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空気を読まない拳士達が幻想入り

作者:sibugaki
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第10話 戦乱の嵐吹き荒れる!幻想郷はバイト探しも一苦労

 
前書き
気が付いたらDD北斗の拳も終わってしまって、イチゴ味も既に8巻出てる。そんな昨今でもこりずに不定期更新で頑張っていきまっしょい。 

 
 幻想郷に置いて、何の能力を持たない人間は時として妖怪等の恰好の獲物とされる危険性が高い。
 故に、能力を持たない人は人里に集い、其処で生活をする事でこれらの危険から身を守っている。
 妖怪達は人里内で人を襲ってはならないと言う決まりがあるからだ。この決まりを破れば幻想郷で生きてはいけない。
 故に妖怪達は律儀にその決まりを守り、時には人里で人と生活を共にし、時には人里の外を出歩く命知らずな人間に手を掛ける。
 そうする事で人間と妖怪達とのバランスを保っているのが現状だと言われている。
 だが、そのバランスの中に人外の輩が紛れ込んだら、一体どうなってしまうのだろうか?




     ***




 人里から遠く離れた雑木林。一面草木が支配し、視界も悪い。
 妖怪からして見れば獲物を待つに絶好の場所ともいえる。
 そんな雑木林を白い布で体を覆った人らしき者が歩いていた。しかも一人で―――

「ヒャッハァァァ!! 人間ハッケェェン!」
「獲物だぜヒョホホホォォォ!」

 正しく妖怪からして見れば「襲って下さい」と体現しているかの様な光景だった。
 そんな光景を見逃す筈もなく、数体の世紀末的恰好をしたモヒカンな妖怪達が姿を現した。

「ヘッヘッヘェ! 久しぶりの人間だぜぇ」
「ここ最近まともな飯食ってなかったからマジ腹減って死にそうだったぜぇ!」

 妖怪達は相当飢えているらしく、口元からはだらしなく涎を垂らしている。
 彼らも一応は幻想郷のルールに則って生活はしている。故にこうして人里から離れた場所で迷い込んだ人間を襲って食べているのだ。
 別に世紀末的恰好をしているからと言って誰しもがルールブレイカーではない。これを読んでいる読者様も人を見た目だけで判断しないように。

「おい、しかもこいつ女じゃねぇのか?」
「マジかよ! 人間の女っていやぁそりゃもう美味中の美味だからなぁ。俺達本当についてるなぁ!」

 どうやら妖怪達の間では人間の女性は美味との噂が流れ込んでいるようだ。
 まぁ、その噂が本当なのか実証する機会は残念ながらこれから先我々にはないのだが。
 突然の襲来におののく女性に妖怪達が逃がすまいとにじりよってくる。

「おいおい、女だってんならすぐに食うのはもったいないんじゃねぇのか?」
「そうだな。久しぶりの獲物、それも女だ。此処はしっかり楽しんでから食った方が良いな」
「そうだそうだ。おい女! 俺達はたんまり食料を持ってる。良い子にしてたら暫く生かしておいてやるぞ! まぁ、どの道俺達に見つかった時点で助かる道はねぇんだけどな」

 ゲラゲラと笑い合う妖怪達。普通ならば此処で命運尽きたとばかりに泣き崩れるか助けを求めて泣き叫ぶのが定石なのだろうが、目の前の布を纏ったそれはそんな事は一切しなかった。

「そうかい、食料をたんまり持ってるってんだな。ならば、その食料をいただくとするか!」

 言うや否や布を放り捨てる。其処から現れたのは全く予想に反した姿だった。
 背丈は二頭身程度しかなく、薄緑色の髪をし、目元に隈を蓄えた男であった。

「お、男だとぉ! ってか、さっきまで明らかに八頭身だったのに何で布取ったら二頭身なんだよ!?」
「女の恰好をしてりゃてめぇらみたいな妖怪が集まってくる。だが、そんなてめぇらを狩ってりゃ食料が手に入る。それに、妖怪を殺しても此処じゃ罪にならねぇってんだから有難い話だぜ。後、そこらへんについてはツッコミ不要だ。下手にツッコミ入れると偉い人に怒られるかも知れないからな」

