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空気を読まない拳士達が幻想入り

作者:sibugaki
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第9話 建築の覇王現る!?お前を倒すのは俺の弾幕だ!!

 スーツ良し。
 革靴良し。
 ネクタイやワイシャツ良し。
 その他諸々概ね準備良し―――

 明日の新社会人生活に向けての最終確認をバットは行っていた。
 大学も卒業し、就職活動も無事に終わった。後は明日から社会の歯車に加わる。
 その事に対し不安もあるがそれ以上に期待もある。

「そう言えば、最近ケン達の事見かけなくなったなぁ。まぁ、バイトが一緒だったから会ってたようなもんだけどさ」

 以前まで勤めていたコンビニのアルバイトは先日辞める手続きをしてきた。
 元々は大学の学費や生活費を稼ぐ為に続けていた事なので、大学を卒業し、晴れて就職した以上続ける必要がなくなった。
 まぁ、それでもあそこで知り合った人達とは未だに交流がある。特に店長の娘のリンちゃんとは以前ほどではないが会ったりしている。
 だが、入社して仕事をするようになったら、恐らく会う機会は減ってしまう事になるだろう。
 そう考えるとちょっと寂しい気もした。
 
「まさか、ケン達に会えないのを寂しいなんて思う日が来るなんてな。今まで散々な目に逢って来たってのに、いざ会わないと物足りないと感じるんだもんな。まぁ、明日からは俺も社会人になるわけだし、流石に会社の中にはケンみたいな奴は・・・いないよね」

 自分で言ってて妙に不安になった。まぁ、居たとしてもそれはそれ。何時ものように乗り切ればいいだけの話だ。
 そう自分に言い聞かせ、明日に向けて床に入り静かに眠る事にした。
 明日から始まる新生活に心が躍る。
 期待と不安が入り交じり、こねくり回されて固められてこんがりと焼かれたような、そんな不思議な感覚を感じつつも、バットの意識は静かに遠い彼方へと旅立って行った。




     ***




「・・・・・・何これ?」

 目を覚ましてからの第一声がこれであった。目の前に広がるのは見たこともないド田舎じみた風景。そして自分が居るのはそんなド田舎の中にある神社の境内っぽい場所。
 まぁ、神社と言っても目の前にあるのは神社だったと思わしき更地になった土地しかない。
 
「はぁぁ!? 一体何がどうなってんだよ!? 俺昨日アパートで寝た筈なのに、何で目が覚めたらこんな田舎に来てる訳? 一体全体何がどうなってんだよ!?」

 開幕一番の盛大なツッコミが入った。無論、周りに誰もいないのでそれを返す相手は誰もいない。

「おいおい、年がら年中頭ん中世紀末な連中からようやく解放されたと思ったら今度は何だよ? 誘拐か、それともキャトルなんちゃら? どちらにしてもはた迷惑この上ねぇだろう」

 自分に起こった状況が全く理解できない。そもそもここは何処なのだろうか? 見た感じ日本のド田舎には間違いないのだがそれ以外の情報が全くない。
 試しに携帯を使って現在位置を確認しようとしたのだが、何故か携帯は圏外の文字しか浮かんでこない。
 幾らド田舎でも電波の届かない場所なんてあるのか?
 まぁ、探せばあるかも知れないが、だとしてもこの状況はバットにとって見れば最悪この上なかった。

「勘弁してくれよ。明日から社会人として第一歩を踏み出す筈だったのに、初日から変な場所に連れてこられて欠勤だなんて笑い話にもならねぇよ」

 その場に座り込み頭を抱えてしまう。
 訳が分からないと言う現状がバットを更に追い込んでしまっているのだろう。
 加えて、現状を訪ねる人が一人もいないのでは解決法を探る事も出来やしない。
 一体全体どうしたら良いのか。考えたところで良い案など浮かぶ筈もなくすっかり途方にくれてしまうしかなかった。
 
「いかんいかん、こう言った状況下で一番やっちゃいけないのはネガティブになる事だ。こう言う時こそ物事をポジティブに考えて行動しないと。とりあえずまずはこの近辺に人が居るだろうからその人にこの場所の事と帰り方を聞くのが大前提だな」

 何時までも塞ぎ込んでても状況は改善しない。それは過去の脳内世紀末連中と関わって来た時から学んだ事だ。
 ならば、今は少しでも行動して状況を覆す努力をすべき。そう自分自身に言い聞かせ、バットは再び立ち上がった。
 そんなバットの面前に何かが映った。
 青空をバックに何かがこちらに飛んできて来るのが見える。
 鳥かな? 最初はそう思ったが次第に大きくなってくるそれを見てそれが違うと確信しつつ、バットの脳裏に更に悩みの種を植え付ける事となった。
 
