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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第四十九話  安くったって良いじゃない、水着回なんだから

「後はシチュエーションに合わせて適当に遊んでいただくだけで勝手に撮影しますので、ご自由にどうぞ」

 そう言って担当さんは部屋から出て行く。担当さんが出て行った扉が閉まると、完全に風景と同化してしまったので扉があることが全く分からない。ってか、この状態では下手すると、走ってていきなり壁に当たるとかそういう事があるかもしれない。

「あれは、自然体っていうのかしらね……」

「いや、わざわざポーズ決めてるし、自然体じゃ無いでしょ」

 ビーチパラソルの下で寝そべりながらポーズを取りまくっている婚后さんを見て、御坂さんが呟いたのを聞いて俺が答える。カメラマンこそ居ないが、完全にカメラマンが居る前提でポーズを取っているようにしか見えないのだ。

「さあ、お姉様。(わたくし)達も負けては居られませんの。サンオイルの塗りあいっこをしましょう」

「なっ、アンタはまたそれかっ!」

 急に後ろから白井さんが現れると、御坂さんと追いかけっこを始めてしまった。まあ、写真なら音声が入るわけでもないし、楽しく追いかけっこをしているように見えなくも……無いとは言えないか……。

「あれはあれで見事なまでに自然体ね」

「こんなに早く自然体になれるなんて、さすが御坂さんです」

 御坂さん達を眺めながら固法さんが呟くと、湾内さんが感心したように褒めるが何だか微妙にずれている気がする。

「まー、自然体って言えば確かに自然体だけど、あれってメーカーが求めてる自然体とは違うよね」

「私達も負けずに自然体で行きましょう」

「そうですね」

 俺は疑問を呈するが、佐天さんと初春さんは全く気にすること無く遊び始め、他の人たちもそれぞれ動き始めてしまった。

「それじゃー、ウチは泳ぎますか」

 どうやら皆浜辺で遊ぶようで、泳ぐ人が居なさそうだったので俺は泳ぐことにして、その為の小道具を探した。一応、シュノーケルとか浮き輪などが用意してあり、浮き輪には既に空気も入れてあったので一つ取って海へと掛けだした。

「折角だし目一杯楽しまないとねー。冷たっ!」

 浮き輪を投げてそのまま海に飛び込もうかと思ったが、足だけ水につかった時点で結構な冷たさに思わず浮き輪を回収して浜に上がる。

「こんな再現度だとは思わなかった……」

 思わず呟いて準備運動を始める。海を再現しているとは言え、プールぐらいの温度しか想定していなかったので、本当の海みたいな冷たさには驚いた。

 少々念入りに準備運動をした後、浮き輪は置いたままで海に入り体を海の冷たさに慣らす。浮き輪に体を通して泳ぎ始めると水が冷たくて気持ちよかった。

「まるでプライベートビーチだね」

 今の時期、普通にこれだけの浜辺があれば絶対海水浴客でごった返しているはずで、この人数の貸し切り状態で遊ぶことは難しいだろう……いや、御坂さんとかなら貸し切りに出来そうな気がしなくも無いが……。

 砂浜の方を見てみると、白井さんと追いかけっこをしている御坂さん達はそのままに、常盤台水泳部の人はビーチバレーをしていて、固法さんはハンモックでくつろいでいて、初春さんと佐天さんは砂のお城を作って遊んでいる。ってか、砂のお城は何故か日本の城でしかも完成度が凄かったりするのにはちょっと驚いた。だが、初春さんが人柱として埋められていて天守閣の上から顔を出しているので、何だかお城モチーフの合体ロボに見えなくも無いという微妙に勿体ない状態である。

 恐らくそこそこ撮影されたであろうぐらいには泳いで、さすがに体が冷えてきたので浜辺に上がり、浮き輪を元の位置に戻すと近くに並べてあるトロピカルドリンクを一つ取る。

「これ、飲んでも大丈夫ですか?」

 適当にドリンクを持ち上げつつ適当に虚空に話しかける。端から見れば「何やってんだコイツ?」的な行動だが、俺の予想が間違ってなければこれで良いはずである。

『はい、飲み物や食べ物は全て本物を用意していますので、ご自由にお取り下さい』

「ありがとうございます。では、いただきます」

 思った通りに答えが返ってきたので、俺はストローに口をつける。思ったほど炭酸は強くなくて飲みやすかった。中に入っていたメロンやサクランボを食べ終わると、他のトロピカルドリンクを二つお盆に乗せて佐天さんと初春さんの所へ持って行く。