 自身を隠していた布を放り捨て、男は構える。熟練した見事な構えだった。
 その構えからこの男が相当の実力を持っている事が伺える。

「てめぇ、一体何者だ!」
「ふっ、これから死ぬ貴様らに言う必要もあるまい! だが、その前に一つ聞かせろ。お前らの中に胸に七つの傷を持つ奴はいるか?」
「胸に七つの傷だと? んなもんある訳ねぇだろうが!」
「そうか、ならば貴様らに用はない。死ねぇい!」

 男が飛翔し、妖怪達へと飛び掛かる。
 これが、後に語られる異変【亜人異変】の開幕を告げる場面であると言う事を知る者はあんまり居ない。




     ***




 昼時の人里は何かと騒がしいのが日常の事だ。往来では大勢の人々が道を行き交い、物資の交換等が行われる事によって人里は豊かになっている。
 中には物騒な事をする輩も居たりするがそんな輩にはそれなりの制裁が食らわされるのでご心配には及びませんよお客様。

「何か、わざわざ悪いね。俺の仕事探しを手伝って貰っちゃってさ」
「気にすんなよ。私もたまたま人里に用があっただけだし暇潰しには良いってとこだぜ」

 そんな人里の中を魔理沙と前回幻想入りしたバットの二人が歩いていた。
 魔理沙が人里を練り歩くのはまぁ毎度の事なのでスルー安定としておいてだ、バットについては何かと訳ありそうなのでそこらへんを掘り下げていく事にする。

「しっかし、あの後ケン達の弾幕ごっこ(と言う名のただの殴り合い)のせいで大工は全員永遠亭送りにされるは建築資材は全部粉砕されるわで結局霊夢の神社の再建はまた見送りになったみたいだなぁ」
「霊夢さん、結構落ち込んでたなぁ。あの後凄い肩を落としながらケンと一緒に階段を下りて行く姿が凄い痛々しかったのを覚えてるよ」

 前回、建王ことラオウが博麗神社再建の仕事を受けてやってきたのだが、其処へ幻想郷制覇を目論む南斗聖拳のシンの横やりを受けてしまい、そのままケンを交えた三人の弾幕ごっこが勃発。
 そのせいで近くに居た大工達は巻き添えを食らう形で怪我をしてしまい、そのまま永遠亭に入院する羽目になり、更には建築用に用意していた資材もその余波に巻き込まれて四散、粉砕してしまった。
 結局霊夢の神社再建計画は異世界からやってきた空気を全く読まない拳士達の手により瓦解してしまったと言うのだから同情したくもなる。
 んで、その原因を作ったであろう三人の拳士達はその後もれなく霊夢の夢想封印を食らったのは言うまでもない。
 
「それで、今バットは何処に寝泊まりしてるんだ?」
「実は、霖之助さんの紹介で里の中に空き家が一件あってね。其処に住まわせてもらってるんだよ。ただ、生憎手持ちがなくてね。だから、元の世界に帰るまでの間人里で働こうって決めたんだよ」

 生きていく為には糧が必要。そしてその糧を得るためには銭金が必要。
 だが、生憎この幻想郷に流れ着いた時のバットは無一文状態。
 なので、日銭を稼ぐためにもこの人里で働き口を見つけようと一念発起した訳なのだそうだ。
 そんで、いざ歩み出た際にたまたま魔理沙とでくわし、こうして二人揃って人里を歩いている次第だったりする。

(いきなり幻想郷とか訳の分かんない所に飛ばされた時は正直凄い焦ったけど、悪い事ばかりじゃないな。霊夢さんや魔理沙ちゃんと知り合いになれたし、もしかしたら他にも知り合いになれるのかも)

