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名探偵と料理人

作者:げんじー
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青年期~原作開始(~20巻)
  第九話 -ファンタジスタの花、紅葉来訪-

 
前書き
賛否あると思いますが、こうなりました。

このお話はOVA ファンタジスタの花 を元にしています。 

 
俺達四人は無事中学生活最後となる三年生へと進学した。料理部は結局10人残り今年もまた新部員も補充で来たので、俺の代で廃部になるなんてことは免れた。
高校ではさらに本格的に依頼を受けていこうと思うので、もしかしたらこれが最後の部活動となる……かもしれないと思うと感慨深いものがある。

そして、体育系の部活の大会が始まる夏になり俺は新ちゃんの都大会決勝の応援をしに来ていた。現在のスコアは帝丹中学2点に対し、相手の奥穂中学が4点の2点ビハインド。後半で残り時間も少ないため、もう負けは決まったと帝丹中学側はあきらめの雰囲気を漂わせていた。だが、

「おお!新一君がカット!!」
「っ!!」

相手のパスをカットし、相手のエリアに切り込んでいく新ちゃん。3人に囲まれそうになった瞬間、2年生FWの水嶋にパスし、水嶋はゴールを決めた!
更に、アディショナルタイムに突入し新ちゃんが今度はゴールを決め、勝敗はPKにもつれ込んだ。
そして……
――――カン!!

帝丹中学最後のキッカーの新ちゃんがゴールを外し、優勝と全国大会の切符を逃した。

それからしばらく経ち、園子ちゃんが新ちゃんが1年の女の子と仲良くしてるのを見たと騒いでいた。丁度、サッカー部の3年VS2年の試合をやると言うので屋上で見学することにした。
「ひどい、水嶋君!女の子にあんな当たり方を!!」
「そうね、ひどいひどい!あ、でもあの子また立った」

どうやら、水嶋はあの子に思うところがあるらしく彼女がボールを持つと強い当たりでディフェンスしていた。しっかし、なんで3年のチームに…ああ部長の外岡が仕組んだのか。あいつバカだけど目端が利くし部員の和を作るのが得意だし3年が抜けた後あの子がいやすくするために今回の試合組んだな。
最初はひどいひどい言っていた女子組は何度倒れてもすぐに起き上がるあの子―サッカー部の声援からして沢村と言うらしい―を見て応援に回っていった。結局、最後に彼女がディフェンスを踏み台にして飛び上がって決めた反則ギリギリのボレーシュートで試合は終わった。

「ねえ蘭?新一君に確かめなくてもいいの?」
「確かめるって何を?」
「何をって……はあ、そろそろ色気づいてもいいんじゃないの?」
「色気づくって?」
「だーかーらー。もう、龍斗お兄様、言ってやってくださいよ?」
「お兄様言うなお兄様と。ま、俺からは新ちゃん頑張れってことだな」
「なによー、龍斗君までそんなこと言ってー」

新ちゃんの春が遠いな。


あの試合があって夏休みを挟み、二学期になった。いつものように3人で登校しているとあの後のサッカー部の様子を前を歩きながらリフティングしている新ちゃんが話してくれた。

「……それで、オレにたりないことを沢村から教えてもらったよ」
「さっきから、沢村って子の事ばっかり。もしかして新一、その子のことが好きなんじゃない?」
「あ、?バーロ――!?」