「なぁんだ、まだ再建されてねぇのか。霊夢の神社は」

 何故なら、鳥かと思ったそれは、ほうきに跨って飛んでやって来た女の子だったからだ。

「え? 女の子!? ってか、今飛んでた!?」
「ん、誰だお前? っつぅか、此処幻想郷じゃ空を飛ぶなんて珍しい事じゃないんだぜ」
「幻想郷!? 何それ、ってか、空を飛ぶ!? 嘘だろ! もしかしてこれ夢? 俺、夢でも見てんのか?」
「何一人で変な事言ってんだよ。夢な訳ねぇだろ。現実だよ現実・・・まさか、お前もあいつと同じなのか?」
「あいつ? あいつって誰の事?」

 お互いに警戒し合う。バットは空を飛ぶ事を常識と言う少女に危機感を覚え、その少女はと言うと、バットが例のあいつと同類なのかと警戒しだす始末だった。

「お、おおお・・・お前もあいつと・・・ケンと同じように変な拳法とかを使うのか?」
「え!? ケン!! まさか、ケンも此処に居るのかぁ!?」
「やっぱり! お前もケンと同類なのか! マジかよぉ! ケンやトキ以外にも変な胡散臭い拳法使いが幻想入りしちまったのかよぉ!」

 天に向かい嘆く少女。その少女の発言の中にちらほら聞こえた名前。
 ケン、そしてトキ。
 間違いない。あいつらの事だ―――
 バットは確信した。奴らも此処に来ていると言う事を。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺はそいつらみたいな胡散臭い拳法なんか使わないから。ってか使えないから。寧ろ俺もそいつらに被害を受けた側の人間だから」
「ほ、本当か? 本当にお前、胡散臭い拳法とか使わないのか?」
「使わない使わない。見た目通り極々普通の一般人だから」

 身振り手振りで自分がまっとうな人間だと主張するバット。その証明を受けて、少女は安心したのかほっと胸を撫でおろしている。
 どうやら彼女も相当被害に会った類なのであろう。
 同じ被害者でもあるバットは内心同情してしまった。

「なんか、君も相当ひどい目に遭ったみたいだね」
「あぁ、酷いなんてもんじゃなかったぜ。あいつのせいで香霖の所の品を借りれなくなったし、霊夢の奴には追い掛け回されるし、人里の修復は手伝わされるし、暫く本は読めなくなるし、もう散々だったんだぜ」
(ケンの奴・・・こんな女の子にまで何やってんだ? まさか、女の子相手に北斗神拳なんて使ってんじゃないだろうな? まぁ、あいつなら有り得ないとは言い切れないけど)

 内心酷い事を思いつつもバットは少女を見た。
 見た所何処も変わった様子のない普通の女の子に見える。まぁ、恰好が絵本や物語で言うところの魔法使いを連想させる服装なのが目に付くがそれ以外はごく普通に見える。

「えっと、とりあえずまだお互い自己紹介してなかったよね。俺はバット。日本のあべし町で会社勤めをする準備をしていたんだ」
「あたしは霧雨魔理沙ってんだ。そうか、バットもやっぱりケンと同じように異世界から幻想入りした口だったんだな」
「その、幻想入りって何? 後、さっき聞いたけど幻想郷ってのは、此処の事なの?」
「あぁ、此処は幻想郷って言って、まぁバットが居た所とは別世界って言った方が早いな」
「べ、別世界ぃぃぃ!!!」

 本日一番のカルチャーショックをバットは受けた。今まで胡散臭い拳法家と数々の騒動に巻き込まれてきたが、まさか今度は別世界などと言うSF的要素にまで巻き込まれてしまった事に心底驚きを隠せなかった。

「えぇ? ちょっと待ってくれよ。異世界? 何だよそれ! 何で俺異世界に来ちゃったんだ? 俺昨日は自分のアパートで社会人になる準備をしてただけだってのに!」
「そんなのあたしに聞かれても分からないんだぜ。大方紫の奴がすきまをいじくってた際にお前を落としちまったんじゃねぇの?」
「また変な単語が出て来た。紫って・・・まぁ人の名前だろうな。けど、すきまって・・・何?」
「う~ん、上手く説明出来ないんだけど、とりあえず世界をつなぐ穴みたいな奴だよ。うん、きっとそうだ。んで、紫はその穴を繋げられるんだけど、時々お前みたいな本来居た世界から忘れられた存在がこうして幻想郷に流れ着く事があるんだよ」
「俺・・・元居た世界に忘れられたの? これから社会人として生活していく筈だったのに、それをする前から忘れ去られるって・・・どんだけ影が薄いんだよ俺は―――」

