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とある3年4組の卑怯者

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133 心境

 
前書き
 入江小学校で起きたテロによって重傷を負った笹山について自分が彼女を見捨てたからこうなったと己を責める藤木。一度はスケートの大会を辞退する事を決めたが、笹山の必死の引き留めで彼女の想いを背に大会への出場を続行するのだった!!

 中間のエピソードを入れて全国大会を先延ばしにしてしまい、すみません・・・。 

 
 入江小で発生した校内テロはニュースとなって新聞やテレビでも報じられた。フィギュアスケートの元オリンピック選手の片山次男にもその情報は届いていた。
(入江小?藤木が通っている学校じゃないか!)
 片山は藤木の安否が心配になった。

 笹山は身体中の怪我の影響で全身を上手く動かせなかった。トイレに行くのも、食事をするのも一苦労だった。
 笹山はベッドで横になっていた。その時、誰かがノックをした。
「どうぞ」
 入ってきたのは城ヶ崎だった。
「笹山さん、大丈夫?ごめんね、ピアノのお稽古があってお見舞に来れなくて」
「大丈夫よ。藤木君達が来てくれたから」
「藤木ね・・・。そう言えばあの時凄く笹山さんを心配してたわね。助けに行こうとしてたけどリリィさんに止められてたわ」
「え?藤木君、そこまで私の事を・・・。そうよね、お見舞に来た時、私に凄く謝ってたの。西村君達に助けに行かせた事をね。それで大会辞めるとまで言ってたわ」
「えっ!?」
「でも私、辞めないでって言ったわ。私は藤木君に怪我して欲しくなかったから堀内を止めようとしたからね。藤木君にはスケートでもっと頑張って欲しいから・・・」
「そう、笹山さん、もしかして藤木の事好きなんじゃ・・・?」
「え?あ、いや、それは答えられないわ・・・」
 笹山は城ヶ崎に勘繰られて動揺した。しかし、それだけ藤木のスケートを応援しているという事は本心ではやはり藤木を・・・。笹山は自分自身に問いかけた。

 夕方あたりに藤木の家に電話がかかって来た。まだ両親は帰ってきていないので藤木は自分で電話に出た。
「もしもし」
『やあ、藤木君、片山だよ』
「片山さん!?」
『ああ、この前君の学校でテロがあったと聞いたんだ。君は無事だったか心配になったものでね』
「僕は何とか大丈夫です」
『よかった、無事で。ここで怪我して大会を辞退する事になってしまったら切なすぎるからな。無事で私も一安心したよ』
「はい、心配してくれてありがとうございます・・・』
『そうだ、明日は土曜で授業も午前までだから一緒にスケートしに行かないかい?』
「え?はい、お願いします!」
『そうか、今の君を私も見てみたいからな。では』
 片山は電話を切った。

 笹山は城ヶ崎が帰った後、何故あの時自分は藤木の事を守ろうとしたのか顧みた。
 それは藤木が得意なスケートで彼に世界一を目指して欲しいから。
 その為に藤木に怪我をして欲しくなかったから。
 藤木は自分にとって大切な『友達』の一人だから。
 そして・・・。
 それらは笹山かず子が藤木に対する思いだった。


 翌日、藤木は学校から帰り、昼食を食べると、親に断ってスケート場に行った。全国大会までの日が迫って来ている為に練習をし、仕上げに入らなければならない。そして今日は自分にスケートの大会で世界一を目指す事を勧めた者の一人、片山と会う約束をしていた。藤木がスケート場に到着すると、片山は既に来ていた。
「こんにちは、片山さん」
「やあ、藤木君。それでは早速滑ろうか」
「はい・・・」
 藤木は片山とリンクを滑走した。片山も軽快に滑っていく。流石元オリンピック選手だなと藤木は驚いた。藤木も軽快にステップをしていく。そしてステップシークエンスを披露し、そしてトリプルルッツを決めた。
「相変わらず調子いいじゃないか。全国大会が楽しみだな・・・」
「ありがとうございます・・・。しかし、次は音楽に合わせた演出が必要なんですよね。上手くできるかな・・・」
「何、君がその音楽に一番似合うと思う演技を考えればいいんだよ。頑張ってみたまえ」
「は、はい、ありがとうございます・・・」
 片山は藤木の反応が気になった。
「それにしても、あのテロの事が相当怖かったのかね?何か元気なさそうだな」
「ああ、はい、僕の友達が僕を庇って入院してしまって、それで申し訳ないなと思って・・・」
「そうか、それは辛かったな・・・」
「それで僕の大切な人が傷つけられていって自分は平気でスケートやってて本当にいいのかなと自分を疑ってしまうんです・・・」
「そうか・・・。その友達は君のスケートを快く思っていないのかね?」
「いいえ・・・。応援してくれています。やめたらもっと悲しいと・・・」
「そうか、なら、限界まで挑戦してみたまえ。その友達も君のスケートで喜び、誉めてくれるだろう」
「はい・・・」
 藤木は滑走を再開した。スピンも、ジャンプも、いろいろやりこなした。そして藤木は片山と会った事で自分のスケートを応援している者の為にも出場する義務があるのだと思い知った。自分のスケート姿に惚れたみどりもそうだし、自分が好きなリリィや笹山も不幸の手紙事件が解決してからも応援してくれている。そうだ、その為に笹山は重傷を負いながらも堀内を必死で抑えようとしたのだった。堀も彼女の学校でいじめを受けた時、自分と同じスケートが得意な子がいると自分に伝え、会ったら宜しくと言われ、彼女もまた自分を応援している。なら出るしかない。
(よし、音楽に合わせ、そして僕を応援してくれる皆の気持ちを演技で示すぞ!!)
 藤木は決心した。
「藤木君、頑張るんだぞ!私は君を信じている。それじゃ、私はこれで失礼しよう・・・。またな」
 片山はそう言ってスケートリンクを後にした。
(よし、頑張るぞ!)
 藤木は練習を続けるのだった。そして応援する皆への謝意と音楽に似合う演技をどう表現するのか練り続けるのであった。

 片山は電車に乗っていた。
(藤木茂・・・。彼の演技次第では世界への切符を掴み取る事は確実だろう・・・。そして、彼と同様、世界に羽ばたける者がいる・・・。大阪府の瓜原(うりはら)かける。彼も藤木が世界を代表する日本のスケート少年になるだろうな。まあ、まずはこの二人の全国大会でのメダル争いを楽しむとするか・・・)
 片山は前に大阪のスケート場で藤木と同じくスケートを得意とする少年を見ていた。果たしてその瓜原かけるとはどんな少年なのか・・・。 
 

 
後書き
次回:「挑戦者」
 スケートの全国大会に臨むものは藤木以外にも数多くいる。彼ら・彼女らはどのような気持ちを持っているのか。そして、藤木もまた・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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