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東方死人録

作者:nismon
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一章 薬師とか穢れとか
  四話 可愛い子には旅をさせよと言うけれどそれよりも手元でひたすらに愛でたい。

〈前回までのあらすじ〉

襲われてる美少女を助けたZE。

 

 

大きな黒い目。透き通る白い髪。整っていて、でも幼い顔。そしてすらっとした手足。一目で悟ったよ。

 

 

 

 

なにこの子可愛い。

 

 

 

 

 

四話 可愛い子には旅をさせよと言うけれどそれよりも手元でひたすらに愛でたい。

 

 

 

 

 

 

「こんにちはお嬢さん。無事かな?」

我ながらめっちゃ格好いい!今は少女姿だからいまいち締まらないけど、生前の姿だったらもう完璧に惚れさせてたね。ええ嘘です。そんなこと無いです。

「あ…ありがとう。」

そうお礼を言ってくれる可愛い彼女。青と赤の二色の服のセンスはよくわからないがやっぱり可愛い。しかし残念なことにその目には疑いの色が見られたのだった。彼女の弓を握る手に力が篭もるのがわかる。

「なんで…助けてくれたの?」

確かにいきなり現れた奴に疑いをかけるのは当たり前だ。それにしてもさっきまで凄い怖がっていたのに回復の早いこと。この子は思ったより大物かもしれない。

「貴方…妖怪よね?」

そう言われる。まあさっき妖術使ったから言い逃れはできない。

「あなたが可愛いかったから助けたの。」

「…はい?」

というわけで正直にいこう。直情径行。

「怯える美少女を見捨てるなんて紳士にあるまじき行為だもん。それに凄く萌えたの。久々だね。大昔のケモ姉以来だよ。君は逸材なんだよ!」

さっきまでの格好良さが台無しだぁ!紳士とかいって今はもう男ですらないけどね。

「何を言ってるの…。」

彼女の目の色が呆れに変わっている。どうやら敵意は無いということをわかってくれたようだ。やはり真摯な気持ちは伝わるね。

「助けてくれてありがとう。…でももう大丈夫よ。人里が近いから妖怪は危ないわ。」

そう言って。地面に落ちた薬草を拾う彼女。心配して頂けるのはありがたい。が、

「また襲われたらどうするの?」

「…さっきは油断しただけよ。これでも弓矢が得意なの。数が少なければ遅れは取らないわ。」

「あと助けたのにお礼も無いのかなぁ?」

「…何が言いたいのよ。」

訝しげに此方を見る彼女。人里は確かに妖怪にとって危険である。しかし今回の目的は…

「人里の中に連れてって欲しいんだ。」

「…はぁ?」

せっかくなので彼女に仲介してもらおう。

「私は儚。以後よろしくね。」

「…八意永琳よ。」

溜め息と共に呆れた様子の見た目が私と同じくらいのその少女はそう名乗った。

 

 

 

 

 

 

「貴方変な妖怪ね。」

「よく言われる。」

そう言って二人で森を歩きながら会話する。

「しかし、永琳も無謀なことするね~薬草採集するために独りで森に来るとか。自殺行為じゃない?」

「もう言わないでちょーだい。今は反省してるわ。」

永琳は森で薬草を採集するのが目的だった。薬を作るのが得意らしい。若いのに大した物だこと。

「あなただってそんなに変わらないでしょ。」

「いやいや多分永琳の三倍くらいは生きてるよ。」

「…本当妖怪って理不尽ね。」

呆れて溜め息をつく永琳。いやいやこれでも若い方なんだよ?

「まあいいわ。それよりそろそろ人里に着くわよ。…本当に大丈夫なのよね?」

永琳が心配しているのは街を見回っている妖怪退治屋のことだった。曰わく妖怪が人里に入ってきたなら速攻で抹殺するらしい。

「大丈夫大丈夫。気づかれないって。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とかなったわね…」

「でしょ?」

永琳御用達の裏口から人里に入ったのだが、間の悪いことに私たちは直ぐに里を巡回する兵士に見つかった。

「永琳様、無事でしたか。…其方の方は?見たこと無い御方ですが…」

そう言って兵士は私に目を向ける。少し訝しげなのは恐らく私の容姿が珍しいからだろう。あれ、でも永琳も白髪じゃない?

