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名探偵と料理人

作者:げんじー
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第三十九話 -バトルゲームの罠-

 
前書き
このお話は原作 第27巻 が元になっています。 

 
「おはよう、紅葉」
「おはようさん、龍斗。もうすぐ朝ごはん出来るさかい、新聞を取ってきて―な」
「オッケー」

朝起きて居間に足を運ぶと、紅葉がキッチンに立っていた。今日の朝ご飯とお昼のお弁当は紅葉の担当なので俺は彼女の言われた通り、居間を出て廊下を通り新聞受けを見に行った。

「えっと…新聞に、依頼書類に、DMっと。…ん?絵葉書?」

普段通り、郵便物の内容を確認しているといつものラインナップとは別のものが紛れ込んでいた。

「んー?送り主の住所は雪影村?…お」

裏面を見ると絵葉書ではなく写真のようだった。そこに写っていたのは病室で赤子を抱く母親らしき女性と、笑顔の男性だった。



「お帰りー龍斗。もうできますよって…なんや?嬉しそうやんか」
「え?ああまあね。とても気分がいいよ」
「ふーん?なんや気になるやん。っと。その前に朝ごはんの用意できましたから配膳手伝ってもらえます?」
「ああ。勿論」

何の変哲もない、いつもの日常の朝の一風景。新しい「家族」の誕生を手紙で知った俺は、その幸せについて改めて噛み締めていた。





「ふうん。それで今日の龍斗クン、機嫌がいいんだ?」
「そうなんだよ。いやあ、めでたいよね」
「それにしてもすごい偶然もあったものね。たまたま夜釣りをしに行った村で入水自殺をしようとした人と出会うなんて」
「せやねえ。しかも擦れ違いが生んだ勘違いなんやろ?そのまま自殺してたなんてことがあったらやりきれんわなあ…」
「まあまあ。話したのは俺だけど実際は食い止められたんだしIFの話で暗くなるのはなしにしようぜ?紅葉。それと、今日の弁当も美味しいよ」
「あ、ありがと」

所かわって帝丹高校の2年B組の教室。午前の授業が終わり俺はいつもの女子三人とお昼を取っていた。…うん、紅葉も弁当作りが上手くなってる。冷めても美味しい。

「そうそう、龍斗クンの言う通り!…そうだ、昨日結構良さげなゲーセン見つけたんだ。みんなで放課後に行ってみない?」
「私は今日は稽古がないからいいわよ。2人は?」
「俺は大丈夫…なんだけど」
「ウチも今日の放課後の予定は空いてますけど…」
「「??」」
「げーせん、ってなんですか?」
「え!?紅葉ちゃん、ゲーセン行ったこと無いの!?」
「え、ええ」
「龍斗君とのデートとかで行ったことは?高校生のデートの定番じゃない?」
「そ、そうなんか?龍斗?」
「んー、あー。いやまあ確かに定番っちゃ定番なんだけど…」
「じゃ、じゃあなんで連れてってくれなかったんです…!?」
「ちょ、ちょっと。紅葉、そんな泣きそうな顔しないでよ?」

ちょっと涙目になり始めて寂しそうな紅葉を宥めようとしたら惣菜パンを隣のグループで食べていた中道に言葉尻を聞かれてしまっていた。

「おー?珍しいな。おい、みんな!緋勇と大岡さんが夫婦げんかしてるぞ!しかも原因は緋勇がデートに連れてって行ってくれないかららしい!」
「ええ!?」
「うっそー。学校ではこっちが目を背けたくなるくらい甘々なのに?!」
「ひっどーい、緋勇君!」
「おいこら、中道適当なこと言ってんじゃねーよ!あと外野!そんなに囃し立てるなー!」
「これは大変なことですなあ、中道君」
「そうですなあ、会沢君」
「こっの…!!」
「わー、緋勇が怒ったー!」
「こわいこわいー!」

