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フルメタル・アクションヒーローズ

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第87話 水着回到来

 機械という機械に閉ざされた世界。
 そこから解放された先に待っていた陽射しは、実際以上の輝きを俺の視神経に刻み込んでいた。

 ロビーにあった食品コーナーでジャンクフードを軽くつまんだ後、研究所の外に出た瞬間、視界全体へ広がった眩しさに目を覆い、俺は思わず立ち止まってしまう。
 それくらい、研究所は外界の光に対して閉鎖的になっていたのだということを、俺は身をもって体験した。入口一つ隔てた先に見える、この海と山に彩られた真夏の景色は、まるで別の世界のようだ。

「ほら、一煉寺君! こっちよ!」

 すると、既に水着姿になりやる気満々な所長さんが、こちらに向かって手招きをしてくる。目のやり場を困らせる扇情的な紫のハイレグ姿は、まぁ彼女らしいといえば彼女らしい……のか?

 所長さんは研究所の入口とは別の扉の奥に立っており、そこから俺を呼んでいる。肩に掛けている黒い布のようなものは、恐らくバスタオルか何かだろう。

「所長さん、なんでそんなとこに? 泳ぎに行くんじゃないのか?」
「まぁまぁ固いこと言わずにっ! こっち来なさい!」
「ちょ、おいっ!?」

 海に行くと言いつつ、研究所の怪しげな扉の奥へ入っていた所長さんは、その大人びた胸を上下に揺らして俺の手を掴むと、そのまま自分のいた場所まで引っ張り込んでしまった。
 俺がそこに入れられたところで、所長さんは壁に付いていた何かのスイッチを操作して――その扉を閉ざしてしまう。

「ちょ、これってどういう……!?」

 思わず口に出た言葉を言い終える間もなく、状況に変化が訪れる。足場が揺れ、重力が一瞬だけ軽くなったかと思うと、この空間にゴウンゴウンという、何かを運んでいるような機械音が響き始めたのだ。
 ――まさか、これってエレベーター!?

「さぁ、着いたわ」

 その結論に俺がたどり着く頃には、既に振動も機械音も止まり、空間を揺らしていた全ての動きが静止していた。この狭っ苦しい世界の中で、縦横無尽に躍動していた所長さんのダブルメロンも、それに追従するように大人しくなる。
 そして満足げな表情の所長さんが、再び壁のスイッチを操作した時、長らく閉ざされていた扉がようやく解放された。

 その先に繋がっていたのは……洞窟?
 所長さんより早く外に出て、辺りを見渡してみると……あちこちに茶色い岩場が広がっており、再び別世界に来たかのような錯覚に囚われそうになる。
 次いで、外界に出たという事実を証明する熱気が、空調の施されていたエレベーターに向けてなだれ込んできた。どうやら、外には出ているらしいが……ここはどの辺に当たる場所なんだろう?
 海に行こうって時にエレベーターに乗り込んで、今度は洞窟行き? 何を考えてんだ、この人は……。

 念のため、「救済の超機龍」の「腕輪型着鎧装置」を用意してきて正確だったかも知れない。いくらなんでも、ここで「闇討ち」はない、と思いたいが……。

「いやねぇ、そんな怖い顔しないでちょうだい。別に取って食おうなんて考えちゃいないんだから」

 だが、そんな俺の心境とは裏腹に、彼女は至って平常心な様子。おどけた表情で手をひらひらと振り、さながら俺を宥めるかのような対応を見せる。

「じゃあ、一体ここはどこなんだ? 洞窟探検を所望した覚えは皆無なんだけどさ」
「決まってるじゃない、ビーチよビーチ」
「ビーチ?」

 そこまで言われて、俺は初めて気づいた。
 この辺り、岩場に囲まれている割にはちっとも暗くない。「薄暗い」という言葉も似つかわしくないくらいに。
 ……ということは、日の光が差し込んでる、ってことか。この場から少し進んだ先に見える光明に、俺は彼女の言葉が真実である確証を見た。更に、その先から吹き込んでくる潮風。その独特な香りが、信憑性を強調するかのように俺の嗅覚へと信号を送っている。

