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とある3年4組の卑怯者

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89 強敵(ライバル)

 
前書き
 藤木はみどり、堀と共にスケート場で遊んでいる時、堀からスケートの大会に出ないかと誘われる。その時、藤木は飛騨高山で出会った片山という男と再会し、彼の説得もあり、大会へ参加する事を決めた!! 

 
 藤木はスケートの大会に出場するために必要な書類の入った封筒を持ち、自前のスケート靴を持ちながら家に帰っていた。
(片山さん、本当にありがとうございます。僕は絶対にこの大会に出て、優勝して見せます!そして堀さんもありがとう。僕、君の事、好きになってもいいだろうか・・・?)
 藤木は堀の美しさのみならず、優しさにも惚れた。もしリリィに笹山との仲が良好だった頃の藤木なら堀にまで好意を伸ばすのはご法度だったろう。以前リリィの友達のメイベルが可愛いと思ったり、城ヶ崎のピアノの応援で大阪に行った時、ピアノを弾く城ヶ崎や雲沢ゆかりという美少女の姿に心を奪われたり、リリィと飛騨高山に旅行に行った時、花輪の従姉妹のルリ子に鼻の下を伸ばしかけた事があった。しかし、その時は自分にはリリィと笹山以外の他の女性に恋してはならないと自制してきた。しかし、好きだった二人からはどちらからも嫌われた今、堀に一途になろうと藤木は考えていた。
 
 みどりは堀と帰る時、まさか堀も藤木が好きになったのではないのかと疑った。しかし、言ってみる勇気もない。
(だめだ・・・。堀さんもまさか藤木さんが好きになったのですかなんて怖くて言えない・・・)
 みどりはそのまま堀と別れて帰った。

 夜、藤木は両親に大会の書類を差し出した。必要事項は大体記入されていた。後は印鑑の押印で済む。
「父さん、母さん、俺、スケートの大会に出てみようと思うんだ。いいかな?」
「スケートの大会だと?お前、無謀な事考えるな」
「茂、アンタ大会なんて幾らスケートが得意だからって簡単に優勝できるわけじゃないんだよ。分かってるのかい?」
「分かってるさでも・・・」
 不幸の手紙を出して皆から嫌われた見返しと言いたいが、それを言ったら絶対怒って許さないだろうと思い、別の理由を考えた。
「その・・・、自分の実力を試してみたいんだ。皆から卑怯者って言わてるけど大会に出て自分はこういう凄い経験をしたって自慢できるようにしたいんだ!」
「しかし、何も賞が獲れなかったらただ参加したって事になるんだぞ。もしそうなった場合、お前は自慢できるのか?」
「う・・・、それは・・・」
 藤木は困惑した。確かに何の栄冠も掴めなかったらだからなんだと思われるだろう。その時、電話が鳴る。藤木の母が出た。
「もしもし」
『藤木さんのお宅でしょうか?私は元スケート選手の片山次男(かたやまつぐお)と言う者です』
 藤木の母は元スケート選手という肩書に驚いた。
「は、はあ、何か御用ですか?」
『息子さんからお聞きになられましたか?スケートの大会に出るという事を』
「は、はい、今そのことについて話していた所です」
『是非茂君にスケートの大会に出させてあげてください。私はあの子のスケートの技術に非常に驚いたんです。ジャンプやスピン、ステップまで軽々とやってしまうその才能はまさに非凡です。宿泊費も交通費も協会が補助してくださるという事なのでお金の心配はございません。彼ならきっと静岡県どころか中部、全国、いや、世界へ羽ばたける力を秘めています。是非息子さんを信用してください』
「は、はあ、わかりました・・・」
『では私はこれで失礼します。息子さんを応援しています』
 片山は電話を切った。
「誰だったんだ?」
 藤木の父が聞いた。
「元スケート選手の片山次男って人だって。茂を大会に出してほしいって」
(何だって!?あの人は本物のスケート選手だったのか!!)
 藤木は片山の正体に驚いた。
「そうか、本物の選手に認められているなら出さないわけにはいかないな!」
「父さん・・・」
「そうね、茂。頑張りなさい。お前が満足いくような結果にするんだよ」
「母さん、ありがとう、俺、頑張るよ!!」
 藤木は全力で挑むことを誓った。

