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フルメタル・アクションヒーローズ

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第146話 進撃の母上

「ゲッ……親父、母さん……!?」

 予想だにしなかった伏兵に、俺は思わず苦悶の声を漏らす。正月以来会っていなかった両親の登場に、俺は我が目を疑っていた。

「初めまして……ですな。私は一煉寺龍拳。皆様、息子がお世話になっております」
「母の一煉寺久美です。皆さん、よろしくお願いしますね」

 そして、二人のにこやかな自己紹介を受け、この夫妻が俺の両親と知った全員は一人残らず目を見開く。

「あ、ついでに俺、兄貴の一煉寺龍亮っす。出来の悪い弟が、超お世話になっとります!」

 ……兄貴の自己紹介のノリは、相変わらずではあったが。

「なんと、一煉寺君の御家族とは……」
「よぉー、古我知さんじゃねーかよ! なんだなんだ、あんたまでイカした面になっちゃってよ。龍太の奴といい、みんな見ない間にガラリと変わっちまったなぁ」

 伊葉さんの声を遮り、兄貴は古我知さんの首に腕を絡めた。その一方で、古我知さんは突然の再会に反応しきれず、目をしばたいている。

「りゅ、龍亮さん、一体どうして……!? それに、御両親まで……!」
「たはは、今言っただろう? ゴロマルさんに全部聞いたんだよ。俺も親父も母さんも。龍太のこと、救芽井エレクトロニクスのこと、四郷研究所ってとこで、何があったのか全部――な!」
「なっ……!」

 俺の家族が、全てを知っている。その事実に直面し、俺はえもいわれぬ後ろめたさに襲われた。怪物と云われようが、命の選別をしないレスキューヒーローになろうとしている俺を、親父は母さんは、兄貴は――どう見ているのだろうか。

「龍亮。あまり粗相をするんじゃないぞ」
「わ、わかってらぁ親父、程々にしとくよ。まぁ、龍太がいろいろ大変な目に遭っちまったってのは気にかかるが、とりあえずみんなが無事でよかった。古我知さんも、すっかり悪者って感じじゃなくなったみたいだしなっ!」
「……僕はただ、着鎧甲冑のために――救芽井家のためにと動いていただけだ。今も昔も、それは変わらない」
「ハイハイ、ツンデレ乙。で、龍太はこの一件で何人にフラグ立てたんだよ? そこの超然ボインねーちゃんと儚い系の車椅子美少女か?」

 だが、そんな俺の懸念など、どこ吹く風のガン無視。そう思わせるほど、兄貴の奔放さは相変わらずだった。彼は久水と四郷を交互に見遣ると、俺に向かってニヤニヤとやらしい笑みを浮かべる。

「初めましてッ! ワタクシ、龍太様とお付き合いさせて頂いている、久水梢と申します! 以後お見知り置きを、お義兄様ッ!」
「ちょっ、何を勝手なこと言いよるんやッ!」
「りゅ、龍亮さん、気にしないで! この人、元々ちょっと暴走し過ぎなところが――」
「ん……? お、おぉ〜! なんか面影があると思ったら、昔龍太にビックリアタックかましてたお嬢ちゃんか! 見ない間に色んなところがデカくなっちゃってまぁ〜……。へへへ、いいじゃんいいじゃん、幼なじみとの運命の再会って奴か!? よかったじゃねぇか龍太、今年中には大人の階段登れるんじゃね!?」
「ちょっとぉぉおおぉっ!?」
「聞きぃやぁぁあっ!?」

 制止に入った救芽井と矢村を全く意に介さず、兄貴は楽しげに笑っている。どうやら、久水のことはすぐに思い出したらしい。

「おおっ! よく見たらこっちのお嬢ちゃんも憤死ものの可愛さじゃん! ん? なんか顔が赤いけど、熱でもあるんじゃない?」
「うふふ、実はねーお兄さん。今しがた弟君にイカされたところなのよねー、ウチの妹」
「おおお、お姉ちゃんッ!?」
「な、なんだってー! こりゃあ大変だッ! 母さん、赤飯だ赤飯! 早くしろーッ! 間に合わなくなっても知らんぞーッ!」
「も、もう、いやあぁあぁああ……!」

 次に、兄貴は四郷に狙いを定める。何を話しているのか、イマイチ要領を得ないが――四郷がやたらと恥ずかしがっているところを見るに、どうやら二人掛かりで弄り倒しているようだ。
 だが、そんなことをしてる場合じゃないだろう。早く四郷の病状を見ないと……!

