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ラピス、母よりも強く愛して

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04アキト生誕

 テンカワアキト生誕10ヶ月前。
『ゼロアワーまで、約3000秒』
 人工知能のタイムカウントが進む。今日は運命の日、アキト誕生、つまり母親の胎内で受精する日であった。
『テンカワ・アキトとなる精子を確認、マークします』
 普段ラピス達は、各惑星に散在する遺跡の管理を行っていたが、今日、この日の為に、火星のテンカワ家の隣にある、通称「監視小屋」に集まっていた。
『順調に進行中…… 卵子に到達』
 ここで子供が出来ても、少しでも遺伝情報が違えば、それはアキトではない、ラピス達は固唾を呑んで見守っていた。
『卵子外殻が損耗して行きます…… 結合しました』
 もし違う物ができれば、時間を遡り、精子を選別してでも、アキトを造らなければならない、ラピスとしても、それだけは避けたかった。
『演算ユニットにより遺伝情報が書き換えられます… 成功です、テンカワ・アキトが誕生しました』
「「「「「「「「「「「「「「「やったーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」」
 普段の冷静な?ラピス達からは想像できない程、はしゃぎ、抱き合って泣き、踊っている大勢のラピス。
「「「「「「「「「「「「「「「アキトーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」」
 出口に向って走り、隣に行こうとするラピス達。
『待って下さい、今は夜中の3時です、見知らぬ子供が尋ねて「受精祝い」を言っても信じて貰えません』
 監視小屋にいるオモイカネ型人工知能にたしなめられ、夜中に大勢で訪問するのは控えたが、かねてからの計画通り、アキトの受精卵を盗みに行く事にした。
「オープン・ザ・ゲート!」
 天使の格好をしたラピスがゲートを開き、隣にジャンプして行く、アキト自身をジャンプさせる事も考えられたが、万全を期して受精卵のボソンジャンプは控えた。

 天河家寝室
「テンカワさん」
 テンカワ(母)の夢枕に立ち、体は眠らせたまま、脳だけ覚醒させて語りかける。
「…貴方は?」
 誰が見ても天使に見えるような翼を付け、後光を放って顔を隠すラピス。 
「私はラピス、今夜、貴方が宿す子供の守護天使です」
 とちらかと言えば、アキトに憑いている悪霊とか、悪魔と言った方が正しい。
「ええっ?」
「私は受胎告知をするためやって来ました。その子は生まれた後、救世主となって、世界の人々を救うため、闇の世界の住人達と戦う事になるでしょう」
 何やら話が大きくなっているが、オモイカネ達のリサーチした、アキトやテンカワ母が「燃える」シナリオではこうなっているらしい。
「救世主?」
 話している間に、別のラピスがアキトの卵を慎重に移動させ、用意したケースに移し取ろうとしていた。
「はい、人類はまた試練の時を迎えます、太陽系の外に出る事を許される存在となるか、また暗黒の時代に戻り、戦争と疫病により淘汰を繰り返すか、全てはこれからの十数年で決まるのです」
(…………)
 余りにも急な出来事に、言葉も無いテンカワ母。
「これから、その子の命を狙う者達と、守ろうとする者が現れるでしょう、今後はくれぐれも慎重に行動して下さい」
「は、はい…」
 きっと過去に行ったユーチャリスが昔のアニメを仕入れて来て、オモイカネ達が検討した結果「宗教色の強い脚本は受ける」と判断されたらしい。
「そしてもし彼が志半ばに倒れるなら、人は苦渋に満ちた千年を過ごし、彼が成人し人々を導くなら、素晴らしい時代の幕開けとなるでしょう」
 他の救世主物の脚本では、「胸に七つの傷があるアキト」が、ジュンにさらわれたユリカを助けるため、興廃した世界を旅して、様々な強敵(とも)と戦い、実は死んだはずのユリカが南斗最後の将だったとか、実はルリが双子で、元斗光拳が守護する光の救世主だった、と言う脚本もあったが、そのあたりは後々流用されるらしい。

