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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第五十話  水着回のくせに水着の話は何処行った?


「それじゃー、ご飯とカレーの担当に分かれましょうか」

「はいはーい、私カレーやります」

 担当分けを提案する固法さんに佐天さんがカレー担当を申し出る。その後、初春さんは佐天さんと一緒にカレーを担当することになって、御坂さんがご飯担当に立候補したら白井さんも一緒にご飯担当ということになった。

「カレーなんて庶民の食べ物は……」

「えーっ、カレーおいしいじゃないですかー」

 そこはかとなくカレーの事を馬鹿にする婚后さんに佐天さんが反論する。

「カレー嫌いなんですか?」

 初春さんが問いかけるが、婚后さんは別にカレーが嫌いなわけでは無いようである。まあ、本格的にお嬢様らしいので料理が出来ないぐらいは当然なのだろう。

「そんなこと言って、本当は作れないんじゃありませんの?」

「なっ、何をおっしゃいますの! 勿論作れますわ。ただ、婚后家に代々伝わる究極のカレーの作り方しか存じ上げませんけど」

 白井さんに図星を指されて慌てふためく婚后さんだったが、どうしても見栄を張りたいのか色々と出来もしないことを言ってしまっている。

「へぇー、どんなカレーなの?」

「うっ!」

 案の定、食いついてきた御坂さんに狼狽える婚后さん。

「何か凄そう! 食べてみたいです」

「是非作って下さい」

 佐天さんと初春さんも話に乗っかってきて、だんだん婚后さんが引くに引けない状況へと追い込まれていく。

「いえ、折角ですから庶民のカレーでも頂いてみようかと……」

 何とか回避しようとする婚后さんだったが、簡単に回避できるはずも無かった。

「それなら両方作っちゃえば良いじゃない。材料はあるんだし」

「え?」

 遂に固法さんの言葉で逃げ道を断たれる。固法さんもこの中では最年長に当たるので、いくら大金持ちのお嬢様と言えども無碍には出来ないのだろう。

「それいいですねー」

「賛成ー、良いですよね?」

 初春さんと佐天さんが更に追い打ちを掛ける。まあ、本人達にはそんな自覚なんて一切無いんだろうけど……。

「ま……まあ、どうしてもとおっしゃるなら……」

『やったー!』

 言い訳が出来なくなってしまった婚后さんは、結局了承せざるを得なくなってしまい、初春さんや佐天さんは喜んでいる。

「うーん、婚后さん」

「な……何かしら?」

 一応助け船を出すために俺が声を掛けると、婚后さんは少し引きつった表情で応えてくれた。まあ、初春さんや佐天さんの友達と言うことで、多少警戒されているのかも知れない。

「ここって調味料関係そんなに無いんだけど、これだけで作れる物なの? 婚后家の究極とか言うぐらいだから、こんな市販のルーで作れるとは思えないんだけど……」

 俺が用意してあったカレールーを持ち上げながら尋ねる。究極のカレーというのが口から出任せだと言うことぐらいは知っているが、取り敢えず婚后さんに恥を書かせないようにこの話を収束させるにはこういう方法で良いだろう。

「あっ……、そ……そうですわねー……ちょっと無理そうですわねー……ごめんあそばせ、おほほほほ……」

「えー、残念だなー」

「まーしょうがないよ、佐天さん。ここにはターメリックもコリアンダーもクミンもガラムマサラも無いんだし、婚后家の究極とか関係なく一般のシェフが作るカレーすら作れないんじゃないかなぁ」

 婚后さんは俺の話に上手く乗っかり、それを聞いて残念がる佐天さんには俺が付け加える。俺もカレーの素材なんてのははっきりと分からないのでターメリックはともかく、コリアンダーとかクミンとかガラムマサラなんかが使われるのかどうかも知らないし、クミンではなくクルクミンだったりクミンシードだったりするのかも知れないが、何かそれっぽいものを付け加えておいた。そもそも、本当に究極のカレーなんて物を作ろうと思ったら、材料どころか設備や道具からして全然不足と言うしかないだろう。

