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名探偵と料理人

作者:げんじー
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第四十七話 -血のバレンタイン-

 
前書き
このお話は原作第33巻が元になっています。 

 
「んー?」

「なんや、龍斗?気になる記事でもありました?」

「ああ…ほら、いつぞやに一緒にパーティに出たじゃないか。シンドラー社の」

「ああ。ウチの家が出資して、龍斗はパーティのアラカルトを担当した関係で招待されたヤツな。それがどうしたん?」

「ほら。あの時の発表された「コクーン」。とうとう、全国で配置されたらしいよ。稼働も間もなくだって。個人で所有もできるらしいけどかなり高額だから一部の人しか手に入らないらしい」

「へぇ…シンドラー社も、社長が未遂とは言え殺人事件を犯そうとしとったのによう立ち直ったんやな?」

「殺人未遂になったのはオフレコ、だよ?紅葉」

「ああ、そういえばそやったね。龍斗もようけ事件に巻き込まれますこと」

「はは…俺としては勘弁願いたいことだけどね」

 

朝の登校前のちょっとした時間。俺はすっかり日課になった新聞のチェックをしているととあるゲームの記事を見た。世界初の没入型のVRゲームという事で日本だけでなく世界でも注目されているものだ。その発表会に俺と紅葉は招待された。園子ちゃんも鈴木財閥の令嬢として、毛利一家と少年探偵団も園子ちゃんの招待という事でそのパーティにいた。俺はパーティが始まるまで厨房にいたので知らなかったがどうやら彼らとお金持ちのご子息との間にいさかいがあったそうだ…パーティ会場でサッカーを始めるとか、聞いたときには阿呆かと思ったわ。そのパーティはさっきも言った通り世界中の注目、つまり賓客の中には海外のセレブもいた。そんな中、その様な行動をとる子供に育てた親、というレッテルは不利益極まりないもののはずなのだ。彼らが偉そうにできるのは自分たちの力にへこへこするものだけ。あの場には同格以上の人間はごまんといて、しかもただの子供だ。これを機に、関係悪化もありうるだろうに…俺と彼らみたいにね。

彼らが蹴ったボールが机を跳ね、そこにあった俺の料理を台無しにしやがった。(裏のチャンネル内で)あく抜きに10日間、寝ずに下ごしらえした一品だったのにな。まあ、その場にいた樫村というゲーム開発者がたしなめてくれたそうなのでその場はおさまったそうだが、何を考えたのか園子ちゃんと紅葉を連れて行こうとしたのだ。曰く「僕たちと一緒にいた方が貴女達のためですよ」だそうだ。そこで、紅葉がプッツンしてしまったそうだ…うん、詳細は教えてもらえなかったが新ちゃんが、「あのワルガキどもが気の毒に思えた」と言っていたから相当だろう。

 

「…?なんや?そないじっとこっちを見て」

「ああ、いや。料理を台無しにしたワルガキどもの事を叱ってくれたって聞いたけど、詳しくは聞いてなかったなあって」

「ああ、あれですか?」

 

あの時の事を思い出したのか、紅葉は形のいい眉をややひそめた。

 

「別に。あの子坊主達が言うてたことの矛盾とその行動がどのような影響を実家に、ひいては日本という国に与えるか。そして。そ・し・て!誰が作った料理を足蹴にしたのかを訥々と語っただけやで?」

 

…ただ語っただけじゃないだろうなあ。まあその後俺もその話を聞いて大元、彼らの保護者に対して「緋勇家」の料理を足蹴にするほど食べたくないのならこれ以降、貴方方の名前があるパーティでの依頼は断ることを伝えた。和解の条件は「下手人の「心」からの謝罪」だ。この話は周りの人間にも聞いている人がいたから色々な界隈でかなり話題になっている。この事は申し訳ないが父さんと母さんも巻き込んだ。食べ物を粗末にしてそれを悪いとも思わない子供も、それを育てた親も俺は何もなく許すつもりはない。

何を若造が、という気持ちが見え透いていたが俺が「緋勇家」と言ったことに気付いて血が引いていたな。俺も、両親も今や取引の場やステータスの上で重要な存在となった。そんな一家から敵対とも思える行動をとられる一族に近づこうとは思わないだろう。

今現在、彼らからの謝罪はない。まあ電話だったり手紙だったりはあるんだけれど、こっちの都合も考えない「謝ってやる(やらせる)から会いに来い」じゃあ行く気もおきん。ただ、後ろから聞こえた子供たちの声にはどんな心境の変化か、謝ろうと言う気持ちが籠っていたようなので後は親次第かな?

