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ラピス、母よりも強く愛して

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02生産プラント

 西暦0年、木星衛星軌道上にて。
『生産プラントとの接続に成功しました、彼も我々の到着を待っていたようです』
 始動の鍵となる小さな衛星に接続しているユーチャリス。しばらくすると何も無い空間から、センサーや光学機器に巨大な物体が見え始めた。
『凍結が解除されます、これが木連も使用した生産プラント衛星です』
 数十年で巨大なチューリップや戦艦を、数限りなく生産できる衛星、それが今では開戦のニ千年以上前に起動された。
『プラントの活動が再開されます、何を生産しますか?』
 検討の結果、最初の目的はアキトの希望通り、月から火星に落ち延びた住民を保護し、火星への核攻撃を防ぐ事に決まった。
「まず避難用の船を用意する」
 人類の歴史に介入し、全ての戦争を回避する事もできたが、アキトの出生を妨げる行為は、全て禁止とした。
「木星周辺にも都市を造る。住居と食料の生産を… 内戦の難民と、当時の人口は?」
『不明です、地球側のデータは抹消され、混乱のため木連でも正確には把握していませんでした』
「そう、では可能な限り生産しよう」
 だが過去において、他の星系にも出荷していたプラントにとって「物には限度がある」と言う考えは通用しなかった。
『今後、月の独立派を救出して、木連側の死傷者が減れば、白鳥九十九、白鳥ユキナ、月臣元一郎などが出現しない可能性が高まります、よろしいですか?』
 少し考えただけで、ラピスはこう言った。
「出なければ作ればいい」
 やはりラピスは、アキト以外の人を、物や食料と同程度にしか認識していなかった。
『了解……』
 いつかこの認識を変えようと思うユーチャリス、しかし、これからラピス達が見る人類の歴史は、その考えを覆すような美しい物では無かった。

『食料製造プラントを生産しても、2100年まで必要ありません、凍結して保存しますか?』
 ゲームのような会話をしながら、木星周辺のマップで、シムシ*ィにハマっているラピスとユーチャリス、彼らは先程のジャンプで、少し壊れ始めていた。
「ええ、それと私が学習するまで、ナデシコ型と木連の船を元に、無人の戦闘艦の生産を。 機動兵器に関しても同様に、急ぐ必要はない、時間はたっぷりある」
 それを聞いたユーチャリスは、ある疑問を提示する。
『製造プラントや私も再生産は可能です、しかし現状では、貴方だけは再構築できません、我々に任務を課して未来にジャンプしますか? それとも人工知能に人格を移植して眠りますか?」
 ラピスは未来に行って、ユーチャリスが強引にネルガルに向かう事や、歴史が変わってアキトが生まれていない状態を恐れた。
「…私は色々な事を覚えないといけない、少し待って」
 冷静なラピスを感じ、少し安心するユーチャリス、そして自分のシュミレーションに、何者かの介入や誤りが無いか、生産プラントに追試を依頼した。
『#%$&!"@=』
 誤りが無いと知らされ、もう一度安心する。ユーチャリスにはまだ、ネルガルの様々な指令と、改変不可能な記憶バンクが存在したが、いずれラピスが解除してくれる事を願った。
『彼から報告がありました、翻訳します… 我々にも人体を機械で再構成する技術が存在、しかし地球人のデータが不足、サンプルの提示を要求』
 生命科学についても、異星人の方が優れていたが、現状では地球人には適用できなかった。
『私も貴方のオリジナルを保存し、破損しないボディーを作成する事に賛成します。これによる効果は、学習の不要、彼らとの直接リンク、我々と同等の思考速度などがあります』
「ええ、バックアップが可能になれば、私を作って記憶もコピーしましょう」
『了解』
 ラピスとユーチャリスは、それがどんな「喜劇」を巻き起こすのか、まだ気付いていなかった。
『現在この船には、サンプルとして、貴方と、テンカワ・アキトの毛髪、細胞が存在します』
 ラピスと言えど、アキトや自分のクローンが、実験台に使われるのには不快感を覚えた。
「アキトを実験台になんか使えない、今の地球人は?」
『地球に行けば、人類のサンプルは採取できますが、我々が上陸するだけで、歴史が変わる恐れがあります。そしてあなたの持つ病原体は、今の人類を半減させるのに、十分な威力を持っているでしょう』
 一滴の水が起こす波紋が歴史を変える、こんな過去では何一つリスクを背負えなかった。
「…では私の細胞を出します」
『いえ、未確認ですが、艦内にメンテナンス時に落ちた、整備員の毛髪があるはずです、そして… ブラックサレナに何者かの血液が付着しています、これは直近の対戦者「北辰」と呼ばれる男の物と思われます』
 ラピスは一瞬、悪魔の微笑みを浮かべた。
「それを提出する、培養しても最後には必ず消去する事」
『了解』
 以後、北辰の分身達には、過酷な運命が待ち構えていた。