「確かにそうね。調味料もそうだけど、材料もごく一般に出回る物ばかりだから、お金持ちのお家で作る究極なんてのは無理よね」

 俺の言葉に固法さんも納得してくれたようだ。それを見て婚后さんは何となくホッと胸をなで下ろしたようである。ただ、婚后さんが素直に他人から教えを請うイベントを潰してしまったかも知れないので、出来ればその辺のフォローも後でしておかなければならないだろうか。

「ちょっと聞くけど、泡浮さんと湾内さんは料理ってどのくらい出来るの?」

「あ……私達はそんなに……カレーも作ったことはありませんし……」

 取り敢えず泡浮さんと湾内さんに料理が出来るか聞いてみた所、この二人もやはりお嬢様なのだろう、思った通りの答えが返ってきた。

「じゃー、婚后さんは……ここにある食材で何か作れる物あったりする?」

「そ……そうですわねぇ。婚后家の秘伝料理などはここにある食材だけでは出来ませんし……」

 一応婚后さんにも確認を取り、婚后さんは俺の意図を察してくれているのか俺の想定通りの答えを返してくれた。

「なら仕方ないね。泡浮さんと湾内さんと婚后さんはウチらと一緒にカレーを作るって事で良いよね?」

「はい、よろしくお願いします」

「よろしくお願いいたしますわ」

「そうですわね。庶民の料理を覚えるのも悪くありませんわね」

 俺が三人に確認すると三人とも了承してくれたので、これでカレー側の人員は充分だろう。

「それじゃー決まりね。私は人数が少ないご飯の方に回るわね」

『はーい』

 最後に固法さんがご飯側の担当に回って調理を開始することになった。





「じゃー、初春さんと佐天さんはカレー作ったことあるよね?」

「はい」

「うん、あるよ」

 俺が初春さんと佐天さんに尋ねると、当然のごとく二人ともカレーを作ったことはあるようだ。

「どんなカレー?」

「基本的には鶏肉なんですけど、ミンチ肉を使ったカレーです。一応、ミンチであれば豚とか合い挽きでも出来ますよ」

「私はビーフかなー。野菜も肉も大きめに切って食べ応えがある感じの」

 一応カレーの種類も聞いてみると、初春さんと佐天さんとでは微妙に作るカレーの系統が違いそうなので、二人に教えて貰うよりも一人ずつに教えて貰った方が良いのかも知れない。

「そっかー。なら、泡浮さんと湾内さんは佐天さんに教えて貰いながら一緒に作って貰って、ウチと婚后さんが初春さんに教えて貰いながら作るってことでどうかな?」

「そーだねー。初春も良い?」

「そうですね、そうしましょうか」

 俺が二組に分かれてカレーを作ることを提案すると、先に佐天さんが同意して初春さんもそれに乗っかってくれた。泡浮さんと湾内さんはよく二人一緒で居るイメージがあるのでここでも一緒の方が良いと思ったのと、俺が婚后さんと一緒でなければ婚后さんのサポートが難しいと思ったからである。

『よろしくお願いいたします』

「まっかせなさい!」

 泡浮さんと湾内さんが頭を下げると佐天さんは胸を一つ叩いて応えていた。

「よろしくね、初春さん」

「よ……よろしくお願いいたしますわ」

「はい、任せて下さい」

 俺と婚后さんの方も初春さんに頭を下げると、初春さんも力強く応えてくれた。

「それじゃー、始めようか」

「こっちも始めましょうか」

 佐天さんと初春さんがそう言うと、早速俺達はカレー作りを開始したのである。





「これが何の挽肉なのか分かりませんけど、これで良いですよね?」

「あー、そうだねー……あっ!」

 初春さんと食材を選んでいると、初春さんのカレーに使う挽肉を持ってきたのだが、食材を眺めていてあることを思いついた。

「どうしたんですか?」

「どうせなら、海鮮系のカレーにしない?」

 並べられた食材の中には何故か魚介類も揃っているのである。佐天さんも肉を使ったカレーらしいので、こっちは海鮮でも良いのでは無いだろうか。初春さんがいつも作るカレーとは別物になるのだろうが、牛肉が入っているかも知れないミンチよりは、佐天さんのカレーとの味の違いがはっきりと出るだろう。