 と、バットの脳内には年頃の男子らしいイメージが膨らんでいた。博麗霊夢も霧雨魔理沙もバットの世界の基準からして見れば美少女の類に入るであろう顔つきだ。
 まぁ、中身に問題はあるだろうがその辺は置いておくとして。しかも、聞いた話によると、此処幻想郷では女性の割合がやたらと多いと聞く。
 となれば、彼女たち以外にも美人な女性とお知り合いになれるのではと、期待に胸を膨らませつつ里の中を練り歩く脳内お花畑な青年と能天気な魔法使いなのであった。




     ***




「能力のないバットが働ける場所だから・・・此処なんかどうだ?」

 最初に魔理沙が連れて来たのは明らかに本屋と思わしき物件だった。
 店頭には宣伝用と思わしき本が陳列されており、様々な人が中に入ったり出たりをしているのが見える。

「此処は?」
「此処は鈴奈庵って言うまぁ、所謂貸本屋さ。私も良く此処で本とかを借りるんだぜ」
「成程、本を扱う仕事だったら別に能力も必要ないから俺でもできそうだな」
「だろ? まぁ、中には妖怪が書いた危なっかしい本とか読んだら魂抜かれる本とかあるから気を付けないといけないんだけどさ」
「何それ怖いんだけど! 俺の居たあべし町も相当ぶっ飛んでたけど此処もやっぱ相当ぶっ飛んでるよ!」

 どうやら幻想郷に置いては貸本屋でも気を抜けそうにない。下手をすれば二度とあべし町に戻れない危険性すら孕んでいる。
 気を引き締めつつバットは鈴奈庵へと一歩踏み出した。

「いらっしゃい! あれ、見ないお客さんだぁ」

 店内に入るとレジと思わしき場所に一人の少女が居た。朱色の髪を両端で束ねた感じの髪型をした、割烹着とも陰陽師が着る服とも見て取れるような衣服をまとった元気そうな少女だった。
 そして、彼女もまたバットの中では美人に入る部類だったそうな。

「おいっす。繁盛してるか小鈴」
「まぁね、最近幻想入りした本が今爆発的に人気なんだよ。魔理沙も見てってよ」
「ほほぉ、どんな奴なんだよ。面白かったら死ぬまで借りてやるぜ」

 にやにやにやけながら魔理沙は小鈴と呼ばれる少女が差し出した本を手に取ってみた。
 バットも幻想郷で人気になってると言うのに興味を惹かれたので隣で表紙を見てみた。
 タイトルにはでかでかとこう書かれていた。




     【北斗の拳】・・・と―――




「これ俺らの原作の漫画だぁぁぁぁ!!!」

 寄りにもよって原作の原作の作品が幻想入りしてしまったようだ。因みに、何故このビックタイトルが幻想入りしたかは謎ならしく、専門家に聞いてみた所【そう言うのは東方に詳しい人に聞けばよろしかろう】と返答されたと言う。
 尚、この返答を後にその専門家は実家に帰省したと言う。

「な、何だろう・・・何でか知らないけど、私この表紙の人間に見覚えあるんだぜ」

 表紙に描かれている青いジージャンを着ている青年を見て魔理沙は冷や汗が止まらなかった。
 なぜだろう。初めて見る筈なのに何故かこの男に見覚えがある。本当に何故だか知らないが―――

「凄いんだよこれ。核戦争って言う凄い戦いの後で不毛の大地になった外の世界で活躍する救世主の漫画らしいよ」
「そう言えばこないだアリスが人形劇でやってたのと似た感じの話みたいだな」

 魔理沙の予想は当たっている。前にアリスが人形劇に使用した話はこの北斗の拳だったりする。

「どう? 試しに読んでたら。今幻想郷でこれを読まない人はいない位の人気だよ」
「そ、そうなんだ。ま、まぁ・・・気が向いたらその内読んでみるぜ」

 そう言って魔理沙はそっと本を小鈴に返した。

「それで、今日はどうしたの? また立ち読み? それともほんの貸し出し?」
「あぁ、実は私の隣に居るこのバットって奴なんだけどさぁ」
「聞かない名前だねぇ。もしかして、貴方あのカラス天狗の新聞に書いてた幻想入りした亜人?」

