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とある3年4組の卑怯者

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98 決戦前

 
前書き
 戦時中に永沢家と因縁のあった元町内会長、各務田会蔵(かかみたあいぞう)の息子・出吉(いできち)に終われる事になった永沢家。偶然通りかかった花輪とヒデじいに救われるが、その先どうするか為す術がない。そこで花輪とヒデじいは花輪家に泊めて貰う事になった!! 

 
 藤木は明日の大会に備えて練習に勤しんでいた。ただ、練習している人は何人かいたものの、その中に和島の姿はなかった。
(和島君、彼はどうしているんだ?練習しないとは珍しいな・・・)
 藤木は彼がいなくてむしろ違和感を感じた。そして、暗くなり、そろそろ終わりにしようと切り上げ、両親と共に、旅館へと戻った。
「茂、お前ほかの皆と比べても実力が高く見えたぞ」
 藤木の父が息子を賞賛した。
「あ、ありがとう・・・。俺、絶対優勝してみせるよ。そして、卑怯者と言うみんなをアッと驚かせたいんだ!」
「茂・・・」
 藤木の母は息子が今までと違うように見えた。
(それに明日は堀さんも来る・・・。なら、あの技を見せればきっとメロメロになるはずだ!本当はリリィと笹山さんに見せたかったけど・・・)
 
 永沢家は花輪家にやや遠回りして向かおうとしていた。そして花輪家に着いたが・・・。
「ムム、あれは!?」
 ヒデじいは花輪家の門に待ち伏せしている男を見つけた。
「か、各務田・・・!」
 永沢の父は各務田の姿を見て体が震えていた。太郎も再び泣き出した。いつも涼しい顔をしている花輪でさえも恐怖で顔が固まっていた。各務田がヒデじいの車に近寄ってくる。
「よお、お前ら花輪んとこの人間だろ?何人助けなんかしちゃってんだ、オイ?」
 誰も恐怖で車から降りる事ができなかった。
「俺の秘密を知った奴は一緒に殺すけどそれでいいんだな?」
 ヒデじいは一か八かで車を急発進させた。各務田は慌てて避けた。あまりにも急にアクセルを踏んだので乗っていた皆は前につんのめってしまった。
「申し訳ございません。しかし困りましたね、坊っちゃまの家にも包囲網が敷かれていてはどうすれば・・・」
 ヒデじいは急アクセルを詫びながらどうすればいいのか途方に暮れた。
「ヒデじい、僕の別荘に避難させようか?」
「ええ!?しかし、この子の学校はどうするんですか!?」
 永沢の母が異議を唱えた。永沢の父が思いつく。
「よし、君男は藤木君の家に泊めてもらえ!」
「ええ!?藤木君の家!?」
 永沢は嫌な顔をした。藤木とは不幸の手紙事件を機に絶交している。絶交した卑怯者なんかに頼りたいとは思わなかった。
「ええ、嫌だよ、僕も花輪クンの別荘に行くよ!」
「贅沢言うんじゃないよ!花輪の坊っちゃんにそこまで迷惑は掛けられないよ!藤木君に事情を言って泊めて貰いな!!」
「わ、わかったよ・・・」
 ヒデじいの車は藤木の家に向かった。藤木の家の前でに永沢は降ろして、車は発進した。永沢はチャイムを鳴らしたり、ドアを叩いたりした。しかし、藤木もその両親も出なかった。
「何だよ、いないのかよ!こんな時にどこ行ったんだ!?」
 車は行ってしまったため、永沢は一人ぼっちになってしまった。そして、永沢は各務田の仲間に捕まる可能性を恐れながら、適当に街を走った。その時・・・。
「おい、あのガキいたぞ!」
「うわあ!!」
 各務田の仲間に見つかり、必死に逃げた。そして神社を見つけ、草木が茂る場所に隠れた。暫くして、各務田の仲間がいない事を確認して、その場所を出た。しかし、どこに逃げるか。藤木がいないならば山根の家か。しかし、簡単に泊めてくれるわけがないだろう、その時・・・。
「永沢っ!?」
 永沢は各務田の仲間かと思った。しかし、遭遇したのは城ヶ崎だった。
「何だ、城ヶ崎か」
「どうしたのよっ、こんなに走ってっ!」
「君の知った事じゃない!とにかく僕は変な奴らに追われているんだ!早く僕から離れろ!君まで巻き添えになるぞ!!」
「えっ!?あんたはどうすんのよっ!?」
「泊めてくれる人を探してるんだ・・・!家には危なくて戻れないし、花輪クンの家にも目を付けられた!」
「永沢、私の家に来てっ!」
「ええ!?」
 城ヶ崎は永沢の手を掴んで自分の家へと走って言った。永沢は自分の嫌いな女子に助けてもらうなど、変な話だと思ったが、とにかく、城ヶ崎に連れられた。

 藤木達は旅館に帰っていた。そして、浴場で体を洗い、湯につかった。その時・・・。
「ほう、藤木君じゃないか。キミも同じ旅館だったんだね」
 藤木が振り向くと、和島だった。
「和島君・・・。君はスケート場にいなかったじゃないか。一体何していたんだい?」
「おっと失礼・・・。ボクの技をやたらと見せびらかすものじゃないなと思って・・・。清水のスケート場で練習をしてから来たんだ」
「う・・・」
 藤木は和島は勝つために色々と策を練っている事で動揺した。これでは本当に彼に勝てるのか。そしてみどりや堀が来るというのに、本当に勝てるのだろうか。大会は男女別に、そして上位三名はそれぞれ金賞、銀賞、銅賞を入賞される。藤木は和島に会うまでは賞が獲れればいいという考えだったが、今では彼の技術について改めて手強く感じている。そうなると金賞か、和島よりも上位の賞を獲らなければならないと考えていた。だが仮に和島が金賞の場合は、たとえ自分が銀や銅でも大きな屈辱だ。ならば和島に勝つためにも、そして不幸の手紙事件で非難した皆を見返すためにも金賞を己の物にするしか考えられなかった。
「とにかく本当の勝負は明日なんだ。絶対に負けないよ」
 藤木はそう言って浴場を出た。
「ふん、焦ってるな・・・」

 藤木の家族は食事の為に広間に来た。
「それじゃあ、茂の明日の健闘を祈って乾杯だ!」
 父が威勢よく言った。
「父さん・・・。でも、やれるかどうか緊張してきたよ・・・」
「何言ってんだ。お前はスケートに凄い興味を持って来た結果、上手くなったんじゃないか!あの元オリンピック選手だってお前の才能を認めていたんだろ?」
「そ、そうだけど・・・」
「頑張んなさいよ、茂ならきっとできるわよ」
「母さん・・・。うん、ありがとう、俺、絶対に賞を勝ち取ってみせるよ!!」
 藤木は明日のために気合を入れ、食べ始めた。
(もし僕が、賞を貰えれば、笹山さんもリリィも、僕を見直してくれるだろうか・・・。いや、絶対に賞を取って驚かせてやる!そう決めたんだ!!)
 藤木は好きだった二人の事を思い出しながら、明日への熱意と緊張を胸に秘めるのだった。 
 

 
後書き
次回:「疎開(くもがくれ)
 各務田から逃げる永沢家。永沢は城ヶ崎に彼女の家へと連れて行かれ、そこで一夜を過ごす事になる。そして永沢の両親は花輪の別荘へ避難する事になり・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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