「うーん、作ったことは無いですけど……大丈夫ですかねぇ」

「まー、厳密に言えば多少作り方の違いとかあるんだろうけど、挽肉の代わりに海鮮を入れるだけでもそこそこの物は出来ると思うよ。それに、もし挽肉に牛肉が使われてたら折角二種類作っても佐天さんのカレーと味的に大差ないものになっちゃうかも知れないし」

 初春さんは少し不安そうだが普通に料理を作っているのなら多分大丈夫だろう。初春さんのカレーの味付けが海鮮には合わない可能性も無くは無いが、煮込む段階でちゃんと味が決まっていればカレールーを溶いた時にもおかしな事にはならないはずである。

「そうですねぇ。それなら海鮮カレーにしちゃいますか」

「それじゃー、海鮮の処理の方は任せて貰っても良いかな。これでもじっちゃんは漁師だったからね……まー、お父さんが中学生の頃に漁に出たまま行方不明らしいけど……」

 初春さんも海鮮カレーに乗り気になった所で魚介類の処理を俺が引き受ける。一応、祖父の話は元の世界での事実である。

「それは心強いですねー……って、それは神代さん生まれる前じゃ無いですか!」

「まーね。でも漁師にはならなかったけどお父さんも魚を(さば)いたり貝の身を取り出したりしてたから、その辺は大丈夫だよ」

 初春さんのツッコミを受けてそれでも問題ない旨を伝える。祖父が船で出たまま行方不明と言うことで、船が無くなったために父は漁師を継いでいない。ただ、行方不明になる前はちゃんと漁師関係の技術をかなり仕込まれていたらしく、魚を捌いたり貝の身を取り出したりなんてことは簡単にやっていた。俺も一応お盆休みやお正月休みに田舎へ帰った時にやらせて貰ったりはしたので、普通の人よりも知っている方だとは思っている。

「そうなんですね。それならお願いします」

「持ってきましたわ、こちらでよろしいんですの?」

「うん、ありがとう」

 初春さんから頼まれた所で婚后さんが鍋やお玉を持ってきた。なお、包丁は既に準備済みで、まな板は食材を持ってくるためにお盆代わりとして使っているので、料理器具も一通りは揃ったと思う。もし、足りない物があればそれはその時に準備すれば良いだろう。

「じゃー、俺は魚介類の下処理するから」

「はーい、いってらっしゃーい」

「よろしくお願いしますわ」

 俺はバットに載せた魚介類とナイフを持って流し場へ向かう。水道自体は調理場にもあるのだが、野菜類を洗うぐらいならともかく魚介類を洗うには流し場の方が効率が良いのだ。





「ジャガイモはこのぐらいの大きさに切って下さい」

「随分細かく切るんですのね」

「普通こんなもんですよ」

「そ……そうなんですの」

 俺が魚介類の下処理を終わらせて戻ってみると、初春さんが婚后さんに指示を出していた。婚后さんが言うように俺から見てもかなり小さく切るようで、よく見てみると既に切ってあるニンジンやタマネギなどもかなり細かく刻んであるのが分かる。まあ、カレーに入れるタマネギは元々細かく刻む物だとは思うが……。

「下処理終わったよー」

「はーい、その辺に置いといて下さい」

 初春さんに声を掛けてから、初春さんからも取りやすい位置にバットを置く。

「了解。それで、イカスミはどうする?」

「えっ……イカスミもあるんですか?」

 一応小皿を持ってきて、バットの中からイカスミだけを小皿に移し替えながら初春さんに尋ねると、少し驚いたように聞き返された。ちゃんとイカも皮をむいて中骨を抜きくちばしや吸盤を取って胴と足を別々に処理してあるのだが、内臓を外した時にイカスミを潰すことも無く取り出せたので一応持ってきたのである。さすがに俺もイカを捌いたことは無かったので、イカスミが取れるかどうかは微妙だったのだが、潰れてもいいやというつもりでやってみたら何故か上手く取れてしまったというわけだ。