 

「…そっか。俺もその場にいたらよかったな」

「龍斗がその場にいたらもっと拗れたかもしれへんやん?まあ今でも十分拗れてるんやろうけど」

「ま、ね。でも自分で言い出したことだ。ちゃんと自分で収束させるさ。それにしても…」

 

俺はそう言って記事に目を戻す。コクーンの初期販売ソフトをみるにMMOが多いな。これはゲーセンでやるのと実家でやるのでは大きな開きが出るんだろうなぁ。

そういや俺、園子ちゃん、紅葉はコクーンの世界初体験者の権利を貰っていたが少年探偵団に権利は渡した。あとの二つは子供たちが自分で調達したって言うから何ともたくましい。バッチを渡したその後だったな。俺があの場面に出くわしたのは。その場面というのは、俺が樫村さんに礼を言いに行くために彼を訪れたことだ。俺より先を歩くシンドラー社長を見つけ、その様子が鬼気迫る姿だったので気配を消して扉の前まで尾行。聞き耳を立てて(行儀は悪いと思ったが)待機していると、刃物と布のこすれる特有の音が聞こえたため、扉を開け中に突入。すんでの所で止められたという事があった。刺されそうになった樫村さん、刺そうとしたシンドラー社長、止めた俺。三人が三人とも次の行動をとれたのは1分が経とうとした後だった。

まあ、その後は樫村さんの旧友である優作さんを呼び樫村さんが持つ情報、優作さんの調査資料、シンドラー社長から得られたわずかな情報を精査した優作さんが真実を手繰り寄せた…うん、新ちゃんは優作さん譲りの推理力だなと思っていたけど、優作さんは別格だな。そしてその場でシンドラー社長と樫村さんは話し合った結果、血筋の事を徒に公開はしない。この殺人未遂についても公にしない。ただ、二年前に自殺した樫村さんの息子を自殺に追い込むようにしたことは公表することを決めた。

10歳の子供を自殺に追い込む――センセーショナルな事件にかなり世間は賑わった。そのため、コクーンも発売は危ぶまれたが…まあこの新聞の記事の通り、無事発売までにはこぎつけたようだ。

ゲームの中で新ちゃんは不思議な体験をしたらしいのだが…まあ深く聞いてないし今度聞いてみよう。

 

「あのパーティでは色々あったってことだね。さて、と。そろそろ学校に行こうか」

「ええ、行きましょか」

 

 

――

 

 

「で?どうしたのさ。蘭ちゃんがいない時に俺達に話って」

「あのさ、龍斗クンは吹渡山荘って知ってる?」

「吹渡山荘?いや、知らないな。紅葉は?」

「ウチも知りませんなあ。その山荘がどないしました?」

「実はそこ、恋が成就するチョコが作れるって有名なロッジなのよ!」

「はあ…」

「恋が成就する言うましても…」

 

そういってちらりと俺の方を見る紅葉。

 

「…ああ、紅葉ちゃんには今更だけどね。ほら、私や蘭には必要なのよ!前に出来なかったセーターあげてラブラブ大作戦は出来なかったから…」

 

ああ。セーターを作ってるとか前に言ってたな。あれ失敗したのか。

 

「それで?紅葉は分かったけれど、なぜ俺も?」

「そりゃあ、龍斗クンチョコレート創るの上手じゃない。せっかくだから教えてもらって美味しく作って、しかも恋の成就のご利益まであれば鬼に金棒じゃない!」

 

…え?カカオから作るの?いや違うよね?湯煎して作るやつか。

 