思わず立つと二人はすかさず席を立ち、財布を持って教室を出て行ってしまった。…あれは昼飯の量が足りなくて買い足しに行ったな…じゃなくて。

「…はあ。まったくもう。…紅葉?俺がゲーセン、ゲームセンターをデートコースに選ばなかったのは理由があるんだ。それに…ゲーセンは「定番」だけど。俺とのデートはつまらなかった?」
「え…そ、そないなことないです…!いっつもドキドキして、楽しくて。いつもすぐに一日が終わってしまうって思ってます…!」
「そっか、それは嬉しいな。だからね。別に高校生の定番だからって、紅葉が悲しむ必要なんてこれっぽちもなんだ。デートってのは当人同士がどれだけ幸せに楽しめるかに価値があるからね」
「龍斗…」
「紅葉…」

「…あー。じゃあ二人も参加ってことで。…結局いつもの展開かあ。他の奴らも二人の事を見ないようにお昼再開しちゃったし」
「そだね…こういうのは二人っきりでして欲しいわよね、園子」
「そうね、蘭…」

案の定、お昼を買い足しに行って戻ってきたサッカー馬鹿コンビが俺達のいちゃつき具合を見て「なんでこーなった!」と叫び、藪蛇をつついた二人に俺達のやり取りに辟易していたクラスメイトが槍玉にあげたりしていたが。まあ、いつものように賑やかなお昼という事で、平和な時間が過ぎて行った。


――


「じゃーん、ここが私の見つけたゲーセン!」
「へえ、ココが「げーせん」ですか…なんや、賑やかそうなとこやね?龍斗」
「ま、まあね」
「…それで?なんでゲーセンに来ることになったの?しかもこんな遠くの」
「あ、それはね。コナン君…」

そう、放課後に園子ちゃんが言っていたゲームセンターに向かった俺達は偶然下校途中の新ちゃんと出くわした。探偵事務所には小五郎さんが夜遅くまで居ないらしく、どうせなら一緒に連れて行ってしまえということで同行している。

「コナン君もいるから18時までには出ないとね?園子ちゃん」
「あー、そう言えば条例でその時間までには出ないといけないんだっけ?…あれ?でも保護者同伴なら…」
「高校生は保護者には当たらないよ、園子ちゃん…」
「…結構、くわしいのな?龍斗」
「え!?あ、いやまあね。あははは…」
「まあまあ。今日はそこまで長居はしないわよ。早く入りましょ?」
「紅葉。うるさいかもだからすぐ耳を塞げるようにね?」
「え?ええ」

俺の言った通り、すぐ耳を抑えられる体勢になった紅葉。そして自動扉が開いた瞬間、漏れていたゲームセンターの音が瀑布のように流れてきた。

「っ!!?」
「え?紅葉ちゃん?」
「どうしたの。それに龍斗君。紅葉ちゃんの耳を抑えたりして?」
「入り口付近は格闘ゲームが多いな…園子ちゃん、UFOキャッチャーかプリクラのコーナー、もしくは休憩場所とかある?」
「えっと、プリクラコーナーなら」

もしかしたら大丈夫かもと思っていたがやっぱりこうなったか。入って紅葉の体が硬直した瞬間に彼女の耳に両手をあてたから一瞬だったとは思うが…紅葉には悪いことをしたな。まさか、自分で耳も抑えられないくらいの衝撃だったか。
紅葉の耳に俺が後ろから手を当てながらプリクラコーナーに移動したがはた目から見たら奇妙だろうな…中にはいちゃついているように見えたのか睨んでくる男連中もいたがまあそこは無視だ無視。

「ここがプリクラコーナーだけど。どういう事なの?」
「そうだよ、龍斗君。いきなり紅葉ちゃんがふらついたと思ったら龍斗君が耳を塞いで…耳?まさか!?」
「お察しの通りだよ。蘭ちゃん」
「え?え?どういう事?」
「ほら、紅葉ちゃんの耳って」
「紅葉ちゃんの耳?ピアスのこと?」
「違うわよ、園子!ほら、ものすごく耳がいいじゃない!」
「あー、そういえば競技かるたをしてるからかすっごくいいのよね?…まさか」
「ま、そういうこと。紅葉は耳がいい。それに俺も五感が常人離れしてるからね。ゲームセンターの音と匂いはどうしても…ね」
「ご、ごめん。そんなことになるんだったら私誘わなかったのに!」