「うん、ちゃんと取れたよ。まー、水着に付かないように気をつけないと、付いたら大変なことになっちゃうからね」

「大変な事って……どうなるんですの?」

 まあ、料理する時にはあまりないだろうが、イカ釣りをする時にはスミを吐かれて大変なことになることが多々あるので、一応注意しておくと今度は婚后さんが聞いてきた。

「まあ、簡単に言えば色が取れない。学園都市の技術なら取ることも出来るかも知れないけど、普通に洗濯したぐらいじゃ絶対に取れないからね」

「あら、それは確かに大変なことになりますわね。ですが、体に付いたらどうなるんですの?」

 もしかしたら、吐いた時のイカスミと袋から直接取り出した時のイカスミでは服に付いた時の落ちにくさが違うのかも知れないが、俺の知識の中にある吐かれたイカスミの話をすると、婚后さんは更に別のことを聞いてきた。

「あー、それなら普通に落ちるはずだよ。絶対に取れないとしても、皮膚はターンオーバーがあるから間違いなく落ちるし……あ、そうだ!」

「どうしたんですの?」

 説明している最中にふと思い出して声を上げると、婚后さんは怪訝な表情で聞いてきた。

「そう言えば婚后さん、前に眉毛描かれた時って消せるまでどのくらい掛かったの?」

「なぁっ!! な、ななっ……何を言っているのか分かりかねますわっ!」

 俺が常盤台の眉毛事件のことを尋ねると、婚后さんは面白いぐらいに狼狽えていた。

「まあ、どんなに最悪な状況でもそのぐらいの期間では落ちるよ」

「あっ、ああっ……あなっあな……貴女! どっどどどどうど……どうしてそれを知ってるんですの!?」

 俺は笑いをこらえながら先程のイカスミの答えを説明すると、かなり呂律が回らない状態で婚后さんが聞いてくる。その時に何か視線が気になったのでそちらを見てみると、初春さんがジト目で俺のことを見ていた。婚后さんの作業を滞らせている事に対する非難の目なのか、それとも俺が婚后さんをからかっていることに対する非難の目なのかは分からない。

「だってあの事件、解決したのウチらだし」

「ええっ! 本当ですのっ!?」

 ちょっと初春さんの目が怖かったので素早く婚后さんに答えると、婚后さんはかなり驚いている様子だ。

「うん。ウチと初春さんと佐天さんが御坂さんと白井さんに学舎の園を案内して貰ってた時だったんだけど、雨上がりの道で転んじゃってびしょ濡れになったから皆常盤台の制服着てたんだよね。そしたら佐天さんが事件に巻き込まれちゃって、それで皆で一致団結して一気解決したってところかな」

 俺と初春さんと佐天さんは学舎の園に普通は入れないので、婚后さんの驚きはもしかしたらその方面なのかも知れないと思い、俺達が学舎の園に入っていた経緯から説明する。一応、『一致団結』と『一気解決』を掛けてみたのだが、それには全く気づかれなかったようだ。

「そうなんでしたのね。そうしますと、私の事は何処で?」

 恐らく最初に聞いてきた疑問だと思うが、婚后さんも冷静になってきたようで普通に尋ねられた。

「あー、なんか、犯人は見えないけど防犯カメラには映ってるって説明を受けた時に、婚后さんが取り調べ受けてる映像を見せられて……それで、その扇子がどこかで見たことあるようなって思ってたから思い出したって所かな。まー、犯行に使われた物かどうかは分からないけど、ウチが買ったマジックペンの中に皮膚に付いたらターンオーバーするまで消えないよって言う注意書きがあったから、丁度その説明をしようとした瞬間に状況が繋がって思い出す切っ掛けになったんだけどね」

「な……なるほど……」

 俺の答えに婚后さんは納得したようなしてないような微妙な表情で応えて、その後は普通に初春さんから頼まれていた仕事をこなしていた。

 俺が思ったよりも婚后さんの包丁さばきは悪くなく、多少初心者にありがちなぎこちなさはある物の、見ていてハラハラするほどの危なっかしい事はしていない。恐らく家庭で料理する機会などはほぼ無かったのだろうが、それでも学校で家庭科などの授業を受けてそこそこは出来るようになっていたのだと思う。アニメでは何か色々と面白いことをやっていたはずなのだが、初春さんから切り方や切る時の注意点などを教えて貰っているので、教わればちゃんと出来るタイプなのだろう。