「鮎美さんッ! 四郷のことは……!」
「まだ引っ張るのね、それ……。大丈夫よ、鮎子なら命に別状はないわ。さっきの『症状』も大したことじゃないから、あなたは気にしないで」

 すると、鮎美さんは呆れ返った様子でそう言い放ち、再び兄貴と意気投合して妹弄りを再開してしまった。やたらと性的な単語が飛び交っている気がするが、多分気のせいだろう。気のせいにしておこう。

「しかし、まさか『瀧上凱樹』とはな……。不思議な巡り会わせがあったものだ」
「え……?」

 ふと、俺の傍の椅子に腰掛けた親父が、感慨深げな声を漏らす。その隣に座った母さんも、そんな親父に相槌を打っていた。四郷姉妹とはしゃいでいる兄貴が完全に蚊帳の外だけど……ま、いいか。

 親父は神妙な面持ちで俺に視線を合わせると、静かに語り始める。後ろとの温度差に戸惑いそうになるが、ここはひとまず聞き手に徹しよう。

「お前もよく知っているだろうが……昔、この松霧町は治安状況が最悪でな。日本国内に於いても、この町に勝る無法地帯は希少と言われていた。正義も秩序も希薄で、町を闊歩する悪漢に、人々が怯える日々が続いていたのだよ。そんな『力』のみによる支配を、『力』によって退けた少年が、瀧上凱樹だったのだ」
「……今でこそ亮ちゃんは凄く強いけど、十年前はそこまでじゃなかったらしいし、その頃にはお父さんも歳だったからね。怖いお兄さん達に太刀打ちしようだなんて思える人は、あの子しかいなかったのよ」
「裏社会の悪を裁き、苛烈なまでに強さを追求する少林寺拳法の一門。それが我が一煉寺家であったが……俺が久美との結婚を機に、本家の寺を去ってしまったからな。主のいない寺は廃れ、一煉寺家は一般家庭に成り果てた。そうして戦いから離れていた俺達では、どうにもならなかったのだ」

 視線を落とし、自嘲気味に語る親父の瞳には、現実を重く受け止める『無念』の色が色濃く湛えられていた。どうにかしなければならなかったのに、どうにもならなかった。そんな悔しさが、如実に現れている。

「――そして、町を救ってくれた彼に対し、我々は名誉町民賞を贈ったよ。精一杯の感謝を込めて。彼は高校を卒業した後、あの姉妹を連れて松霧町から姿を消したが、我々は感謝の気持ちを忘れることはなかった。……日本政府から『瀧上凱樹に関する一切の情報を絶て』と圧力を掛けられても、な」
「……!」
「具体的に瀧上凱樹って子が何をしたのかは、ママ達も知らされてはなかったの。ただ何となく、彼がものすごく悪いことした、ということしかね。だからってあの子を『居なかったことにしろ』だなんてママ達は納得出来なかったけど、小さな町じゃ政府の役人さんには逆らえなかった。だからせめて、ちゃんと彼を知ってる当時の人達だけは、しっかりと覚えていてあげよう、ってことになったのよ」
「商店街に勤務している交番のお巡り君は、彼の後輩でな。彼に憧れて警察になったらしいが、随分と悔しそうだったよ。確か、二年前の冬に現れたスーパーヒロインについては、瀧上君の面影を重ねて大喜びしていたな。この町には、やっぱりヒーローが必要なんだ、とね」