 自分の影の薄さに絶望を感じだすバット。しかも、その為にこうして訳も分からない世界に飛ばされてしまったのだから不運としか言いようがない。

「まぁ、そう気を落とすなよバット。此処幻想郷だって捨てたもんじゃないぜ。住んでみればきっと此処を気に居る筈だって」
「その通りだ。此処幻想郷は正に俺の探し求めていた安住の地に相違ない」
「そうそう、お前の探し求めていた安住の地に・・・ゑ!?」

 唐突に会話に入り込んできた声に一瞬疑念を感じた魔理沙が声のした方を振り返る。
 其処には魔理沙が危険視していたであろうケンことケンシロウ本人がいつの間にやら居り、会話に加わっていた。

「だっひゃあああああああ! また出たああああああ!」
「む、魔理沙か。此処で何をしているんだ?」
「そりゃこっちのセリフだ! お前こそ此処に何しに来たんだよ!」
「うむ、博麗神社の再建の目途が立ったのでな。その手伝いの為にこうしてやってきた。元はと言えば俺が霊夢の神社を壊してしまったのでな。その罪滅ぼしをしたかったんでな」
「だからってなんで今日来るんだよ。あぁ、何であたしはわざわざこいつを会う行動を取っちまうんだよぉ。あたしのバカバカバカ~~~!」

 自分自身を罵倒しだす魔理沙。そんな魔理沙をただじっと見ているケンシロウ。何ともシュールな光景であった。

「やっぱりお前だったのかよ、ケン」
「バット! お前も幻想郷に流れ着いたのか?」
「あぁ、にしてもまさか異世界でお前に会うなんてなぁ。俺ってそんなに北斗神拳と深い関係持ってたかなぁ?」

 自分はそんな胡散臭い拳法と関わりを持った覚えはない。そう断言しつつも内心疑いを持ちだすバットだった。

「それにしてもケン。お前一体何やらかしたんだよ。神社ぶっ壊したって聞いたけど、まさか―――」
「うむ、賽銭を入れて鈴を鳴らそうとした際に誤って神社の経絡秘孔を突いてしまってな。その為に霊夢の神社を破壊してしまったんだ。一子相伝の暗殺拳。北斗神拳の伝承者としてあるまじき失態だった。これも安住の地である幻想郷に訪れた気の緩みなのかも知れない」
「そうは言うけど、お前この前もコンビニのレジぶっ壊してたじゃねぇか! その前は店内を飛び回ってたハエを爆散させたし、その前だって―――」

 実は元の世界でも結構デストロイしまくってるケンシロウであったようで―――

「ちょっとケン。遊んでないでちゃんと手伝いなさいよね。今日中に神社を立て直す予定なんだから」
「あぁ、分かっている」

 そんな事をしていると、また見知らぬ誰かが突然現れた。魔理沙とは違い赤い巫女服? を着た女の子だった。

「あら、見ない顔ね。また外の世界からやって来た類の人?」
「えっと、まぁそうなるかな? もしかして、貴方がその―――」
「博麗霊夢。此処博麗神社の巫女よ。最も、その神社も今は影も形もないんだけどね。もうすぐ人里で雇った大工が来るから、あんたもケンと知り合いなら建て直し手伝いなさいよ」
「えぇ! 唐突に何!? 俺も同罪扱い!?」
「つべこべ言わずにさっさと行動する。男だったらうだうだ言うもんじゃないわよ」
「はぁ・・・」

 完全なとばっちりを受けてしまった。まぁ、ケンと関わった時からとばっちりなんて散々受けまくってたから今更驚く事もないのだが。

「すまないバットよ。俺の為にお前にまで苦労を掛けてしまうとは」
「何を今更。ケンと関わったら碌な事にならないのは何時もの事だし、もう慣れたよ」

 実際、ケンと関わると8割くらいろくな目にあってない為か、バット自身も半ば慣れて来ていたらしい。
 何しろ、こいつは歩くトラブルメーカーと言わんばかりにあちこちで騒動を引き起こしまくるだけでなく、其処に居合わせたバットに確実にとばっちりが来ると言う最悪の組み合わせを毎回味合わされると言う苦い経験を幾度となく味わって来た。
 そりゃ慣れる筈だわな―――
 内心そう呟きながらも、一同はこちらにやってくるであろう大工の到着を待った。
 
 そして、待ちに待った大工は一同の前に姿を現した。

「ふむ、今度の現場は此処のようだな」

 現れたのは一人の大男がこれまた巨大な黒い馬に跨った如何にも時代を間違えたような風貌をした大工? だった。
 しかも、その風貌がこれまた大工とは似つかわしくない。
 金色に輝く日本の巨大な角を左右に挿した兜に漆黒のマントを羽織り、鋭い眼光はまるで野獣のそれを彷彿とさせる。
 