「初春さん、イカの胴体は輪っか状で良いよね?」

「そうですね」

「ホタテの貝柱は2つか4つに切る?」

「何個ありますか?」

「6つだね」

「微妙ですねー。じゃー、4つくらいに切っておきますか」

「了解」

 初春さんと相談しながら魚介類も切りそろえていく。一応、初春さんは既にタマネギを炒めている所で、婚后さんが野菜各種を切り終わったら丁度良いタイミングになるだろう。

 その後、初春さんに教えられながら婚后さんが野菜類を炒め、水を足してある程度煮込んでからアクを取っている。

「もう少ししたらルーを溶いてしばらく煮込めば完成ですね」

 婚后さんの様子を確認しながら初春さんが固形のルーを割っている。

「こうやってカレーは出来るんですのね」

「はい、このまま火に掛けてしばらく待てば完成です」

 婚后さんが少し感慨深げに呟くと初春さんがルーを溶きながら応えていた。見てみると佐天さんの方もルーを溶き始めた所みたいである。

『完成ー!』

 俺達のチームと佐天さん達のチームが同時にカレーを完成させる。佐天さん達はビーフカレーでこっちは海鮮カレーなので、皿に盛りつける時はご飯を真ん中にして左右に二種類のカレーを掛けることになった。なお、量は少ないが、初春さんのカレーから俺が作ったイカスミカレーも用意してある。

「ご飯の方は出来たわよー」

 丁度良いタイミングで固法さんがやって来た。外を見てみると御坂さんが倒れていて白井さんが介抱しているので、アニメと同じように御坂さんの電磁調理(IH)でご飯を炊いたのだろう。

「こっちも出来てますよー」

 佐天さんが固法さんに応えると、後は皆でお皿やスプーンを準備し、ご飯とカレーを盛りつけ、コップとお水なども持ってきてテーブルに並べる。ようやく御坂さんも復帰し、全員が席に着いた所で手を合わせた。

『いただきます』

 皆が一斉にカレーを食べ始める。俺もまずは自分達の作った海鮮カレーから手をつけてみたのだが、海鮮から出ただしが効いてなかなか美味しく出来上がっていた。元々が鶏肉ミンチを使うレシピだったので、合わないかも知れないという懸念はあったものの、元々海鮮にも合うようなレシピだったのか初春さんが上手く調整してくれたのか、海鮮とカレーがしっかりと合っていたのである。当然、そこから作ったイカスミカレーも美味しかった。

「美味しいね」

「そうですね。上手く合いましたねー」

 俺が言うと初春さんが応えてくれた。どうやら海鮮に合わせてレシピを変えたわけではないようである。

「これを、私達が作ったんですのね」

「うん、そうだよ」

「ね、皆で作って食べると美味しいでしょ?」

 婚后さんが感慨深げに呟くのを聞いて俺が応えると、正面に座っていて俺達の様子を見ていた御坂さんが聞いてくる。

「貴女、良い人ですわね。お名前は?」

『え?』

 婚后さんが御坂さんに名前を尋ねたとたん、周囲の空気が瞬間的に固まった。常盤台のレベル5を知らないとは誰も思わなかったようである。

「み……御坂……美琴だけど……」

 少し呆気にとられた表情で御坂さんが答える。御坂さん本人も自分のことが知られてないとは思ってなかったらしい。

「御坂……どこかで……、まあ良いですわ。これを機にお友達になって差し上げてもよろしくてよ。御坂さん」

「あ……ありがとう……」

 御坂さんの名前に少し引っかかる部分があったようなのだが、御坂さんに対しても上から目線な言葉を掛ける婚后さんに周りの皆が引いている。御坂さんの方は御坂さんの方で、そんな婚后さんに圧倒されつつ何とか応えていた。