 アキトをジャンプさせられない以上、当然、帰りは徒歩になる、外に出たラピスは「合鍵」でしっかり戸締りをして、テンカワ家を離れた。
「進路クリアー、異常無し」
 隣の家まで僅か10メートルの道のりを、装甲シャッターが覆い、多数のラピスが警備していた。
 上空にはユーチャリスまで現れ、アキトの受精卵は相転移砲にも耐える頑丈なトランクに入れられ、隣まで移動して行った。

 ラピス(天使)達が帰って来ると、待ちかねた他のラピスが出迎える。
「「「「「「「「「「アキトー、アキトー」」」」」」」」」」
「すぐにアキトのバックアップをとります、これからは各人が責任を持ってアキトを守って、太陽系規模の災害が起こっても、アキトだけは守るように」
 オリジナルに近い、火星の責任者なラピス(母)が、他のラピスに注意していた。

 数百年前、アキトのバックアップ会議にて
『通常、受精卵からクローニングする場合、分裂した卵を切り分けて行くのですが…』
 それを聞いたラピス達は、一斉に悲鳴を上げ、オモイカネの一台を非難した。
「「「「「「「「「「「「「アキトを二つに切るなんて正気なの!!? 私にはそんな事出来ないっ!!」」」」」」」」」」」」」
 確かにクローンを作る場合、卵が分裂した時に切り分け、卵の万能性を利用して増やして行くが、ラピス達には「アキトを二つに切る」など、想像も出来ない暴挙だった。
「「「ふうっ」」」
 一部の気の弱いラピスは、それを聞いただけで血の気が引き、貧血を起こして倒れてしまった。
「「「「オモイカネ! 例えお前でも、二度とそんな事を口にしたら許さない!!」」」」
 他のラピスも口々にオモイカネを罵り、倒れたラピスを介抱していた。
「「「いやっ!いやああああああああああ!!」」」
 残りのラピスもフラッシュバックを起こし、アキトを失う瞬間を思い出して、泣き叫んでいた。
『ですから…、それはほんの一例です、成人からのクローン作成では、受精卵にテンカワ・アキトの細胞核を埋め込み、増やして行きますが』
 だがラピス達は納得せず、口々に不満を漏らした。
「違う! そんなのアキトじゃない!」
「何て事を! どこの誰とも知れない女の卵にアキトを入れるなんて! よくもそんな卑猥な事を言えたわね!」
 罵られるオモイカネ達を助けるため、ユーチャリスは一つの提案をした。
『では、貴女とテンカワ・アキトの受精卵ならどうでしょうか?』
 その一言で、それまで騒いでいたラピス達は一斉に静まり、机に「の」の字を書きながらこう言った。
「い、いきなり何を言うの!(真っ赤)アキトが私の「赤ちゃん」になるだなんて」
「私とアキトが10ヶ月もお腹の中で繋がって、自然分娩までして、母乳を吸わせるなんて、そ、そんな(真っ赤)」
 何か、やたらリアルな妄想をするラピスもいた。
「赤ちゃんのアキトをお風呂に入れて、あ~んな所まで洗ったり、オムツを替えて今日の体調を調べるために「アレ」を口に入れて味を確かめて、チーズの味だと言ったり、ヒィイイイイイッ!!」
 このラピスは壊れたらしい。
「でもそれって、卵子が私のだから、アキトと私の赤ちゃんになるんじゃないの?(ポッ) でも私の赤ちゃんはどうなるの? だめっ! アキトの赤ちゃんを殺すなんてだめぇっ!」
 予想外の話に混乱しているラピス。
「そ、それならアキトにも相談しないと、ねえ」
「だったら、やっぱりアキトに「直接注射」してもらわないと、キャッ!」
 自分で言っておいて、恥ずかしさで顔を隠すラピス。妄想が膨らみ、大人のラピスは両足をもぞもぞさせ、先程貧血で倒れたはずのラピスも鼻血を出していた。
「わ、私ちょっとトイレ」
「「「「「「「「「「「「「「私も」」」」」」」」」」」」」」
 以後、会議は一時間以上中断され、トイレどころかシャワーまで浴びてスッキリしたラピス達が揃うと、頭を冷やしたのか、血の気を「ヌイて来た」のか、少し冷静になっていた。
『それでは、受精卵を分子レベルまでコピーする、と言う結論でよろしいですか?』
 ユーチャリスの言葉を、上の空で聞いているラピス達。
「え? ええ、そうしましょう」
『本当にそれでよろしいのですか?人類には「魂」と言う概念が存在し、コピーされたテンカワ・アキトは、その事実を知れば、一生苦しみ続ける事になります』
 ユーチャリスの言葉で少し考えを改めるラピス達。
『影を背負った暗黒の王子になるアキトは、それで満足するかも知れませんが、普通に生きて行くアキトは、何分の一かでも、本当の父親と母親から命と魂を分け与えられる事を望むでしょう』
 会議の結果、卵細胞を傷付けないよう、減数分裂した後で丁寧に分離する事が決まり、「アキトが私の赤ちゃん」動議や、「二人の赤ちゃん」論も考慮される事になった。