プリクラコーナーに移動したのは他と比べればまだ騒音や臭いがきつくないから。ゲーセンに連れてきたのは…

「そないなことないよ、園子ちゃん…」
「紅葉ちゃん…っ!」
「ウチ、こういうのすっごい楽しいんやで?放課後にお友達と遊んだりお喋りしたり。だから「誘わなければ良かった」なんて言わんといて…」
「紅葉ちゃん…」

そう。紅葉の話によれば彼女は前の学校ではあまり深い関係の友達はいなかったそうなのだ。それとなく遠巻きに見られていた、と。だから俺は何も言わなかった。

「さ。この事を予見していた俺が何も準備していなかったと思う?と、言っても応急にしかならないし、ちょっと紅葉には我慢してもらうことになるけど」

そう言って俺は彼女の耳から手を離し、さっき買っておいたミネラルウォーターを布片にしみこませて彼女の耳に入れた。

「どう?紅葉。紅葉の聴覚ならこれくらいでちょうどいいはずだけど」
「…ええ。耳が気持ち悪いのに目をつむればとても楽になりました…」
「よかった。…ほら園子。そんな辛気臭い顔してないで」
「そうそう。こうなることが分かってた俺が一番悪いし。埋め合わせとかは俺がするから今日は楽しもう?紅葉もそう言ってたでしょう?」
「…うん、うん!分かった!!」

この後、持ち前の明るさを取り戻した園子ちゃんを先頭にプリクラを取ったり(ウェディングドレスの格好になった紅葉を横抱きにして写ったり)、落ちゲーやUFOキャッチャーを楽しんだ。


――


「…それで?その花嫁姿のプリクラどうするのよ?」
「ど、どうするって何が?」
「さっきは先送りにしててけど撮るんでしょう?それで京極さんにメールで送るんでしょー?」
「うーん、私もそうする気で一人ずつ撮ろうと思ったんだけどさっきの龍斗クン達を見たらやっぱり一緒に撮りたいかなーって」
「そっかー…あれ?あの後ろ姿…」
「へ?」

『HEY!』

蘭ちゃんの言葉に園子ちゃんの後ろに皆が視線を送った。そこには。

―BANG!BANG!BANG!!

シューティングゲームをポーズを付けて楽しんでいるジョディ先生がいた。わーお。今のゲーム、パーフェクトかよ。

「ジョ、ジョディ先生?」
「どうしたんですか、こんな所で…」
「OH.毛利さんと鈴木サーン!それに後ろにいるのはMr.緋勇に大岡さんじゃないですかー?」
―え?先生?お、おいあれって帝丹高校の制服じゃ…じゃあ高校教師?嘘だろ?-

先生のパフォーマンスは彼女自身が目立つ容姿で様になっていたためギャラリーが出来ていた。彼らは徐々にざわつき…

「ノンノン!人違いでーす!」

このまま注目を集めたままなのはまずいと感じたのか蘭ちゃんと園子ちゃんの背中を押して人が少ないエリアに押しやって行った。



「えー?放課後毎日このゲーセンに通ってた?!」

どうやら彼女はかなりのゲーマーらしく、特に日本のゲームが好きで存分に楽しむために日本で英語教師をすることになったらしい。…あれ?この人FBIだよな?潜入捜査だったような?いや、まあFBIだろうとゲームが好きなこともあるんだろうけども。
因みに彼女の評判は容姿や肌の露出が激しいことから男には上々、女子にはそこプラス授業が固いという事で不評といった感じだったんだが…
彼女の友人が日本で小学生教師をしているらしく、思春期の男子高校生なんてちょっと胸元開けておけば嫌われない、真面目な授業をしていれば首にされることなんかない、とのアドバイスを貰ったそうだ。

