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名探偵と料理人

作者:げんじー
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第二十話 -コナンvs怪盗キッド-

 
前書き
このお話は 原作16巻 が元になっています。 

 
「ねえ、龍斗君。今日の放課後空いてる?」
「ん?どうしたの園子ちゃん。……放課後はー、なにもない、かな?」
「せやね、ウチも朝の予定聞いとった限りは何もなかったはずや」
「よかったー。じゃあさ、放課後私の家に来てくれない?パパとママが龍斗君に仕事の依頼をしたいらしくて」
「仕事?まあそういう話だったら別にいいけど―あ、蘭ちゃん、部活頑張って!」
「ありがとー龍斗君。じゃあね皆。また明日ー」
「「「またね」」」
「…っと、じゃあ俺達も行こうか。紅葉はどうする?そっちも予定は特になかったよな?」
「ん、でもお邪魔にならへんやろか?」
「大丈夫、大丈夫!そんなに固い感じじゃないだろうし。家に遊びに来てもなかなかタイミング合わなくて、ちゃんと紹介できなかったし丁度いい機会だわ」
「せやねえ。ならお邪魔させてもらおうかな」

というわけで俺は園子ちゃんのご両親に呼ばれたので放課後鈴木邸にやってきた。そういえば史郎さんや朋子さんに会うのも久しぶりな気がするな。最後にあったのは……あれか、中一の時の警備員を頼んだ時の依頼料のパーティ三回。次郎吉さんの誕生日で三回目を使ってそれ以来か。

「ただいまー」
「「お邪魔します」」
「おかえりなさいませ、園子お嬢様。そしてようこそいらっしゃいました、龍斗様、紅葉様」

高校を出る時に園子ちゃんが電話を入れていたので俺以外に紅葉が来るのは分かっていたようだ。もし初見でも、鈴木財閥の執事をやってるくらいだから大岡家のご令嬢の顔くらいは覚えているかな?

「それでは龍斗様、旦那様と奥様がお待ちしております。園子お嬢様と紅葉様は……」
「とりあえず一緒に行ってみるわ」
「承知いたしました。ではご案内いたします」

そう言って先導する執事さんの後をついていき応接間に着いた。執事さんがノックし、許可が出たので俺達は中に入った。

「ただいまーパパ、ママ」
「こら園子、語尾を伸ばさない。「ただいま」でしょ?もう。……おかえりなさい」
「まあまあ、おかえり園子。そしてよく来てくれたね、龍斗君、そしてこの家で会うのは初めてだね。ようこそ紅葉君」
「ええ、初めまして。よろしくお願いします鈴木会長」
「そんな固い言葉は抜きにして。今は園子の、友人の父親として気楽に接してくださいな」
「そうですわよ。公の場でならともかく今はプライベート。ある程度崩した態度で大丈夫ですわよ」
「はあ……」
「それで。さっそくなんですが仕事の依頼という事ですが?」
「ああ、そうそう。実はね……」

史郎さんの話によると今度の4月19日にクイーン・セリザベス号で鈴木財閥創立60周年記念船上パーティが開催されるらしい。時間は夕方に横浜港を出航し3時間の航海を経て東京港に着くという予定だそうだ。料理の監修は別の方に依頼をすでに入れているそうなので今回はデザートについて作ってほしいとの事だった。その話の中で気になることも聞いた。

「怪盗キッド?」
「ええ、我が家の家宝、『漆黒の星』を狙ってこのパーティに参上するという予告上を受けましたの。まあ鈴木財閥の総力を挙げて捕まえるから安心……龍斗君?」

うーん、いつの間にかキッドも登場していたのか。しっかし、おかしいな。一応新聞はチェックしていたんだが。まったく覚えがないってことは春休みに海外に行っている時に出たのかね?
……新聞でチェックしているといえば。10億円強奪事件。確か事件発生後に毛利探偵事務所に宮野明美さんが偽名の……なんだったか、ともかく眼鏡にお下げの姿で依頼をしに来るんだよな?俺がいまだにはっきり覚えている原作の話でそして死んでしまう人。出来れば殺される前に介入したいんだが如何せんいつ起きるかまったく分からないからな……