 ……瀧上凱樹は一国を滅ぼし、四郷姉妹を苦しめ続けた悪であり、殺すべきとまで言われた存在。それは揺るぎない事実であり、直に彼と戦った俺にとっても、避けようない「現実」だ。

 それでも、親父や母さんにとって――昔の彼を知る人にとっては、今でも彼は「正義の味方」だったのかも知れない。そのギャップに対し、彼の顛末を知った人達は、何を思うのだろう。

「救芽井樋稟君が務めていたという『救済の先駆者』というスーパーヒロインや、お前が担ったという『救済の超機龍』が、この町のヒーローとして容易に受け入れられたのは、瀧上凱樹という『前例』があったことに因るのだろう。彼自身は悪に染まったのかも知れんが、彼が残した『気持ち』は正しい姿のまま、この町で息づいている。俺は、そう信じたい」
「瀧上君が悪者になったとしても、助けられたママ達としては庇ってあげたい。……でも、政府の役人さん達には怖くて逆らえない。だからせめて、彼のように頑張ってくれるヒーローのことを、全力で応援してあげたいのよ。少なくとも、昔を知ってる町のみんなは、ね」
「……そう、か……」

 あれ程のことをしてきた瀧上にも、こうして慕ってくれる人達がいる。それは、俺を戸惑わせるには十二分の事実だった。

 ――いや。あれ程のことをやってのける怪物であるからこそ、その力で町を救うことも出来た、ということなのかも知れない。自己を省みない怪物であるからこそ、彼の命を拾えた俺のように。
 やはり、俺と彼はどこまでも切り離せない存在らしい。国を滅ぼす怪物と同類のヒーローだなんて、お笑いにもならないけどな。

 だが、彼の全てを俺から否定することは許されない。彼が居てこその、俺達だったとするならば。

「ところで太ぁちゃん。あなた、着鎧甲冑を使ってこの町のヒーローを始めたみたいだけど……この先ずっと、救芽井エレクトロニクスで働いていくつもりなのかな?」
「えっ……?」
「もしそうなら、ママ、ちょっと悩んじゃうかなぁ。息子をこんな危ないことに巻き込ませる会社に入れるっていうのは、どーかなってママは思うのよね。お父さんにも亮ちゃんにも、太ぁちゃんに拳法は危ないから教えちゃダメ、って言ってたのに、結局こんなことになっちゃってるし」
「――すまん。久美。もう許してはくれないか。俺も龍亮も、昨日の十時間連続石畳正座で脚が辛いんだ」
「なにがあったんだよ!?」

 母さんは一貫してにこやかな表情を保ってはいるが、その口調はどこか刺々しい。親父もその大きな肩を震わせ、青ざめた様子で首を振っている。

「あっ……あの! りゅ、龍太君のお母様!」
「あら? 何かしら」

 すると、今まで俺達親子のやり取りを見守っていた救芽井が、怖ず怖ずと会話に入って来た。他人の家族だからか、どことなく遠慮がちだ。

「わわ、私、龍太君と懇意にさせて頂いております、救芽井樋稟という者です! この度は急なことで、何も用意できず恐縮なのですが、せめてご挨拶を――」
「そんなの気にしないでいいのよぉ、太ぁちゃんの大事なお友達なんだから。私のことは気にしなくていいから、太ぁちゃんとこれからも仲良くしてあげてね。変に怪我とかさせない程度に」

 救芽井はかつてない程に緊張した様子で、肩を震わせながら母さんに話し掛けている。そんな彼女に対する母さんの態度は、実に穏やかで――厳かだった。

 威圧感などカケラもないはずなのに、逆らえない雰囲気が全身から噴き出している。その得体の知れないオーラを浴び、救芽井は蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまった。