「あぁ、まさかとは思ったけど・・・やっぱそうなるのか」
「へ? 何、何なんだよこいつ? どう見たって大工に見えねぇよ。っつぅか何だよその馬! 象並みにでかいじゃねぇか! 一体ぜんたい何なんだよあいつわぁ!?」

 頭を抱えるバットに対し、魔理沙はパニックに陥っていた。仕方ないだろう。
 何しろ、雰囲気からしてケンシロウと同類っぽい人種なんだし。

「ラオウ兄さん!」
「ケンシロウ。うぬも此処に来ていたのか?」

 そんな二人を他所にケンシロウとラオウは幻想郷にて再会を果たした。

「俺だけじゃない。トキ兄さんも幻想郷に来ている」
「何と、トキもだと!? ふん、天は余程このラオウに試練を与えたいのだろうな」
「兄さん。まだ野望を捨てきれていないのか?」
「当然だ。この世に生を受けたからには、俺は全てをこの手に握る。それを邪魔する者は、例え神であろうと戦い、そして叩き伏せるまでよ!」

 途端に一触即発な空気になり始めるケンシロウとラオウ。両者が静かに睨みを利かせている。

「ちょっと、来たんならさっさと仕事に取り掛かって頂戴よ!」
「ふん、良かろう。その為に俺はこうしてきたのだからな」

 そんな空気など全く気にも留めず霊夢が言葉を投げ掛けて来た。それを受けて、やれやれとばかりにラオウは一旦抜き掛けた殺気の刃を収め、作業に取り掛かり始める。
 其処は流石に仕事人と言える。

「お、おっかねぇ~。一体何なんだ? あの大男は?」
「あれはラオウ。俺と同じ北斗神拳を極めた男であり、俺の兄だ」
「マジかよ! っつぅか何でその北斗神拳を使う奴が大工やってんだ?」
「俺にも分からん。元居た世界では建築現場で働いていたからその為だと思うが」

 その後もケンシロウとバットの説明で、ラオウが現場で建築現場の覇王こと【建王】と呼ばれていた事や、何でもかんでも力業で解決したがる所とか、他にも色々な部分を聞かせて貰った。
 その内容を要約すると、北斗三兄弟の中で恐らく最も危ない存在なのかも知れない。

「はぁ・・・あたし、あいつらが異変起こしたら解決出来る自信がねぇ」
「心配するな魔理沙。もしラオウがこの幻想郷に害を呼ぶような事をした時は、この俺が命を懸けて止めて見せる」
「嫌、寧ろお前もその原因の一つみたいなもんだからな? 自分は無関係って言いたそうな顔しているけど100%絡んでるから、間違いないから」

 実際ケンシロウが来てからと言うものの、魔理沙は不幸の連続を味わっている。
 まぁ、中には自業自得な場面もあるだろうがそんな事一々覚えていられる訳ないので、とりあえずケンシロウのせいって事にしておくことにした。
 
「って言うかラオウさぁ、お前とコクオウしか来てないみたいだけど材料とかはどうしたんだよ?」
「案ずるな。間も無く到着する予定だ。俺は建築現場の覇王! 建築作業に抜かりはない」
「本当かよ?」

 少々、と言うかかなり疑り深い気もしたが、まぁラオウもあれはあれでプロだ。
 本人が言うのだから当然抜かりはないのだろう。

「ところでさぁ、バットって元の世界だと何やってたんだ? ちょこっとで良いから教えてくれないか?」
「ん? あぁ、良いよ。俺は元居た世界だと色々とアルバイトしててさ。殆どが生活費とか学費に消えちゃったけど、そのお陰で大学も無事に卒業出来て、明日から社会人になるって所だったんだ」

 暇を持て余した魔理沙はバットに元居た世界について質問を投げ掛けてみる事にした。
 実は、魔理沙自身ケンシロウの居た世界に若干興味があった。
 だが、ケンシロウに聞いてもさっぱり分からないと言うか返ってややこしくなってしまいどうしようもなかった所にまともなバットがやって来たのでこれ幸いとばかりに彼に様々な質問を投げ掛けてみたのだ。

「へぇ、大学にアルバイトかぁ・・・何か面白そうだなぁ」
「他にも花見もしたし合コンだってやったし、後マラソン大会なんかにも出たかな」

 気が付けばバット自身もノリノリで元居た世界について語りだしていた。
 最初は見知らぬ世界に飛ばされて不安な気持ちになりもしたが、いざこうして現地の人と話してみると中々良い場所だと思える。
 何より、霊夢も魔理沙も結構可愛いし―――
 と、思わず頬が赤くなってないか慌てて首を激しく左右に振りつつ、更に会話は弾みを見せていた。