「…あれ?それじゃあ女子への評判については?先生、ウチら女生徒からの評判への対策聞いてないんですか?」
「Oh~そう言えばナツコからは教えてもらってないでーす」
「ナツコ?」
「私のお友達でー。ティーチャーしてて、色々アドバイス貰いましたー」
「先生…でもさっきのすごく格好良かったです!それに今の感じ…お茶目な感じ出していけば女生徒の評判もすぐよくなりますよ!」
「そうそう!さっきのガンアクションなんてビリー・ザ・キッドみたいで!」
「アリガト。それじゃあもっとエキサイティングなゲームを紹介しましょうか?」
「「「え?」」」

そう言われて俺達が連れてこられたのは「グレートファイタースピリット」という体験型格闘ゲームの筐体の前だった。ふむふむ。ヘッドギアに手足のセットレバーが画面の自機と連動していてダメージを受けると衝撃が来ると。…お?へえ。握り手の所にボタンがあってコンボもできると。
蘭ちゃんがするみたいだな…これ、蘭ちゃんみたいな美少女女子高生の後にするのはいいけどむさいおっさんとか汗っかき、脂ギッシュな奴らが被ったギアを続けて被りたくはないなあ。
へー。ダメージは携帯のバイブと同じくらいか?蘭ちゃんは空手のように大振りにして敵にダメージを与えてるけど初動の数cmで連動が起きてるから細かい動きとボタンのコンボが結構重要になりそうだな。

「Oh!毛利さん強いですね!」
「そりゃそうですよ!なんたって蘭は…」
「空手の都大会の優勝者なんですよ、先生」
「ワオ、チャンピオン!」

その後、もう一戦という所で乱入者が来て蘭ちゃんはあっさり負けてしまっていた。
まあその男というのが何ともチンピラの三下を絵にかいたような男で…女子三人組にはとても不評にようだった。

「ったく!何なのよアイツ!むっかつく!」
「「米花のシーサー」って呼ばれていきがってるただのチンピラだよ」
「え?」

園子ちゃんのつぶやきに答えたのはマージャンをしていたニットを被った男性だった…まんまチンピラだったのかい。
どうにも、彼の態度にはここら一体のゲームセンター連中には不評のようで彼が天狗になっている鼻っ面を叩き折るには、まずあのゲームで勝つことだろうと。だが彼…もうチンピラAでいいか…は大会等にはでないがこの界隈では無敵だそうで…

「まあ奴を倒せるとしたら…杯戸町で無敵を誇った…」
「杯戸のルータス…オレ位だろ?」

ここで新たに会話に割り込んできた男性が現れた。どうやら彼自身もチンピラAと因縁があるらしくその決着をゲームで付けようとしているらしい…!!?

「龍斗?」
「……」

勝負前に一服をしている「杯戸のルータス」さんに俺は近づいて行った。

「?なんだお前?」
「ども。料理人をやってる緋勇といいます……そのタバコの箱から料理人の俺からしてみれば嗅ぎなれたものが漂ってくるんですけど…ね?」
「な!?」

俺は彼だけに聞こえるように耳打ちをした。

「何があったのかは知りません。知りませんが。気づいたからには止めさせてもらいますよ」
「な……ぁ…」
「オウ、高校生のガキが。何アニキにいちゃもんつけてんだ、あ!?」

俺がルータスさんに近づいて耳打ちしたことで勝負をするのに水を差されたと思ったのかチンピラAがすごんできた。うーん、ぜんっぜん怖くねえ。

「あのー、ルータスさん?」
「え?あ、ああ。オレは志水ってんだ」
「じゃあ、志水さん。俺にルータスのコンボとか教えてくれません?ワンコインだけでいいんで」
「は?」
「おい、何無視してんだテメエ!?」
「いやね。こんなやつのためにあなたの人生を棒に振る必要なんてないです。止めたからにはある程度責任を持たないとね」
「は、はあ…」
「俺、ゲーセンに来るのってほぼ初めてなんですよね。だからこのゲームも今日知りました。なのでコンボなんてのも知らないんですよ」
「そ、それで?オレにコンボを教えてほしいだって?このゲームはそんな甘いもんじゃあ…」
「推理ゲームとか考えるのなら俺はどうしようもないですが…事、体を動かすことなら俺は世界で一番上手いですから。まあ騙されたと思って。あなたの執着する奴なんて、今日このゲームを知ったど素人にすら勝てないしょうもないやつだってことを…それと知って下さい。視野が狭くなってこうするしかない、と思っても。外に目を向ければ案外どうにでもなることだってあるってことを」

