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フルメタル・アクションヒーローズ

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第23話 敵とのエンカウント率が異常な件

 人に頼ってばっかで、自分はなにもしてなくて……情けなくてしょうがないけど。
 そんな俺でも、何かをする資格があるなら。まだ、間に合うなら。

「あんたは一発、ぶっ飛ばさないとな」

 ピストルの銃口と共に、激しい敵意を向けて来るオッサン。その得物を握る手が震えていることに気がついたのは、彼と対面してすぐのことだった。
 ――そんな些細なもんが見えてるなんて、我ながらかなり冷静なんだな……ちょっと意外だった。ドアを吹っ飛ばした瞬間なんて、頭の中がオーバーヒートしてたってのに。
 俺ってわりかしクールなのかもな。それとも薄情なだけか?

 ――いや、違う。

 妙に静かなのは、頭ん中「だけ」だ。身体の芯から噴き出してる感情の渦は、カッとなった瞬間のまま、その熱気を維持している。
 そういえば、人は「怒り」が一定のラインを越えちまったら、かえってひどく落ち着いてしまうもんらしい。昔、兄貴が聞きかじった知識を披露してる中に、そんな話があった。
 案外、今の俺はそんな感じなのかもな。脳みそだけは冷めきっていて、心の奥は焼けるように熱い。不思議と、怒る時に感じる頭の熱は感じられず、四肢だけがみるみる熱を帯びていく。
 ――まるで、思考と感情が切り離されてしまったかのように。

「う、動くなよテメェ。そこから一歩でも近づいてみろ! 嬢ちゃん二人の頭が吹っ飛――!」

 「救済の先駆者」の異様な風貌にただならぬ雰囲気を覚えたのか、オッサンは直接俺を撃つより、救芽井と矢村を人質に取ろうと「していた」。

「――隙ありッ!」
「げッ!?」

 彼の注意が俺に集中していた間に、救芽井がいつものような凛々しい顔つきを取り戻し、オッサンの背後を取っていたのだ。
 そして勇気を振り絞り、銃を持った暴漢のピストルを一瞬で掠め取るその姿は――まさしく俺が知っているスーパーヒロインそのものだった。

「こ、こんのぉ!」

 しかも、怯えていた矢村までもが救芽井の反撃に鼓舞される形で、オッサンの足の甲を踏み付けるという逆襲に出た。

「ぎゃうッ!」

 踵で思い切り急所を踏み付けられ、痛みの余り飛び跳ねている。ハイヒールじゃなくてよかったねオッサン……。

 ――どうやら、俺が着鎧してオッサンの隙を作ることこそが救芽井の狙いだったらしい。そのために囮役を買って出る無茶ブリは、さすが松霧町のスーパーヒロインってとこだな。
 さて……それじゃ、彼女達に倣って俺もお仕置きと行こうかね。

「ぎぃ……このガキ共がッ!」
「きゃあっ!?」

 すると、俺が攻撃に出ようと構えるのとほぼ同時に、オッサンが救芽井を振り払って自分の懐に手を伸ばそうとしていた。力任せに弾かれた救芽井は、女の子の限界ゆえか思い切り尻餅をついてしまう。
 その瞬間、俺にしか聞こえない警告音が鳴り響き、「救済の先駆者」のマスク越しに見る視界が赤く点滅した。
 ――これは、銃器や刃物に反応する「武装センサー」によるものらしい。訓練の時は「自分自身の注意力を養うため」に敢えてオフにされている機能とのことだが、今回は実戦だけあって、危険な武装を感知して警告するシステムが遺憾無く発揮されている。
 ……要するに、今オッサンは懐から凶器を出そうとしてる、ってことだ。それがなにかはともかく――これ以上好きにさせるつもりはない。

 右足を前に出し、後ろにある左足で地面を蹴り、すり足の要領で前進する。普通なら十数センチ前に動くだけの移動方法だが――

「う、うおおっ!?」

 ――着鎧甲冑の運動能力に掛かれば、それすらも相当な距離とスピードを生み出してしまうらしい。
 数メートル離れた場所から、たった一回のすり足移動で目と鼻の先まで接近されたことに、オッサンは思わず驚きの声を上げていた。