 現在に戻る
『では分離を開始します、受け取り方法は防爆トランクでよろしいですか?』
 しかしラピス達の狙いを知っているオモイカネは、少し投げやりだった。
「「「「「「「「「「あ、私は卵だけ試験管に入れて出して」」」」」」」」」
 トランクごと「お持ち帰り」するラピス以外にも「生」で欲しがるラピス達がいた。
 なんだかんだ言っておいて、キッチリ「危険日」に合わせて来て、一番安全な「自分の子宮の中」に着床させて帰るつもりらしい。
((((やっぱりコイツら…))))
 いつの間にかアキトのレプリカに「注射」してもらい、何度か育児経験も積んだラピス達。
 しかし、残念ながら日取りを合わせられなかったラピスも、帰り次第自分のお腹に収めるつもりでいた。

 そして生でアキトの受精卵を受け取ったラピス達は、個室に入って医療用ベッドに寝転んだ。
「あっ!アキトが入って来る、あ、赤ちゃん出来ちゃうっ」
「いいの、アキトだったらいいのっ、私一人でも育てるからっ!」
 やたら気分を出しながら、アキトを着床させていくラピス達。
「「「これは保険だから、もしアキトが増えなかった時の保険なんだからね」」」
 と言い訳しながら、
「あ、アキト!そんなに強く吸っちゃだめ!出ちゃう!出ちゃうよ!」
 これは、顕微鏡を見ながら作業しているアキトが、ラピスの卵子の核を吸い出して、アキトの細胞が分裂した後に、自分の胚の細胞核を吸い出している時のセリフだったりする。
「アキトが中に出てる 出来ちゃう! 赤ちゃんできちゃう!」
 これは、自分の卵子に、アキトの細胞の核を植え付けさせる時のセリフ、このラピスも、すっかり壊れていた。
 そんなラピス達はコト?が終わった後、ベッドに横たわり、グッタリしていた。
「あっ!動いたっ(はーと)」
 生物学的にそんな事は有り得ないが、今のラピスには「アキトが動いた」ように思えるのだから仕方ない。
 ラピス全員がメンヘラリシカボーダー中二病統合失調症の幻覚誇大妄想患者に成長していたので、医者でも匙を投げて病院が逃げ出すぐらいの重篤な患者になっていた。