 いきなり人を指さして【亜人】呼ばわりされた事にバットは少し動揺してしまった。
 まぁ、幻想入りしたのは間違ってはいないのだろうが、一応これでもただの一般人で通っているつもりだ。
 決して一子相伝の暗殺拳を使う空気を読まない奴らとは違う事をこの場で話しておく事にする。

「んで、その亜人が此処に何の用なの?」
「実は、幻想郷についた時に財布を持ってなかったせいで今無一文の状態なんだけれど、良かったら此処で働かせて貰えないかなぁ?」
「う~ん、せっかくだけどもう一人雇っちゃってるからなぁ」

 どうやら既に一人バイトを雇っているようだ。一足違いだったことに少し残念になるバットを他所に、魔理沙が以外そうに食い下がって来た。

「意外だなぁ、一体どんな奴をバイトで雇ってんだ?」
「其処に居るよ」

 小鈴が指差す方、其処にはこの鈴奈庵と言う小さな貸本屋には明らかに場違いなでかさの大男がその巨大過ぎる手でせっせと本の整理を行っている明らかに異質過ぎる光景が映し出されていた。

「な、何だあの山みたいにでっかい奴は? 鬼か何かか?」
「ううん、普通の人間みたいだよ。幻想入りして行く所がないみたいだから此処で働いて貰ってるんだ」

 小鈴が自慢げに言う。その男の背丈と言えば魔理沙の身長を軽く2~3倍近くは上回りそうな程の巨漢だ。
 無論、その巨漢にバットは見覚えがあった。

「あれって・・・もしかしてフドウさん?」
「おや、その声はもしかしてバットかな?」

 聞き覚えのある声を耳にし、巨漢は振り向いた。男前な角刈りに黒く濃く生え揃った隈髭に、少年少女を虜にするつぶらな瞳を持った心優しき大男。
 彼こそあべし町でも有名っちゃぁ有名なフドウさんその人であった。

「何でフドウさんが貸本屋でバイトを? あべし町では保育園の先生してた筈なのに」
「いやぁ、此処幻想郷には保育園がないみたいなんで、働き口が他にないか探してたら彼女が快く私を雇ってくれたんですよ」

 とても大らかに笑うフドウ。どうやらバットと同じ幻想入りした人間らしいが、バットと知り合いと言うので魔理沙も一安心出来た。

「にしてもあんたでっけぇなぁ。まるで山だな」
「ははは、いやぁ里を歩く子供達にも良く言われるんだよ。まぁ、それが私の取り柄でもあるんですがね」

 物腰も柔らかいし受け答えも普通。場違いな程の巨漢を除けば割と普通な人のようだ。

「・・・・・・」

 楽しそうに談笑する一同の目を盗むように一人の男がこそこそと入店してきた。明らかに怪しさ全開のこの男。
 ふと、バットはその男に目が行った。
 あぁ言う類は必ず万引きとかそれに準ずる行いをすると相場が決まっている。
 その証拠に、店員である小鈴やフドウの目を盗み、本を一冊手に取ると素早く懐に仕舞い込んでしまったのだ。
 明らかな窃盗行為だ。本来ならばとっ捕まえて警察に突き出すところなのだが、生憎此処は幻想郷。
 しかも見るからにあまり文明が発達していないこの人里に果たして警察はあるのだろうかと、疑問に思っていたバットを他所に、悲劇は起こってしまった。

「おい、ちょっと待てや其処の―――」

 さっきまでの気の良さそうだった声から一転、ドスの利いたトーンの低い声がフドウの口から放たれた。
 余りの威圧的な声に思わず男は肩を震わせて立ち止まってしまった。
 それこそが、男の不運。そして、鈴奈庵の不運であった。