俺にタバコの箱に仕込んでいたフグ毒を見破られて動揺していた志水さんだったが俺との会話で落ち着いたのか怪訝な視線で俺を見ていたがそんな精神状態でまともに戦えるわけがないと分かったのだろう。ため息をついてチンピラAに後日の勝負を申し込んだ…チンピラAは俺の言葉にキレてたのか、血管を浮き上がらせて俺を殺さんばかりに睨んでいた。俺の「何の因縁があるかは知りませんが、俺が勝ったら清水さんの要求をのんでくれます?」
と言ったら、「ああ!?…いいだろうよ、オメーが勝ったらそうしてやる!だがオメーが勝てなかったらそうだな…オメーの連れ、オレにかせや」と言ってきた。…ほう?これはゲームだけでなく物理的に手を出していいと言う事ですね?


――


「う…そだろ?」
「マジかよ…」
「米花のシーサーが10連敗?」

俺は志水さんにすべてのコンボを教えてもらい、チンピラAと対決した。…勿論、今日初めて知ったゲームで俺が10連勝できるわけもない。半々くらいならできそうだけどね。
というわけで。久しぶりにずるをしました。やったことは単純で紅葉と出会った時のかるた大会。それの強化版だ。ゲーム音で満たされていようがリミッターオフ全開の俺には関係なく後ろに座るチンピラAの筋肉の動く音、それと画面の動きを0.01秒の世界で判断し全て先読みして撃破していった。唯それだけだ。

「おいてめえ!こんなことオレは認めねえからな!ちょっと表でろ!」

ギアを外したチンピラAは俺の席まで来て胸ぐらをつかみあげた。はあ、やっぱりこうなったか。しゃーない。ほら?物理的に手を出したのはチンピラAが先だし?リミッターオフ全開の俺に近づいて来たのは彼の方だし?
―ノッキング!これからの人生慎ましくVer!!―

「な、なんだ?風が?いやそんなことより!てめえ、その顔が気に入らねえ!」

普通の人間には今の俺のノッキングは見えないくらい早いので、風が吹いたくらいにしか感じないだろう。
俺が怖気づかないことにキレたのか、ゲーセン内にもかかわらず腕を振りかぶり殴ってこようとした。…その動きに蘭ちゃんが出ようとしたが俺は手で制した。

―ぺち!

「な?!」
「どうしたんです?そんな赤ちゃんみたいなパンチは?」
「んっだと!…て……め…ぇ…」

今度は大きな声を上げようとしたら息がつまり苦しそうにしている。

「…これからの人生、真面目に生きてくださいな。そうしないと貴方、サンドバックですよ?」
「なんだと…?」

それを伝えた後、心配そうにしている皆(+志水さん)と合流してゲーセンを出た。


――


ゲームセンターを出た後、無茶な行動をして心配をかけたことを散々責められた俺は志水さんと後日会う約束をして連絡先を交換してその日は別れた。別れ際の彼はちょっと複雑そうな顔をしていたが、こればっかりは彼の中で折り合いをつけてもらうしかない。



