたという事に気が付いたのか、炎龍は顔を上げて殺意の籠もった視線をこっちに向ける。
 だが、俺はそれに構わず……

「伏せ」

 再びそう言うが、炎龍は俺に向かって口を開き、炎を吐き出そうとして……

「ギャンッ!」

 再度瞬動を使って炎龍の頭上に移動すると、ファイアブレスを止めさせる意味でも頭部を殴って強引に口を閉じさせ、同時に殴った衝撃で地面に強引に伏せさせる。
 今の一撃は聞いたのか、炎龍は若干ゆっくりと身体を起こし……

「伏せ」

 三度そう告げるが、当然のように炎龍が伏せる様子はなく、瞬動で頭部を殴って強引に地面に伏せさせる。
 そうして、起き上がる度に『伏せ』と言い、それに従わなければ炎龍の頭部を殴って強引に伏せさせる。
 当然のように炎龍も、俺が攻撃してくる場所が決まっているので、何とかそれを回避したり、反撃しようとするものの……正直なところ、炎龍程度の速度で俺を捉えられる筈もない。
 5回、6回、7回……と同じ事を繰り返し……

「ガ……ガァ」

 言葉尻は弱くなってきたが、それでも炎龍が俺の言う事を聞く様子はない。

 20回、30回……と繰り返し、やがてその数が50回を超えた頃……

「ギャン……ギャン」

 ようやく、俺が伏せという言葉を口にすると、炎龍は伏せる。

「よし。……なら、こっちに来い」

 軽く手招きをすると、やがて炎龍は恐る恐るといった様子で俺の方に近づいてきた。
 そして、大人しく俺に頭を差し出してくる。

「うん、これでテイムは完了だな」

 今まで散々殴った炎龍の頭部を撫でてやりながら、空間倉庫の中から取り出した魔法薬を炎龍に掛ける。
 イクシール程に高価ではないが、それでも殴った頭を回復させるだけなら問題はないだろう。

「よし、じゃあ行くぞ。俺を乗せていけ」

 その言葉に炎龍は素直に従い、そのまま俺と炎龍はエルフの集落のあった場所に戻る。

「さすが、アクセル様!」

 俺の知ってる方のテュカはそう言って尊敬の視線を向けたのだが、この世界のエルフ達は唖然とした状態で何が起こっているのかが分かっていない状況になっており、伊丹達は目と口を大きく見開き、ただ唖然とした表情をこっちに向けてくるだけだった。 
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