「このクソゴミ屑野郎があぁぁぁ! 俺様の働いてる店で盗みを働くとは良い度胸してんじゃねぇか! 頭から食いちぎってやろうかゴラァァァ!!!」

 するとどうだろうか。突然フドウは鬼の形相になり、何故か肌の露出の多い鎧を身に纏い、鈴奈庵の天井をぶち抜き盗んだ男をその両手で掴み上げて頭上でブラブラ揺さぶって脅しを掛けまくっていた。

「な、何なんだぜあれはあぁぁぁ!」
「忘れてた! フドウさんは切れると鬼になるんだったぁぁぁ!」
「結局またとんでもない奴が来ちまったのかよぉぉ! あ、そう言えば小鈴は?」

 小鈴と言えば、フドウの足元で突然のフドウの変化に頭の対応が遅れてしまったのか、目が点になったまま微動だにしなくなってしまっていた。
 魔理沙が目の前で手を交差してみせても全く反応しない。相当重症なようだ。

「えと・・・鈴奈庵・・・全壊しちゃったけど・・・これ、大丈夫なの?」
「知らん、私は何も知らないんだぜ」

 今のバットと魔理沙の取れる行動はただ一つ、たった一つしかなかった。
 それは、【他人の振り】をする事だけだった―――




     ***




 最初に目星をつけた鈴奈庵で見事にこけた二人は、次なる仕事場を探す事になった。
 そんな二人の目に留まったのは一件の食堂らしき建物だった。

「へぇ、見た事ない飯屋だな。最近オープンしたんだな」
「そうなんだ。あれ? でもあの店の名前って―――」

 バットは今一度、店の名前を確認した。其処には【牛丼 牙屋】と書かれていた。

「原作第1話の冒頭にちょっぴり出て来た店がまさかの幻想入りしてるぅぅぅぅぅ!」

 バットのツッコミが気になる人はコミックを読むかマニアに聞いてみましょう。
 
「へぇ、あの店バットの居た世界にもあったんだな」
「うん、まぁね。でも食堂ならバイト経験もあるし問題ないかも」
「良かったな。バイト採用されたらたまに来るからおごってくれだぜ」
「ははは、まぁ多少はサービスしてあげるよ。魔理沙ちゃんには色々と世話になったしね」
「やったぜ! そんじゃ早速面接に行こうぜ!」

 意気揚々と店に入る魔理沙。心はルンルン顔はニンマリ。見るからにご機嫌アゲアゲな魔理沙であった。

「ヒャハ――――! 客だぜぇぇーーー!!!」
「ヒハハーーー! いらっしゃいませだぜぇぇ――――!」

 店内に入るなりいきなり奇声を上げ始める店員と思わしき獣の皮を直に被っている危ない男達。
 そんな男達を見た途端、魔理沙の心はドンヨリとなり顔はゲンナリしだし、ご機嫌サゲサゲな感じになってしまった。

「まさかの店員が原作の牙一族になってるぅぅぅ!」

 続けて店内に入ったバットの渾身のツッコミが炸裂したのは言う間でもない。

「アオォォォーーーーン! 水とおしぼりだぜぇ! 有難く使うんだなぁ―――!」
「ホホホホーーーー! メニューになるぜぇぇ―――! どれでも好きなの選びやがれ――――!」

 丁寧な接客とは真逆に言葉の対応は世紀末チックな荒々しさを感じられた。

「え? 何? バットの世界の飯屋ってこんな奴らばっかなのか?」
「違う違う、断じて違う! この飯屋が普通のと違うだけだから!」

 必死に弁解をするバット。変な誤解をされてはたまったもんじゃない。
 
(そんで、どうすんだよ? このまま何も食わずに退散するか?)
(嫌、それは不味いよ。下手したら原作の牙一族みたいにされるかも知れないし)

 原作での牙一族の悪行については本編をご参照の上感想文をご自身の心の中に刻み込んでおいてください。
 とにもかくにも、こうなれば何か注文しなければならない。でないと生きてこの店を出られそうにないみたいだし。