「あー、うん。まあね。手助けできると思うよ」

「じゃあ!」

「紅葉は?」

「ウチもええよ~」

「よっしゃあ!…あ、蘭には動物を見に行くって誘うから当日まで内緒ね!」

「分かった分かった」

「…ただいまー。何の話?」

 

お花を摘みに行っていた蘭ちゃんが帰ってきた。園子ちゃんはさっき俺達と話していた内容を蘭ちゃん用に変えて誘っていた。俺と紅葉はそれを聞きながら自分のお昼ご飯の弁当を消化することにした。

 

 

――

 

 

はてさて、つきました。吹渡山荘。出迎えたのは還暦の頃を迎えたであろう一人の女性だった。彼女はロッジのオーナーで湯浅千代子だと名乗った。

 

「ほー…ばあさん、あんたか!若い女たちをだましてこんな山奥で菓子作らせて金儲けしてるっていうロッジのオーナーは!」

「ちょ、ちょっとお父さん!」

「フン!騙すも何も、10年ぐらい前にたまたまうちで作った洋菓子がきっかけでくっついたカップルが雑誌やらTVやらで散々騒いだ結果じゃ。まあ、前のオーナーだった儂の夫も四年前に死に、今は物の怪騒ぎでとんと客足は減ってしもうてるがのう」

「も、物の怪?」

「まあ、あんたらも吹雪いて来よったら一人で外に出んようにすんじゃな!この山に住む物の怪に妙な贈り物をされたくなければのう」

「妙な贈り物ってなんです?」

「ああ、それはな…」

「チョコレートだよ」

 

湯浅さんが続けようとした言葉を遮って俺達に話しかけてきたのはロッジから出てきた一人の男性だった。

 

「この山は入り組んでてよく遭難者が出るんだけどな。この世間がチョコレートでわくこの時期になるとよくチョコレートが置いてあるんだよ。その死体のそばにな。地元の人たちはこのロッジに来るまでに迷って死んだ女の霊とか、雪女の仕業だとか騒いでんだよ」

「「「ゆ、雪女!?」」」

「まあ、心配する子たあねえよ。警察はそのチョコは食い物に困った動物が、その遭難者の荷物を漁って散乱した結果だっていっているそうだしな。…じゃあ、俺は仕事に行ってくるか!」

 

そう言ってロッジの方を振り返えるとそこには二人の女性が立っていた。

 

「いってらっしゃい!」

「二垣君?熱心に追い続けるのもいいけど…熱中し過ぎて雪女に魅入られて…森で迷わないでよ?」

「大丈夫だよ!雪女がチョコをくれそうになったらこういってやるから…」

 

男性…二垣さんはロッジから出てきた女性のうち、黒髪の女性に近づくと。

 

「亜子っていう女がいるってな…」

 

頬に口づけをし、森の方へ歩いて行った。彼を見送る亜子さんに近づき、今度は新ちゃんが質問した。彼は何をしに行くかを。

彼の仕事はルポライターで、どうやらずっと追っている獲物がいるらしくこのロッジに通い詰めているそうだ。JK三人組は雪女を!?と騒いでしまったが、それに答えたのは猟銃を持った二人の男性だった。なんでもここには生き残ったニホンオオカミがいるんじゃないかと当たりをつけているそうだ。猟銃を持った二人もそれを狙っているらしく、彼らもまた森へと消えて行った。

どうやら、このロッジを利用するのは二垣さん達3人と猟銃組3人、そして俺達六人の計12人のようだ。

 

「それじゃあ、儂も夫の墓参りに森に行ってくるからあの連中の連れが来たら適当にあいた部屋に放り込んどいとくれ」

「一人で大丈夫なんか?お婆さん。なんなら、ウチらもついてったるよ?」

「そうね、一人じゃ心配だし」

「大丈夫じゃよ、この山は儂の庭のようなもの。それに三郎もついておるしな!」

「三郎?」

 

湯浅さんはぴゅいと口笛を吹くと一匹の犬が森から現れた。なーる、犬と一緒なら何かあっても俺らに知らせることもできるし大丈夫ってわけね。

 