何とも信じられない言葉が蘭ちゃんから出て新ちゃんはボールをけり損ねた。そのボールは蘭ちゃんに向かっていき

「ふっ!!」

蘭ちゃんの上段蹴りで見事に新ちゃんの手の中へとおさまった。あーあーあー、スカートであんな蹴りして。そんなことしたら。

「しろ……」
「ん!!」

あわててスカートを抑える蘭ちゃん。まあ真正面にいた新ちゃんに見られるわな。んで次は、

「あ、やべ」
「こらー、新一!!!!」

追いかけっこが始まるわけだ。ま、いつもの光景だし平和でいいねえ。



秋も深まったある日、俺は雑誌で気になる記事を見つけた。
『中学三年生の大岡紅葉さん、特別枠で出場した高校生皐月杯でチャンピオンに!』おー。

「なになに~『並み居る高校生を退け、優勝を勝ち取った美少女クイーン!』だって。龍斗君もこんなの読むんだね。女の子に興味ないって思ってた。てかこの子大岡家のご令嬢じゃない」
「どーいう意味かな?園子ちゃん。あと、流石に知ってたか」
「まあね、何度かパーティで見たことあるし」

後ろから俺が読んでた雑誌を盗み見て、そんな言葉をくれた園子ちゃんに引きつりながら聞いてみた。

「だって、上から下までいろんな人に告白されてんのになしの礫だし。何度私に相談が来たことか。それにファンレターなんて世界から来てるんでしょ?」
「いや、別に女の子に興味ないわけじゃないって。ただ、この子とちょっとね」
「龍斗、この子と知り合いなのか?」
「そうなの?龍斗君」

いつの間にやら三人に囲まれて聞かれたので京都であった顛末を話した。

「……ったく、新一君も気障なセリフを吐くけど龍斗君も素直に褒めるよね小さい時から。綺麗だ可愛いだ、いい子だなんだって」
「そだね。しかも本音で言ってるし」
「気障ってのには引っかかるが、龍斗の事に関してはオレも同意見だ。俺達幼馴染みは言われ慣れてるがあったばかりの子にそんなこといってたらオメーいつか刺されんぞ」

なんと!幼馴染にはからい評価だな。まあ確かに普通の子供はそんなストレートに褒めたりしないか。

「まあそんなわけで、この子とは縁があってね」
「なるほどなー。しかしオメーはどーなんだよ?」
「俺?」
「その子との約束だよ約束!どう思ってんだよ」
「んー。そーだなあ、初めて…まあその一回だけなんだけど。あった時は対戦のこともあってずっと見てたわけだ」
「ああ、聞いてみると改めてオメーが馬鹿げた身体能力を持ってるって思ったぜ」
「うっせ……それでひたむきにやっている表情を見ていいな、とは思ったよ。負けそうになっても芯の強いあのまなざしは心に残ってる。この雑誌を見るに思った通り綺麗になってたしな」
「おお?おお?龍斗君にしてはホント珍しい反応だね!もしかしたらもしかする!?」
「さてね。でもいきなり結婚ってことには行けないだろ?次会ったとき、俺が本当に世界一になっていたら告白してみるよ。お嫁さんにして!って向こうから言われたから今度はこっちから付き合って下さいってね。まあ向こうが覚えてるとは限らないけどな」
「ええ、絶対覚えてるわよ!いいじゃない、ラブロマンスみたい!」
「……それで?本当の世界一ってなんだよ。もう世界一の称号は二年前にとってんじゃねーか。あと、臆面もなく告るなんてよく言えるな」
「四年ごとにある大会。あれのシェフ部門に出る。次は二年後の高校二年生。父さんが優勝した大会だ」
「……っは!?いや、まあ確かにお菓子作りの腕だけじゃなくて料理もウメーのは知ってる!でも流石に二回も推薦枠で出るのはリスキーじゃないか?それにオレも調べたけどオメーんとこの家族がおかしいだけで普通は30歳以上のベテランばっかでてんだぞ?30でも若い方だ!!」
「そこは、地道な努力が実ったってことで。スイーツ目的で呼ばれたところで料理を作ったりしてな。着々と実績作りは積んでるんだ。あと二年。その伝手で参加権を勝ち取って見せるさ」
「ほへー、確かその大会の最年少優勝記録って緋勇のオジ様よね?確か20代前半。二つして破るつもり?」
「当たり前だよ、なんたって俺は……」
「「「父さんと母さんの子供だから」」」
「耳にタコができるくらい聞いたよ、そのセリフ」
「ははは……」
「じゃあそれで優勝したら……キャー――!OK貰えるといいわね!!」
「しかし、大岡家に龍斗君を盗られるのはなんか釈然としないなあ。うちでシェフする話諦めてないのよ?」
「盗られるって園子ちゃん……まあそんな感じさ」

