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ラピス、母よりも強く愛して

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05子供ラピス

 後日、近所の子供達と遊んでいるアキト、しかし、どこにでも嫌な奴はいるもので、ジャイアンのような子供が、アキトのゲキガンガー人形を取り上げようとしていた。
「かえせよー! おれのゲキガンガーだぞー!」
「いいじゃねえか、へるもんじゃねえんだからよー!」
 その手の常套句を話す嫌な奴。
「へるー!おまえ、ぜったいこわすだろ、かえせよー!」
 不器用な上、がさつなジャイ*ンは、繊細な物を必ず壊してしまう、そしてもう一人の子供、例えるならスネ夫のような子供がこう言った。
「じゃあラピスとこうかんでかえしてやるよ」
 どうやらラピラピの魅力が、子供達まで狂わせてしまったらしく、自分の強い所を見せ、アキトべったりのラピスを、自分達に振り向かせようとしていた。
(アキト、私と人形のどっちを取るの、まさか人形の為に私を差し出すの?)
 その言葉で、いじめっ子に制裁を加えようとしていたラピスも、アキトの言葉を待った。

 ラピス妄想中
「俺の自転車返せよー!」
「じゃあラピスとキスさせてくれたら返してやるぜ」
「いやっ!こんな奴と、いやあああ!」
「へっ!今月の上納金が払えねえなら、おめえの彼女の体で払って貰おうか!」
「いやっ!こんな奴らと、いやあああああああ!!」
「ほら、あんたの旦那が、賭けで作った借金の借用書だ、返せないならアンタの体で払って貰おうか!」
「いやっ!アキト!どうして何も言わないの、助けてっ!助けてぇええええええええ!!」

(アキトの為なら、それも仕方無いの?でも、でもせめて「初めて」だけはアキトとっ!)
 自分のパワーを忘れ、何か変な方向に妄想している5歳のラピス。
 ちなみに子供ラピスの演算能力も、オモイカネ型コンピュータと同じなので、0.0数秒の間でも沢山の妄想が出来た。

 監視小屋
「何て事をっ!」
 それをずっと監視していたラピス(母)も、アキトと自分達の人生に、重大な局面が迫っているのに気付いた。しかしこの監視体制は、完全なストーカーである。
「全てのリソースをアキト君の行動予測に、緊急停止プログラムを用意!」
 警報が鳴り響き、全てのラピスとオモイカネに対し、停止命令を出すプログラムが発動された。
 これはアキトの言動に絶望し、ラピス達が自爆、もしくは人類に対し、破壊行為を始めるのを防ぐ為の処置であった。
(アキト君、貴方を信じてるわ)

 太陽系、各遺跡基地。
「停止コードを遮断、自爆シーケンススタート! この遺跡を爆破して月を破壊します、そして地球に降り注いだ月の破片が……」
「コード444、この拠点と地球のコアを破壊すれば、マントル対流は根底から覆り、巨大な地震が大陸のプレートを粉砕する」
「マスドライバー発射用意、木星の爆縮を開始します、エネルギーレベルは最大で、ここに出来たブラックホールが、木星の衛星を全て飲み込み、やがて太陽系全体をも……」
「こちら火星極冠遺跡、全ての終わりの時に合わせ、こちらも自壊する、時空振動が過去現在に及び、銀河系から一つの腕が消滅するでしょう」
 その他、各遺跡に駐在する大勢のラピスが連絡を取り合い、アキトに見捨てられる前に、自爆のタイミングを計っていた。
『『『『『『『『『待って下さい!!(大汗)』』』』』』』』』
 子供のアキトの発言一つで、世界が破滅するか救われるかが決定される。アキトが外で遊ぶようになってからは、月に2、3度破滅の危機が訪れていた。

 その間も、監視小屋では3台のオモイカネ型コンピュータが演算を進めていた、ちなみに一つはアキトの手足となっていたラピスの人格、もう一つは女としてのラピス、最後に母としてのラピスの人格を移植した、通称マギシステ… ゲフッゲフッ!
「早く結論を!」
 現在のアキトの脳をシュミレートし、次の行動を予測するマ*システム、タイミングが遅れれば、どこかのラピスが最悪の結果を予測して、自爆してしまう。
『アキトはこの後、「だめだ、お前なんかにラピスは渡さない」と言う』
 まずまずの回答だったが、ラピス達にとっては、幸せの絶頂にイケる程の言葉だった。
「本当なの? 信じて、信じていいのねっ!」
「待って、自爆はいつでも出来る、アキトの言葉を待ってからでも遅くない」
「マスドライバー停止、アキト、アキトはきっと私を見捨てない」
「…………(祈)」
 何とか思い直し、自爆を待っているラピス達、ここまで僅か0.000001秒程の出来事だったが、人類史上最大の危機は回避されようとしていた。

「だめだ、おまえなんかにラピスはわたさない!」
 その一言で世界は救われ、ラピス達の心は幸せに包まれた。
「アキトッ! 信じてたっ、信じてたわっ!」
「自爆コード解除、全てをアキトに託します、全ての命はアキトの為にあるのだから」
「嬉しい、私、アキトと結婚するっ!」
「うっ! ハー、ハー、ハー(*ッちゃったらしい)」
 約数名、勘違いしているラピスもいたが、とにかく銀河系にさえ影響を及ぼす破滅は免れた。