「んでさぁ、俺大学の近くのコンビニでバイトしてたんだけど、その時に同じ時間でバイトしてたのがケンなんだよ」
「へぇ、でもさぁ。ケンとバイトするのって大変じゃねぇのか?」
「大変も大変。もう毎日大忙しだったよ。毎回毎回レジは壊すし、品物は破壊するし、その度に俺が後始末つけてたからもう毎日クタクタだったよ」
「そりゃ災難だなぁ。あたしも同情するぜ」
「まぁ、それにも次第に慣れて来たし、どの道もう社会人になったらバイトもしないつもりだったからね」

 何だか二人ともとても楽しそうに会話をしている。とても微笑ましい光景に見えた。

「何だか、魔理沙ってばあの外来人と良く喋ってるみたいねぇ」
「どうやら俺達の元居た世界の事について色々と話しているようだ」
「元居た世界? あぁ、あんたが前に言ってた世界の事よね。あんたが説明したもんだからさっぱり分からなかったけど」

 何となくだが、二人の世界に入り切っちゃってる気がしてどうにもこうにも話しかけ辛い気がしてきた。

「遅い! 何をしているのだ! これでは作業が行えぬではないか!」
「落ち着けラオウよ。彼らが遅れるのにはきっと訳があるのだろう。だとしても、彼らは懸命に働いている筈、そんな彼らを労ってやるべきではないのか?」
「甘い、甘いぞケンシロウ! この俺の元で働く以上遅れは許さぬ! この仕事が終わった後、奴らには今一度恐怖を味合わせねば!」

 歯ぎしりしながら物騒な事を呟くラオウ。そんなラオウを必死になだめようとするケン。
 恐らくだが、他の者がなだめようとしたが最期、ラオウの一撃の元に吹っ飛ばされてしまうだろう。
 それだけは御免被りたい。

「ふふふ、お怒りのようだな。北斗の長兄よ」

 怒り心頭なラオウを嘲笑うかのように神経を逆なでする声が聞こえた。その声には聞き覚えがある。
 声を聞いたケンシロウやラオウは勿論、バットや霊夢、そして魔理沙までもが声の主の方を見た。
 
「貴様、シン!!」

 其処に居たのは、かつて人里にて幻想郷支配を高らかに宣言した南斗聖拳のシンだった。
 怒り心頭で何時爆発してもおかしくないラオウをこれまた皮肉たっぷりな笑みを浮かべながらシンは見ている。

「何用だシン! 貴様に用などないわ!」
「ふん、そうはいかん。この土地は今この私が買い占めた。よって、この土地は今からこの私の物となる。故に、ラオウよ。お前の配下の大工達にはお帰り願ったところだ」
「何だと!?」
「シン、貴様何を企んでいる!?」
「決まっているだろう。この俺の目的は幻想郷を支配する事。その為の第一歩として、この土地に俺とユリアの住む宮殿を建築する事が目的だ」

 滅茶苦茶も良い所な話だった。よりにもよって博麗神社の跡地であるこの土地に宮殿を建てようなどと企んでいるのだから正気の沙汰じゃない。
 少なくとも、この土地の所有者の事を知っている者ならば間違いなく行う筈がない事だった。

「ちょっと待ちなさいよ! 何勝手な事言ってるのよ! 此処にはこれから私の住む神社を建てるのよ! 宮殿なんて建てられる訳ないでしょ?」
「ふむ、誰かと思えば以前に会った巫女か。此処は貴様の土地だったとは、知らなかったとは言え申し訳ない事をした」
「此処を知らないなんて、そんなんで幻想郷支配出来ると思ってる訳? 貴方幻想郷について無知過ぎるわよ」
「これは手痛い事だ。今後幻想郷について良く勉学しておくことにしよう」

 謝罪らしい言動を並べてはいるが、霊夢のあの威圧を一身に受けていると言うのにシンには全く気にした様子を見せていない。
 無知とは言え、あの博麗の巫女の威圧を受けても全く動じない所に、北斗や南斗の拳法家達の神経は凄まじいなぁと、魔理沙は心底そう思えた。

「ではこうしよう。此処に宮殿を建てる土地を献上してくれた暁には、宮殿内に貴様の神社を組み込むスペースを確保しよう。更には、月々の奉納代としてこれだけの額を賽銭として支払うつもりだ」

 そう言ってシンは霊夢に金額の掛かれた小切手を手渡す。それを受け取った途端、霊夢の目の色が変わったのを魔理沙は見逃す筈がない。

「どうぞ、宮殿なり城なりお好きな物をお建て下さいKING!」
「相変わらず施しに弱いなお前。それでも博麗の巫女かよ?」

 心底疑いたくなるがこれでも列記とした博麗の巫女なのだ。
 
「でしゃばるなシン!この地はこのラオウが先に建築すると決めた地。横入りは許さんぞ!」
「ふっ、何を言うか。資材も人員も居ない貴様に建築など出来る筈がないだろう。諦めてこの俺とユリアの愛の宮殿が完成するのを指を咥えて見ているが良い」
「何!ユリアだと!?」

 その名を聞いた途端ラオウとケンシロウが反応した。さっきも言ってたけど一体何者なんだ?