 そしてボソンジャンプは禁止されていた火星の責任者、比較的壊れていない、まともなラピスの部屋では。
「アキトが私の中にいる…… やっと、やっと帰って来たのね、あはっ、はっ、あははははははははははっ!!」
 ベッドに横たわり、狂ったように笑いながら、とめどなく涙を流していた。
「これでもう、誰にもアキトを傷付けさせない。ふふっ、これまでアキトを苦しめ続けた神や悪魔がいるなら聞くがいいっ! 私はお前達にも絶対に負けないっ! 必ず、必ずアキトを幸せにして見せるっ! あはっ! グスっ、あはははははははははっ!」
 今まで抱え続けた緊張が一気にほぐれ、ラピス達はお腹を抱えて、いつまでも泣き続けた。

 数ヶ月後
 火星の産院で、診断を受けるため来ていたアキトの母。
「こちらへどうぞ、荷物をどけますから」
「あっ、すいません、貴方はお隣の」
「ええ、ラピス… ラピス・ラズリです」
 アキトの母に席を譲ったのは、ラピス(母)外見年齢約25歳だった。
「あの、何ヶ月ですか?」
「はい、3ヶ月です」
「そうですか、この子と同じですね」
 他のアキトのように、オリジナルも厳重な監視下に置かれ、当然、産婦人科医も看護婦も、オモイカネシリーズに操作されたアンドロイドだった。
 病院一棟丸ごとアキトのためだけに存在している。
「男の子ですか?」
「ええ」
「うちは女の子なんです、仲良くなるといいですね」
 自分のお腹の中にいるのもアキトだったが、こちらは厳重に保管され、別のアキトになる。
 そして新しく生産されるラピス29号が、ラピス(母)の子供としてアキトの監視と警護に当たる計画になっていた。

 それから7ヶ月後、ついにオリジナルのテンカワ・アキトが誕生した。
「私があなたのママよ、あなたの名前はアキト、天河明人。貴方はどんな子になるのかしら?」
 同日、ラピス(母)もアキトの分身を出産し、形式上ラピス(娘)を出産したことになっていた。
 今後もテンカワ家に侵入し、ずっとアキトと過ごし守り続けるには、同じ子供でいるのが一番簡単だった。
 さらに歴史通りなら、ユリカはアキトの2年前に産まれていたはずだが、今回は「年上はユリカやイネスさんで懲りてるから、同じか年下がいいな」と言う要望により、受精卵のまま保存され、アキトと同時期に誕生していた。
 これで「2年も遺跡と融合してたからアキトと同い歳、ぶいっ!」などと言う戯言も通用しない。

 数年経過
 それから数年、アキトとラピスは、どこかのタカラヅカ歌劇のフランス人のように、カ~ストルとポ~ルックスのように育った。
「ア~キ~ト~!あ~そ~ぼっ!」
 今日もアキトの家の前に、ご近所のユリカちゃんが、お誘いに来ていた。
「あら、いらっしゃい、もうラピスちゃん来てるわよ、上がって」
 アキトの母に言われるまま、子供部屋に上がるユリカ、しかしユリカの天敵は、すでにテンカワ家に侵入していた。
「アキト、ユリカちゃんが来たわよ」
 一階からアキトに声を掛けるアキトの母。
「アキト~~!!」
 ユリカがドアを開けると、そこにはアキトの膝の上に座り、ご丁寧にユリカに目線を向けながら、アキトにキスしているラピスの姿があった。何となく「ズキュ~~ン」とか擬音が聞こえてきそうな表情で。
「な、なにしてるの? だめぇ、はなれて~!」
 アキトもユリカに気付き、後を振り向いたが、頬を赤らめてトロンとした表情を見たユリカの目に、涙が浮かんで来た。
「ア… アキトのバカッ、うわ~~~~~ん!」
 泣きながら走り去るユリカだったが、後を追うのはラピスが許さなかった。
「だめ、もっと」
 ユリカの泣き声がドップラー効果を起こしながら遠ざかって行くが、アキトには対面座位(笑)で抱き合っているラピスを跳ね除けてまで、ユリカを追うような価値感を持っていなかった。
「ユリカどうしてないちゃったんだろ?」
 天然の上に子供と言う条件が重なり、さらに女心が分からないアキト。
 難聴ラノベ主人公ではないが、ラピスがその音声を消すし、アキトの耳に侵入もさせないし、まずその女に告白の言葉など発声させない。
「それはね、わたしとアキトの仲が良かったから、悲しくなったのよ」
 意味が分からず頭に?マークを出し悩む。
「ふーん、じゃあこんどユリカとも「なかよく」したらよろこぶかな?」
 悪意の無い表情で、平然と言い放つアキト。
「だめっ! 私以外と、こんな事しちゃ嫌っ!」
 今度はラピスが悲しそうな表情をしたので思い直す。
「うん、ラピスがないたらいやだもん」
 子供のアキトは、知らない事や気持ちいい事や「女の子の秘密」でも「本格的なおいしゃさんごっこ」でも何でも教えてくれるラピスが大好きだったので、「おままごと」や「お人形さんごっこ」ばかり要求するユリカより、遥かに大切な存在だった。