「飲む?」

「あ、神代さん。ありがとうございます」

「ちょっと、佐天さんだけずるいですよー」

 佐天さんはすぐに俺からドリンクを受け取るが、初春さんは砂の城に埋められた状態なので全く手が出せない。仕方が無いのでストローを初春さんの口元まで持って行く。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 初春さんはストローで飲み始め、あっという間に飲み干してしまった。

「ぷはーっ、おいしいですねー」

「初春早っ!」

 飲み終わって感想を言う初春さんに佐天さんがツッコむ。佐天さんの方は少しだけ飲んだ状態で、グラスに刺してあったパイナップルをかじっていた。

 一応初春さんの分はまだ果物が残っているので、砂を水平に(なら)してお盆を置くと、そこに初春さんのグラスを置いておく。

「じゃ、ウチは他にも差し入れしてくるね」

「いってらっしゃーい」

「ううっ、出来れば助けて欲しかったですぅ」

 俺がその場を離れようとすると初春さんが涙ながらに助けを求めてきたので、佐天さんに一言言っておくことにする。

「あー、佐天さん。その状態じゃあ初春さんの水着が見えないから、ちゃんと水着が見えるようにしないと駄目だよ」

 基本的には水着のモデルをやっているわけで、水着が見えないと撮影しても意味がないと思ったのだ。まあ、それで初春さんが助かるかどうかは俺の関与する所では無い。

「ドリンクがあったから持ってきたけど、休憩にする?」

 新しいお盆にまた二つのトロピカルドリンクを乗せると、今度はビーチバレーをしている常盤台水泳部の二人に差し入れる。

「あ、ありがとうございます。頂きますわ」

「おいしそうですわね。ありがとうございます」

 二人がビーチバレーをやめてドリンクを取りに来る。ちょうど近くの木陰に折りたたみ式のテーブルと椅子が置いてあるので、そこで少し休憩するようだ。

「常盤台の水泳部って聞いてたからもっと海で泳ぐのかと思ったけど、そうでも無いんだね」

「そうですわねぇ。確かに泳ぐのは好きですし、泳いでも良いのですが……」

(わたくし)達は海で泳いだことが無いので、あの波の中で泳ぐのはちょっと……」

 俺が疑問に思っていたことを口にすると、湾内さんと泡浮さんがそれぞれ答えてくれた。二人がいつ頃から学園都市に居るのかは分からないが、学園都市に来てからだと確かに本物の海で泳ぐ機会は少ないだろう。けれども俺は言いたい、本物の海でこれだけ波が穏やかな日は滅多に無いと。まあ、瀬戸内海ならこれぐらいが普通だったような気もするけど……。

「それに、海水の塩分は余り水着にはよろしくありませんし……」

 湾内さんは水着のダメージにも気を遣っているようだが、自分の水着というならともかく、これはメーカーの用意した水着でこの場もメーカーの用意したシチュエーションなので、この海なら入っても全然問題ないと思う。というか、この海に入って水着に問題が出るようなら、それはメーカー側の失敗であって俺達側には非が無いはずである。

「あー、そうだったんだ。御坂さんもワンピースタイプ選んでるけど、特に泡浮さんのは本格的な競泳用水着だったから本気で泳ぐつもりなのかと思ってたんだけどね」

「いつも着ているのに近いので、私はやっぱりこういう方がしっくりくると言いますか、どうしてもビキニとかのセパレートタイプには抵抗がありまして……」

 湾内さんはビーチで遊ぶのが似合いそうなビキニの水着なのだが、泡浮さんの選んだ水着は恐らく競技用の競泳水着なのである。それに対して同じワンピースタイプでも御坂さんの水着はどっちかと言えばフィットネス用途っぽく見える水着だ。

「ところで、神代さんは白井さんや御坂様とどのような関係が?」

「元々は初春さんが白井さんとジャッジメントで一緒って所から始まってるんだけど、初春さんが御坂さんの大ファンで、白井さんを通じて紹介して貰って一緒に遊んでた所にウチが出くわしたって所ね。まー、その時に銀行強盗事件が起きて御坂さんと一緒に解決したから、そこから友達になったって感じかなぁ」