 考えてみれば、俺が着鎧甲冑に関わり、こうして戦いに介入していくことになったのは、救芽井との出会いがそもそものきっかけだったと言える。

 俺に拳法を習わせたくない――つまりは親父や兄貴のような、戦う力を持たせたくなかったという母さんとしては、俺が拳法を学ばないどころか修練を重ねるようになった「引き金」である彼女のことは、いささか気に食わないところがあるのかも知れない。

 確かに彼女と知り合い、古我知さんと戦うようになったのがきっかけで、少林寺拳法の修練にのめり込むようになったのは事実だ。でも、それは強いられたことじゃない。

 矢村のために病院送りにされたのも、救芽井のために戦って撃たれたのも、結局は俺の意思でやってきたことだ。そしてきっと、これからもそれは続いていく。
 事情を知られてしまった以上は、なんとか母さんにも、その気持ちは理解して貰いたいところなのだが……。

「あ、あの、お友達というのは……」
「だってあなたと結婚したら、太ぁちゃん、今よりもっと頑張っちゃうもの。確かにいいことなんだけど、それでこれより酷い怪我でもされたら、ママ卒倒しちゃうな。だから、太ぁちゃんにはなるべく普通の人生を送って貰いたいのよね。だからこれからも『良いお友達』として、太ぁちゃんのこと、よろしくね? あんまり干渉しない程度で」
「あ、あ、あぅ……」

 徹底して釘を刺している。言葉は柔らかいが、間違いない。母さんは、救芽井を全力で「潰して」いるのだ。どうしても、母さんは俺をこれ以上着鎧甲冑に関わらせたくないらしい。

 自分の子供が二度も死にかけたのだから、当然ではあるのかも知れないが――まずいな、これは。

 俺は母さんに進言しようと口を開くが、母さんはそれより遥かに速く、撃沈した救芽井の近くで怯えていた矢村に目を付けた。

「ひ、ひうっ!?」
「あらぁ! あなたひょっとして、亮ちゃんが話してた、太ぁちゃんのガールフレンドッ!? やだぁ、ちっちゃくて可愛いッ! お肌もスベスベで健康的に焼けてるし、クリクリしてるお目目が堪らないわぁ〜!」
「あ、あわわわわ……!」

 そして問答無用で抱き着くと、彼女の小麦色の肌にほお擦りを敢行する。自分が認めた「可愛い子」に行う、至って好意的なスキンシップなのだが、あのオーラを近くで見ていた本人はそれどころではないらしい。猛獣の住家に引きずり込まれたような顔をしている。

 そんな彼女の怯えようなど構わず、母さんは矢村の脚や胸、腰回りを滑らかに撫でていく。セクハラだ。もはやセクハラの域だ。

「筋肉もしなやかで柔軟だし……悪くないわね。あなたなら、丈夫な孫を産んでくれるかもっ!」
「ふ、ふえぇえッ!?」

「お義母様ッ! 健康的なお孫様を望まれるのでれば、この超絶パーフェクトボディを誇る、ワタクシをぜひッ!」

 さらにそこへ、話を聞き付けた久水が乱入して来る。親父はすっかり隅に追いやられ、「龍亮め、逃げおって……」と小声でぼやいていた。

 救芽井も矢村も、母さんのオーラには怯えきっていたのだが――さすがというべきか、彼女は何一つ怯んだ様子を見せず、嬉々として母さんに接近している。

「あら、あなたは……確か亮ちゃんが言ってた、太ぁちゃんの初恋相手、だったかしら?」
「い・か・に・もッ! 久水財閥現当主の専属秘書、久水梢と申しますわッ! お義母様! ワタクシが龍太様と婚約した暁には、我が財閥が誇る世界最高級の健康管理技術を以って、国宝に匹敵する健康優良児を出産してご覧にいれますわッ!」
「あら、なかなか頼もしいおっぱいじゃない。これならきっと、赤ちゃんもすくすく育つわぁ……」
「あ、やんっ!? お、お義母様、そこは――ふぁああんっ!」

