| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六十六話

草木も眠る丑三つ時、なんて言い回しがある。

草木すらも静まりかえり、魑魅魍魎が跳梁跋扈し、丑の刻参りの白装束が往来する時間。

"魔"が動く時間。

篠ノ之神社本殿前、そこで俺は箒を待っていた。

やがて、暗闇の中に二つの人影が見えてきた。

「おお箒、戦場ヶ原ひたぎさんは来たか?」

「ああ、連れてきた」

「説明は?」

「一通りやったぞ」

暗闇から、巫女服の箒と白い私服の戦場ヶ原ひたぎさんが現れた。

「貴方…神主なのかしら?」

「いや、神主じゃない。免許すら無いしこの神社の血族でもない。
この神社の居候で神主見習いだよ」

「…………」

「ただし箒はこの神社の正当な後継者だ」

「そんな話は聞いてないのだが…」

「うん、誰も言ってない。だけど血筋的にはそうなる」

さーてと…

「出来ればさっさと終わらせたいし、やろう。
本殿の中に"場"をつくって結界をはってあるから入ろうか」

二人を本殿の中に入れる。

一応柳韻さんに習った通り、本殿の神棚に正式の装飾を施し、床にも場を浄める陣を書いておいた。

「さて、ここからは神前だ。
箒はわかっているだろうが目を伏せて低姿勢で居て欲しい」

二人が結界に足を踏み入れたのを確認して、戦場ヶ原ひたぎさんに御猪口を差し出す。

「舐めるだけでいいから」

彼女が、御猪口を受け取った。

「一夏、私は…」

「お前は飲むな、口すら付けるな」

箒に飲ませたらどうなる事か…

彼女が御猪口の日本酒を舐める。

「飲んだね? じゃぁリラックスしようか。
目を閉じて。いまから質問するから答えていって」

名前や生年月日など必要な質問とどうでもいい質問を織り交ぜて、20程質問をした後、本題に入る。

「今までで、一番辛かった事は?」

「……………」

「どうした?一番辛かった出来事だよ」

沈黙。

答えたくないという意志。

だけど彼女は、勇気を振り絞って、言葉を紡いだ。

「お母さんが、悪い宗教に…嵌まったこと…」

「日本では宗教の自由が認められてるぜ?
それだけじゃぁないんだろう?」

「………」

「そのあと。そのあとに何があった?」

「浄化…だと言って…幹部の人が、私を犯そうとしたわ」

「"犯そうと"、っつーことは未遂だったのか?」

「近くにあったスパイクで殴ってやったわ」

「ああ、陸上部だもんな…。
で?」

「私は助かった…けれど…」

「けれど?」

「お母さんは、私を助けなかった…
どころか、私を詰ったわ…」

「アンタが幹部を殴ったから?」

「そう、その上…」

「アンタの母親はペナルティを負った…と?」

「!?」

驚いているようだが、これくらい誰だって予想できる。

特に、こういうケースの場合は…

「それで?当の母親はどうしてる?」

「知らない」

「予想くらいできるだろう?」

「たぶん、まだ信仰を続けているわ。
懲りもせずにね…」

悲しみと哀しみを滲ませる声色。

「そうか。で、どうだ?清々したか?
離婚は成立し、母親は更に絞り取られる。
アンタとしては万々歳、母親も本望だろう?」

「ちがう!」

彼女は大声で、強い声で、それを否定した。

「じゃぁ何か?辛いか?」

「ええ、そうよ…」

「どうして?もう赤の他人だろう?」


「考えてしまうの…あのとき、わたしが、うけいれていたら…すくなくとも、こうはならなかったって…」

「それが本心?」

彼女は言葉に出さず、コクンと頷いた。

「OK、OK、よく聞かせてもらった。
アンタがそう思うなら、その"思い"はアンタ自身の物だ。
さぁ…今まで目を背けていた物と対面しよう。
目を開けて、受け入れよう」

そうして、彼女はその瞼を開き…

「あ!あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

大声を上げた。

頭を下げてはいるが、その表情は驚愕をたたえていた。

「さぁ、何が見える?」

「か、蟹が、あのときの、蟹がみえる…!」

よし、ここまでは成功だな。

「蟹?箒、何か見えるか?」

「いや、見えない。見えないが、何か"居る"」

なるほど…

「今目の前に居るのが、アンタが捨てたいと思った重みを預かってくれている存在だ」

「預かってくれている存在…」

「さぁ、言うべき事があるはずだ」

「言うべき…事…」

その時、緊張が解けたのか、彼女は顔を上げてしまった。

「チッ…!ファランクス!」

急いで彼女と蟹の間に右手を向けた。

突如、鐘を叩いたような轟音が鳴り響いた。

だけど、その音は俺達にしか聞こえない。

その音が、サイオンとサイオンとがぶつかった、幻想の音だったからだ。

「一夏?」

「箒、緋宵(あけよい)の"真打"取って。ソコに置いてあるヤツ」

視線と右手を蟹に向けたまま、左手で柱に立て掛けてある聖柄の刀を指差す。

「いいのか?相手は神だろう?」

「話が通じないなら力で捻伏せるしかないだろう?」

箒が刀の鞘を握り、柄をこちらに向けて差し出した。

その柄を握り、刀身を引き抜く。

刀身にサイオンを纏わせ、左手を上段に構える。

"緋宵真打"を振り下ろそうとした刹那。

「待って!
待って、織斑君」

「へぇ?何を?」

「さっきは、驚いただけ。ちゃんと、自分でできるから」

そして彼女は、正座を組み、蟹に頭を下げた。

神に土下座した。

「ごめんなさい。
それから、ありがとうございました。
ですが、もう、いいんです。
それは、私が背負うべき重みだから…。
無くしちゃいけない物ですから…」

そしてこう続けた。

「どうかお母さんを…私に返してください」

フッと、ファランクスにかかっていた圧力が消えた。

「おめでとう、戦場ヶ原ひたぎさん。
アンタは、過去と向き合い、過去を背負うと決めた。
覚悟を決めた」

その覚悟は、何の意味も持たない。

彼女の"おもし"になるだけの覚悟。

だけど。

「その覚悟を決めたアンタを、俺は心から尊敬するよ」

俺は、割り切れなかったから。

彼女みたいに切る事も向き合う事も出来なかったから。

記憶を風化させて目を反らしたから。

だから、向き合う覚悟を持った彼女を、心の底から尊敬する。

「さぁ、もう遅いから早く帰りな」

「…………」

「ん?どうした?」

「こんな夜中にか弱い女の子を一人で帰らせるのかしら?」

言われてみればそうだな。

「橙、頼んだ」

橙が、空気から溶け出したかのように現れた。

「りょーかい、ますたー」

「………………」

何故か、彼女は冷やかな眼でこちらを見ていた。

「どうしたのおねーさん?私が送っていくよ」

「そいつ俺の式神だから普通の人間じゃまず勝てない。
安心して夜道を帰ってくれ」

「そう……」

彼女はそれだけ言って、出ていった。

「さ、片付けようぜ箒。柳韻さん達が起きる前に終わらせないとな」

「あぁ…そうだな」
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