俺がこんな話をするのは初めてだったので最初は面食らってた三人だったが最後には応援してくれた。…意外と、離れて大きくなる想いってのもあるもんだな。


そして、俺達は中学校を卒業した。





卒業してから帝丹高校へと進学する春休みの間、俺は実績作りのためにずっと海外にいる両親について多くの料理を作っていた。学生である以上、そしてあの宣言をした以上、時間がガッツリとれるのは休みの間だけなので俺は入学式ぎりぎりまで海外で腕を振るっていた。帰ってきたのは入学式前日のことだった。



「え?NYに行ってきた?」
「ああ、俺と蘭とで二人でな。散々だったぜ、飛行機でミュージカルで殺人が起きて。しかも連続通り魔にも遭遇するしよ。唯、蘭には事件のことは何も言わないでおいてくれ、忘れちまってるみてーなんだ」
「忘れている?」
「ああ、高熱でぶったおれたんだ」

くっそ、これは新ちゃんが初めて解いた事件って覚えていたのに。確か「高校生になったばかり」って誰かが言っていたからGW当たりにでも行くと思ってたんだが。よもや入学式前にいってたなんて。
それにしても、ココから「高校生探偵工藤新一」が動き出すわけか……

「新ちゃん」
「……でだな、俺はこういってy…なんだよ、そんな真剣な顔して」
「新ちゃんはこれから本格的に探偵としての夢を追い始めると思う。止めたりはしない。でもね、その道は危険と隣り合わせな道だよ。忘れないでほしいのは必要以上に自分で危険なことに首を突っ込んでいかないこと」
「……わーってるよ。約束するよ」
「絶対だからね」

今はこれくらいしか言えることはないか……

「そうそう、NYに行ったときシャロン・ヴィンヤードに会ったんだけどさ。オメーありゃなんなんだ」
「なんなんだと言われても?何かあったの?」
「あの人のオメーへの好感度の高さだよ。会話の端々ににじみ出てたぞ」
「えっと、俺もわかんない」
「俺達が散々な目にあったってーのに後日電話した母さんの話だと良いことあったみたいだったしよくわかんねー人だったな」
「ふーん。いつか再会するときが楽しみだなー」





高校生になって俺は出席日数に影響しない程度に学校を休み、色々な所に出張していった。新ちゃんも事件に遭遇したり、警察に協力を要請されたりとで少しずつだが知名度を上げていた。
たまに馬鹿やって遊んで、勉強して蘭ちゃんの空手の大会に皆で応援して、そこで蘭ちゃんより強い同校の先輩が存在し、蘭ちゃんが準優勝だったのに驚愕して、なんて日々を過ごした。





今日、俺はアメリカのとある墓地にいた。シャロン・ヴィンヤードの葬儀に参加するためだ。

『通っていた学校はどこか?』『母娘の不仲説は本当か?』『父親は誰なのか?』『噂の恋人はこの葬儀に来ないのか?』

ん?あの人は……おいおい。一応彼女は母親の葬儀に参加しているのに質の悪いジャーナリストだな。対するあの人は『ノーコメント』でやりすごしているみたいだけど。あ、捕まった。そりゃあそうだ。常識ある人ならとめるよな…ん?最後のあがきか?