 ……なるほど。ここは洞窟というより、研究所から真下に降りた先にある、崖の内側なんだ。エレベーターで崖の中をブチ抜いて下降し、その先にたどり着いた洞窟を抜けたら、崖と繋がっていた海辺にたどり着くってわけか。

「わかってもらえた?」
「ん……なんつーか、ちょっと誤解しそうだった。すんません」
「ふふ、いいのよいいのよ。勿体振ってちゃんと説明しなかった私が悪いんだし。じゃあ私、先に行ってるわね? 一煉寺君も早く着替えて、こっちに来なさい。あなた以外はみんなエレベーターに乗る前から着替えてたんだから」

 所長さんは俺の謝罪を手を振ってやり過ごすと、黒いハーフパンツ状の水着を岩場に掛けて、そそくさと光の先へと飛び出してしまった。どうやら、さっきから肩に掛けてたアレはバスタオルじゃなく、俺の海パンだったらしい。
 つか、俺以外の連中、どんだけ気合い入ってんだよ……。

 その場違いといえば場違いな状況に、俺はある種の微笑ましさすら感じていた。――こういうところは、「新人類の身体」もコンペティションもない、普通の人間同士に見えるんだけどな……。

 ……さて、ここまで来て俺一人が置いてけぼり、というわけにも行くまい。俺は私服を素早く脱ぎ捨て、所長さんが置いて行った海パンを装着する。
 おお、サイズもほぼピッタリ。四郷研究所の科学力ってのは、どうやらいつの間にか人の寸法すら取れてしまうらしいな。

 ――てことは、救芽井達のスリーサイズもたちどころに……ゲフンゲフン。さ、さて、じゃあそろそろ行くかな。

 俺は所長さんの後を追うように光明へ向かい、差し込める陽射しに肌を焼かれながら、さらにその奥へと突き進む。
 そして、数秒間に渡るホワイトアウトを経て――その常夏の世界が、ついにベールを脱いだ。

「フォーッフォッフォッフォ! このワタクシの超圧倒的プロポーションをもってすれば、龍太様もイチコロざます!」
「……梢、がんばれー……」
「なぁっ!? くっ……ア、アタシやって十分魅力的なんやからなっ!?」
「ふんっ! なによ、みんなして色気づいちゃって! 誰がどう足掻いたって、私の婚約者というポジションは揺るがないんですからねっ!」
「むほー! ここが楽園! ここがユートピアッ! ワガハイの十九年の人生は、今この瞬間のために――ぶげらッ!」
「なにイキリ立たせてるざますか超ド変態鬼畜最低ツッパゲールッ!」

 夏の風物詩とも云うべき絶景を生み出す、蒼く広大な海。照り付ける日光を受けて、白く輝く砂浜。こんな風景を拝めるなら、ここに来たのも案外悪いことばかりじゃなかったのかも知れない。
 ……なんか向こうが騒がしいような気がするけどね。

 いくつかのパラソルで涼みながら、何かを激しく言い争う女性陣。こんなバカンス全開な世界でありながら、早速ボコられている茂さん。場所は変わっても、彼等は相変わらずらしい。

 だが、救芽井を初めとした女性陣の格好には、いつもと違う何かを本能で感じたのか――目が離せなかった。

 救芽井は深緑を基調にしたフリル付ビキニを着ており、その水着の色使い故、彼女自身の色白さが更に際立っているかのように伺えた。今にも弾けてしまいそうな、あの白い胸の揺れに勝てるほど、俺の紳士パラメータは優秀ではない。あのすらりと曲線を描いて伸びる純白の脚も、俺の視線を釘付けにするには十分過ぎる破壊力だろう。

 矢村はオレンジ色のキャミソール状の水着姿になっており、脚と腹の肌の色が、みずみずしい白と小麦色の二色に分かれていた。普段日に当たっていない分――すなわち、彼女のありのままの素肌が晒されているのかと思うと、ある種の背徳感すら覚えてしまう。……あ、やばい、昨日のアレを思い出しそうになってきた……。