「えっと・・・・この【崋山群狼丼(並)】を頼むぜ」
「俺も同じの」
「ワオオォォォーーーン! 崋山群狼丼並二つ入ったぜぇぇ―――! ケマダ店長ぅぅぅぅ!」

 けたたましい雄叫びを挙げながら注文を読み上げる世紀末な店員。
 すると、店内からこれまた世紀末チックな獣の皮を纏ったちょび髭の店員が姿を現した。

「馬鹿野郎! 何度言ったら分かるんだ! 俺様の事は【ケマダ兄貴】と呼べとあれほど言っただろうが!」
「す、すんませんでしたケマダt・・・ケマダの兄貴」
「そうよそれで良いのよ! うし、早速調理開始だ! マダラ、何時ものように頼むぞ!」

 ケマダと呼ばれた店長が合図を送ると、店内からまたしても世紀末チックな店員が姿を現した。
 他の店員よりも二回り近く巨大で鋭い牙を生やした明らかに危険極まりなさそうな感じの店員だった。

「うぐわあああああぁぁぁーーーー! おで、食材ぎるぅぅぅぅ!」
「そうだマダラ! お前の鋭い爪でどんな食材も切り刻んでやれ!」
「嫌、包丁使えよ! 何爪で食材切ろうとしてんだよお前ら!」

 至極当然なツッコミがなされたが、特に気にもせずに調理を開始するマダラ。
 食材一式を中央のテーブルに置き、その周囲をグルグル回り始める。

「え? 何してんだ・・・あれ?」
「さぁ・・・俺にも何が何だかさっぱり」

 奇妙な光景だとばかり見ていた二人の前で、グルグル回っていたマダラの数が突如三つに増えて見えだした。

「ふふふ、これぞマダラの得意とする業【崋山分裂拳】だ。猛烈な速度で走って一瞬で止まる事により目の錯覚で複数に分かれたように見えるのさ」
「それって、調理に全く関係なくないか?」

 全くその通りなのだが、とりあえず彼らの好きにやらせるしかなさそうなのでそうしてみた。

「うがあぁぁぁぁ!」

 怒号を張り上げながらマダラが飛翔する。そして、食材に向かいその鋭い爪を突き立て・・・られなかった。

「ど、どうしたんだマダラ!?」
「あ・・・あぁ・・・・き、昨日・・・爪切っちゃったから・・・食材・・・切れない・・・・」
「馬鹿野郎! 何で爪を切っちまうんだよ! それじゃ俺達営業出来ねぇじゃねぇか! 親父に怒られちまうよぉ!」
「す、すまねぇ・・・兄貴・・・」

 泣きわめくケマダに仕切りにヘコヘコと頭を下げて謝るマダラ。
 そんな二人の周りを囲んでどうすれば良いのか困り果てるヒャッハーな店員達。
 バットと魔理沙はそんな店内にいたたまれなくなったのか、数刻前には既に店を後にしていた。





     ***




 気が付けば、バットも魔理沙もすっかり意気消沈してしまっていた。
 無理もないだろう。人里で働き口を探そうと思ったら思っていた以上に人里内が空気を読めない輩に浸蝕されていたのだから。
 それの被害は魔理沙の方が実際大きかったと思われる。

「畜生・・・なんなんだぜ! どうして人里の中にまであんな空気を読めない奴らと会わなきゃならないんだぜ」
「げ、元気出しなよ魔理沙ちゃん。きっとまだケン達の息の掛かってない場所はきっとあるよ」
「俺がどうかしたのか?」

 またしても、な展開に魔理沙は恐る恐る声がした方を向いてみた。
 出来れば今のが空耳でありますように。出来れば、今の声の主が全く別の見知らぬ極々一般の人でありますように。
 そう神にも悪魔にも願う気持ちで振り返った魔理沙の心は、その場にいたケンシロウを見た為に完全に瓦解してしまった。

「畜生・・・何だってこんな時にお前に会うんだよ! 神様の意地悪! そんなにまで私をいじめて楽しいのかよぉぉ!」
「お、落ち着いて魔理沙ちゃん」
「バットよ、魔理沙は一体どうしたと言うんだ?」