 一方、母さんは久水のPRを聞き流し、彼女の立派な巨峰を揉みしだき始めている。素直に感心しつつ、愛撫するように胸を揉む母さん。まさかの不意打ちに翻弄され、嬌声を上げる久水。なんとも言えぬ桃色の空間が、辺り一面に広がろうとしていた。

「う〜ん、悩ましいわねぇ。健康優良で丈夫そうな娘と、いっぱい元気なミルクが出そうな娘……ねぇ太ぁちゃん、あなたはどっちが好み?」
「ど、どっちって……」

 あまりにも無茶振りな母さんの質問に、俺が答えを決めかねていた時。母さんの視線が、俺とは違う方向へ向けられる。

「あの……ボ、ボクは……?」
「あら? あなたは……」

 ――女性陣による謎の挨拶ラッシュは、まだ続くらしい。今度は、ニヤケ顔の鮎美さんと兄貴に背中を押された四郷が、やや遠慮気味に母さんに話し掛けた。その後ろでは、伊葉さんと古我知さんが苦笑いを浮かべて見守っている。

 四郷は一度顔を赤くして俯いてしまう……が、そこから一拍置いて面を上げた時には、何かを決意したような勇ましい面持ちになっていた。これだけは言わなくては、という強い意思が、その真紅の瞳から燃え上がっている。

「お……お母さん。ボクは、ボクは一煉寺さんが――」

 だが、それよりも速く。

「きゃわぁあぃいいぃっ! 何この真っ白でつやつやの肌! はかなげな瞳っ! 庇護欲を……庇護欲をそそられちゃうぅぅんっ!」

 母さんの暴力的スキンシップが、それを捩じ伏せてしまった。車椅子の四郷に急接近した母さんは、壊れ物を扱うような優しい手つきで彼女の頬を撫で、次に頭を抱きしめる。

「あぅ!? あ、あの……!」
「あぁもぅ、どうしましょッ! 太ぁちゃんったら、こんなにいっぱい可愛い女の子を虜にしちゃうなんてッ! こうなったら誰がお嫁さんでもママはウェルカムよッ! お父さんもそう思うでしょッ!?」
「そ、そうだ、な……」

 急に母さんに頭を抱きしめられ、困惑する四郷を他所に、母さんは勝手に舞い上がっていた。「可愛い子」に目がない母さんのハッチャケ具合に、親父も辟易している様子。

 普段はおっとりしている母さんが、時折解放するこの本性。俺や兄貴は割と見慣れてる方ではあるが、初見のみんなはドン引きもいいところだろう。

 鮎美さんは割とノッてる方らしいが、その他は母さんのノリに置いて行かれている感じだ。基本的に静観を決め込んでいる古我知さんや伊葉さんも、流石に唖然気味である。

 ――その時、俺の視界に救芽井の姿が留まる。

「……」

 彼女は母さんにおちょくられている矢村達を遠巻きに眺めながら、どこと無く寂しげな表情を浮かべていた。明確に母さんから拒絶されたのが、かなり堪えているらしい。

 ……母さんの言うことは、確かに当たっているところもある。

 俺が救芽井に関わらなければ、一生消えない傷を負うことも死にかけることも、母さんが習わせたくないとしていた拳法を始めることもなかっただろう。
 だけど、俺はそのことで後悔はしてはいない。昔は救芽井のことを煩わしく思うこともあったが、今は違う。

 彼女は――「今の俺」という「怪物」に理解を示してくれた、大切な存在だ。そう思う気持ちを「好き」と云うのかわからないけど……少なくとも、あのまま凹ましておくわけにはいかない。

 だから俺は、今言う。

「なぁ、母さん。俺さ、嫁さんとか孫とかより先に、どうしても欲しいものがあるんだけど」

「えっ……? 太ぁちゃん、何それ」

 これからずっとヒーローを続けて、いつか彼女が認めてくれた「怪物」になるために、きっと必要になるモノを。

「着鎧甲冑の――正式な所有資格(ライセンス)だ」
 
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