「婚后さん、婚后さん」

 もう少し何とかしておきたいので、俺は婚后さんに声を掛ける。

「あら、何ですの? 貴女もお友達になりたいというならなって差し上げますわよ」

「いやいや、友達って言うのは、なって『あげる』ものでもなって『もらう』ものでもないからね。友達っていうのはなって『る』ものだから」

 婚后さんの高飛車な態度はもの凄く似合っているのだが、このままだと余りよろしくないと思うので少しだけ言っておく。まあ、名前を呼び合ったら友達とか言ってる魔砲少女も居るらしいが、別にそんな厳密な線引きをする必要も無いのだ。

「ということは、貴女はもう私と友達だと思っていらっしゃいますの?」

「うん。ウチだけじゃなくてここの皆もそう思ってるはずだよ。……あ、白井さんは除いて、だけど」

 聞いてくる婚后さんに答えるが、俺が周囲を見渡した時に皆が頷く中で白井さんだけが視線を逸らしたので、その点だけ付け足しておいた。

「そう……ですのね」

『お待たせしました。システムが復旧したので、撮影を再開しますね』

 婚后さんが少し嬉しそうな表情を見せた時、担当さんからのアナウンスが入った。

「えっ、もう?」

『あ、そのままで大丈夫です。取り敢えず、一枚行きますね』

 驚く御坂さんに担当さんが答える。皆でカレーを持って撮影した後、キャンプ場で普通に遊んでいる状況から撮影を再開した。水着のままキャンプ場で遊ぶというのは変な気がしなくも無いのだが、水着宣伝用の写真なら少々状況が不自然でも構わないのかもしれない。





 その後の撮影は滞りなく終わって、着替えも終わった俺達は会社の玄関前に集まっていた。

「あー、美味しかったー。こういうモデルなら大歓迎だなー」

「楽しかったですねー」

「喜んでいただけて良かったです」

 佐天さんと初春さんが感想を言うと、湾内さんはホッとしたような表情で応えてくれた。元々自分達が受けていた仕事を御坂さん達にもお手伝いをお願いして、その御坂さん達が更に連れてきてくれた友人と言うことで、かなり気を遣っていたのだろう。

「たまには庶民の味も悪くはありませんね」

「お代わりしてらしたクセに」

「うっ」

 婚后さんと白井さんは仲が悪そうに見えて意外と仲が良いのかも知れない。その間に初春さんはエカテリーナちゃんとふれあっている。そう言えばエカテリーナちゃんって撮影の時は見なかったけど何処に居たのだろうか。

「あら、御坂さんは?」

 御坂さんが居ないことに気づいた固法さんが周りに尋ねる。

「お姉……様……?」

 白井さんが御坂さんのことを呼びながら周囲を見渡す。皆も周りを見渡すが、御坂さんの姿は何処にも無かった。というかアニメで見た通りに、一度俺にも勧めてきた可愛い水着を着て撮影スタジオで遊んでいるはずである。何故知っているかと言えば、撮影が終わって皆が着替えをしている最中に、担当さんに俺が着用した水着の買い取りについて相談しようとしたら、先に御坂さんが担当さんと話をしていたからである。俺自身、御坂さんには見つからないようにしながら聞き耳を立てていたので、話の細かい部分までは分からなかったが、他にも良い水着があったのでそれを着て撮影スタジオで遊ばせて欲しいといった感じの話だった。なお、俺の水着は佐天さんに買わせたわけでは無く、自分自身で買い取ったものである。ついでに値段に関しても言えば、思った通りに結構な金額だった、と言っておこう。

「お姉様ーっ、どこにいらっしゃるんですのー」

 一言叫んで白井さんがテレポートで居なくなる。一応、俺が皆に説明でもしようかと思っていたのだが、まあ白井さんなら別に言わなくても良いか。

「御坂さんなら、別の水着着て撮影スタジオで追加撮影してるよ」

「え、そうなんですか?」

 俺が一言説明すると初春さんが聞き返してきた。まあ、御坂さんは俺も含めて誰にも知られないように行動していたみたいだし、俺が知ったのも偶然だったのだから他の皆が知らないのも無理は無い。