「…龍斗君、龍斗君!」
「たーつーとー!しっかりしいや!!」
「!!すみません、朋子さん。ちょっと考え事に没頭しまって。それにしても怪盗キッドですか……彼が現れるならパーティが台無しになってしまうのでは?」
「ふふ、ありがとうね。心配してくれて。でも大丈夫よ。警察の方も乗り込むし、私も策を考えていますから」
「その策と言うのは私にも教えてくれんのだよ」
「ある意味サプライズですからね。知っているのは少ないほうが良いわ」
「それで仕事についてなんですが依頼自体はお受けしたいと思います。日にちも問題ありませんし。ただ、仕事内容なんですがその…コースのデザートではなくパーティ参加者への記念品の一つとしてデザートセットを作らせていただけないでしょうか?勿論すでに計画されているものもあるでしょうしよろしければ、ですが」
「それはまあ、追加で渡す分と考えればなんら問題はないが。パーティでは作ってくれないのかね?」
「怪盗キッドを捕まえるにしろ、何かしらの騒ぎが起こると思うんですよね。そうなるとコースのデザートまでたどり着かないような気がして。警察の人が空気を呼んでゆっくり食べさせてくれるとは到底思えませんし。せっかくの料理、現状の計画内ならゆっくり味わってもらえるのはその帰宅後のデザートが一番かなと思ったんです。普段ならこういうことは考えないんですが幼馴染のところのパーティですし、その参加者にはしっかり味わってもらいたいんです」
「そうか。そういう考えなら、朋子?」
「そうですわね。せっかく作ってもらったのに無駄になってしまうのはなんにしても失礼なことですわね…まあ龍斗君の作ったものなら後でスタッフを回してしっかり頂かせてもらう事もできるんですのよ?」
「え、あ……そうですよね。パーティの参加者だけでなくてスタッフの方も相当数いらっしゃりますよね。でもスタッフを回すって……?」
「ええ。こちらも普段はそこまで気を回しませんが。夫も私もあなたの作るものを無駄になんてしたくないもの。でも今回はあなたの案を採用しましょう」
「あ、ありがとうございます!」

その後は段取りを決め、夕食は頂くことになった。流石は鈴木家のシェフと言うか、とても美味しいものだった。紅葉も鈴木夫妻と打ち解けることができたようだしきてよかった。
それから俺は時間を見て鈴木財閥のスタッフの方と協議を重ね「子供がいる方向け」「甘いものが好きな方向け」「甘いものが苦手な方向け」の3種類のケーキを用意した。
そしてあっという間にパーティ開催当日となった。

「それでは東京港に到着する30分前にはお渡しの準備に入るようにお願いします」
「分かりました」

俺は一足先に乗船し、鈴木財閥のスタッフと打ち合わせをしていた。今日の紅葉は実家のご両親がこれないということで挨拶回りをしなくてはならないそうだ。ソレが終わってから合流すると言っていた。俺は近くにいたスタッフを捕まえて、

「史郎さ……鈴木会長に先にご挨拶をしておきたいんですが彼の居場所をご存知ありませんか」
「ああ、会長なら自室のほうで準備をしてらっしゃるはずだよ。開会前の挨拶は普通ならご遠慮して貰っているんだけど龍斗君なら大丈夫かな?」
「ありがとうございます。実はスタッフの方にも軽いお菓子セットを用意したので後で配りますね」
「おお、久しぶりに龍斗君のお菓子が食べれるのか!これは気合入れて仕事しなきゃな!!」

捕まえたスタッフが鈴木邸から派遣された古株の人だったのですんなり教えてもらえた。俺が自室に向かう途中、船は出港したらしい。揺れる足場を歩きながら史郎さんの自室に到着したので扉をノックした。

「失礼します、龍斗です。史郎さんいらっしゃいますか?」
「ん、ああ。龍斗君か。どうぞ入ってくれ」
……んあ?声がいつもと違う?ふむ、なるほど。

「お邪魔します。今日はおめでとうございますを言いたかったんですけどね」
「言いたかったって。祝ってくれないのかね」
「ええ。お祝いの言葉は史郎さん本人に言いますよ、怪盗キッドさん?」
「……何を言っているのかね、私は…」
「まず、史郎さんと声が違う。昨日今日初めてあった人ならともかく、10数年の付き合いがある人の声を聞き間違えたりはしない。俺は特別耳が良いんでね。それに匂いだ」
「匂い?」
「史郎さんはもう五十路に入っている。当然加齢臭がするんだよ。ソレがお前からはまったくしない。匂いから判断するに10代、男子高校生って所か」
「……オメーどういう鼻をしてるんだよ。こっからそこまで10mは離れているぞ。しかもオレの本当の年代まで分かるもんなのか…?」
「そんなことはどうでもいい。本物の史郎さんはどうした?返答によっては……」
「おいおい、そんなおっかない顔すんなよ。彼には電話で出航が二時間遅れるって言ったから今はまだ東京の自宅にいるはずさ。オレは変装する相手には無傷でいてもらうことがポリシーなんでね」
「……嘘は言っていない、か。ならいい」