「なぁ、バット。さっきも言ってたそのユリアって誰だ?」
「あの北斗三兄弟とあそこにいるシンがベタ惚れしてる女の人。元の世界だと女優やってて、そのオーナー的なのもあのシンが担当してるから結構ややこしい話になってるんだよ」
「マジかよ。あんなのに惚れられるなんてそのユリアってのも相当不幸なんだなぁ」

 当人が聞いていないのを良い事にあんまりな事を口走る魔理沙だった。

「シン、ユリアは此処幻想郷に来ているのか?」
「いや、まだ来ていない。彼女は今ドラマの撮影で忙しくてな。仕事がひと段落したら連れて来る予定だ」

 またあんな奴が増えるのかぁ。と、魔理沙は正直嫌そうな顔をしていた。
 この調子だとどんどんあんな胡散臭い拳法使い達がここ幻想郷に流れ込んで来る気がする。
 そうなったら魔理沙の生活は滅茶苦茶だ。

「シン!貴様の思い通りになど断じてさせん!幻想郷は俺が守る」
「ふん!ケンシロウ、そしてラオウよ。今この地で北斗の二兄弟を屠ってくれるわ!そして、貴様らの屍の上に俺の宮殿は建つのだ。有難く思うが良い!」
「ならん!この地はこれより我が拳王軍がこの幻想郷を恐怖で染め上げるための拠点にする!貴様の宮殿になど断じてさせぬわ!」

 結局ラオウ自身も神社を建てる気は毛頭なかったようだ。そんな勝手な言い分をぬかしながら、三人は一触即発な空気を放ちだしていた。

「おいおい、こんな所で喧嘩なんかすんなよ!巻き添えは御免だぜ!」
「どうでも良いけどさっさと建築しなさいよ!」

 一触即発状態になった三人の拳法家達にビビる魔理沙に巻き添えを食らわないように離れるバット。そしてそんな状況などお構いなしに野次を飛ばす霊夢の三人の姿が此処にあった。

「ケンシロウ、そしてシンよ。今日が北斗神拳二千年の歴史の終焉と南斗聖拳の終わりの日と知れぃ!」
「戯言を! 北斗神拳は今日この幻想郷で消え失せるのだ!」
「待て二人とも!」

 今にも殴り掛かろうとしたシンとラオウを珍しくケンシロウが呼び止めた。
 普通なら我先にと殴り掛かる筈なのに、本当に珍しい事だ。

「何だ、ケンシロウ?」
「本来ならば俺達は拳法で戦うべきところだが、此処は幻想郷だ。幻想郷には幻想郷にしかない戦いのルールと言うものがある。それで決着をつけるべきだ」
「ふん、成程。あの時と同じ弾幕ごっこをやろうと言うのだな」
「面白い。何であれこのラオウが負ける事など有りはせぬ。弾幕ごっこでもなんでも受けて立とうではないか」

 こうしてケンシロウの提案は受理された。

「な、なぁ・・・さっきケンの奴が言ってた弾幕ごっこって何?」
「まぁ、説明すると色々とややこしいから簡単に言うと幻想郷で使われてる戦い方みたいな奴だな。お互いに弾幕やスペルカードを使って戦うんだよ」
「弾幕? スペルカード? また分からない言葉が出て来た」

 幻想郷に来たばかりのバットには弾幕やスペルカードが何なのかさっぱり分からなかった。
 まぁ、拳法家同士が好き放題やらかしている為か本来の形式の弾幕ごっこは未だに登場しておらず、その為スペルカードとやらも未だに未登場な現状で果たして東方とのコラボを謳っていて良いのか甚だ疑問である。
 まぁ、それもこれも今回幻想入りした拳士達が原因なので当作者は全く関係ないのであしからず。

「まぁ、弾幕やらスペルカードやらはこの際置いといてだ、弾幕ごっこってのはこの幻想郷で行われてるまぁ、分かりやすく言えば競技みたいなもんさ。この弾幕ごっこのお陰で人間が妖怪やそれ以上の存在と互角の勝負が出来るようにルール作りされてるのさ」
「へぇ、案外ちゃんと出来てるんだなぁ」