「あら、そうだったんですわね」

 今度は湾内さんからの疑問に俺が答える。御坂さんと友達になった最大の要因、ゲコ太ストラップのことは別に言わなくても良いだろう。

「逆に聞きたいんだけど、なんで白井さんと仲良くなったの?」

「あー……入学した当初は白井さんもあそこまでではなかったと言いましょうか、結構普通ではあったのですが……」

 知り合った切っ掛けというか友達になった切っ掛けと言えば、こっちも気になる所があったので聞いてみると、何というか言いにくそうに答えてくれた。まあ、それだけで何となく分かった気がする。

「なるほど……そっか。御坂さんが絡まなければ取り敢えず普通に見えるもんねぇ」

『そうなんですよねぇ……』

 俺が思ったことを言ってみると、二人が同時に同意してくれた。

 泡浮さんや湾内さんと話していると、急に景色が切り替わる。どうやら撮影シチュエーション変更のようである。

「あら、今度はプールサイドですわね」

「じゃー、泳いでみる?」

「いいですわね」

「はい」

 泡浮さんが周囲を確認して呟いたので、俺が提案してみると二人とも同意してくれた。

(わたくし)達もやりますわよ、お姉様」

「変なことしないでしょうね?」

 俺と泡浮さんと湾内さんが準備運動を始めると、それまで追いかけっこをしていた御坂さんと白井さんが準備運動に加わる。俺が海に入る時にやった準備運動よりも運動自体が本格的で、二人一組でやる運動もあってさすが水泳部といった感じである。

「お、普通にプールの水の温度だ」

 まあ、当たり前と言えば当たり前なのだが、プールの水の温度は海の水ほど低く無く、入って遊ぶには申し分の無い温度である。

「さあお姉様。競争ですわよ」

 そう言ってプールに飛び込む白井さん。しかし、あの水着で良く飛び込んだな。

「待ちなさい、黒子っ」

 そう言って御坂さんも飛び込む。こっちは特に心配など必要ないだろう。

「じゃ、ウチらも泳ぎますか」

「そうですわね」

「いきましょう」

 俺が促すと湾内さんと泡浮さんも一緒にプールへと入る。佐天さんや初春さんは固法さんと一緒に俺が持って行ったのとは別のトロピカルドリンクを楽しんでいるようだ。その向こうには一生懸命ポーズを取っている婚后さんが居た。

「うわー、凄い綺麗な泳ぎ方だねー」

 泡浮さんの泳ぎ方を見て思わず感嘆の声を上げる。

「あ……ありがとうございます」

「神代さーん、私達も一緒に良いですか?」

 泡浮さんにお礼を言われるとほぼ同時に佐天さんから声を掛けられた。

「うん、良いよー。良いよね?」

「はい、勿論です」

 俺は佐天さんに答えるが、ふと気になったので湾内さんに聞いてみると快く了解を得られた。

「佐天さん、初春さん、プールに入る前にちゃんと準備運動しようね」

「あ……わ、分かってますよ。ちゃんとやれば良いんでしょ」

「佐天さんってば……」

 俺が注意すると、勢いよくプールに飛び込もうとしていた佐天さんが急停止して準備運動を始める。それを見た初春さんはやれやれといった表情で準備運動を一緒にしていた。





「常盤台のプールって冬でも泳げるんですねー」

「ええ、でなければ冬場に部活動が出来ませんし」

「そうなんですねー」

 佐天さんが湾内さんとおしゃべりをしている。そこで何となく既視感を感じてしばらく考えているとようやく思い出した。

「あっ! 常盤台の眉毛事件だ!」

「え? どうしたんですか? 神代さん」

 俺が思わず声を上げてしまうと、佐天さんが聞き返してくる。

「いやー、今の状況が何となく引っかかってて、ずっと考えてたんだけどね。犯人が誰かを狙ってる状況で佐天さんが声を掛けたじゃない。その時に狙われてたのが多分湾内さんだ」