「なあ、あのルポライター。放し飼いになっている三郎ってあの犬を山の中で見て見間違えたんじゃねえの?」

「それはないわ!」

 

小五郎さんの疑う声を否定したのはキスされた人とは違うもう一方の女性だった。

 

「彼が狼を見たのは夜10時ごろ!」

「暗くなると三郎はオリに入れられちゃいますから…」

「えっと、すみません。ちょっとここいらで自己紹介でもしませんか?そちらの女性が亜子さんと呼ばれていて、先ほどの男性が二垣さんというのは分かっているのですが…」

「え?ああ、そうね!私は粉川実果。カメラマンの仕事をしているわ」

「私は甘利亜子。編集関係のお仕事をしているわ。皆さんの自己紹介はチョコを作りながらしましょっか!」

「え?あのお婆さんが教えてくれるんじゃなかったの?」

 

そう、園子ちゃんに誘われた時はただロッジで作ると勘違いしていたのだがよくよく調べてみるとロッジのオーナーである湯浅さんが洋菓子を作るのが得意でそれを売りにもしていたようだ。

 

「前はそうだったんだけど…」

「今は私達がお客さんに教えてあげているのよ!毎年この時期にお世話になっている御礼も兼ねて…」

「ふーん…」

「まあ今でも仕上げはお婆さんがやってくれるけどね!」

「フン…そんなんじゃ愛の何たらっていうご利益も望み薄だなこりゃ!」

「うっさいわよ、おじ様!こういうのはパワァースポット的な…その場所自体にご利益があるのよ!それに今年は強―い味方がいるから、亜子さんたちもパワーアップ出来ちゃうわよ!」

「「??」」

 

園子ちゃんのその言葉にはてなマークを浮かべる甘利さんと粉川さん。そして俺を見つめてくる園子ちゃん。まあじゃないと俺が来た意味ないしね。さあ張り切って作りましょうか!

 

 

――

 

 

もはや恒例になってしまった自己紹介での驚愕も落ち着き、チョコづくりが始まった。折角だからと甘利さんたちも教える側から教えられる側にシフトチェンジしたが、流石に教えてきたと言うだけあって彼女たちの手際には迷いがない。後はちょっとした刻むときのコツやら、湯煎のやり方や隠し味くらいしか教えることは無かった。作りながら、雑談をしていたんだがどうやら甘利さんのお兄さんもオーナーの旦那さんと同じ雪崩に巻き込まれてお亡くなりなったそうだ。そのお兄さんはまだ発見に至ってなく、こうして毎年雪崩の起きたこの時期に来ているそうだ。なんだかんだで大きな失敗もなく(まあこういう時の失敗はアレンジし過ぎや手順を面倒臭がってなることが多いからな)無事に完成した。

 

「ちょっと吹雪いて来たね…」

「大丈夫かなあ二垣君」

 

確かに甘利さんの言う通り、風邪も出てきて山向こうには怪しげな雲も出てきた…うん、これは後2時間で吹雪くな、経験上。

 

「甘利さん、粉川さん」

「なにかしら?」

「もし探すのなら1時間半を目処に一度ロッジに戻ってきてください。恐らく二時間後には吹雪が来ます」

「え?」

「こういう、天気を読むのは(前世の経験から)得意なんです。なので、見つからない場合はあまりひどくないうちに戻って体勢を整えた方がいいです」

「わ、わかったわ。それじゃあすぐに戻るから!」

「貴女達はロッジで待っててね!」

「「「は、はい!」」」

 

 

――

 

 

結局、二垣さんはちゃんと森の中で見つかった。冷たい死体となって。その死体のそばには甘利さんの作ったチョコレートが置いてあった。これが噂の現場か。しかしこれで分かったことがあるな。それは警察が言ったように動物が荒らして偶然チョコが置かれたわけではないという事。わざわざロッジから誰かが持ってきたってことだ。

吹雪がひどくなってきたこと、そして合流した猟銃を携えたロッジ宿泊客によるとふもとに通じる唯一の道が雪崩でふさがってしまったらしい。とにもかくにも、この森の中にいては凍えてしまうという事で一同はロッジに戻った。っと、そうそう。猟銃を持った三人組は俺達が来た時にロッジから出てきたのは酒見さんに緒方さん、後から合流したもう一人が板倉さんというらしい。

