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楽園の御業を使う者

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CAST21

「ふーん…ここがFLT本社かぁ…」

目の前の大きなビルを見上げながら、俺の心はワクワクしていた。

FLTは千葉家が開発設計している白兵武装の製造を任されている企業であり……

四葉家の傘下の企業だ。

表向きは全く無関係だが、数段階踏んでほぼ全ての株を持っているらしい。

「ええ、ここなら白夜君の好きな研究が好きなだけ出来るわ」

俺の隣の、少女のような外見の女性が言った。

「でも良いんですか?本家をほったらかしにして?」

「いいのよ。それに今の私を見て四葉真夜だとわかる人間なんて居ないわ」

隣の女性…真夜さんを見上げる。

40過ぎてあの若さだ、肉体が20代ならばそれ以下…十代後半に見えて当然である。

しかし見れば見るほど深雪さんに似ている。

まぁ、一卵性双生児の片割れなのだから、もう一方の片割れの娘と面影が似ていて当たり前ではある。

真夜さんと言えば夏の別れ際の件だが…

どうも言いづらいので此方からは何も言わない。

多分真夜さんも何も言わないだろう。

「所で収録はいいの?」

「本日の白夜様のスケジュールは特にありません。
強いて言えばFLT訪問程度です」

と俺の後ろに控えていた水波が答えた。

「あら、すっかりマネージャー業が板に付いて来たわね」

「はい。ですが、ガーディアンの務めに関しては、務めを果す事が少ない事が理想です」

「それは俺がトラブルメーカーだとでも言いたいのか?」

「滅相もございませんMy Master」

マイマスターの所だけやけに発音良いなオイ。

「さ、二人とも、早く中へ入りましょう?
中に達也さんが待ってるわ」

ゲートを通り、エントランスに入る。

「白夜君はどういうのが得意なのかしら?」

エントランスでカードを受け取り、達也が待つ部屋へ向かう途中、真夜さんに問われた。

「俺は…そうですね…どちらかと言えば術式の方が得意です。
ハードよりもソフトですね。
あとCAD本体は武装一体型が得意です」

「あら?そうなの?」

「ええ、今構想があるのもほぼ武装一体型CADですよ」

まー、ぶっちゃけ前世で見ていたアニメやマンガの武器を再現するのが好きなのである。

前世、といってもこの世界にも作品が存在するのでかなり古い物なのだが…

「それなら丁度いいわ。武装一体型CADはまだまだ参入する余地があるもの」

そして、第三課と書かれた部屋に入ると、達也と深雪さんが居た。

「来たか白……………!?」

「どうされましたお兄さ…………!?」

あ、二人が真夜さん見て固まった。

「よう、二人共。
気持ちはわかるが今朝この人にインターホン押された俺より驚くなよ」

すると達也が復活した。

「………………………なんとお呼びすべきでしょうか?」

「御忍びだから…そうね、極夜とでも呼んでくださる?」

極夜…俺の真反対じゃねーか。

「わかりました、極夜様。本日はどのようなご用件で?」

「白夜君に会いに来たついでに御忍びでFLTの視察よ」

「そう、ですか」

達也の顔がひきつっている。

深雪さんは未だにフリーズしてるし…

「どうされました御曹司?」

奥の方かたアフロ頭が出てきた。

なんとも言い難い達也の顔を見た後、彼は此方を見た。

「おや?御曹司そちらの方々はどなたで?」

「俺は質葉白夜です。こちらは付き人の桜井水波。
そして彼女は…」

あれ?真夜さ…じゃない、極夜さんをどう紹介しよう?

「質葉極夜、白夜君の姉ですわ」

「はぁ、なるほど」

納得しちまったよこのアフロ頭!?

達也も苦笑いだし深雪さんは回復しそうな所を再びフリーズ、それに水波もフリーズしだしたよ。

「ん?質葉白夜?………君、もしかしてテレビに出てる…?」

「はい」

「ふむふむ…御曹司から腕のいい魔工師がいると聞いていたが…
まさか君だとは…」

「所で貴方のお名前は何と言うのかしら?」

「ああ、すいません。私は牛山と申します」

あぁ、やっぱりこの人がトーラスか…

「では牛山さん。白夜君に説明してくださる?」

「ええ、喜んで。御曹司の紹介とあれば期待できますから」

なんだ?やけに達也への信頼が厚いな…

「おい達也、お前何したんだよ?」

「CADの新システムの企画書を牛山主任のデスクに紛れ込ませただけだ」

ふーん…

「白夜君、極夜さん、ご説明しますので此方へ」

牛山さんが呼んでいる。

「いきましょう白夜君」

なんと言うべきだろうか。

そう、一言で言えば、『魔がさした』としか言い様がない。

「うん!極夜お姉ちゃん!」

あれ?なんか周りが固まったぞ?

