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とある3年4組の卑怯者

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99 疎開(くもがくれ)

 
前書き
 スケートの大会を明日に控え、緊張が昂ぶる藤木。和島に勝つため、不幸の手紙で皆を見返すために明日に賭ける事を誓う。一方、泊めて貰う場所を各務田の仲間から追われながら彷徨う永沢が出会ったのは宿敵・城ヶ崎だった!! 

 
 永沢と城ヶ崎は城ヶ崎の家に到着した。その間、各務田の仲間に一人も遭遇しなかった事は不幸中の幸いだったかもしれない。
「はあ、はあ、只今・・・」
「お、お邪魔します・・・」
 城ヶ崎の母が出迎えた。
「ママっ、永沢を家に泊めてあげてっ!」
「ええ!?永沢君も!?」
「も、ってどういう事っ・・・?」
「さっき、永沢君のお母さんが来て、太郎君を預けて欲しいって言って行っちゃったの・・・」
 城ヶ崎の母は太郎を抱えていた。
「なんで太郎を・・・、一体父さんと母さんは僕達をバラバラにして何を考えているんだ・・!?」
「きっとあんたに助かって欲しいんじゃないのっ・・・?」
「あ、そうそう、姫子、永沢君のお母さんから太郎君にあなたのピアノを聞かせて心を落ち着かせて欲しいって言ってたわ。だから少しピアノを弾いてあげて・・・」
「えっ!?う、うん・・・」
 城ヶ崎は泣き止まない太郎を母から受け取り、ピアノの部屋に連れていった。そして、太郎を自分の膝に座らせ、ピアノを弾き始めた。
「すまない、城ヶ崎、君に迷惑を掛けて・・・」
「いいわよ、別に。太郎君も可哀想だったし・・・」
 城ヶ崎がピアノを弾くと、太郎もだんだん泣き止んだ。
「たー、たー!」
「太郎君、ごめんね、今日はもう遅いからこれ以上は弾けないの。また明日弾いてあげるわね」
 城ヶ崎と太郎が仲良くしている所を見て、永沢は、どうして彼女が自分を始め、男子には卑下するような態度をとるのに自分の弟に対して全く態度が違うのか、永沢はわからなかった。

「くそ、見失っただと!?全くテメエらしくじってふざけんなよ、オイ!」
 各務田は部下に怒鳴っていた。
「申し訳ございません!」
「よし、明日しらみつぶしていろんな奴に聞きまくれ!!」
「は、はい!!」
 各務田は永沢の行方が気になった。
(ん、待てよ、あの時、家族全員が花輪んとこの車に乗って逃げたのに、君男ってガキがあの後歩いていたってことは奴はまだここにいるのか・・・。なら、奴はどっかのダチの家に泊っているな!!あいつを捕まえてまず行方を吐かすか!!)
 各務田はにやついた。

 花輪とヒデじい、そして永沢の両親は清水を出ていた。各務田に追われないよう、遠い場所へと。既に暗くなっていた。そして海岸にある花輪家の別荘に到着した。
「着きました」
「あ、ありがとうございます。秀治さん」
「いえいえ。こちらのお手伝いさんはいい人ですから、是非安心してお過ごしください」
 花輪は別荘を手入れをするメアリーを呼んだ。
「メアリー!」
「アラ、お坊ちゃま、キュウにどうしたんでございますか!?」
「僕の友達の両親をここに泊めてもいいかい?今、大変な目に遭っているんだ!!」
「エ!?ア、ハア、モチロンです・・・!?ドウゾあがってください!!」
 メアリーは花輪の急な注文に驚いたが、兎に角受け入れる事にした。永沢の両親は外人のお手伝いさんという事で驚きもあったが、メアリーに泣きながら礼をした。メアリーはこれまでにも花輪が夏に友達とキャンプファイヤーをする時にも、孫娘のエミリーが日本へ訪れた時に皆で泊まりに来た時にも対応はしてきたが、その時は花輪から電話で連絡があったため、すぐにキャンプファイヤー用の食材や道具は揃えられた。しかし、今日は急に花輪達が押し掛けてきたので、食事の予定を当初と変更せざるを得なかった。しかし、食材は揃っていたので、食事が四人、自分を入れて五人分作る事には困らなかった。
「ドウゾ、お召し上がり下さい!」
「あ、ありがとうございます・・・。すみません、急に来て、こんなもてなしてもらって・・・」
 永沢の父は申し訳なさそうに礼を言った。遠く離れるなどまるで疎開だった。
「イエ、イエ、いいんです。ところでタイヘンなメにお遭いしているというのは?」
「実は、知り合いに命を狙われていまして・・・」
「マア、それは恐ろしいですね・・・!!」
「ええ、その人は昔、戦争をやっている時の町内会長の息子なんですが、私の家族がその時、戦争に反対していたために、その恨みか何かで私らを殺そうとしているのです」
「そうでしたか・・・」
 メアリーも表情が暗くなった。自分も昔は戦争の恐怖を経験している。アメリカは、最終的に戦争に勝利したとはいえ、戦時中はそれでも地獄だった。アメリカは日本と異なり、食料なども兵隊のために使われて国民がひもじい思いをするという事は少なかったが、真珠湾攻撃やミッドウェー海戦などを聞いて戦争の恐ろしさを思い知ったのだった。さらに後に広島・長崎に落とされた原爆を被爆した人々の原爆症の恐ろしさとそれによる被爆者差別、沖縄戦による住民虐殺などを聞いて日本の被害にも悲観的にならないわけにもいかなかった。戦争に反対する者は悍ましい拷問を受けていた。自分も嫌な事を思い出してしまい、物思いに耽ってしまった。