「え、そうなの?」

 俺が答えると佐天さんは湾内さんに尋ねる。

「え……っと、そう言われましても私には何が何だか分からないのですが……」

「まー、そうだよね。狙われただけで襲われたわけじゃ無いからその時は気づいてもいなかったはずだし」

 困惑した状態で湾内さんは答えるが、事前に防いでいるので湾内さんが知っているはずも無いのである。そんな話をしていると、今度は初春さんの方が何か思い出して口を開く。

「そう言えば、あの時事情聴取されてたのって婚后さんだったような……」

「うん、そうだね。あの扇子で眉毛隠してたし確かに婚后さんだったよね」

 事情聴取の映像で婚后さんの証言を見ていたので、何となく印象には残っていたのだろう。確か佐天さんはその時気絶していたままだったはずなので映像は見てないと思う。

「どういうことなのでしょう?」

 未だに困惑中の湾内さんを尻目に柵川組だけで勝手に盛り上がっていたので、泡浮さんから尋ねられる。

 湾内さんが落ち着いてから、プールサイドに座って重福さんの起こした眉毛事件を話す。初春さん自身には守秘義務のような物があるのかも知れないが、俺と佐天さんと御坂さんは部外者なので大丈夫だろう。そもそも、事件の内容をしゃべってはならないという書類にサインをしたことも無いのだから、大丈夫のはずである。とは言え、流石に重福さんの名前や捜査関連の細かいことなどは話さない。

「神代さん、そんな所まで言わなくても良いじゃないですか」

 最後に初春さんがパスティッチェリア・マニカーニのケーキを七つ、御坂さんのケーキまで含めて食べてしまった所まで話して事件の説明を終了する。初春さんからは抗議の声が上がるがそれには佐天さんが応える。

「チッチッチッ。食べ物の恨みは恐ろしいのだよ、初春君」

 佐天さんの独特な口調は誰のマネなのかも全く分からないが、あの事件の後でパスティッチェリア・マニカーニに行くと既に閉まっていたので、俺と佐天さんはまだあのケーキを食べていないのである。

 話が一段落付いた所を担当者が見ていたのだろうか、またも場面は切り替わり今度はクルーザーに乗っている状態である。しかし、普通水着でクルーザーに乗るかなぁ……。

 クルーザーの中を見てみると思ったより大きな部屋があり、装備もなかなか豪華そうである。一段高い所に設置されている操舵室も確りとした装飾がなされていた。

「って、これは動かすぐらいなら出来るかもしれないけど……」

 操舵関係はハンドル一つとレバーが一本が付いているだけで、後は何を示しているのかすら分からないメーター類、後は魚探のような画面もいくつかあるがこっちも何を示しているのか不明な物ばかりだ。

 舵はそのままハンドルで良いとして、出力調整はこのレバーなんだろうけどこのレバー一本でどこまで出来るのだろうか。現時点でレバー位置は中央よりもやや下の辺り、船の速度はゆっくり前進といった所なので、一番下が出力停止とするなら後退はどうするのかとか疑問は尽きない。まあ、目の前というか窓のすぐ外側でポーズを取っている婚后さんが非常に邪魔だし、変に動かして誰かを振り落としてしまうわけにもいかないので、そのまま船の上に出る。

「まー、やっぱり本物の船って訳じゃ無いよね」

 俺自身は船舶系の免許を持ってないわけだが、元の世界で友達が小型船舶一級の試験を受ける時に色々付き合わされたので、多少のことは知っているつもりだ。記憶は薄れてきているので左右どっちがどっちだったか分からないのだが、少なくとも緑と赤の灯火が船の向きを知らせるために必要だったはずである。夜間はこれによって船の進行方向を知ることが出来るというわけだ。それがこの船には付いていないということは、本物をデータ化したのでは無く、恐らく適当に雰囲気でクルーザーの形を作っただけなのだろう。

 クルーザーの一番高い所から周囲を見渡しても島影一つ見えないので、『小型船舶一級だと確か陸からの距離に制限があったからこんな所までこれないよな』とか思いながらのんびりしていると、またもや急にシチュエーションが切り替わる。

「はあぁっ!?」

「な……何ここ!?」

「急に寒くなりましたけど……」

 アニメで知っていたとは言え、この展開はやっぱり驚く。どう見ても吹雪の雪山なのだから仕方が無い。

「景色が変わると、それに併せて気温も変わるみたいですね」

「って、そこまでやる必要ある!?」

 初春さんの推測に御坂さんがツッコむが、そもそも気温まで変化させなかったとしても、猛吹雪の雪山で水着の撮影をする意味が分からない。

「こんな所で自然体って言われても……」

「いや、この寒さなんだから水着でガタガタ震えてるのは自然だと思うよ。ってか、あれはあれで明らかに不自然でしょ」

 湾内さんの弱音に俺が応えて婚后さんの方を指さす。寒い所で震えるのは当たり前なんだから仕方ない。ってか、本当に寒い! そして、俺が指さした婚后さんの方はと言うと……。