 翌日、みどりは学校で堀と藤木の事を考えていた。
(堀さん・・・、堀さんもまさか藤木さんの事をお好きなったのでしょうか?)
「吉川さん、次音楽だから、音楽室行かないと遅れるわよ」
 堀が呼んだ。
「あ、はい、そうでしたね・・・」
 みどりは音楽の授業の準備をした。
(どうか気のせいであってください・・・、ただ仲がいいだけ・・・、と)
 
 藤木は相変わらず学校では全く相手にされない幽霊のような扱いを受けていた。しかし、それでも藤木は前だけを向いていた。
(絶対に大会で優勝して、皆をギャフンと言わせてやる!!)
 藤木は今日から大会に向けて本気の練習を始めることにし、今日も授業が終わると、走って帰った。その様子を笹山と城ヶ崎が見ていた。
「藤木ったらいつも急いで帰って一体何なのかしら?」
「さあ・・・」
(もしかしてスケートで気を紛らわしてるのかな?ああ言って振ったけど、なんか気になる・・・)
 
 藤木の練習は始まった。大会の要項には、ジャンプは八つまでとされており、そのうち最低一つ以上はアクセルをしなければならない。他にはコンビネーションとシークエンスは三つまでであった。スピンは一つは10回転以上のコンビネーションスピン、もう一つは6回転以上のフライング、そして単一姿勢のスピンと決められていた。また、ステップシークエンスは一つまでで、多く披露すれば余分な演技として減点の対象となる。藤木は様々なジャンプやスピン、そしてステップシークエンスの練習をした。どれも難なくこなし、どのような組み合わせで行こうか考えた。暫く滑っていたその時・・・。
「ふうん、キミも中々いい滑り方をしているじゃないか。まあ、ボクには勝てないだろうけどね」
 見知らぬ爽やかそうな少年が話しかけてきた。
「き、君は一体誰なんだい?」
「おっと、失礼。ボクは和島俊(わじましゅん)。船越小の三年生さ」
「ふうん・・・」
「おっと、キミも名乗りたまえよ。それが礼儀だろ?」
「僕は藤木茂。入江小の三年生さ」
「ほう、藤木君か・・・。キミも凄いけどボクの方が一枚上手だと思うな」
「何だって?」
「まあ、見てみな」
 和島俊と名乗った少年はステップを踏み出した。そしてどんなジャンプもスピンも軽々とこなした。
(す、凄い・・・!!)
 藤木は和島の技術に舌を巻いた。
「さあ、どうだい?」
「す、凄いね・・・」
「恐れ入ったかい?まあ、そうだろう、ボクは御殿場で行われるスケート大会に出るからね」
「え?僕もだよ!」
「ほう、じゃあ、本当の対決は大会(そこ)でやろうじゃないか。に、げ、だ、す、な、よ!!」
 和島は藤木の額を指で叩きながら言った。
「う・・・」
 藤木は怖気づいた。
(優勝するって気持ちだったのにあんな上手い子が出るなんて勝ち目はないだろうな・・・)
 藤木は不安になった。そして家に帰った。
(やっぱり優勝なんてハードル高すぎたかな?でももう出場用紙は提出しちゃったし・・・)
 その時、藤木は昨日堀から貰った彼女の住所と電話番号が書かれた紙を思い出した。
(そうだ、堀さんに相談してみよう・・・!!)
 藤木は家に帰ると堀から貰った紙を出し、その紙に書かれてある電話番号の通りに電話を掛けた。 
 

 
後書き
次回:「猜疑心」
 和島の登場で自信を失った藤木は堀にその不安を伝える。堀は藤木の自信を取り戻すためにみどりと共に協力しようとするが、みどりは藤木と堀の仲を疑ってしまい・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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