「どうしたのアキト? またユリカちゃん泣いて帰っちゃったわよ」
 二階に上がって来たアキトの母も、その光景を見て凍り付いた。
「何してるのっ、あなた達!」
 驚く母にアキトが答えた。
「うんテレビでチュッてしてたから、まねしてたんだ」
 まだアキトは5歳だったが、相手がラピスだったので、入っているような気がして(何が?)驚かされたが、アキトの状態を見て安心する。
「そ、そうなの?」
「すみません叔母様、私達が「仲良く」していたので、またユリカさんが嫉妬して、泣いてしまったようです」
 とても5歳の子供とは思えない言葉を話すラピスだが?
「もっと~」
 一応子供のような演技をして、またアキトに抱き付いた。
「あらあら、モテモテ(死語)ね~アキトは、あんまり女の子を泣かすんじゃないわよ」
 自慢の息子を、少し誇らしく思いながら立ち去る母。
 そう、将来アキトは10人以上の女を泣かせず、いい声で鳴かせ… もとい、幸せにしなければならない、ラピスの訓練は続いた。
(フフッ、アキトができるようになったら毎日特訓よ(ナニを?)、その頃には邪魔者には消えて貰わないと)
 またアキトの両親とかユリカの家族は、アキトが8歳ぐらいになると、ラピスに消される運命にあるらしい。

 ご近所のミスマル家に、お詫びの電話をかけるアキトの母。子供同士の事なので、放っておいても良かったが、また娘馬鹿一代の人が怒鳴り込んで来ると困るので、連絡だけは欠かせなかった。
「すみません奥様、また「宅の」アキトと、お隣のラピスちゃんが仲良くしていたので、ユリカちゃんが泣きながら帰ってしまったんです、申し訳ありませんでした」
 電話のモニターの向こうでは、泣いているユリカの声が聞こえていた、
「いえ、「いつもの事」ですので、もう慣れてもいいと思うんですが…… あの「仲良く」と言うのは、どんな事をなさっているんでしょうか?」
 確信を突いた質問に、言葉を失うアキトの母、
「あ、あの(汗)、子供同士の遊びなんですが…… ラピスちゃんはキスが好きなようで、いつも」
 そこで口では説明できず、子供部屋をモニターしてみる母。
「アキトッ!!」
「アキト君!」
 そのカメラには、上からラピスがのしかかり、シャツまで脱がされて、もうすぐ犯されようとしているアキトの姿があった。
「ちょっと失礼します、お詫びは後ほど!」
「はいっ」
 素早く電話を切り、子供部屋へ向かうアキトの母。
 ユリカの母も事情を察し、レイプ(笑)されようとしている、お子さんの救出に向かわせた。
(なんて女の子なのかしら、あんな子とユリカを遊ばせたら、きっと)
 悪い予感を抱き、しっかりと「もうあのお家に遊びに行っちゃだめよ」と説得し「特にラピスちゃんとは、口もきいちゃだめ」と念を押すユリカの母。
「いや~!アキトと遊ぶの~~!」
 ラピスと口をきかないのは、言われるまでも無く実行しているユリカだったが、アキトを何度か押し倒そうとしたのは同罪だった。