そして俺は全てが終わったある日、新ちゃんと電話していた。

『それで?結局なんだったんだよ、あのゲーセンでの行動』
「ああ。あれね。実は志水さん。ああ、俺が話しかけてた黒髪のおじさんの方ね。タバコに毒を隠し持っててさ。多分、あの場でチンピラAを殺そうとしてたんだよ」
『は!?なんだよそれ!』
「フグ毒の匂いがしてさ。それで彼を止めに入ったってわけ。まあ未遂ってことだわな。で、あのチンピラAが原因っぽいしひとまず諦めてもらおうと思ってチンピラAを叩きのめせば落ち着くかなって。チンピラAも態度悪かったし」
『はあ。それでよくもまああんなに完封できたもんだ』
「あれ?新ちゃんに前に話したじゃない。銃弾の回転が見えるって」
『…ああ。つまり、身体能力のごり押しか』
「ごり押し…まあその通りさ。それで志水さんが抱えていたトラブルって言うのが彼の妹がチンピラAと付き合っててさ。絶縁させる条件があのゲームでの勝負だったってわけ。まあその妹さんも奴の借金のために失明寸前まで働いてて、それでも別れたくないって言ってたらしくてな…」
『マジかよ…でもよ?あんな性質悪そうなやつに随分と挑発してたけど大丈夫なのか?』
「ん?まあ大丈夫でしょうよ。…あとは因果が回るってね(ぼそ)」
『え?なんかいったか?』
「いや、なんでもないよ。まあそうことがあったって話さ」
『ふーん…』

そう、彼が普通の人間なら今も…若干重い身体に四苦八苦しながら生活しているだろう。
俺があの時、施したノッキングは「通常時に女子小学生並みの身体能力」「人を傷つける・暴力的な行動を取ろうとした瞬間赤ん坊並みの身体能力でその行動を起こす(殴りかかった時赤ん坊並みになったのはコレ)」「大きな声を上げようとすると一気に肺から空気が抜ける」という3つの制約を与えるノッキングだ。普段の生活にはほぼ支障は出ない。出ないが、あらゆる所で敵を作っていそうな男だ。まず、無事ではないだろう…うん、やりすぎたな。やっぱり幼馴染みに手を出すと言われると暴走しちまうなあ、俺。
志水さんの方は。俺と紅葉が妹さんの入院している病院でお見舞いに行き、目に包帯を巻いている妹さんに気付かれないようにちょちょっと蘇生包丁を施して失明からやや目が悪いまでには回復した…まあ栄養失調だったので回復に必要なエネルギーのために胸がワンサイズ減ったのはご愛嬌という事で。その後、紅葉に二人っきりにしてほしいと言われて一時間ほど志水さんと雑談してから戻ると彼女の口から別れるの言葉が出た。これには俺も志水さんもびっくりで紅葉に何を話したのかを聞いたが「内緒♪」ではぐらかされてしまった。
お暇するときに包帯を取って目を開けてみてくださいと言って出た。扉の奥から兄妹の泣く声が聞こえたが…まあそれ以上は俺の出来る事はないかな。
さて、と。

「ああ、龍斗~対戦しましょう、対戦!」
「紅葉ー、あんまりやりすぎは…」

今いるのは俺の家でも割と天井の高い部屋。ここは洋室だ。そしてなぜかある二機のグレートファイタースピリットの筐体。なんでも自分の動き以上に動くキャラクターに魅せられてやりたくなった、でもゲーセンはこりごり。というわけで筐体を買って家でしよう…という普段物欲の我儘を言わない紅葉の我儘に彼女の両親が答えたというわけだ…そこは止めてほしかった…!

「ほら、やりましょう!龍斗」
「ああ。お手柔らかにな」


ま、いいか。紅葉が笑顔でいてくれるならそれで。

 
 

 
後書き
うん、久しぶりにめちゃくちゃにした。ちょっとやりすぎたかなあ…あと久しぶりにちょっと長めです。

高校生カップルって映画、ショッピング、ゲーセン、お茶する、位がデートの定番ですよね。後は公園で駄弁るとか。

雪影村の云々は何となく金田一を読んでて入れてしまいました。コナンってゲームで金田一とコラボしてるしいいかなあと。

久しぶりに事件を起こさないという原作改編。栄養不足による視力低下は実際にあります。筆者の姉が大学生時代に栄養不足で失明とまではいきませんが極端に落ちたことがありました。皆さまもお気を付け下さい。ビタミン剤を飲むだけでもだいぶ変わると思いますし、病院で点滴を打ってもらうと言うてもありますから。


最後まで名前が出てこないチンピラAさん…彼はどこかの病院に大怪我で運ばれてこれ以降出てきません。慎ましく生きてほしいですね。 
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