『知られたらまずいことでもあるのか!?』
「……A secret makes a woman woman...」

シャロンさんの棺に背を向けてそう言い放った。葬儀に参加している人はその台詞の奇妙さに少し騒然としている。…あ、目があった。

「!!?」

ちょっと動揺していたけど流石は女優か。すぐに澄まし顔になって……あ、こっちに来た。

『あなたは……母のお気に入りの子ね。わざわざ日本からご苦労なことね』

おいい!?ここにはあのマスゴミがいるんだぞ!?そんな意味深なことを…ほら皆こっちに注視してるし。

『ええ、七歳の頃から私の料理のファンになっていただけたので。この度はお悔やみ申し上げます』
『……ええ。ありがとう』

こ、これでフォローになってるよね?一々会話に気を付けないといけないなんて有名人って面倒だな。

『これ、こんな場で渡すのはおかしいですがシャロンさんの棺に添えようかと思って作ってきたマフィンです。ですがクリスさんにお渡します』
『あら、母に捧げなくていいのかしら?』
『そうですね。これはある意味始まりのマフィンです。あなたにも懐かしい味のはずですよ。これからも笑顔を忘れたときは何時でもいってください』
『!!え、えっと…?なんのことかしら?』

そう、初邂逅から約10年結局マフィンを贈ったのは最初の時だけだ。だから懐かしいはずだよ……シャロンさん……

「それではまたいつか。笑顔の約束、俺はずっと忘れてませんよ」

そういって、俺は彼女に背を向けて墓地をあとにした。
後日、俺はシャロン・ヴィンヤードのお気に入りだったことが少しだけワイドショーを賑やかにしたが数日たてばそれも次の話題にかきけされていった。





そして11月、

「龍斗君、また大岡家のご令嬢優勝したみたいよ」
「ああ、知っているよ。雑誌の取材にも答えてたね」
「そうそう、私や新一も読んだけどその内容に……」
「「「大切な約束のためにウチは負けてなんかおられんのです!」」」
「……」
「しっかり覚えてるみてーだぜ?あの約束ってやつを」

くっそ顔が熱い。こいつらにからかわれるのが一番恥ずかしいわ。新ちゃんなんてにやにやした顔を隠そうともしないし。

「わかってる、わかってるって。俺も実は今日の放課後雑誌の取材を受けるんだよ」
「え?まじで」
「まあ料理の本なんだけど俺のお菓子のレシピが載るってことで大々的に宣伝してるみたいだ」
「あ。私そのCM見たことある!聞こう聞こうと思って忘れてた!!」
「まあそんなわけでそこで俺も返そうと思うよ」
「へえええ!なんて書かれるのか今から楽しみね!」

その次の料理本は大ヒットを記録し、料理本としては異例の出版数をたたき出した。俺の取材の内容がネットで拡散されたからだ。
―――今後の目標は?―――
来年の世界大会、そのシェフ部門で優勝してこようかなと。まだ、俺は半分しかとってきていない。大切な約束を果たすためにもう一つの世界一を取りにいきます。
―――約束とは?―――
それは言えません。でもわかってくれる人には分かってくれると思います。

この、史上初の二つの世界一を取る宣言のおかげで他のマスコミからの取材依頼がうちにかかってくることになってしまった。(以前の騒ぎの際に学校に電話した者の取材を受けないといったせい)まあ受ける気はないんで放置していたが。そしてこの取材のせいでとんでもないことが三学期に起きることになる。







「はじめまして。ウチ、京都泉心高校から転校してきた大岡紅葉と言います。みなさんよろしゅうお願いします」

三学期が始まったその日、担任に連れられて俺らの教室に入ってきたのは大岡紅葉だった。
その姿を見た幼馴染みたちは固まり、他のクラスのやつらも紅葉の姿に気を取られ唖然としてた。

