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元カレ殺す

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第三章

「御前が殺したいと思ってたあいつな」
「あいつがどうしたんだよ」
「死んだぜ、兄貴分のヤクザ屋さんにバラされたんだよ」
 つまり殺されたというのだ。
「何でも商売道具のヤク勝手にちょろまかしてな」
「退学になった後そんなことしてたんだ」
「藤会の構成員の弟分になってたんだよ、けれどな」
「麻薬?覚醒剤かな」
「覚醒剤だったみたいだな」 
 麻薬といっても色々ある、あいつが関わっていたのはこれだったらしい。
「それをちょろまかして自分で使ったりゲーセンとかで昔の仲間に売ってたんだよ」
「それがばれてなんだ」
「ああ、今朝死体で神戸港で発見されたぜ」
 ツレは笑顔で僕に言ってくる。
「コンクリに足を詰められてな」
「大阪の南港みたいな話だね」
「よくある話だからな、あっちの世界じゃ」
「それでどうしてわかったのかな、海の中に入れられたのに」
「この前藤会への警察のガサ入れがあっただろ。その時にバラしてた話もわかってな」
「それでなんだ」
「で、見付かったんだよ。退学になって暫くしてからバラされたみたいだな」
 ツレは僕に細かく話してくれる。情報を随分と細かく分析したらしい。
「だからな、もうな」
「安心していいんだね」
「言ったろ?安心していいって」
 ここでも僕にこう言ってきた。まるで全てがわかっているかの様に。
「あいつのことはな」
「けれど死んだことは今朝知ったんだよね」
「ああいう屑の末路ってのは決まってるんだよ」
「神戸港にコンクリートを足に詰められて放り込まれるんだね」
「そうなるものなんだよ。葛は碌でもないことをして破滅するものなんだよ」
「因果応報だね」
「そうだよ、因果応報ってのは世の常なんだよ」
 だから心配することもないということだった。あいつが破滅するからこそ。
「とはいっても少年院にぶち込まれるとか思ってたけれどな」
「殺されるとは思っていなかったんだ」
「流石にそこまではな。けれど死んだならな」
「もう心配はないんだね」
「幽霊が出て来るかも知れないけれど御前等には行かないさ」 
 それもないと言ってくれた、やはり笑顔で。
「自分を殺した奴に行くからな」
「自分を殺した相手に」
「ああいう屑は絶対に自分に非があると思わないからな。そっちに行くからな」
「じゃあ僕達は安心していいんだね」
「俺の言った通りだ。だから殺すとか思うなよ」
 僕の右肩をその右手でぽんぽんと叩いての言葉だった。
「いいな、そうしろよ」
「うん、それじゃあ」
 僕もツレの言葉に頷いた。それでだった。
 彼女の家のリビングで一緒に飲みながら満面の笑みで話せた。
「よかったね」
「そう、殺されてたのね」
「自業自得だよ、よかったよ」
「こう言ったら何だけれど」
 心優しい彼女は一呼吸置いてから僕にこう言ってきた。リビングの席に向かい合って座ってビールを飲みながらの話だった。
「正直ほっとしてるわ」
「あいつがいなくなってね」
「殺されたことはどうかと思うけれど」
「それでもだよね」
「本当にほっとしてるわ。もう二度と私の前に出て来ないから」
「人ってのはその行いに相応しい結末が待っているんだね」
 僕はこのことがわかった、ツレはそう言いたかったのだ。
 だから僕はこのことに気付いてまた彼女に話した。
「葛は消えていくものだね」
「貴方や私に何かしてくる前にそうなってよかったわね」
「本当にね、よかったよ」
 僕は自分がほっとしている顔になっていることが自分でもわかった。そのうえでの言葉だった。
「念には念を入れてスタンガンとか入れてたけれどね」
「それでもよね」
「よかったよ。用心は必要だけれど」
「碌でもない人間はやがて消えるのね」
「そういうことだね」
 僕はほっとしている顔でビールを飲みながら彼女に応えた。缶ビールがこんなに美味しいと感じたことはなかった、殺意を抱くことがどんなに馬鹿馬鹿しいことかもわかって言った。
「僕達が何かする前に」
「相手が勝手に自滅するものね」
 このことがわかった僕達だった。人は自分の行いが返ってくる、悪い奴は特にそうなることがわかって自分達にも言い聞かせながら今は乾杯した。本当にほっとしながら。


元カレ殺す   完


                   2012・12・3 
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