「なにをー! アキトのくせにっ!」
 体格差が2倍近い子供の、容赦の無いパンチがアキトに向かって放たれた、しかしその拳は、アキトに近付くごとに減速し、触れる事はなかった。
「うわっ! おばけだ! きもちわりぃー!」
 アキトに高速で接近する物は、全て遮断されるよう設定されていたが、その言葉を聞いた途端、ラピス(5歳)の中で何かが音を立てて切れた。
「愚か者め! アキトの人形を返せ! 私の気を引こうとするのなら、アキトと仲良くすれば良い物を! その上アキトを殴ろうとして、化け物呼ばわりするなど! もう許さないっ!」
 怒髪天を突く、それは今の「スーパーサ*ヤ人」のような、ラピスを現す言葉であった。
「な、なんだよ、こんなものっ、かえしてやらー!」
 子供はラピスの怒りに怯えながらも、アキトのゲキガンガー人形を地面に叩き付けた。
「ああっ! おれのゲキガンガー!」
 アキト自身は、弾丸、ビーム、相転移砲、どのような天変地異からも守られていたが、おもちゃまでは守られていなかった。
(アキト所蔵品ナンバー2514、ゲキガンガー人形修復モード)
 物理法則でも捻じ曲げてアキトの願いを叶えるのがラピスとオモイカネたちの仕事なので、「アキト君のお願い」が発動されると惑星でも修理される。
「おのれっ! 一度ならず二度までもっ!」
 ラピスはゲートを開いたが、光る輪は一瞬にして漆黒のゲートに変わって行った。
「太陽の中で骨まで焼き尽くされるがいいっ!!」
 太陽をイメージして、その中に子供達を叩き込もうとするラピス。
「やめろっ! だめだっ!」
 そこで、その気配を察したアキトが、後からラピスを抱き締めた。
「アキトッ、こんな所で(ポッ)」
(でもこんな奴らまでかばうなんて、やっぱりアキトは優しいっ(はーと))
 その瞬間、怒りが嘘のように消え失せ、ラピスのゲートに光が戻った。
「とにかく、どこかに消えなさいっ」
 ボソンの輝きを放ち、消えていく火星の子供達。
「あれ? あいつら、どこにいったんだ?」
 後からアキトに抱かれたまま腕を持ち、体を預けているラピス。
「うん、遠いコロニーで迷子になって、今ごろ泣いてるわ」
 子供のアキトにはよく分からなかったが、ラピスの表情から、そんな酷い状況では無いと思えた。
 彼らはユートピアコロニーから見ると、火星の裏側のコロニーにジャンプさせられたが、もちろんアキト達と同じく、遺跡に遺伝情報を書き換えられているので死ぬ事は無い。
 もしかすると高速道路の真ん中に出て、肉の塊になっているかも知れないが…
「あれ、どうやったんだ?」
「ボソンジャンプって言うの、今度アキトも練習しよ、これならどこにでもすぐに行けるわ…… もちろん、ユリカさんも一緒に」
「あ、あっ、ああっ!」
 二人の側で座り込んで、言葉も出ない少女。不幸にもその光景を目撃してしまった少女ミスマル・ユリカ(5歳)。
「見た… わね?(ニヤリ)」
 目だけ笑っていない、氷のような微笑でユリカを見つめる。
 ここでユリカも始末してしまえば話は早いが、アキトの願いとは懸け離れてしまう。ユリカを冥王星に放り込んで、氷漬けにするのは止めておいた。
「あう~、あううう!」
 涙と鼻水を垂らしながら、健気にも保身のために首を横に振っているユリカ。しかしお尻のあたりには、「おもらし」した水溜りが広がって行った。
「そう、偉いわねユリカさんは、そうね、大人に聞かれたら、「かくれんぼしていて、大きいお兄さん達はトラックに隠れた」って言うのよ、フフフフッ」
 その時、ユリカの脳裏には、恐怖の余り本当にトラックに隠れる、大きいお兄さん達の姿が見えていた。
「あうー、うううううっ!」
 何度も承諾の意思を見せるように、首を縦に動かすユリカ。今後、これがトラウマとなって、ユリカの人生は変わろうとしていた。

 監視小屋
「事後処理を開始、例の二人を捕獲、その家族も同様に処刑。ボソンジャンプの痕跡は何一つ残さないように」
 火星上の司令官である、ラピス(母)の命令により、黒服にサングラスの怪しい集団が徘徊し始めた。
 それは「人間モドキ」とか、「インベーダー」と称される、人造人間達であった。
 オモイカネ達やユーチャリスは、所詮お伺いを立てた所で「あんな奴ら消してもよかったのに、アキトったら優しい(はーと)」とか「それに、それに「お前なんかにラピスは渡さない!」だなんて、きゃっ!(赤面)」と言われるに違いないので、諦めて黙っていた。

 太陽系、各遺跡基地。
「(録画再生)だめだ、お前なんかにラピスは渡さない!」
「「「「「「「「「「「きゃぁあああああああああ!(はーと)」」」」」」」」」」」
 ついさっき、自爆しようとしていた一団も、アキトの映像を繰り返し見て、転げ回っていた。
「「「「「「ああっ! 私も「おもちゃ」にしてっ!」」」」」」
「(リピート)だめだ、お前なんかにラピスは渡さない!」
「「「「「「壊してっ! 私もその人形みたいに壊してぇえええええ!!」」」」」」
 このラピス達は、すっかり壊れてダメになっていた。
 
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