「ああ、大岡は緋勇の隣だ。大岡、困ったことがあれば緋勇に聞け。あいつは頼りになるぞ」
「ええ、おおきに。でも知ってますよせんせ」
「??」

そういうと、俺の方へと向かってきて

「あの雑誌みて待ちきれんくなって、きてしまいました龍斗クン。ずっと会いたかった……!!」

そういうと、座っていた俺に思いきり抱きついてきた。周りは突然のことに悲鳴を上げ騒然となってしまった。

「も、紅葉。俺も会いたかったし、抱きつかれるのもすげー嬉しいんだが。こういうのは始業の時間にするもんじゃないと思うんだ。だからとりあえず離れてくれないか。席も隣だし話をしよう?」
「もう、ほんにいけずなひと。でも、ありがと。嬉しいって言ってくれて。改めてよろしゅーね龍斗クン!」
「ああ、よろしく紅葉……せんせー、お騒がせてすみませんでした!始業の続きをお願いします!!」
「お、おおう。つくづくお前はマイペースというか大した大物だよ」

突然のことに固まってた先生にそういうと再始動した先生にそう言われ始業の連絡事項として二時間目の教師が病欠のため自習になったことを告げられ、そのまま一時間目が始まった。そして、授業が終わったと同時に紅葉に人が群がってきた。まあそうなることを予想してたので、俺は先んじて幼馴染み三人と合わせて紅葉を伴い屋上へと向かった。
ああ、ごういんなとこもあるんやね…なんて聞こえた気がするが気がするだけだ!!

「さて……と。紅葉。幸い二時間目は自習だったことだし時間はある。どういう事か教えてほしい」
「言うたでしょ?我慢できなくなったって。その前にこのこたちはなんなんです?」
「オレ達四人は保育園時代からの幼馴染みなんですよ。オレは工藤新一」
「私は鈴木園子。私のことは知ってるわよね?大岡家のお嬢様?」
「私は毛利蘭。龍斗君の幼馴染みです」
「ええ、鈴木園子さんのことは知っとります。それにしても幼馴染みですか……」

そういうと三人の、いや女性陣のほうをじっと見やる紅葉。その視線に気づいたのか

「ああ、心配しないで。私たちに龍斗君への恋愛感情はないから!小さい時から面倒を見てくれたお兄ちゃんってとこよ、ねえ蘭?」
「え、ええ。私も龍斗君をそんな目で見たことはないです」

二人の様子に嘘はないと分かったのか探るような視線はやめた。

「それで?オレ達も約束のことは教えてもらってる。から、わかんねーんだよな、大岡が転校してきたのが。約束の内容からまだ会う時期じゃないんじゃねえか?」

「それは……」

そうして紅葉が語った。俺が中一でパティシエ世界一をとったことで約束をこんなに早く果たしてくれてうれしかった事。でも料理人になると言っていたのにパティシエ世界一であることに疑問を持ったこと。中三で高校生皐月杯で優勝したことで一応の日本一になったことで会いたい思いが強くなったこと。そして大岡家の力を借りて調査し俺が国内外問わず色々なパーティのデザートだけではなく料理を作ることによってもしかしたら…と思ったこと。因みにパーティで俺と会うことがなかったのは紅葉が避けていて遠目から俺のことを見たことはあって、そして料理を作る真剣な姿に見惚れていたこと。そして高一で取材を受けたとき俺も取材を受けることをCMで知ってもし自分のことを意識してくれていたら何か反応があると思ってあの言葉を掲載してもらったこと、そして12月発売の俺のコメントをみて……

「いてもたってもいられんかったんです。あの約束は、ウチにとっての日本一はクイーンになることです。でも会いたいって思いがどうしても強くなりすぎて。あの約束を。世界一になったらなんて途方もない夢をかなえていく姿を、遠くで見ているなんて耐えられへん!!」

紅葉は泣いていた。他の三人はその迫力に圧倒されていて一言もしゃべれない様子だった。

「紅葉。そこまで俺のことを想ってくれているなんて想像もしてなかった。俺も、あの対戦で君のその真っ直ぐな瞳を見てから、その瞳で俺のことを見続けていてほしいと成長するにつれ想うようになった。あの時、俺は紅葉の在り方に惹かれていた。俺は紅葉の事が好きだ。だけど俺も紅葉もまだ約束を半分、果たしただけだ。でも俺はここまで想ってくれている離したくない。だから俺と付き合ってくれ。そして、お互い約束を果たしたとき結婚してください」
「「「「!!!!」」」」