 魔理沙からの説明を聞いて改めて納得するのだが、同時にバットは不安になってきた。
 今の今まであの拳法家達は浮世のルールと言うルールを悉く無視しまくり、破壊しまくってきた。そんな無法者達が幻想郷のルールを果たして守れるかどうか?
 否、断言できる。絶対に守れない。守れたとしても世紀末色に染まった間違ったルールになりかねない。
 そう思っていたバットの予想は見事に当たってしまった。

「受けてみよケンシロウ! そしてラオウよ! これが我が南斗聖拳の弾幕だ!」
「ならばこちらは北斗神拳の弾幕で勝負だ!」
「温い温い! そんな軟弱な弾幕でこの拳王の弾幕を防げる筈があるまいて!」

 とまぁ、バットの予測通り弾幕ごっことは名ばかりの激しい打撃戦が展開されていた。
 打ち出され、交差する激しい拳の応酬。時々蹴りとかも交じりながらその様は正しく男性版弾幕ごっこと言えば良いのか。
 だが、確実に言える事がある。
 これは絶対に弾幕ごっこじゃない! と言う事だ―――

「何が弾幕ごっこだよ! 結局何時も通りの只の殴り合いじゃないかぁ!」
「あぁ、やっぱりあいつら元の世界でもあんな事してたんだな。あいつらのせいで幻想郷は滅茶滅茶になっちまったんだぜ」
「そ、そうなの!? あいつら幻想郷に来ても好き勝手暴れてるのかよ!?」

 やはり脳内世紀末な連中はここ幻想郷に置いても馴染めないご様子だった。
 
「ふっ、流石は北斗の長兄と正統伝承者。このまま只の弾幕ごっこをしていたのでは埒が開かんな」
「どうしたシンよ。貴様の言っていた執念と欲望はその程度のものか?」
「ふん、これならばこの幻想郷支配も容易いわ。この世の全てをこのラオウが牛耳って見せようぞ」
「フフフ、だがお前達はまだ弾幕ごっこの恐ろしさを知らぬ。その証拠にこれを見るが良い!」

 シンが懐から取り出したのは一枚の見慣れぬカードだった。
 
「シン、何だそれは?」
「またお得意の金と権力か?」
「違うな。これは【スペルカード】と言う代物だ。この弾幕ごっこには弾幕の他にこのスペルカードを用いて戦うのだ」
「だから何だと言うのだ?」
「つまりだ、この弾幕ごっこに置いてこのスペルカードが無ければ我らは奥義を用いる事が出来ぬと言う事だ!」
「「な、何だと!?」」

 驚愕する両者。勿論ケンシロウもラオウもスペルカードは持っていない。
 それに対し、シンはスペルカードを持っているが為に自らの持つ南斗聖拳の奥義を使用する権限を得た事になるのだ。

「行くぞ! 南斗獄屠拳」
「北斗ただの蹴り!」
「北斗ただのパンチ!」

 北斗のただの打撃技と南斗の奥義が炸裂する。当然この場合は奥義を使ったシンに軍配が上がる事となり―――

「ぐわぁっ!!」
「ぬぐぅっ!!」

 両者とも手痛い打撃を被ってしまった。しかも、その際に両者の体から流血は流れず、代わりに大量の札の様なカードの様な何かが飛び散りだした。

「こ、これは何だ?」
「教えてやろう。これこそが【ポイント】だ!」
「ぽ、ポイントだと!?」
「そう、この弾幕ごっことはこのポイントの奪い合いなのだ。互いのスペルカードを用いて奥義を使い、相手のポイントを奪い最終的にポイントの多い者が勝者となる。分かったか? これが弾幕ごっこの本当の恐ろしさよ」

 飛び散ったポイントがシンの元へと集まっていく。その工程をまるで勝利を確信したかの様に微笑みながらシンは見ていた。
 スペルカードを持たないが為に奥義を封じられたケンシロウとラオウ。
 今、北斗神拳二千年の歴史に幕が下りようとしていた。

「あいつら、やっぱり弾幕ごっこのルールを完全に勘違いしてやがる。あのままだと更に被害が広がるんじゃねぇのか?」
「な、なぁ・・・そのスペルカードってどこかに売ってないのか?」
「つってもなぁ。私は自分のスペルカードしか持ってないからなぁ」

 自分のスペルカードを見つつ魔理沙が愚痴る。しかし、このまま一方的な勝負が続けば確実に幻想郷はシンの作り出すはた迷惑な世界へと変貌しかねない。
 それだけは何とか阻止しなければならない。でなければ将来魔理沙が禿げ上がる危険性が極大だった。