ロッジに戻り、チョコを作っていた面々は本当に甘利さんのチョコなのかを確認しに行った。

 

「ないね、亜子さんのチョコレート…」

「うん…」

「ないな…」

「ひっくひく…」

「亜子…」

 

確かに机に置いてあったチョコレートのうち、甘利さんのだけ無くなっていた。しかし…

 

「龍斗君?お父さんの所にいこ?」

「ん?ああ、俺はもうちょっと残って何か残ってないか調べてみるよ」

「じゃあ、ウチも残るわ」

「分かったわ。お父さんにはそう伝えとくね」

 

蘭ちゃんたちは泣いている甘利さんを連れて廊下へと出て行った。さて…んん?

 

「何か気になることでもあるん?」

「誰がチョコを持って行ったくらいは分かるかな、と」

「ああ。龍斗の鼻なら分かるんやな。それで?誰か分かったんか?」

「えっと、分かったっちゃあわかったんだけどな。誰か?じゃなくて何か?だなこりゃ」

「??どういうこと?」

「甘利さんのチョコを持って行ったのは犬だ」

「犬って三郎の事?」

「いや、これは三郎の匂いじゃない。もう一頭別の犬がいるみたいだ」

「で、でもオーナーさんそないなこと言うとらんかったよ?」

「オーナーが隠してたとか、もしくは知らなかったとか…こりゃ考えるヒントが足りないかな。新ちゃんにも伝えておこう」

 

廊下に出てみると小五郎さんが各々が集まりどのような行動をとっていたかを洗い出した。完璧に犯行が行えないのはロッジに来てから一度も外に出ていない俺達6人だけ。あとはそれぞれに怪しい時間帯があるようだ。それに猟銃組はなにやら後ろ暗いことがありそうだな。二垣さんの荷物のビデオを検閲しようとすると怯え、恐れ、焦燥…そんな心音になった。

 

「新ちゃん、新ちゃん…」

「ん?なんだ龍斗。実はさ…」

 

俺はさっき得た情報を新ちゃんへと伝えた。

 

「…ってことなんだ。どう思う?」

「それは、今のオーナーのお婆さんが知らないってことも含めてありうる可能性は…」

 

暫く黙りこくって考えた新ちゃん。結論が出たのか俺を見上げて、

 

「龍斗。オメー森にいるもう一匹を連れて来られるか?」

「え?うん、追跡は可能だけど」

「多分、チョコレートが遺体の近くにあったのは今回の殺人犯とは全くの無関係だ。だが、その一匹はこの事件に重要な証拠を握っている可能性がある…」

「証拠?」

「ああ、龍斗は聞いていなかったから知らねえと思うが三郎は山岳救助犬として優秀な能力を持った犬らしい。それがつまりチョコが遭難者の近くにあったカラクリだ。遭難者を見つけたら栄養価の高いチョコを持っていくように訓練されていたってな。そして今さっきチェックした中に二垣さんが森へ入って行った時のビデオが存在しないことにも引っかかってんだ、オレは。彼は写真よりビデオが好きだっていうじゃねえか。それが遺体の傍になかった。もしかしたから犯人が森の中に捨てちまってしまったとして、その犬が遭難者の荷物を回収するように訓練されていたのなら…」

「今も持っていてそこに証拠があるかもしれない、と。了解。連れてくるよ」

「ああ…だが気をつけろよ?黒いニット帽を被った怪しい奴を見かけたってあの猟銃を持った奴らが言ってから」

「あはは。大丈夫だって。クマだって素手で捌ける俺に何を言ってますやら。それからそのビデオテープ、犬が持ってなかったら一緒に探してくるよ」

「それでも、だよ。こええのは人間だぜ?」

「…ああ。そうだね、気を付けて行ってくるよ」

「おう!」

 

俺は紅葉に外へあの犬を探しに行くことを伝え、ロッジを出た。

 

 

――

 

 