いきなりの俺の告白に衝撃を受けた様子の四人。そりゃあこれ、もうプロポーズだもんな。
沈黙がしばらく続いた後。

「ふ、ふつつかものですがよろしくおねがいします……」

そう、小さな声で返事を貰った。



フリーズしたままの三人もつれ、俺達五人は教室へと帰ってきた。俺と紅葉が手をつなぎ、紅葉の顔はその名に変わらぬ真っ赤にして。他の三人も茹でダコのように真っ赤になってフリーズして機械的に足を動かし席に着いたのを見て、俺達に突撃したそうにしていたクラスメイト達もただ事じゃないことが起きたことを察して自重してくれた。

その後、やっと三人のフリーズが解けたのは昼休みに入ったころだった。それまでの授業は妙な緊張感が支配しており、私語もなくその雰囲気に教師も飲まれたのか粛々と授業は進んだ。

「そ、それでなんだがな。緋勇。彼女のことについて聞いていいか?なんだかただならぬ関係なのは分かるんだが。その本人がニコニコしながらお前の腕に抱きついて顔をじっと見てるだけで反応しないから聞くに聞けなくってよ……」

お昼が始まったので昼食を取ろうとすると紅葉はすっと寄ってきて腕に組みついた。お昼を食べるように言っても聞かないのでいつも持っているお菓子から金平糖を出して口元に持っていくと嬉しそうについばんだ。

「ああ、まあうん。俺もこうなるとは思っていなかった。どういう関係って言えば現在恋人将来の婚約者?って感じだ」

婚約の言葉が出たところで紅葉はより一層抱きついてきた。……やばい。

「こ、こんやくしゃあああああ!!!!!??」

その声に転校生を見に来ていた野次馬もクラスの残ってた連中も大騒ぎになった。





放課後になった。あのあとは収拾がつかなくなり大混乱が起きたがそのまま昼休みが終わってしまい昼食を食べ損ねてしまった奴らが更に騒いでいた。
どうせ放課後もうるさくなりそうだったのでさっさと帰ることにした。

「紅葉って今どこに住んでるんだ?送っていくよ」
「ウチは今ホテルに住んでってん。中々いい物件があらへんので。龍斗クン、心当たりない?」
「心当たりねえ、じゃあ散策も兼ねて少し近所を回ってみようか。放課後の用事は?」
「ウチはもう帰るだけです」
「あ、今日わたし稽古があるから部活に行くね」
「私もテニス部の部活あるから~後は任せた新一君」