「私の知り合いの娘なの。今まで余り外に出てきて無かったのよ。」

「そうでしたか。」

それではと言った兵士は見回りの仕事に戻っていったのだった。

「逆にこの里の警備が不安になるわ。」

「私が特別なだけだから大丈夫。」

そう私は例外だ。私は現在溢れる妖力を限りなくゼロに近づけている。こんなことする妖怪なんてまず居ない。メリットないし。つまり今の私は妖怪である証拠が一つもないのだ。見る人が見てもただの白髪桃紫目の少女。そりゃ刃物で切り裂かれたり火であぶられたりすれば話は別だけどそんなことを人里の中でやる酔狂な奴は居ないと思う。

「永琳様って呼ばれてたけど…もしかして永琳ってお嬢様?」

「そんなこと無いわ。」

少しうんざりとした感じに否定される。

「薬を作ったり治療したりしていたら少し敬われるようになっただけ。あんまり居心地は良くないんだけどね。」

「なるほどなるほど。」

十代そこらなのに大人達に敬われるのは少し歯がゆいのだろう。

「それにしても。随分閑散してない?これが普通?」

町並みは生前に博物館で見たジオラマみたいだった。確か奈良時代の集落だったきがする。数年前まで確かこの人里は縄文とか弥生とかそんな感じだった気がするんだけれど…この世界の人類は発展が早いのかもしれない。しかしその趣ある町並みに余り往来は無かった。

「今は皆病に伏してるのよ。」

「ああ例の流行病ってやつ?」

その病気の治療薬を作るために永琳は里の外に出たのだった。一人で全員分作るのかな?

「早く薬を作らないと…あなたはこの後どうするの?」

「うーん。」

さてどうしようか。元々暇だから人里に来てみただけだし。この分だと街を回っても現代のシャッター街よろしく禄に店は空いてないだろう。

「永琳のことを手伝うよ。」

「…本当に変な妖怪ね。貴方。」

まあ、元人間だしねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぇ~」

思わず変な声が出てしまう。私達二人は永琳宅に着いた。割かし綺麗に整頓されているが、土壁に取り付けられた木の棚には所狭しと大きめの瓶が並んでいた。中身は薬草だったりよくわからないトカゲみたいのだったり。

「これ全部永琳が?」

「そうよ。」

恐らく全部薬を作るのに使うのだろう。にしても一人でこの量を集めるのはかなり果てしない苦労の様に思える。永琳ちゃん半端ないです。

取り敢えず薬の作成の準備に取り掛かる。永琳の指示に従ってアレやコレやをボウルみたいなものの中に入れ混ぜていく。作業をしながら会話を投げかける。

「いつから薬を作り始めたの?」

「物心着いたときからかしらね。昔居た家に薬草の本があってそれを見て色々やったものだわ。」

筋金入りの薬師らしい。永琳マジパネェ。

「今までもこんな感じで皆のために薬を作ってたの?」

「ええ…まあ皆のためと言うより、私の好奇心を満たすためだけどもね。」

ふむふむ。つまりこういうことだね。

「べ、別に皆のためなんかじゃないんだからねっ!って事ね。」

「…どういういうことよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、できたぁ…」

ようやっと薬の作成が終わった。正確には数えてないけど、4桁行ってそうな数だったよ。どっと疲れに襲われる。なかなかに辛かった。

「ご苦労様。おかげで思ったより早く終わったわ。」

「そりゃよかった…」

対して永琳は涼しい顔をしている。私の二倍は数をこなしている筈なのにそんなのはおくびも感じさせない。他の人のために平気でこんなことができるんだから凄い。薬草の採集の時もそうだったけど私には無理だね。

「それじゃあ薬を配りに行きましょう。」

「ええ…休憩は?」

「早く飲んでもらったほうが早く治るでしょ?」

「うう…へいへい。」

それから永琳とともに里中を薬を配って回った。なかなかにこの里は栄えているらしく予想よりかなり広かった。歩くのが非常に疲れる。でも…

「あら永琳ちゃんに…お友達?お人形みたいな子だね。薬ありがとうね。これで畑仕事ができるわ。」

「本当にありがとうございます…!これでおっかさんが楽になります…!」

などなど感謝の言葉を抱えきれないほどもらった。もちろん私自身も悪くない気持ちだったが、それよりもその言葉を嬉しそうに、そして少し気恥ずかしそうに受け取る永琳を見るのが楽しかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 用事を終え永琳宅に帰ってきた私達。日はもうほとんど暮れて薄っすらと星が見え始めていた。

