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万華鏡の連鎖

作者:fw187
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同盟vs帝国
  提督の選択

 帝国軍本隊1万数千隻は単縦陣の儘、中央突破を狙った。
 第六艦隊が後背を衝く前に、第二艦隊を押し捲る。

「大半は単座戦闘艇だ、狙っても当たらない。
 全火器、照準変更、措定範囲外掃射禁止。
 右側の艦は第六艦隊の後方、敵の別動隊を連射。
 左側は戦術コンピューター、C4回路の指示通り。
 我が軍が勝つ、約3倍の艦を擁しているのだから」
 ヤン准将の声が艦橋に響き、全艦長に届く。

 小型艇の襲撃は唐突に途絶えた。
「メルカッツ、一撃離脱(ヒット・アンド・アウェイ)だ。
 敵を邀撃の後、ファーレンハイトと連携せよ」
「了解しました、閣下。
 攻撃中止、戦闘艇も後退」

 ワルキューレ群も翼を翻し、迎撃の態勢が整う。
 帝国軍本隊は旋回、右側に弧を描く。
 艦の衝突、接触は無い。
 前衛の数千隻は見事な機動を見せ、攻勢に転じた。
 1万隻を超える後続の動き、方向転換は鈍い。
 単縦陣に間隙が生じ、戦術コンピューター表示盤も変わる。
 矢印4個が前衛、第二集団、第三集団、後尾を示す。


「1時の方角に転針、上下角プラス15度。
 正面突破、敵を衝き崩す!」
 ヤン准将の構想、戦術案を崩した責任は負う。
 第六艦隊が盾となり、第二艦隊の後背を護る。

「ファーレンハイト、左下方転針。
 浅い湾曲軌道(カーブ)を描き、敵の後背を衝け!
 メルカッツ、更に後退。
 逆側の敵を誘い、拘束を図れ」
 再び、声が響く。
 的確な指示の上、反応が早い。

 帝国軍の勇将、宿将は期待に応えた。
 前者は見事な肩透し、回避術で第六艦隊の強襲を外す。
 速度も落とさず、数秒で射程距離の外に抜ける。
 後者は第二艦隊の機動、ヤン准将の戦術案を敷衍して見せた。
 左右迂回後に戦闘艇が後背を衝き、心理的動揺を誘う。
 巡航艦と戦艦は転針、逆側の艦数千隻に合流を阻む。


「左旋回、10時の方角に転針!
 上下角マイナス15度、左側面攻撃!!」
 双璧の批評から推察するに、ラインハルト直属の艦は極少数。
 門閥貴族の意趣を映し、扱い難い艦隊指揮官5名が押し付けられた。
 各々数千隻の第二集団、第三集団、後尾は機動が鈍い。
 シュターデン中将、フォーゲル中将、エルラッハ少将の酷評と合致する。

 案の定、敵本隊後半数の態勢が崩れた。
 全速直進の第二集団、数千隻は速度を落とさず通り過ぎる。
 左横を衝かれた第三集団後部、第四集団全域は動揺を隠せない。
 自己保存衝動が優り、迎撃を選んだ。
 ラインハルトの指示に聞く耳を持たず、軌道を変える。
 恐慌(パニック)に陥った儘、撃ち捲った。



 帝国軍本隊中央部、後部の態勢が崩れた。
 後背を第二艦隊、左側面を第六艦隊が襲う。
 ファーレンハイト少将に避けられ、遊兵となりかけた失態は償った。
 反転を命じた第四集団指揮官、エルラッハ少将の訃報が届く。
 フォーゲル中将指揮の第三集団、数千隻の邀撃も鈍い。
 旗艦が連絡を絶ち、艦長の判断で散開が進む。

「第二艦隊を援護する、10時の方角に湾曲軌道を維持。
 奇襲した敵に直接、借りを返す!」
 再び、声が響いた。
「メルカッツ、離れろ。
 3割強の敵は葬った、帰還する。
 ファーレンハイト、攻撃中断。
 消耗戦に陥る愚を犯すな、戦略的意義は無い」

 帝国軍本隊の前衛、数千隻が速度を落とす。
 別動隊も第二艦隊と離れ、付け入る隙を見せない。
 数分後、勇戦を称える通信が届いた。
 宛先は第二艦隊臨時指揮官ヤン准将、第六艦隊臨時指揮官ラップ少佐。
 返信の誘惑に耐え、背後を振り返る。


「艦長、ありがとうございます。
 提督への説明は僭越ながら、小官にお任せください。
 事後処置も考えてあります、心配は要りません。
 艦橋の監視カメラ記録映像、動画複製を願います」
 ペルガモン艦長の瞳が泳ぎ、幕僚の視線と絡む。