そういうと女子二人はさっさと教室の出て行ってしまった。そして残った一人に自然と目が向けられた。

「あ、えっと。確かにオレは今日何も用事はねーけど」
「じゃあ一緒に帰るか、紅葉もいい?」
「ええよ」
「それじゃあ校外に出よう。紅葉、新ちゃん」

俺は二人を伴って近所の不動産屋を回ったが紅葉の琴線に触れる物はなかった。

「中々ないもんだなー」
「そういえば、紅葉は一人でこっちに来たのかい?」
「いいえ。傍仕えの伊織が今ホテルに待機してはります。あ、もちろん部屋は別ですよ!?こっちに来る許可をくれた両親の条件が伊織を伴って、やったんです」
「じゃあ、俺の家に二人で下宿するかい?ほぼ一人暮らしだし元々部屋は余ってるし。両親には好きにしてもいいって言われているから反対はされないと思う。二人っきりの同棲だと問題あるだろうけど大人が一人でもいれば印象がだいぶ違うだろ?」
「……ウチ、こんな幸せなことがあってええんやろか……?同じガッコで同級生やるだけでもいいって思ったのにプロポーズされてそれにこれから一緒に住もうって言われるなんて。まあ二人っきりやないのが不満と言えば不満ですけど」
「俺達は高校生なんだし、お互い世間の目を気にしないといけない立場だしこれは受け入れよう?……それに二人っきりだと俺がまあ、襲っちゃうかもよ?」
「……っ!そんな襲うやなんて、物騒やわあ、龍斗クンは。返り討ちにしてあげるで?」
「あーあーあー。俺、今日一緒に帰った意味あったか?すっげーいたたまれないんだけどそこのバカップル」
「はっはっはー。勿論あるに決まってるじゃないか。いっつも俺が三人で帰っている時に新ちゃんと蘭ちゃんのやり取りを聞いて味わってることを新ちゃんに味あわせるためと、幸せを見せつけるためさ」
「あら、新一君と蘭ちゃんはつきおうていますの?」
「い、いや付き合ってなんかいねーよ!あんなみょーちくりんと!!」
「……因みに蘭ちゃんに聞くと『付き合ってないわよ!あんな推理オタクと!』って返ってくるよ」
「なるほど、幼馴染み同士の素直になれない仲ってやつやねえ、和みますわぁ」
「だからちげえって!」
「ま、それは置いといて。どうしようか。これから」
「置いとくな!ったく、じゃあオレはここで先帰るわ。つきあってらんねーぜ」
「はいはい、付き合ってくれてありがとね。また明日」
「ほな、また明日」
「ああ、二人ともまた明日。いちゃつくのも大概しとけよ?」

そう言って、新ちゃんは帰って行った。その言葉に紅葉は顔を赤らめて。
「い、いちゃつくて。何を言いてはりますのやら。そ、それでこれからどうします?」
「とりあえず伊織さんのいるホテルに行って事情を話そう。早ければ早い方がいい」
「そうしましょか。それじゃあ行きましょ」

そう言って、紅葉が宿泊しているというホテルに向かった。そこで会った伊織さんに事情を説明すると「早速準備しましょう」とてきぱきと手続きを始めてしまった。
俺達が結婚を前提にお付き合いするということを報告すると準備の手を止め、一瞬間を開けて殺気を向けてきた。……ああ、これは。こちらもそれに応対するように圧を掛けると顔中に冷や汗を浮かべて殺気をおさめた。

「……流石はお嬢様の選んだ相手。まさかこれほどとは」
「なんというか。俺は紅葉を守る「力」についてはこの世界で一番だと思っているよ」
「な、なにを突然いうとりますん?龍斗クン。恥ずかしいわあ。伊織もすごい汗かいとるけど大丈夫?」
「ええ。大丈夫ですよお嬢様」

やり取りは一瞬で声を発したわけでもなかったので紅葉には気づかれなかったらしい。

「龍斗様、お嬢様の事。よろしくお願いしますね」
「ああ、任せてください」
「??」

一応、お眼鏡に適ったのかな。後は人となりとかあるだろうけどそれは一緒に暮らしていくうちにお互い分かっていくだろう。……男としてじゃなくて妹か娘をとられる身内の反応だったのは正直ほっとしたが。

伊織さんの手際のおかげでなんと二日後には家に業者が届くらしい。俺達が学校に行っている間に片付けは済ませておくそうだ……大岡家の傍仕えすげえ。


「これから末永くよろしゅうね、龍斗クン♪」 
 

 
後書き
感情の発露とか、告白のセリフとか、いきなりいちゃつくとか、もう半分オリキャラになってる気がする紅葉さんでした。
いちゃいちゃを書く文才が欲しい。
映画とちょこっと出てきただけなのでもううちの紅葉さんはこんな感じにします。主人公にぞっこんでストレートに物言い、でも繊細で。強気な言葉で不安を隠す、みたいな性格です。 
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