 魔理沙の心を壊した張本人たるケンシロウ自身は全く身に覚えのない風な顔でバットに尋ねて来た。
 かく言うバットも幻想郷に来てまだ日が浅い為にケンシロウがやらかした破壊活動を余り良く知ってはいないでいる。

「ケン。お前俺が幻想郷に来る前まで一体なにやらかしてたんだよ?」
「すまないバットよ。俺がまだ未熟だったばかりに、幻想郷に多大なる被害を被らせてしまったんだ」

 拳を握り締めて悔しそうに歯噛みするケンシロウ。だが、バットとしては果てしなく場違いな感じに見えて仕方がなかったと後に語っている。

「はぁ・・・んで、今回は何で人里に来てるんだよケン」
「うむ、霊夢の使いで食材の買い出しをしていたところだ」
「香霖の次は霊夢かよぉぉ! あいつら人を使わないで自分で動けやぁぁぁ!」

 ここぞとばかりにケンシロウを使った霊夢を全身全霊を持って呪う魔理沙であった。

「しかし参ったなぁ。このまま働き口が見つからないとこれからの食い扶持がなくなっちまう。どうすりゃ良いかなぁ」
「案ずるなバットよ」

 落ち込んでしまったバットの肩にそっとケンシロウの手が乗る。二頭身のケンシロウが八頭身近くのバットの肩にどうやって手を乗せたかは決してツッコミを入れないように。
 
「ケン・・・」
「こんな不幸な時代でも、人は懸命に生きている。明日を夢見て行き続ければ、必ず希望の未来は訪れる筈だ」
「良い事言ってるかも知れないけどそれ遠回しに他人の振り決め込んでる風にしか聞こえないぞケン!」

 どうやらケンシロウは幻想入りしても相変わらず空気を読まないらしい。
 幻想入りしてもバットの心労は相変わらずなようだった。





     ***




 食材調達をしているケンと別れた二人が次に訪れたのは、これまた人里の中でとにかく異才を放つと言うか、明らかに場違い中の場違いとも言える奇妙な建物の前に立っていた。

「建王軍・・・あぁ、あのケンの兄貴の居るところか」
「まぁ、こんなとこでもバイトとして雇って貰えば良いか」

 かなり不安が混ざりまくってはいるもののとにかく頼み込む事にしてみた。
 やはりと言うか何と言うか建物の中はこれまた幻想郷の雰囲気にそぐわない世紀末チックな構造をしていた。
 風化しだした壁や亀裂の入った壁。コケの生えた類まであるし大理石の床や天井にはひび割れなどが出来ている始末だったりする。
 そんでもって、従業員もこれまた世紀末チックな連中揃いだった。
 要するにヒャッハーな連中ばっかりだったと言う訳だ。

「よくぞ我が建王軍へ来たな若人達よ。我らはお前達の入社を歓迎するぞ」

 ヒャッハー達のボス的な大柄で髭面の大男が話を進めて来た。外見的には世紀末ヒャッハーな類のようだが、中身は意外とまともそうにも見える。

「良かったなバット。見た目はアレな連中が多いけど意外とまともそうな連中でさぁ」
「あ、あぁ・・・正直あのラオウの経営している会社だから不安もあるけど、この際贅沢は言ってられないからね」

 この際見た目のデメリットは置いておくとしよう。今必要なのはこの世紀末チックな幻想郷で生きていく為の糧なのだから。

「では、早速入社前の手続きをして貰うとしよう」
「えと、面接とかですか? 履歴書とか俺まだ持ってきてないんですけど。ってか、幻想郷に履歴書なかったし」
「なぁに、そんな難しい事ではない。ただ、我らが主人でもある建王様に一生の忠誠を誓う証として、その体に建王軍の烙印を刻んでもらうだけの事だ」