「うん。ウチが水着の買い取りの相談に行ったら、先に御坂さんが担当さんと相談してたから」

「げっ、その水着の買い取りって……まさか……」

 一つ頷いて御坂さんのことを知った経緯を説明すると、今度は佐天さんが声を上げた。まあ、事前に俺が着用したやつを買い取りさせると脅していたので、そこは仕方がないのかもしれない。

「あー、これはウチが自分で買ったよ。佐天さんに押しつけられたやつだったら佐天さんに払って貰ってたけどね」

「た……助かったぁー」

 自分で買い取った水着を見せながら佐天さんに説明すると、佐天さんはホッと胸をなで下ろす。さすがにあの金額だと、佐天さんなら数ヶ月間は超々質素な生活を強いられるかもしれない。

「でも、御坂様はまだ撮影されてるんですね」

「私達も戻った方が良いのでしょうか」

「うーん。まー、御坂さんが本当に着たかった水着を着るためだから別に良いんじゃないかなぁ」

 御坂さんがまだ撮影を続けているという部分で、泡浮さんと湾内さんは自分達が誘ったということもあってかなり責任を感じているようなので、俺は二人を安心させるように答える。

「本当に着たかった?」

 今度は固法さんが俺の言葉で引っかかった部分を聞いてくる。

「固法さんが子供っぽいって言ったから着るに着れなくなってたやつですよ」

「え? えぇっ!?」

 一応固法さんにも御坂さんの可愛い物好きを知って貰って、今後はちゃんと空気を読んで貰おうという意味も込めて、ちょっと意地悪っぽく答えてみたら固法さんは大いに驚いていた。

「まー、そんなわけで御坂さんは誰にも見られずに可愛い水着を堪能してるから、心配しなくても大丈夫だよ」

「あら、それは少し見たかったですわねぇ」

 固法さんに罪悪感を持たせても悪いので少しフォローをすると、婚后さんが残念そうに言った。まあ、婚后さんは今の時点でも御坂さんが常盤台のレベル5ということに気づいていないっぽいのだが、他の皆もあの常盤台のレベル5・超電磁砲(レールガン)御坂さんの可愛い水着姿を見ることが出来ないのは残念だと思っているに違いない。

「まー、単独だけど撮影はするみたいだし、担当さんに頼めば多分見せて貰えるんじゃないかな」

 もしかしたら御坂さんが他の人には見せないように頼んでいるかも知れないので断言はできないが、皆にはこれで納得して貰うしか無い。まあ、御坂さんが駄目だと言ってるから見せることが出来ないと担当さんに言われたら、やっぱりそれで納得するしか無いのだから良いだろう。

「そうですわね。それでは私達は帰りましょうか」

「ええ、そうね。しかし、御坂さんには悪いことしちゃったわね」

 俺の言葉で納得はしてくれたようで、泡浮さんがこの場での解散を提案すると固法さんが頷きつつ御坂さんのことを反省する。

「仕方ないですよ。固法先輩には悪気は無かったんですし」

「それに、誰にも見られない状況で目一杯楽しんでるみたいですから、それで良いじゃないですか」

「それもそうね。ところで、白井さんは?」

 固法さんには初春さんと佐天さんが上手くフォローして何とか持ち直させた所で、その固法さんはもう一人のこの場から居なくなった人物を思い出したようだ。

「まー、スタジオまで見に行って撮影中の御坂さんを見つけ出して思わず抱きついて電撃を浴びせられるとか、見つけられずに夜遅く寮に戻ったら既に御坂さんが就寝していて、思わず抱きついたら電撃を浴びせられるとか、そんな所じゃないですかねー」

 確かに電撃を浴びている所は容易に想像できるが、何気に酷い初春さんである。

「めっちゃありそう……」

 俺と同じで容易に思い浮かんだのであろう、思わず呟く佐天さん。周囲では婚后さんも含めて全員が苦笑いだった。
 
 

 
後書き

お読みいただいた皆様、ありがとうございます。
ようやく水着回が終わりました。
何故かこんなに長くなってしまって自分でもびっくりです。
 
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