「おぅい、ケン。私のスペルカードを貸してやるからこれ使えよ」
「魔理沙、だが良いのか?」
「あぁ、後でちゃんと返せよな」

 渋々魔理沙はケンシロウに自分のスペルカードを貸す。其処には魔理沙の奥義【恋腑『マスタースパーク』】と書かれていた。

「このカードは・・・あの時俺とシンに打ち込んだ魔理沙の奥義か?」
「何だよ奥義って? あれは私の魔法だからな。言っとくけどそれ持ってるからってお前がマスタースパーク撃てる訳じゃねぇからな。それを撃つにこの八卦炉を使ってだな―――」
「嫌、必要ない。これだけで十分だ」
「はぁ!?」

 何を訳の分からない事を言ってるんだ?
 そんな魔理沙を他所に、ケンシロウはスペルカードを持ち構えを取った。

「ふん、スペルカードを持ったところでどうするつもりだ? 貴様にこの俺の執念を破る事は出来ぬ!」
「見せてやるぞシン。この俺が幻想郷に来て初めて受けた奥義。そしてこの地にて初めて出来た強敵(とも)の技を!」
「おい、さり気なく私をお前らと同じ垣根に入れんな! 後なんだ強敵と書いてともってのは?」
「行くぞ! これが俺のマスタースパークだぁぁ―――!!!」

 怒号を張り上げ、両手からケンシロウが放ったのは紛れもないマスタースパークだった。
 七色に輝く闘気を練り上げ、それを相手にぶつけ触れずして秘孔を突く霧雨魔理沙の持つ奥義の一つであった。

「おい待てこらぁ! 何だ上の説明はぁ!? さっきから言ってるけどあれは魔法であって殺人拳じゃねぇってんだよ! 大体なんだよ闘気を練り上げるって? 何だよ触れずして秘孔を突くって! 明らかに別系統の技に改ざんされちまってるじゃねぇか!」

 マスタースパークを放ったケンシロウの隣で魔理沙が必死に否定しまくっていた。
 もし、これを肯定してしまったら魔理沙もこいつら脳内世紀末な拳法家達と同等の存在とされてしまうからだ。
 それだけは認めたくはなかった。

「ぬぐぅっ!! ま、まさか・・・北斗神拳奥義の一つ、水影心を用いたのか?」
「そうだ、北斗神拳は一度見た奥義を自分の物に出来る。そして、この奥義はあの時魔理沙が俺達に向けて放った奥義だ」
「だから奥義じゃねぇって何度も言ってるだろうが!?」

 ケンシロウのマスタースパーク(北斗)と諸に食らったシンの体は所々黒く焦げており、その体からはまたしても流血の代わりに大量のポイントが辺りに散らばり、それらが全てケンシロウの元へと集まっていく。

「魔理沙よ。礼を言わせてくれ。お前がこのスペルカードを貸してくれたお陰で俺はこの弾幕ごっこで戦う事が出来る」
「嫌、やっぱ返してくれ。これ以上お前に使われたら私までお前らの同類扱いされちまう」
「分かっている。俺は必ずこの弾幕ごっこに勝利し、必ずこのスペルカードをお前に返そう」
「だからぁ! 今すぐ返せよ! 私は見ての通り普通の魔法使いなんだよ! 何でお前らと同じ拳法家扱いされなきゃならねぇんだよ!」

 北斗と南斗、そして幻想郷の住人とがこうして巡り合う事となった。
 これは悲劇の予兆となるのであろうか。はたまた、新たな戦乱を呼ぶ兆しなのであろうか?
 天は何も語らず、ただ黙してそれを見続けているのみであった。

「どうでも良いけど早く建築してよ! 宮殿でも城でも神社でも良いからさぁ」

 一方で、話から完全にはぶられてしまった霊夢は一人暇そうにしているのであった。




【文々。新聞 第4号】




『謎の組織出現!その名は【KING】』

 
 頻繁に目撃される亜人達。その中についに幻想郷に牙を剥く集団が現れた。
 それらは南斗聖拳のシンと呼ばれる亜人を筆頭とした暴力組織であり、その名は【KING】と呼ばれている模様。
 KINGはまず手始めに破壊された博麗神社跡地を買収し、其処に前線拠点となる宮殿の建設を開始したとの情報が寄せられた。
 このまま幻想郷は彼らの思い描くバイオレンスな世界へと書き換えられてしまうのだろうか?
 当新聞は今後の彼らの動向をスクープしていく模様である。
 




  書記 射命丸 文







     第9話 終
 
 

 
後書き
次回予告

 幻想郷で生活をする為に仕事を探すバット。
 だが、そんなバットの元へも波乱の予兆は迫りつつあった!!

次回、空気を読まない拳士達が幻想入り

第10話「戦乱の嵐吹き荒れる!幻想郷はバイト探しも一苦労」

お前はもう、死んでいる 
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