 そう言ってヒャッハーボスの指さす方にあったのは、これまた原作でもあったような真っ赤に燃え盛る如何にも熱そうな焼き印付きのドラム缶だった。

「無駄に原作再現されてるぅぅぅぅ!」
「因みに女子供と言えども建王様への忠誠は絶対だ。なので其処の小娘も同様にやってもらうぞ」
「うえぇ! 私もなのかぁ!?」

 とんだとばっちりを食らった魔理沙であった。

「あ、あの・・・折角ですけど入社の話はなかった事に―――」
「断ると言うのならあそこに用意されている鉄板の上で死のダンスを踊ってもらう事になるが?」

 すぐ隣の方ではこれまた真っ赤に燃え盛る鉄板が用意されていた。水をコップ一杯垂らしてみたが数秒足らずで完全に蒸発してしまう程の熱を持った鉄板が―――

「此処でも原作再現――――!」
「因みにサラダ油を垂らせば目玉焼きも焼ける。正にリーズナブル」
「人を焼いた鉄板の上で目玉焼きなんて作るなぁぁぁ!」

 結局、その後はどうにかこうにか説得して会社を抜け出す事に成功した魔理沙とバットではあったが、二人ともそれはそれはドッと疲れたと後に語っているそうな。

「はぁ・・・なんか、人里で仕事を探すのって思ってたよりも大変なんだなぁ」
「いや、本当はこんなに苦労しない筈なんだぜ」
「そうだよね。俺の就職が上手く行かないのって殆ど俺の世界の住人のせいだし」

 言ってて少し悲しくなってきたバット。元は自分の世界なだけにちょっと切なくなってきてしまった。
 が、何時までも切なくなっていてはいけない。こんな世紀末でバイオレンスな世界を生きていく為にも何としても安定した糧を確保しなくてはならない。
 でなければ、バットはこの幻想郷の土となるだろう。




     ***




「・・・・・・・」

 場所は変わり、此処香霖堂に置いてケンシロウの持ってきた食料を前にして霊夢と霖之助は反応に困った顔をしてしまっていた。

「ちょっと・・・ケン、何よこれ?」
「見ての通り、種モミだ。人里で知り合った爺さんに分けて貰った」

 ケンシロウから手渡されたのはもみ殻つきの米粒が数粒。
 それだけでしかなかった。
 当然そんな米粒だけでは満腹になれるのはせいぜい小鳥くらいだろう。

「分けて貰ったって・・・これをどうしろって言うのよ?」
「これを育てれば来年には米が手に入る。そうなれば食料を求めて争う事もなくなる。今日よりも明日・・・俺は幻想郷で人間に出会った気がする」
「だったら米買って来なさいよ! 大体1年も飲まず食わすなんて我慢できるわけないでしょうが!!」

 結局ケンシロウが持ってきた食料はこの種モミのみだったが為に、仕方なくその日は香霖堂内に備蓄してあった食料で飢えを凌ぐ事となった。
 無論有料で―――




【文々。新聞 第5号】




『貸本屋 鈴奈庵全壊!! 犯人はまたしても幻想入りした亜人!?』




 本日お昼前頃。人里でも割と有名な貸本屋の鈴奈庵が突如全壊したとの報告が入った模様。
 全壊の原因は不明なれど、一部の目撃者によると、崩れ行く鈴奈庵の中から山のような大男が姿を現し、一般人を掴み上げて振り回すと言う恐るべき光景が目撃されたと言う。
 更に、店主でもある本居小鈴氏は巨漢の足元で廃墟と化した鈴奈庵を前に現実を受け止めきれず、死んだ魚のような目をしながら「鈴奈庵が壊れた、フドウさんが鬼になった」等と、意味不明な単語を連呼していただけのご様子。
 当新聞は今後、小鈴氏の意識が回復し次第インタビューを行う所存である。




     書記 射命丸 文




     第10話 終 
 

 
後書き
次回予告

 人里の外で起こる謎の妖怪襲撃事件を異変と判断したケンシロウ。
 恐るべき脅威にケンシロウの北斗神拳は幻想郷の土へと返ってしまうのだろうか!?

次回、空気を読まない拳士達が幻想入り

第11話「亜人異変勃発!? お前の胸に七つの傷はあるか?」

 お前はもう、死んでいる 
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