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とある3年4組の卑怯者

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88 機会(チャンス)

 
前書き
 藤木はみどりと堀に学校で自分が不幸の手紙を出した事で責められた事を思い切って伝える。そして二人から救いの手を差し伸べられ、藤木は堀に僅かに惹かれるのだった・・・!! 

 
 藤木はみどりに堀と邂逅した事で心の傷を少し癒す事ができた。そして、翌日も二人とスケートをする約束をしていた。藤木は早くその時が訪れて欲しいと待ち遠しく思った。

 しかし、学校では相変わらず藤木は皆から無視され、冷遇された。誰も藤木に挨拶などしなかった。永沢は藤木とは口を聞かないどころか目も合わせなかった。リリィも笹山も、クラスメイト皆藤木を無視した。学級文庫の貸し出しなども藤木には声を掛けず、全て永沢が承るようになり、学級文庫係としての存在価値もなくなったと藤木は実感した。給食の時も自分にはぶっきらぼうにおかずを渡された。藤木は辛かった。早く放課後になってみどりや堀に会いたかった。
(一人って寂しいものだな・・・。みどりちゃんも今まではこんな寂しい生活をしていたのかな?)
 藤木はみどりは堀に会う前は今の自分と同じような孤独な生活だったのかと思った。

 放課後になると藤木は走って帰った。リリィはそれを見ていたが、藤木など放っておこうと思った。何しろ不幸の手紙を出した人間などもう友達でも何でもない。それに自分には花輪という好きな人がいるのだから気に掛ける筋合いもない。リリィはそう思っていた。

 藤木は家に帰るなりすぐにスケートウェアに着替え、スケート靴を取り出してスケート場に向かった。まだみどりも堀も来ていなかった。
(ちょっと一滑りするか・・・)
 藤木はリンクの中に入り、滑り出した。一周毎にスピードを徐々に上げた。スピードスケートならおそらく優勝争いに加われるような速度だった。そこにさらにステップをして、他の人とぶつからないように避ける。多くの人が藤木に魅了されていた。
「凄いな、あの子」
「本当に子供なのか!?」
 そんな驚く声も聞こえた。
「藤木さーん!!」
 藤木が振り向くと、みどりが呼んでいた。堀も一緒にいた。
「やあ、みどりちゃん、堀さん」
「藤木さん、早速滑ってますね。しかもすごく早くて目が回りそうになりました」
「ははは、僕はフィギュアでもスピードでも何でもできるからね。まあ、スケート以外では何もできないけど」
 藤木は照れながら言った。
「あ、そうだ、みどりちゃん」
 みどりは藤木に呼ばれて何だろうと緊張した。
「今日、君の寂しい思いがどんなものか分かった気がしたよ」
「え?」
「僕は今日、皆から無視され続けたんだ。だれも僕に挨拶もせず、遊びに誘わず、話しかけず、一緒に帰ってくれない・・・。みどりちゃんもこういう思いしてきたんじゃないのかい?堀さんに会うまでは・・・」
「はい・・・」
「でも僕は卑怯者だからこうなっても仕方ないよな」
「いえ、そんな事はありません!私も泣き虫で人に迷惑かけたから友達がいなかったんです!でも今までそれに気づいていなかった。だから堀さんに会って、友達になってくれたから泣き虫を治そうとこう努力しています!藤木さんもきっと御自分の欠点を治そうと努力すればきっと皆振り向いてくれますよ!」
「みどりちゃん・・・、うん、そうだね、俺、卑怯を治したいな・・・」
「大丈夫よ、藤木君のためなら私達も力になるわ!」
「堀さん・・・、うん、ありがとう!」
 堀はみどりが泣き虫を治してクラスの中に馴染めるようにした時のように藤木を立ち直らせてあげたいと思った。
「藤木君、また昨日のように一緒に滑ろう!」
「うん、いいよ!」
 藤木とみどり、そして堀の三人は共に滑った。そして藤木は学校での孤独も全て忘れて。そして堀こそが自分を救ってくれた天使だと感じていた。

 三人は滑り疲れたので、少し休憩する事にした。
「あの、何か飲み物いる?私、買ってくるわ」
「はい、私温かいココアがいいですね!」
「僕も!」
「分かったわ」
 堀は自動販売機の方へ向かった。その間藤木はみどりにある事を言おうと決めた。
「あの・・・、みどりちゃん」
「はい?」
「実は、僕、さくらにも不幸の手紙を出してしまったんだ・・・」
「え、まる子さんにですか!?」
 みどりは驚いた。藤木はさすがにこれだけはみどりも擁護できないだろうと恐れた。
「うん、僕は出した皆に本当に申し訳ないと思っているんだ。でも僕が言っても分かってくれないかもしれない。お願いがあるんだけど、もし今度さくらに会ったらすまなく思っているって伝えてくれるかい?」
 人に謝罪の代弁を要求するなどやはり自分は卑怯なのかと思いながらも藤木はみどりに尋ねた。
「そうですね・・・。分かりました!やってみます!」
「ありがとう、みどりちゃん・・・」
 みどりは怒らなかった。藤木は安心した。
 