「え、えぇ、白夜君」

あー…やっぱり似合ってなかったか…

滑った…猛烈に滑った…




side out

か、可愛い!

カッコいいだけじゃなくて可愛いなんて、本当にもう、どうしようもない子ね。

ああ、早く白夜君を私の物にしたいわ。

でも、その為にも先ずは…

side out





牛山主任の説明の後、俺は構想している武装一体型CADとそれに付随するシステムを紙に起こしていた。

「白夜…おまえ…」

「んだよ?文句あるか?」

「いや…使えるのかそれ?」

「ファングか?」

今書いているのはガンダム00に登場するファングをモデルにしたCADだ。

「コイツにはCADの並列起動補助システムをハード面で仕込む。
それによって魔法刃を展開した数機の子機が相手に飛んで行くって仕組みだ」

「CADの並列起動だと?」

「ああ、複数のCADを群体制御もしくは個別に制御する。
そしてそれぞれのCADが魔法を発動するって訳だ。
その過程でサイオン波を干渉しないようにするのは少しテクニックがいるがな」

「ふむ…筋は通っているが…
現段階でも存在する技術では?」

「いや、飛翔体を刃にする魔法はあるが、CADを飛翔体にした物は実は無いんだよ。
それよりも魔弾の射手とかの方が使えるからな」

「なら何故そんな物を作るんだ?
はっきり言って無駄ではないのか?」

「わかってねーなー、ロマンだよロマン」

「は?」

呆けた顔をする達也を他所に、ポケットから端末を出す。

それに検索ワードを打ち込み…

「ほれ、これが元ネタだ」

「機動戦士ガンダム00?…………百年も昔のアニメ作品の武装か?」

アニメの武器の再現というのもあるが、俺にとってはこちらの方が都合がいいのだ。

"人形を扱う程度の能力"は5~100くらいまでなら、群体個別制御に補正がかかるのだ。

俺は七宝のミリオンエッジを再現するのは不可能だが、このファングを使えば似たような事ができる。

「そそ。
しかも驚け、ブレード部分には圧切りを使う」

流石にこの世といえどGN粒子は存在しないからな。

荷電粒子をエッジに展開するという案もあったが、そっちの方が面倒なので圧切りを使う。

まぁ、使い慣れていると言うのが一番の要因だがな。

「圧切りだと?ああ、たしかお前はCAD無しで展開できたな…」

「やー、修兄様々だよ」

「シュウニイとは誰だ?」

「千葉修継…幻影刀って言ったら解る?」

「理解した」

「やー、千葉家の生まれでよかったよ。
近接系統なら殺傷ランクAの高難度魔法の式だって置いてあるしねぇ」

「物騒極まりないな」

「おや、君が言うのか四葉君?」

「それもそうだな」

それから俺と達也は、嬉々としてCADトークを続けた。

side out







上司に噛みつき、社内で全く役に立たない開発部に回され早数年…

しかし、そんな俺にも転機が訪れた。

それは重役の息子である司波達也。

そしてメディアでも活躍している質葉白夜。

「いやぁ、極夜さん。貴方の妹は素晴らしいですな」

白夜ちゃんの姉だという女性は、少し離れた席に座り、妹を愛しそうに見つめていた。

先程御曹司と白夜ちゃんの話を盗み聞きしたが、全く付いていけなかった。

俺の専門はハード。

だがソフトがからっきしという訳ではこの職はやっていけない。

それに窓際とはいえ最大手のFLTのエンジニア…他の者より知識は有るという自負があった。

だがどうだろうか?

今や子供の話す内容にすら着いていけないとは…

「ええ、白夜君と達也さんならば、きっとこのFLT…いえ、この日本という国を支える者となるでしょう」

「でしょうな」

極夜さんの言うとおり、二人はこれからの日本を支える魔工師になるだろう。

「ああ、所で牛山主任。今日は達也さんのお義父様はいらっしゃるのかしら?」

「ええ、来ていると思いますが…」

何故本部長の名前が出てくるんだ?

「では、少し席をはずしますわ」

「は、はぁ…?」

席を立ち、第三課から出ようとした極夜さんは、唐突に足を止めた。

「牛山主任」

振り返った彼女の目は、ガラス玉のように何も写していなかった。

「はい」

「極夜君と達也さんの事は、第三課の外には漏らさないでくださいね。
例え社内であろうと、二人の事は内密に。
でなければ、貴殿方第三課メンバーの命の保証はありません」

殺気

マンガやアニメ、小説で見掛ける言葉だが…

なるほど、殺気とは実在するらしい。

「わ、わかりました」

「では。少ししたら戻りますわ」

カシュンと閉まったドアの向こうに消えた彼女が、とてつもなく恐ろしい化物に見えたのは……

俺の錯覚だろうか…?

俺達第三課、いや、FLTは、とんでもない物を、懐に抱え込んだんじゃないのか…? 
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