 久水は――救芽井と同様にビキニを着ているようだが、色は焦げ茶色みたいだし、フリルも付いていない。それから、腰に同色のパレオを巻いている。……それだけなら、彼女にしては地味な格好だと思えたかも知れない。だが、やはり彼女は一味違ったようだ。
 ……小さい。いや、胸じゃなく、水着が。――ってか、サイズがギリギリ過ぎる! もうほとんど裸じゃないのかアレ!? どんだけ自分のプロポーション自己主張させる気なんだよ、ただでさえ今の面子の中じゃ間違いなく一番ダイナマイトなのにッ!?

 四郷は……ん? 遠くてちょっと見えにくいけど――まさかのスクール水着!? あれしかなかったのか、個人の趣味なのか、それが問題だッ! あ、多分所長さんの趣味かな、やっぱし……。
 清々しく澄み渡る大平原の胸元には、「あゆこ」と可愛らしい文字が書かれている。端から見たら、派手な水着ではしゃいでるお姉さん達に圧倒されて、会話に入れない小学生の女の子みたいだな……。――我ながら、なんだその例え。

 ちなみに、茂さんは俺と違ってブリーフタイプの黒い海パンだ。おぉ、風呂の時は湯煙で気づかなかったが、意外にすげぇ筋肉なんだな。……ってか、早速テント張りながら砂浜にはいつくばってやがる。それで殴られてたんだな……おいたわしや。

「――って、ちょっと待って! あそこにいるのって龍太君っ!?」
「あ、ホンマや! おーい龍太ぁっ! こっちやでぇーっ!」
「き、きゃあぁあんっ!? りゅ、龍太様っ!? ま、ま、まだワタクシ、お見せする心の準備がっ……!」
「……梢、もう色々と手遅れ……」
「……お、おおぅ……来たか一煉寺龍太……み、見たまえ……ワガハイの、いや我々の魂を救済する、聖域が広がって……」

 すると、ようやく向こうが俺の存在に気づいたらしく、さらに騒ぎはじめた。……おい、茂さんが末期状態なんだけど。誰も助けに行かないのか。

「ふふっ、ようやく来たわね一煉寺君。やっとお楽しみの時間ってとこかしら?」
「おわっ!? い、いつの間にッ!?」

 眼前の連中の反応に気を取られてる間に、背後を取られていたらしい。いきなり肩を後ろに引っ張られたかと思うと、背中に二つの柔らかい感触が伝わってきた。さらに、細く白い手が俺の体をはい回って来る。
 慌てて首を後ろに向けると、そこにはしたり顔の所長さん。な、なんか肉食動物みたいな目つきになってらっしゃるんですけどッ!?

「し、四郷所長ッ……!? な、な、何をしてるんですかぁあぁあっ!?」
「あ、あ、あ……あかぁぁああんっ! 龍太にそんなこと、したら……したらいけぇえぇえんっ!」
「ちょっ――龍太様ぁっ!? ……ワタクシという者が、ありながらあぁあぁっ!」
「……お姉ちゃん、もぅ……」

 そんな俺の焦燥も事情も、向こうには全く伝わっていないらしい。救芽井・矢村・久水の女性陣三連星が、鬼気迫る表情でジェットストリームアタックを敢行してきやがったッ!?

「さぁ、バカンスの開幕ぅ〜っ!」
「ちょっ……まっ……!? うわああぁあぁああっ!?」

 しかも、所長さんにそれに付き合う気は皆無らしい。女性陣との距離が五メートル辺りまで縮んだ瞬間、パッと俺から離れてしまったのだ。

 ――もちろん、それで彼女達が止まってくれるはずがない。

 俺の体は彼女達もろとも、ド派手に蒼く澄み渡る海原へとトルネードダイブしていくのだった……。

 ……前言撤回。存外に悪いことばっかりでございます……。
 
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