 堀は自販機でココアを三人分買った。そしてベンチに座っているみどりと藤木の元へ戻ろうとする。
「ありがとう、あ、お金」
「別にいいわよ、私のおごりよ」
「え?う、うん・・・」
 藤木達は堀が買ってくれたココアを飲んだ。その時、堀はある一枚のポスターに注目した。そのポスターには『アマチュアの静岡県スケート大会 小学生部門』とあった。
「藤木君」
「何だい?」
「藤木君もこのスケートの大会に出てみない?出るだけでもきっと自慢できるものになる思うわ」
「え?でも、僕なんかで上手くできるかな?もしかしたら途中で失敗して笑い者になるかもしれないよ・・・」
「弱気になっちゃだめよ。卑怯を治したいって自分で言ったでしょ?積極的にならなきゃ!」
「え?う、うん・・・」
「そうだな、私も是非君にこの大会に出る事を薦めたい」
 別の人の声がした。三人は声の方向を向くと、サングラスをかけた一人の男性が立っていた。
(この人は・・・!!)
 藤木はその男を覚えていた。以前、リリィと飛騨高山へ旅行に行った時、花輪達と共に高山のスケート場で自分のスケートの技術を高評価した片山という男だった。
「久しぶりだな、藤木茂君」
「あ、あなたは・・・、片山さん?」
「覚えていてくれたか」
「は、はい!」
「藤木さん、お知合いですか?」
「前に一度会った事があるんだ」
「へえ、そうなんですか」
「清水と言えばこのスケート場があるからね。ここで君が滑っているんじゃないかと思ったが予想は当たったようだ」
「そうでしたか・・・、ですが、本当に僕なんかがこの大会に出ていいんでしょうか?」
「何、誰が出ていいとかだめだとかいう決まりまない。是非出てみて自分の実力を見せつけるといい。それとも怖いのか?」
「いえ、僕はただ・・・」
 藤木は学校の事を言おうか迷った。
「藤木君、不幸の手紙の事言ってみたら?」
「え?で、でも・・・」
「いいから!」
「あ、うん・・・」
 堀に催促されて藤木は不幸の手紙の事を言おうとしたが、片山から先に口を開いた。
「不幸の手紙・・・?あの悪戯の手紙がどうかしたのか?」
「う、実は僕の所に不幸の手紙が来て、不幸が来るのが怖くて書いてある通りに出してしまって、それで学校でクラスの皆から嫌われ者になったんです。僕が大会に出ても皆スケートしかできない奴ってイメージをより持たれるかもしれないですし・・・」
「ほう、そういう事だったのか・・・。それは辛かったろうな。だが、そういう時こそ大会に出てみるといい。きっと周りも君に対する目も変わるだろう。私だってスケートしか取り柄がないが、その唯一の取り柄で皆をアッと言わせてきた。藤木君、君にとってこの大会は君を白い目で見る奴らを見返す時だ。でなければ君はいつまでも嫌われ者のままだ!」
 片山は藤木に叱咤した。
「いつまでも嫌われ者のまま・・・」
「そんなの、嫌だろ?それにこれはアマの大会だが、世界に羽ばたけるチャンスなのだ!どうだ、やってみないか!?」
「世界に羽ばたけるチャンス・・・」
 藤木は確かにスケート以外での取り柄がない。しかし、その唯一の取り柄であるスケートならば自分は貴族か王子(プリンス)だと思っていた。ならば、本当に人生の経験としてでも出場して皆をアッと言わせてやろう。藤木はやる気を出した。
「分かりました。やってやろうじゃありませんか!」
「うむ、いい意気込みだ。登録のための書類は受付にあるので貰うといい。そこに必要事項を記入してポスターの下に書いてある協会の住所に送れば君はその大会の出場者として認められる」
「は、はい、わかりました!早速そうしてみます!」
 藤木はポスターを見た。しかし、驚く事が一つあった。場所は御殿場のスケート場だった。同じ静岡県内とはいえ清水からは少し遠い。
「御殿場か・・・。遠いな・・・」
「何、焦る事はないさ。交通費も宿泊費も協会が補助してくれる。だから気にせずのびのびやるといい」
「そうよ、藤木君、頑張って!私達も応援に行くわ!」
「堀さん・・・、うん、頑張るよ!」
 藤木は受付に大会に必要な書類を受付から受け取った。そして驚くべき事がもう一つあった。
「親のハンコか・・・。許してくれるかな?」
「そうか、なら私も君のお父さんとお母さんに言ってみようか?」
「あ、はい・・・」
 藤木は片山に自分の住所と電話番号を教えた。
「それでは、また会おう」
「はい、さようなら」
 片山はスケート場を出て行った。

 受付で大会に関する書類を貰い、藤木達は帰る事にした。
「よかったわね。藤木君」
「うん、今日もありがとう、二人とも」
「あ、そうだ」
 堀はコートのポケットから1枚のメモ用紙を取り出し、藤木に差し出した。紙には住所と電話番号が書いてあった。
「これ、私の家の住所と電話番号よ。もし辛くなったり、寂しくなったらここに電話したり、手紙を出してね。いつでも相談に乗るし、会いに行くわ」
「いいのかい!?ありがとう・・・」
「うん、私も藤木君に会えて嬉しかったわ」
「うん、僕もだよ、じゃあ、さよなら・・・」
 藤木は自分にここまで優しくしてくれる堀に謝意を示して帰った。なお、みどりは何らかの胸騒ぎを感じていた。
(何か藤木さん、堀さんばかり見ているような気が・・・、気のせいですよね?) 
 

 
後書き
次回:「強敵(ライバル)
 片山の電話での介入もあり、大会への出場を両親から許可された藤木はスケートの大会に向けて練習を始める。しかし、彼の元に一人の少年が現る・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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