 テンカワ家
「アキトッ、開けなさいっ、ラピスちゃん! 何してるの? アキトを離してっ」
 乱暴にドアを叩き、「内鍵」までかかった子供部屋を開こうとする母。
(チッ! カメラを切り忘れるとは、ああっ、これもアキトの魅力のせいなのね、その上5歳のアキトの肌は「ぷにぷに」って言ってるのよぉお~~~! ああっ、もう辛抱たまりまへんっ!!)
 立ち上がろうとしたはずのラピスは、再びアキトに圧し掛かる
「ラピス、みつかっちゃったよ、かあさんがよんでる」
 アキトの呼びかけで、また現世に戻って来たラピス29号。
「え? ええ、じゃあ言い訳その2で行きましょう」
 こんな事もあろうかと、あらかじめ言い訳も用意していたラピス。もちろん練習した時も「辛抱たまりまへん」になって、アキトを押し倒したのは言うまでも無い。
「そんなにあわてて、どうしたの? かあさん」
 アキトが鍵を開けて迎え入れると、アキトの母は血相を変えて飛び込んで来た。
「貴方達っ、何してたの!」
「うん、「あくだいかんごっこ」だよ」 
「ええっ?」
「じゃあ、つぎはラピスのばんだよ」
「うん」
「おぼこむすめじゃ、あるまいに~」
 そう言って、ラピスに巻いた帯を引っ張るアキト。
「あ~~れ~~~~!」
 帯を引っ張られ、ラピスはグルグル回りながら倒れ、二人共まるで「回るのが楽しい」とでも言いたげに遊んでいた。
「よいではないか、よいではないか」
 アキトの方は、上に飛び掛ってキャーキャー言いながら、はしゃいでいた。
「お代官様、お許しを」
 今回は受け側だったが、ラピスは何とか馬脚を現す事無く、アキトと遊び続けた。

「度々申し訳ありません奥様…」
 アキトの母は、またミスマルの奥様に電話をしていた。
「あ、あの、アキト君は無事でしたか?」
 アキトの無事を祈りつつも、何か間違いがあって、子供達の「火遊び」が大変な事になっていないか、内心ドキドキしているユリカの母。
「はい、あれは「悪代官ごっこ」だそうで、例の「帯を引っ張ってグルグル回る」のが楽しいらしくて…」
 いつもは「アキトに群がって来る女の子の一人」として、優位に立っていたミスマルの奥様に、恥ずかしい所を見られてしまい、小さくなっているアキトの母。
「でも、さっきのは?」
「はあ、アキトは、じゃれついて遊ぶだけのようですけど、ラピスちゃんはテレビの通り服を脱がせたり、む…(胸に吸い付いたり)いえ、くすぐったりするそうです」
 さっきのラピスの表情は、そんな生易しい物では無かったような気がしたが、きっとモニターの解像度のせいだろうと自分を納得させた。
「そうでしたか」
「どうもお隣では、番組にプロテクトをかけて無いらしくて、毎朝二人で見ているそうです、暴力シーンは勿論ですけど、あ、あんなシーンは特に教育上問題がありますから、明日にでも切って頂くようお願いしておきます」
 例えそんな「お願い」をした所で、アキトが望めば「北欧直輸入ロ**タ物」でも「アメリカマッチョマン大会、ミスターユニバース決定戦」でも見せてしまうのがラピスである。
 勿論、生で見たり触ったりしたいと思えば、本格的なお医者さんごっこを始めて、ラピス29号でもラピス(母)でも観察し放題。
 内視鏡からファイバースコープなど、あらゆる機器を使って中まで見せるのは当然の事で、後はアキトの成長待ちだった。
 
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