件の犬はあっさりと見つかった。いや、地面を歩いていたらもう少しかかっただろうけど枝と枝を飛び跳ねて移動したら本当にすぐに到着できた。そのこはお墓の近くにちょこんと座っていた。こんな猛吹雪の中、たった一匹で。なるほどね、これで俺も合点がいった。三郎は墓守なんだな。周りの卒塔婆は荒らされ放題なのに、この墓石だけがきれいだ。恐らく、オーナーの旦那さんが二匹の犬に交代制で墓守を一日中させていたのだろう。ってことはニホンオオカミも…って。考察している場合じゃないか。この子はビデオテープを持っていないという事は俺が、その証拠がある可能性があるビデオテープを探さねえとな。流石にこの大雪の中ちっぽけなテープを見つけるのは俺以外じゃ無理だし。

 

「さて、と」

「?」

「一緒に来てくれないか?」

「…わふ!」

 

俺は三郎?の前に跪いて彼にお願いした。ロッジで見た三郎の様子を見るにとても人なれしている様子だったしすんなりついてきてくれることになって助かった。

 

「さて、と」

 

俺は三郎?をつれてビデオテープの匂いがする方へと歩いて行った。

 

 

――

 

 

俺はロッジの勝手口から中へと入った。樹から飛び降りる時に、黒いニット帽の男が物陰に隠れたのが見えたが…今はこっちが先だな。

 

「あれ?新ちゃん?それに三郎?」

「ああ、どっちかは次郎って言うんだけどな。事件の全貌は読めたぜ?あとは」

「これ、かな?一応、中身を改めさせてもらったけど今日の日付の物とそれに一番古いもので4年前のものがあったよ」

「へえ。じゃあとりあえず今日のを見てみるか」

 

そう言って取り出したのはハンディカム。なるほどね。新ちゃんがビデオを設定している合間に犬の方を見ているとみているこっちがほっこりするくらいじゃれ合っている仲のいい二匹がいた。

 

「…龍斗、これを見ろよ」

「え?これって甘利さんか?」

「ああ、これは証拠になる。俺の推理通りだ」

「おい、なにをごそごそと…あれ?なんでそいつはにひ…き…はひん」

 

うっわ。容赦ないな。キッチンに入ってきた小五郎さんを新ちゃんは焦りもせずに麻酔銃で眠らせやがった。

 

「…なんか新ちゃん、手慣れて来たね。熟練の職人のような躊躇の無さだったよ」

「うっせ」

 

 

――

 

 

はてさて、これはどうしたものか。

 

「おらぁ!そこの探偵の横に一列に並べ!」

 

猟銃三人組の正体現れたり…ってね。どうやら彼らは四年前のオーナーの夫と甘利さんのお兄さんを殺害していたらしく、その様子を取ったビデオをネタに二垣さんに強請られていたそうなのだ。結局、甘利さんに殺されるか、彼らに殺されるかの未来しかなかったのかい、二垣さん…

 

「よーし、茶髪にバンダナのお前!そこのガタイのいい兄ちゃんをそこの包丁でぶっさせ!!」

「ええ!!?」

 

おやま、板倉の指名は俺ですか。そうですか。園子ちゃんに俺を刺せ、と。ほっほっほー、それはとても面白いことをぬかすおじさんだね?あ?

 

「園子ちゃん園子ちゃん」

「龍斗クン…」

 

もう、真っ青になっちゃって可哀そうに。

 

――コンコン

 

「ん?なんだ、誰だ?お、おい緒方見てこい」

「あ、ああ」

 

そう言って緒方は出て行った。恐らくはあの黒ニット帽かな。敵なのか味方なのか…

 

「おい、さっさと刺せ「ドゴンっ!!」や…」

 

扉の向こうに消えた緒方が今度は扉とともに戻ってきた。扉に近かった酒見が扉の方へ注視し、俺達人質への意識はそれたが板垣は依然こっちを警戒したままだ。

 

「く、来るな。撃つぞ!?」

「ダ、ダメ。近づいちゃ…」

 

ニット帽に注意を促す、園子ちゃん。それに対して、銃口の向きと指の動きを見れば避けられるという男。いや、出来るけど、衝撃波とか散弾のばらけ具合だと紙一重にこの距離で避けるのは危ない…

 

――ドンっ!!…パリン!!