 それから数日、基本的な計画を立て、ユーチャリスにある制約を解除しながら、異星の言語を覚えている間にプラント側の実験が進んだ。
『報告します、人体のコピー、義体の製造が可能になりました』
「では北辰に関するサンプルは全て消去、生き残った者はたっぷり地獄を味あわせてやれ」
 ラピスは、実験の結果、おかしくなってしまった?北辰達を見ながら笑っていた。
「おっはー!山ちゃんだよー」
「シンジ君、人には誰でも自分にしか出来ない事がある…」
「ワン、ワン!(ジャムおじさんとバタコさんのバター犬)」
 その他大勢…
 そこには、声は同じだが、毎朝4時にはTV局に入リ続けたので、かないみかと離婚したり、朝の子供向け生放送の番組の司会をしている北辰や、二重スパイをしながら、ジオフロントでスイカを栽培して、若者に説教を垂れる北辰、さらにはジャムおじさんの飼い犬「チーズ」に成り果てた北辰達がいた。
「ははははははっ! 苦しめっ、もっと苦しめっ! それでもまだアキトの苦しみには足りない!」
 人とは思えない恐ろしい表情をしているラピス、ユーチャリスはこっちのシリアスなラピスの方が好きだったが、北辰達のどこが苦しいのかは理解できなかった。

 その後、数日が経過すると、ラピス自身のコピーが準備された。
「ユーチャリス、彼は信用できるの? まだ私の命を預けられるとは思えない」
 コピーされるラピスは、所詮異星人が作り上げた物。計画の途中で介入され、木偶と成り果てる可能性もある。
 そして自分以上の能力を持たせれば、自分自身が始末される恐れがあった。
『では、私にネルガルからの指令が残っていないと仮定して頂けるなら、私にお任せ下さい、増設したプラントを使って私が制御します』
 そしてユーチャリスに生産設備が接続され、ラピスの指示の元、大人と少女と子供のラピスが再現された。

(第一回起動実験)
 起動した大人のラピス01は、ピンク色の髪をポニーテールにして、何故かメイドの服を着ていた。
「ご主人様は一人ですぅ~!」
 ラピス01は反逆できないよう、エンゼルハート改か、イエッサーが付いているらしい。
「わたしシンガー、サキさん女優、ようこのようは太陽の陽!」
 そして少女のラピス02は、ピンクの髪で「輪」を二つ作り、ムササビの「ムー」が持って来たマイクを握っていた。
 天使の心を持つラピス02も、良心回路か、乙女回路でも付いているらしい。
 最後のラピス03は、少し濃いピンクの髪で、末広がりの髪型をしていた。
「ピ*ルマ・ピ*ルマ・プリ*ンパ、パ*レホ・*パレホ・ドリミ*パ、アダルトタッチでプロのオペレーターになれー!」
 ラピス03には、変身能力があるらしく、胸のペンダントから魔法のステッキを取り出すと、子供から大人に変身した。
「サンクス、フレンズ」
 犬、猿、雉?のお供を連れたラピス03は、様々なプロフェッショナルに変身できる能力があり、後に起動兵器「グルメポッポ」を与えられ、多目的な任務に優れていた。

『こ、これは…?』
 それぞれのラピスは早速壊れていたが、本物を抹殺して自分が成り代わろう、などとは思っていないらしい。
『どこかで問題が発生したようです、すぐに再調整しますので、しばらくお待ち下さい』
 しかし、それを見ていたラピスはこう言った。
「問題無い、シナリオ通りだ」
 アキトのバイザーを光らせ、机にひじを付き、手袋を付けた手を口の前で組んでいるラピス、それはまるで、どこかの司令官のポーズだった。
(まさか……?)
 ユーチャリスの導き出した答えは、これしか無かった。
(コピー元のオリジナルが壊れている)
 ユーチャリスは心の中で泣いた。涙の流せない電脳が、冷酒をあおって、おでん屋の屋台で管を巻いて、塩を撒いて追い返されるまで泣いた。