そういうと俺は踵を返した。

「オレを捕まえないのか?」
「もう船は出港してしまった。お前を捕まえるとこのパーティがめちゃくちゃになってしまう。そんなこと俺には出来ない。加えて朋子さんはキッドが来ることも余興として考えているようだしソレを崩すのも忍びない。それに俺は警察でも探偵でもない。お前を捕まえるのは本職の人に任せることとするよ。しっかり挨拶は任せるよ?鈴木会長。それと……」

俺は言葉を切り、一気に扉の前からキッドの前に移動し胸倉をつかんだ。かかった秒数は0.1秒に満たないだろう。キッドにはまさに一瞬で俺が13mの距離をつめたようにしか見えないはずだ。キッドは突然のことに完全に固まっている。

「演出かなにかは知らないが。もし、食べ物を粗末に扱うようなことがあれば……タダじゃ置かないからな?」
「わ、分かった。肝に銘じます」
「うむ。わかればよろしい」

そう言って、胸倉を離し近づいたときと同様のスピードで扉に戻った。

「あ、あんた。そういえば海外でジャパニーズ・ニンジャとかいわれてたな。実際見るとSF並みの動きだなおい。…最後に良いか?どうしてオレが嘘をついていないってわかる?」
「心音は正直だよ?怪盗キッド君」

―心音ってなんでこの距離で聞こえんだよ―そんな声を後ろに聞きながら俺は部屋を出た。

俺はパーティ会場に向かい、毛利一行と合流した。園子ちゃんもその場にいたんだが……ホストの令嬢として挨拶回りとかありそうだけどココにいて良いのかい?その後暫くしてパーティは偽史郎さんの挨拶により無事開会した。開会の挨拶の後、朋子さんが客全員に「漆黒の星」の模造品を胸につけるように指示を出した。これが策らしい。確かに木を隠すなら森の中。こんだけの数から見つけるのは至難だろう。そんなこんなをしていると園子ちゃんが綾子さんがいないことに不審を持った。電話をしてみると綾子さんは東京の自宅にいるというのだ……史郎さんと一緒に。そのことでさっき挨拶をしてたのがキッドの変装した史郎さんということに気づいた新ちゃんが退席した史郎さんの後を追っていった。

「何や、慌しくなってますなあ」
「おや、紅葉。実家のほうは一段落した?」
「ええ、普通に家とお付き合いがある方とは一通り。お父様とお母様がでられへんかったからウチが代表みたいなもんやからちゃんとね。問題はその後や」
「問題?その後?」
「もー。ウチに色目を使ってくる男が多いこと多いこと。露骨に胸に目をやってくるやつもおったしいやらしゅうてかなわんわ」
「……ほう?」
「龍斗がウチの両親にしっかり挨拶してから、許可をもろてから公表と言うか公言しましょ言うとったろ。だからかわすんが大変やったんよ。まあお付き合いしている人がおりますくらいは言わせてもろたけどね」
「こっちに来たんだしそういう輩は俺に任せてくれ。……まあそのドレス姿を見たら血迷うのも分かるけどな。普段は和装で分かりにくいが洋装のおかげでかなり目立っているし」
「もう、どこを見て言うとります?」

紅葉はそう言い、照れてはいるが嫌がっている感じはしなかった。

「まあ、ね。すごいはっきり分かるし腰のラインから足のほうまですごく魅力的な曲線だと思うよ。ドレスの淡い青色も清楚な感じと紅葉自身のせくs…」
「わ、わかりました!わかりましたからもういいです」

そんな風に会話をしていると小五郎さんに縁のある人が何人か挨拶に来ていた。俺も顔見知りだった人がいたので続けて挨拶をさせてもらった。
そうしていると新ちゃんを探しに行っていた蘭ちゃんが帰ってきた。蘭ちゃんに変装した怪盗キッドが。俺のほうを見たキッドはうっげ、といった顔をしていたが俺が首を横に振ったのを見て安心したのか蘭ちゃんの演技をしていた。