「いやぁいい仕事をしたよ。うん。」

そう行って床の上に大の字で寝転がる私。少しヒンヤリしつつ温かみのある木の床が心地よい。

「…貴方いつまでここに居すわる気?」

そう永琳が言う。うーん。あんまり考えてなかったけどどうしようかなぁ。…よし。

「私が飽きるまで!」

「…はぁそう言うと思ったわ。」

ため息と共に頭を抱える永琳。どうせ今妖怪の集落に戻っても暇をもてあますだけだし。

「ってことで永琳これからよろしくね。」

体を起こして永琳の方に手を差し出す。それを見た永琳は観念したのか呆れたように再度息を吐く。

「…仕方ないわね。ただし仕事は手伝ってくちょうだい。よろしく儚。」

そう言って永琳は私の手を握り返してくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…ちょっと永琳。」

「?どうかしたの?」

現在夕飯時。私達二人は向かい合って食卓についている。向かい合う私たちは似た髪色のせいもあって少しだけ姉妹の様に見えた。当然私が姉だ。永琳に「儚お姉ちゃん」って呼ばれるのを想像して脳内でニヤケが止まらなくなった。いやそれは良いんだ。問題はない。それよりも食卓に乗っている料理に問題があった。

「これ…何?」

「何って夕食よ。要らないの?ちゃんと栄養のバランスも考えてあるのよ。…ああ、でも妖怪は食べなくても大丈夫だったわね。」

いやいやそう言うことじゃなくて…

そもそもそれは料理と呼べるような物じゃなかった。まずご飯。これは一応炊いてある。何も付いてないがそれはまだいい。しかしその隣に無造作に並べられている草と肉片が解せない。

「…どうやって食べるのこれ?」

「これを使って頂戴。」

そう言って永琳に細長い瓶を渡された。まるで前世のときに見た試験管みたいなやつ。

「なにこれ。」

「それは青椒肉絲チンジャオロースの味になる薬よ。他の味が良いかしら?妖怪に合う味があるかわからないけど…」

ふむふむなるほど。ええ、なるほどなるほど。わかりましたよ。ええ。はい…

 

「料理をなめんなぁあああああああ!!」

「きゃっ」

 

そこで私は勢い良く立ち上がった。それにびっくりした永琳が小さく悲鳴を上げる。人間である永琳を脅かしたからか少し妖力を得たとか、こういうときだけ年相応の少女なのが可愛いとか、そんなことはどうでもいい!

「台所借りるね!」

「ち、ちょっとどうしたのよ儚!?」

恐らく彼女の今まではこれでよかったのだろう。

だがしかしっ!!人間として食事をないがしろにするのは許せないっ!!私は元人間だけども!!

 

 

 

 

 

 

 

 「美味しい…」

味噌汁をのんだ永琳がそう呟く。

「でしょ?人間ちゃんとした料理を食べないと性根が曲がっちゃうよ。」

「妖怪に言われるのは何か解せないわ…」

本日のメニューは和洋折衷な肉料理になった。幸いたくさんの材料が永琳家には保管されていたのでなんとか無事完成した。

「意外。こういうことは細かいのね。」

「まあ昔からの趣味みたいなものだよ。」

生前は半分一人暮らしみたいだったので良く自炊したものである。

「大体あんなので済ませてる永琳の気がしれないよ。」

「しょうがないじゃない。薬は作れても料理は作れないのよ。」

少し不満げにそう言う永琳。にしても限度ってものがあるんじゃ無いだろうか…

普段は大人びていてたまに何処と無く抜けていると思っていたが、訂正。結構大事な部分が抜けているようだ。永琳ちゃん実は人間じゃないじゃないか…

「それにしても本当に妖怪っぽくないわね。」

「確かに永琳のがよっぽど妖怪みたいかもしれないね。」

「余計なお世話よ。」

そんな感じでゆるりとした食卓の時を過ごしたのだった。


 
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