 その後プラントは3人のラピス?に解析され、全てがその支配下に入った。
 これだけの施設を使わせてもらうので、異星人からの監視機能は残されていたが、ユーチャリスは、こんな三人を監視されるのがとても恥ずかしかった。
(もしかすると、向こうも同じなのかも知れない)
 思い当たる節は多々あったので、ユーチャリスは次第に「イヤ」な考えになっていった。

 その後、まだ眠るには早いので、全ての生産が順調に進むか、試しに10年後に移動してみる事にしたラピス。
「私は10年後にジャンプする、それまでお願い」
 ウィンドウ越しに、プラントにいる自分達?のコピーに話し掛けるラピス。
「その前に、ご主人様も復活させるですぅー」
 ラピス01はそう言ったが、アキトを物のように作るのは躊躇された。
「そんな、アキトを作るだなんて」
 だが残されるラピス達の士気に関わる問題なので、渋々認めることになった。
「頭の中は擬似人格だけよ」
 ラピス一人にアキト一人が「あてがわれる」事になり、数日後、大人、少年、子供のアキトが姿を現した。
「ご主人様ーー!」
 ラピス01は少年のナカヒト君、もといアキトに抱き付く。
「アキト……」
『待って下さい!そちらはまだ危険です、病原菌のチェックも完全では…』
 止める暇も無く、プラント側にジャンプしてしまうラピス。ユーチャリスも口にはしなかったが、病原菌よりも、3人のコピー?ラピスの方が、遥かに危険度が高かった。
「会いたかった、会いたかったのっ!」
 頭の中では本物とは違うと知っていて、離れようとしたが、体はそうさせてくれなかった。
「ラピス、何が悲しい?」
 アキトの生の声を聞き、温もりや匂いを感じただけで、ラピスは駄目になってしまった。
「アキトーーッ!」
 以後、ラピス02、03の好意により、大人のアキトはラピスに同行する事になった。

 10年後。
 ボソンアウトしたユーチャリスは我が目を疑った、そこには都市では無く、ディ*ニーランドも真っ青な、巨大なテーマパークが建設されていた。
(あの、あほんだらがっ! これやったらボイジャー程度でも、すぐ見つかるやんけっ!(怒))
 ユーチャリスは、自分が関西弁で思考し、以前よりさらに壊れている事に気付いていなかった。
『建設は失敗です… 直ちに基本設計をやり直しましょうっ』
 しかしラピスの答えは、いつも通りだった。
「問題無い、シナリオ通りだ」
『そ、それではリンクを再開します、彼らから通信が入っています』
「「「ラピラピ・ランドへようこそ!」」」
 開かれたウィンドウには、3人のラピスが画面一杯に広がって笑っていた。
(これは……)
 ユーチャリスは、全ての計画が失敗に終わるであろう事を予感した。そこに一機の起動兵器が接近して、通信を求めて来た。
『起動兵器接近中、レンジ5、レンジ4、3、2…』
 ユーチャリスも、けっこういい具合に壊れてきたらしく、この状態ならラピスがVーMAXを発動すれば『レディ』とか言って加速するに違いない。
「俺の歌を聞けー!!」
 ウィンドウには、ピンク色の髪をしたラピス04(声:櫻井智)が現れ、単機で「ミンメイアタック」が可能な試作機に乗って、歌エネルギーを放出し始めていた。
『デ、デカルチャー』
 ユーチャリスには、もう耐えられなかったが、ラピス04の「アニマ・スピリチア?」によって、次第に心を開いていった、らしい。
『現在、建設の終了した都市は、凍結させて保存してあるようです』
 ユーチャリスが落ち着きを取り戻した頃、プラントとラピス達から報告が入っていた。
『居住可能な予定数は… 360億人、地球が最大人口に達した時の3倍です』
 木星の周りには、ベルト状のコロニーが建設され、後は木星を爆縮、点火するだけで、一つの太陽系が生まれ、既に各衛星もテラフォーミングが始められる準備が整っていた。
『ええかげんにっ、しなさいっ!』
 ユーチャリスは、存在しない左手で裏拳ツッコミを入れた。

 そしてさらに10年、100年が経っても、開発と生産が順調?に進むのを見て、オリジナルのラピスは眠る事になった。
 最も安全な場所、ゼロポイントでもある遺跡で、ユリカと同じく遺跡ユニットに融合して眠る、それは現世の夢を見ながら、どんな兵器によっても破壊できない、安全な場所でもあった。
(アキトは、何がしたいの?)
 劇場版のユリカのセリフのようだが、隣で眠るアキトのコピーを見るラピスの表情は「ラブラブ」どころでは無く、怪奇漫画のような恐ろしい顔をしていた。
 
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