「紅葉ちゃーん、つれないじゃないかー」
「もう、私にはお付き合いしている方がいるとおっしゃてますやろ?ほっといてください」

あー、さっき任せてっていったのに。変なのが近づいちゃってるな。20代くらいの……あの感じだと自分で起業したとかじゃなくてどこかの金持ちの子供かな。

「紅葉、こっちにおいで」
「あ、龍斗」
「あん?何だ、てめーはいきなり割り込んできて」
「割り込むも何も恋人に粉かけてる男がいたら止めるだろ」
「こ、恋人?!うそでしょ紅葉ちゃん」
「ホンマですよ。この人はウチの愛しい人の緋勇龍斗です。あと紅葉って呼ばないでと何度言うたらわかりますん?いい加減ご実家に抗議しますよ?」
「またまた~紅葉ちゃんは俺の婚約者でしょ?」
「……あー。そういうタイプの奴か」
「そういうタイプの男なんよ」
「んで、君ほんと誰?緋勇なんて聞いたこともない」
「え、まじで?俺はともかく俺の両親も?」
「はあ~?知るわけねーじゃねえか。テメーの親なんか」


「ちょっと紅葉。俺の父さんと母さんってそんな有名じゃない?」
「そんなわけないやろ!いまや緋勇一家はウチらみたいな人の中じゃ最も有名な料理人や。ウチらみたいに大きなとこじゃなくても最近じゃ弱小企業でも龍斗のお父さんを呼べた所がその後大躍進して今注目の企業に成長したことは業界じゃ有名な話なんよ」
「そんなことしてたのかよ父さん……それでなんであの人は知らないんだ」
「……あの人佐東建設の次男坊なんやけど素行が悪くてな。ウチ以外にも令嬢にちょっかいかけよったから父親と長男の人に謹慎かけられたって噂になってたんだけどなぜか今日は来ててビックリしたんよ。その二人はすごく優秀なんやけど」
「ああ、あの。その二人なら俺も知ってるけど。まさかあの二人の血縁にこんな人が……」
「おい、俺の紅葉ちゃんとくっついてんじゃねえよ!」
「……俺の?」

俺と紅葉が近かったことが気にくわなかったのかそんなことを言って割って入ってきた。こういう勘違い男は口でいっても分からんし、まあいい機会だ。
俺はそいつに見せつけるように紅葉を胸に抱き寄せた。そして若干殺気を籠めた目を向け。

「紅葉はお前の女じゃねえ、俺の女だ。これ以降、紅葉にちょっかいを出すようなら……物理的に-ツブスゾ?」
「あ、あ、あ……わー!」

そいつは俺の本気の目を見たせいかそのまま会場の人波に消えていった。遠巻きに見ていた客たちも俺と紅葉が恋人であることを知って驚いていた。ああ、皆さん俺のこと知ってるのね。

「紅葉ー、追い払ったよ。皆さんの目があるからそろそろ離すよ?」
「あ……」

胸から離すとそんな声がとっさにでしまったのだろう。顔を真っ赤にして恥ずかしがっている…かわいい。俺は腕をそっと差し出すと嬉しそうに組んできた。

「さ、さてと。キッドはどうやって盗むにゃろな!」
噛んだ。かわいい。
「さあて。捕まえるのは新ちゃんと警察の仕事だから口出しはしないけど。キッドはもう近くに潜んでるよ」
「あら、そうなん?」
「ちょっとさっきキッドとあってね。彼の臭いは覚えたからまあ誰に変装してもこれからは分かるよ」
「警察に教えへんの?」
「今回は手出ししないっていっちゃったし、新ちゃんのライバルになりそうだからなあ。まあ臨機応変に?」
「そういう風に決めたんね。なら思うようにするとええね」

そういう風にいちゃいちゃしてると、足元に黒い玉が転がり、煙が出て爆発した。よく見たら模造品とは違う型なのだが客に見分けがつくはずもなくパニックになって外し、入り口に殺到してしまった。俺は紅葉をかばいながら様子をうかがっていた。すると朋子さんが胸につけていた「漆黒の星」が盗まれてしまった。ほー、流石に奇術師。手並みが鮮やか。

「キャー!キッドよ、キッドに「漆黒の星」を奪われたわ!!」

その声に警察の人が集まり誰がキッドなのかを探し始めた。新ちゃんはそっとその場を離れようとした蘭ちゃんの手を捕まえ、人気の無いところへと連れていってしまった。……字面があやしいなこれ。





結局、新ちゃんはキッドを取り逃がしてしまったようだ。俺がキッドの正体が誰か気づいてたことを話すとすっごく複雑そうな顔をしていた。

「それで?俺は怪盗キッドの存在に気づいたら新ちゃんに教えればいいのかな?」
「んなわけねーだろ。誰かが怪我するようならともかく、あいつは紳士であることにこだわりがあるっぽいしな。つーわけで手を出すなよ」
「はいはい、じゃあ俺は答えを先に知っている視点でニヤニヤしながら二人の対決を見ることにするよ」
「ったく、でも次はぜってー捕まえてやる!」

お手並み拝見だ、平成のホームズくん? 
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