「おほほほほほ……(わたくし)はモデル、何時いかなるオーダーもきっちりこなしてみせますわ……ふぁっ、ふぁっくしょん!!」

 雪の上に寝そべってポーズを取っていた。見ているだけでも寒そうなのでやめて欲しい所だ。

「無理するからですわ……は?」

 白井さんが悪態をついた所でまたも景色が切り替わる。いいかげん急に切り替えるのはやめて貰いたい。しかも、この度のシチュエーションは灼熱の砂漠である。

「え? あっつーっ!!」

「って、これは熱すぎっ!」

 そのまま砂の上で寝そべった状態になっていた婚后さんが飛び上がり、御坂さんがこの温度にツッコミを入れる。

「焼けますね……」

「何でこんな極端な……」

「こんな状況の写真って何に使うの……」

 暑さにダレながら柵川中学の三人で愚痴を言う。

「水、水っ!!」

 暑さに飛び跳ねてた婚后さんが叫んだ所で、またもや場面が切り替わる。

『うわーっ!』

 今度は大荒れの海に漁船っぽい船というシチュエーションである。何故か雨まで降っているので嵐の中の漁船と言った所だろうか。どう考えても水着で居るようなシチュエーションでは無いと思う。ただ、船の形は漁船っぽいのだが、船の甲板には何も置いてないので何とも言いがたい。本当に漁船だったら生け簀の蓋だったり、網を引き上げるための機械だったり、網そのものだったりが甲板の上に有るはずである。

「って、水多すぎっ!」

「だから何でこんな極端なっ!」

 御坂さんはツッコみ所が変わっただけで、砂漠の時と同じようにツッコんでるし、佐天さんも砂漠の時と同じ事を言っている。

「何でしょう、この装飾過剰な船は」

 湾内さんが言うのでもう一度確認しておくが、本物の漁船なら甲板はこんなにすっきりしていないはずである。

「うぉーっ、どっせーい!」

 船首付近に居た婚后さんが何故か大物を釣り上げる。アニメで見てたので知っては居るが、婚后さんは何故釣りをしようと思ったのだろうか。まあ、漁船っぽい船なので水着で居ることを除けばある意味自然体と言えなくもないのだろう。

「どうです? 見事な鰹!」

「残念! それは縞鰹(スマガツオ)ですね」

 婚后さんが獲物を自慢した所で、初春さんがツッコミを入れる。

「えぇ!?」

「いや、ツッコむ所そこじゃ無いだろ」

 驚いている婚后さんをよそ目に、佐天さんは初春さんにツッコミを入れている。

「西日本では(ヤイト)とも呼ばれる高級魚なんですよ」

 初春さんはそのまま説明を続けるが、よく知ってるねと感心してしまう。

「あらよっと!」

「太刀魚です。名前の由来は太刀に似ているからとも、縦になって泳いでるんで立ち(うお)から来てるとも言われてます」

 婚后さんがまた釣り上げた魚を初春さんが解説する。太刀魚に関しては俺も知っていたので恐らく初春さんの解説は間違ってないのだろう。

「とぉーりゃーっ!」

「鯛ですね。めでたい、なんちって」

 またもや婚后さんが釣り上げた魚を初春さんが解説する……のかと思ったら、思い切りだじゃれに走っていた。

「ほいさっ!」

「マンボウです。ウーッ、マンボッ!」

 更に婚后さんが釣り上げると初春さんのだじゃれが入る。ってか、これ深海魚だよね!?

「らっせーらっ!」

白長須鯨(シロナガスクジラ)です。魚ではありません、ほ乳類です。そして世界最大の動物ですね」

 次に婚后さんが釣り上げた魚……ではなかった、鯨に初春さんが解説する。今回はまともな解説だけど……。

「ってか、どうやって釣り上げたの……」

 御坂さんが力無いツッコミを入れる。確かにそのツッコミも間違ってないし俺もそう思うけど、それ以前にこのサイズの船に乗っけて沈んでない方がおかしいと思う。

「うぉーっしゃー!」

「ジンベエザメですね。こちらはちゃんと魚類で、魚類の中では最大になります」

「だから、どうやって釣り上げたの……」

 また婚后さんが釣り上げて初春さんが解説し、御坂さんが同じツッコミを入れる。ってか、アニメの時ってこんな展開だったっけ?