「小官は第二艦隊指揮官代行、ヤン准将と懇意にしております。
 ムーア提督の声望を維持する為には、直接面談せねばなりません。
 宜しければ連絡艇で旗艦に赴き、調整して参ります。
 同期の(よしみ)、口裏を合わせて貰えるでありましょう」
 自己保身、打算の表情が覗く。

「君、伝言を撮影して貰いたい。
 他の者には頼めん、提督の雷が落ちる」
 イエスマン気質の副官、年若い幕僚の表情が歪む。
 拒否したくない筈は無いが、後が怖い。
 幕僚チ-ム全員を敵に廻せば、出世の道は確実に断たれる。
 視線を避け、不平不満が満載の顔で頷いた。


「ムーア提督の声望が損なわれぬ様、万全の策を考えてあります。
 小官に御任せ戴ければ、更に昇進の機会が得られるでしょう。
 名誉が傷付く事はありませんし、今後も第六艦隊を指揮していただけます。
 ヤン准将と協議の時間が長引くかもしれませんが、心配は要りません。
 ペルガモン艦橋に緘口令を敷き、情報漏洩に御留意を願えれば幸いです」
 片手を挙げ、敬礼。

「以上だ。
 何か、質問は?」
 引き攣った表情の幕僚チーム、全員が無言を貫いた。
「後は頼む、提督に宜しくな」
 麻痺銃(パラライザー)標準装備の皆に背を向け、歩き出す。
 発射音は無く、ペルガモン艦橋の扉が開じた。
 数分後に第二艦隊の旗艦、パトロクロス艦橋の扉が開く。



「ラップ、良く来てくれた。
 猫の手も借りたい、助かるよ」
「ヤン、すまん、厄介事なんだ。
 申し訳ないが、内密に話したい。
 人手が要るなら、応援を寄越させる」
 ムーア提督の雷から緊急避難は幕僚チーム、全員が望む所だ。
 お気に入りの副官と艦長に難題を押し付け、移乗の確率は高い。

 ペルガモン艦橋に連絡すると、期待は裏切られなかった。
 権限を委譲の通信も流れ、分艦隊指揮官達が態勢を整える。
 不満な表情の幕僚に後を託し、数分後に艦橋を離れた。
 ヤン准将と個室に着き、動画再生後に情報を補う。

「厄介事は越権行為だけじゃない、出撃の前に妙な情報が届いた。
 面倒な話だが、聞いてくれ。
 古代地球史にも触れる、ヤン以外の者には理解が難しいだろう。

 出所不詳の連絡、伝言は地球教の脱会者が自殺する直前に送ったらしい。

 フェザーン自治領の創設者が地球出身の商人、レオポルド・ラープだって事は知ってるな?
 帝国領の地球に権力、富は無い。
 天文学的な賄賂の資金源は謎に包まれているが、同盟市民から搾取していたんだ。

 地球教は数千年に及ぶ歴史、精神制御(サイコ・コントロール)の技術を持っている。
 ダゴン星域会戦の後、宇宙暦640年代中頃の帝国領逃亡者に信徒が紛れ込んだ。
 人類発祥の惑星に対する恩義を説き、洗脳して資金源とする為に。
 常識を無視した献金、負債の為に無数の信者が消息を絶った。

 古代地球史上、宗教組織が権力者と組んだ事例は数え切れない。
 権力者と組み摘発、報道を押し潰す術の蓄積も想像を絶する。
 1万年を優に超える間に繰り返された試行錯誤、研鑽が後ろ盾だからな。
 信者の献納する権利、《自由意思》と《志》を強調して負けた裁判は無い。
 150年の時を費やした長期計画で浸蝕は進み、最高評議会議員も過半数が操られている。

 国防委員長の権勢欲も煽り、使い勝手の良い傀儡と認識している様だ。
 秘密裏に軍需産業との癒着、マス・メディア言論統制が進んでいる。
 民主主義の理念、博愛の精神を蝕む輩の理論武装は鉄壁だ。
 自由惑星同盟は事実上、地球教の搾取地と化している」

「ラップ、ちょっと待った。
 何と言えば良いか、手に余るな。
 地球教の信者に確認、調査は無意味だろうね。
 国防委員長、いや、シトレ元帥に話してみるか。
 他に誰か話して、感触を探ってみたのか?」
「流石、ヤンだ、話が早いな。
 信じて貰えないだろうから、まだ誰にも話してない」

「ジェシカも?」
「当然だ、こんな危ない話、聞かせられるか!
 彼女の性格、知ってるだろ?」 
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