 花輪家の別荘は、お通夜のようなムードを演出していた。
「息子たちは本当に大丈夫かしら・・・」
 永沢の母は息子を手放し、今殺されていないだろうかと心配になり、号泣した。
「しかし、纏まっていては俺達は皆殺しになる。別々になった方が奴らは全員探し出すのに苦労するはずなんだ。それに君男には藤木さんとこで、太郎は城ヶ崎さんとこで匿ってもらえているさ」
 永沢の父が妻を励ました。
「え、ええ・・・」
「君男、太郎、無事でいてくれよ・・・」
 永沢の父は息子を危険な場所に残した事への申し訳なさがあったが、二人の無事を祈っていた。

 藤木は旅館で堀に電話をしていた。
「もしもし、堀さん」
『あら、藤木君。どうしたの?』
「明日精一杯頑張るよ。絶対に金賞を獲ってみせるよ・・・」
『うん、私も藤木君を必死で応援するわ』
「ありがとう・・・。みどりちゃんにもよろしく言っておいてくれるかい?」
『うん、わかったわ。吉川さんも藤木君のスケート凄い楽しみにしていたわ』
「そうか、それじゃあ・・・」
 藤木は電話を切った。

 永沢は城ヶ崎家で夕食をご馳走してもらっていた。太郎については彼の分のミルクやベビーフードも永沢の母によって渡されていたため、困る事はなかった。夕食時、永沢は城ヶ崎とその両親に何が起きたのかを話した。

 父の友達と名乗る各務田出吉という男から電話が来た事、父親から命を狙われていると聞き家を飛び出した事、その間、花輪とヒデじいと合流し、花輪の家へ一度は泊めて貰う事になるも、既に待ち伏せされ、両親は花輪家の別荘へ避難する事になり、自分は藤木の家に泊めて貰おうとするも、藤木の家には誰もおらず、途方に暮れた事・・・。

 城ヶ崎の両親はそれで納得してもらい、城ヶ崎の父は警察署に連絡をしてもらった。永沢は風呂に入れてもらい、寝る場所ピアノのある居間を寝床として借りてもらう事になった。最初は城ヶ崎の父の部屋で寝ないかという提案があったが、永沢は断った。太郎については城ヶ崎の母が預かって寝ると持ちかけられたが、これにも拒み、太郎と共に居間のソファーで寝る事にした。
「永沢・・・」
「何だい、城ヶ崎?」
 城ヶ崎が部屋に入ってきた。
「あの、永沢、あんたも大変ね・・・」
「そりゃ、分かるだろうな。君は本当は僕がこんなところにいてうっとおしいんだろ?」
 城ヶ崎は言葉に詰まった。確かに普段の永沢なら家にあがるなんて抵抗があった。しかし、今回の永沢はかなり命を狙われている危機にある。さらに以前自分が不登校になった時、永沢の弟の太郎に立ち直らせて貰った恩もある。そうなると、救いの手を差し伸べない訳にはいかなかったのだ。
「そんな事ないわよっ!太郎君を抱いてもいい?悪い事しないから・・・」
「ああ、別にいいさ・・・」
 城ヶ崎は太郎を抱えた。太郎は城ヶ崎の顔を見て微笑んだ。そして、城ヶ崎の髪を引っ張って遊んだ。
「キャッ、太郎君ったらっ!」
「たー、たー」
 それから太郎は眠くなったようで体の力が抜けたようになった。城ヶ崎は太郎を永沢に帰した。
「それじゃおやすみ、永沢、太郎君・・・」
 城ヶ崎は自分の部屋に戻った。しかし、電気を消した後も永沢は胸騒ぎで寝る事ができなかった。

 みどりは電話で堀から藤木がみどりによろしくと言っていた事を伝えられ、嬉しく思った。
(あ~、藤木さん、明日頑張ってください・・・!!私、藤木さんのために全力で応援頑張ります!!)
 みどりは明日の大会で藤木の応援をする事に非常に待ち遠しく感じた。 
 

 
後書き
次回:「地区大会」
 静岡県地区大会の日が訪れた。みどりと堀は藤木の応援に御殿場へ向かう。藤木は緊張を持ちながらも大会へ臨む。一方、清水では各務田が、永沢の発見に血眼になり・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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