 

「ほらね?」

 

紙一重で男は猟銃を避けた。弾は男が着けいていたゴーグルをかすめるように通り過ぎて行った…って今!

 

「え?ぐっぎゃ!ああああ!!!…ごへ!」

 

酒見が射撃したことで板倉の意識が一瞬そっちに逸れた内に俺は動いた。滑るように板垣に接近し、猟銃の引き金をねじり切った。左手一本で銃身をはじき、猟銃を360°回転させたあとすぐさま180°戻し、銃身と腕をからませるようにねじり上げた。その後右手一本で板倉を持ち上げてともに飛び、床へたたきつけた。軽い脳震盪になるように胸ぐらをつかんだ余りの親指と人差し指で顎を掴んで調整したり、尺骨で板倉の胸骨を粉々にしないように、でもひびが入る程度には調整して衝撃を与えたりと…脆い人間を相手にするのは疲れるね…まあ園子ちゃんを苦しめた罰だと思って甘んじて受けろ。

もう一人の酒見は…あーあー、蘭ちゃんとニット帽のツープラトンキックでノックアウトだ。

 

 

――

 

 

ニット帽の男は京極真。園子ちゃんの彼氏で園子ちゃんのラブラブ大作戦の術中にど嵌りしている、今時珍しい古風な男だった。そして…

 

「失礼、先ほどの動き。貴方もなにか武道を?それと園子さんとの関係は?」

「ああ、そう言えばこうしてお会いするのは初めてですね。俺は緋勇龍斗。園子ちゃんとは保育園時代からの幼馴染みってやつです。それから武術ですか。一応、表に出ない徒手空拳の業を…」

「!!そうですか、それでは是非手合わせを!先ほどの暴漢を一蹴した手際、見事でした!!」

「あはは。ありがとうございます。ですが、出来ません」

「な、なぜ!?」

 

「んー、俺の力は競い合う物じゃないから、ですかね。緋勇の家は守護役。そして俺は力を手段だと思っています」

「…手段?」

「俺は美食y…じゃなくて料理人です。肉の調達に自らおもむき、殺し、糧とすることがあります。それは生きるため。つまり生きるための手段として力を振るいます。先ほども、皆さんを危険な目に遭わせないために力を振るいました。これも手段です。ですが貴方の願いは己が力と俺の腕、どちらが強いかの力比べ。つまりは最強を目指す目的を主軸に置いているのだと感じました」

「…その通りです」

「俺は幸か不幸か、強さを「目的」に置いた人間には出会ったことがありません。ありませんが、今のままではいずれ限界が来てしまいますよ?」

「!!それはどういうことですかっ!!?」

「さあ…そもそも立ち位置が違う俺に詳細は述べられません。ですが、今一度、自分の求める「強さ」を見つめなおすことが他流試合を仕掛けるよりよっぽど有意義だと思いますよ?」

 

…なーんて、これは大体が父さんの受け売りだけどね。園子ちゃんの彼氏だからお節介焼いちゃったけど、園子ちゃんに心配ばっかりかけている罰だ。大いに悩め悩め、若人よ。

 

 

――

 

 

「たーつーとー♡」

「な、なにごと!?紅葉」

「はーい、チョコレート!」

「うん、ロッジで一緒に作ったしね…ってそれは何!?」

「うん、男連中が見てた雑誌にあった「胸の谷間にハートのチョコレート」?やって。男の子はこういうのがええんやろ?」

 

誰だ!?んな雑誌学校で開いてたのは!!?紅葉も意外と世間ずれしてるから真に受けちゃってるじゃねえか!!……グッジョブだ!

 

「…いただきます!」

「召し上がれ♡…」

 

 
 

 
後書き
オリジナル設定
亜子さんの仕事(編集関係)
猟銃組が二人から三人に。(緒方さん)


京極さんは何を持って最強というのですかね?いずれ、範馬勇次郎みたいに頂きで退屈になってしまうのでしょうか?
 
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