「おぉーっほっほっほっほっ!」

「デンキウナギですね。名前にウナギと付いていますがウナギとは別物です。御坂さんの親戚筋に当たります」

「当たらないわよ!!」

「うぎゃーっ!!」

 何だか釣り上げる時のかけ声がおかしいけど、また婚后さんが釣った魚を初春さんが解説し、発電能力に引っかけたのか御坂さんとつなげて解説し、何故か婚后さんが電撃を喰らっていた。ってか、あれは御坂さんの電撃ではなく、デンキウナギの電気みたいだ。なお、デンキウナギはデンキウナギ目デンキウナギ科であり、普通に日本人が食べる方のウナギはウナギ目ウナギ科である。

「そうなんですか……って……あ、止みましたよ」

 初春さんが御坂さんのツッコミを軽く受け流していると、またもやシチュエーションが切り替わった。

「わぁ、綺麗な星空。ねえ、見て。あそこに地……球……が……ぁ…………って、月面かいっ!!」

 さすが御坂さん、見事なノリツッコミである。

「でも、綺麗ですね」

「そうですね」

「ってか、今までみたいに環境に合わせた設定されてたら、呼吸できなくて死んでるよね」

 湾内さんや泡浮さんが感動している中、俺だけは別のことを考えてしまった。もし、ここの環境が月面と同じに設定されたとしたらほぼ真空状態になるわけで、呼吸云々以前に、肺や腸内の空気を体で押さえつける事が出来なければ体ごと破裂しててもおかしくないし、日の当たる月面は確か二百度以上の温度になっていたはずなので、どうあっても即死は免れないと思ったのである。まあ、そんな環境を完全再現しよう物なら間違いなく死人が出てるわけで、流石にそこまでするのは却下されたのだろう。っていうか、それならあの雪山とか灼熱の砂漠の再現ももうちょっと何とかして欲しかったものである。

「ちょっと、皆さん。あれをご覧になって!」

『なぁっ!!』

 婚后さんが叫ぶので、指さされた方を見てみると、そこには黒い壁が……というか、完全に2○○1年宇宙の旅という映画のモノリスじゃんっていう代物が鎮座していた。いや、もしかしたらシンクロ率がどうこう言ってたり使徒と戦ったりするアニメで、主人公の父親に当たる人物と会議していたサウンドオンリーな奴らなのかも知れないが、一体どんなシチュエーションを想定しているんだろう。

『すみません、ちょっと調整が必要みたいなので、景色を変えさせて貰いますね』

「今度は何ですの?」

 担当さんのアナウンスが入りようやく周囲の風景が普通に戻ると、白井さんが周囲を見回しながら呟く。今までのことがあるので、白井さんが疑心暗鬼になるのも仕方の無い所だろう。だが、白井さんの心配を余所にごく普通のキャンプ場となっていた。

「キャンプ場?」

 御坂さんが呟くと向こうから担当さんがやってきた。

「あの、ごめんなさい。環境設定システムがエラーを起こしてしまって、すぐ直ると思いますからしばらく休憩してて下さい」

 それだけ言うと担当さんは会釈をして戻っていく。

「あ、そうそう。その材料は本物ですからご自由にどうぞ」

 戻る途中、思い出したように振り向いて近くに並べてあった食材を指さして言うと、そのまま戻って行ってしまった。まあ、キャンプ場で食材が用意してあるということは、自分達で調理して食べて下さいという事なのだろうが、いくら何でも水着なのにキャンプ場で料理するっていうのは無いような気がする。少なくともキャンプ場に川とか湖とか海とかがあれば水着で居てもおかしくは無いと思うが、料理を作る時まで水着というのは普通では無いだろう。……海の家とかなら水着で調理もするのか?

「ご自由にって言われても……どうします?」

「このシチュエーションにこれだけの食材……うん、カレーしかないでしょ」

 並べられた食材を見ながら佐天さんが尋ねると、固法さんが少し考えてから答えを出す。まあ、確かにこういう状況での料理と言えばカレーが定番中の定番であるし、用意されている食材も当然カレーが想定されているであろう物が揃っているのである。
 
 

 
後書き

お読みいただいている皆様、ありがとうございます。
あれ、何故か今回も終わらなかった……
水着回だからって事で張り切りすぎたかな?

婚后さんが釣って初春さんが解説する部分はMMR(もっとまるっと超電磁砲)のネタを持ってきました。
それでもさすがに「鮪! 二夜連続」とかは今になるとほとんど分からない可能性もあると思って外しました。というか、ほぼ独自展開にしました。(分かりやすくするために鯛は入れましたが)
 
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