 もちろん、その拍子に生じる隙を見逃すほど俺はバカでもないし、甘くもない。右肘を脇腹に当てて脇を締め、その腰の回転で打ち出すように右拳を放つ。

「ご……!」
「『正義は必ず勝つ』ってな。そーゆーわけだから、いい加減くたばりな!」

 その拳は我ながら見事に、顎の急所「三日月」を捉え、オッサンの意識を吹き飛ばした。
 彼は全身の骨を引っこ抜かれたかのようにノックダウンしてしまい、ピクリとも動かなくなった。まぁ、脈はあるみたいだから死んじゃいないけどな。
 そして、念のためにと懐をまさぐってみると――出てきたのは手榴弾!? ちょ、こんなもん使う気だったのかよ!?
 起き上がってきた救芽井も、俺の手にある兵器を前に戦慄していた。

「うそ……ただの強盗が、なんでこんなものを……!?」
「ま、まぁ、安全ピンは抜かれちゃいないし、平気だろ。これで全員片付いたな……いや、もう一人!」

 ――確かに二人は片付いたが、まだ仲間がいたはず。そう、みせしめに店員さんを水槽に突っ込んでいた奴だ!

「ひ、ひぃぃっ!」

 俺がそいつの方に目を向けると、あっという間に恐れをなして逃げ出してしまった。武器を二つも用意してる仲間がやられたんだから、不利だと思ったんだろうか?

「……って、冷静に分析してる場合じゃねぇ! 待ちやがれ!」
「待って!」

 逃げ出した残りの強盗を追おうってところで、救芽井に呼び止められてしまった。無視して取っ捕まえに行きたいのは山々だが、さっきまでオッサンに苦しめられていたこともあるし、彼女を放っておくのは忍びない。

「この強盗達の武器も気掛かりだけど、それよりも今はあの人を救わないと!」
「あの人……? ――あっ!」

 彼女の言葉にハッとして、俺は水槽の傍で倒れ伏している店員さんに目を向ける。やっべぇ、水ん中に頭突っ込まれた後に捨てられたまんまだ!

「ぐったりしたまま動いとらんのやけど……まずいんやないん!?」
「くそっ、オッサン達に気を取られすぎた!」
「まだ間に合うかもしれないわ。来て!」

 素早く店員さんのところへ駆け寄る救芽井に続き、俺と矢村は動かなくなっている彼の傍に向かう。

「ど……どうだ? 救芽井」
「呼吸が完全に止まってるわ。相当水を飲んだみたい」
「たた、助からんの?」
「『救済の先駆者』の機能を使えば、応急処置くらいなら出来るわ。でも……」

 解決策はあるようだが、そこで救芽井は言葉を濁してしまった。気まずそうに視線を泳がせている辺り、どうやら俺に「腕輪型着鎧装置」を託した時のように、周囲に正体がバレる事態を怖がってるらしい。

 辺りを見渡してみると、客は全員テーブルの下に隠れてブルブル震えていた。どうやら、俺がドアを吹っ飛ばしたことでみんなビビりまくってしまったらしい。もう敵はいないってのに、いつまで固まってんだよ……。
 まぁ、あれ以降も俺達と強盗が戦ってる音が響き続いてたんだし、強盗達がいなくなった今も「まだ何かあるんじゃないか」と勘繰って出て来ないのはしょうがないのかもな。
 それに、これなら俺が着鎧したこともうやむやに出来そうだ。それに、救芽井が着鎧してもバレずにやり過ごせるかも! プロフェッショナルの彼女に「救済の先駆者」を任せれば、応急処置なんてお茶の子さいさいだろうし。

 ……う〜ん、だけど今から救芽井に着鎧させるとして、その瞬間に客が安全を確認して出て来る可能性もないわけじゃないし……。
 ――あーもう! なんでノータリンな俺がこんなに頭使わなくちゃいかんのだー! これというのも、全部手榴弾とかピストルとか持ち込んで来るオッサン達のせいだぁー!

 ……ん? 手榴弾?

 ――それだッ!

「救芽井、要は着鎧する瞬間を見られないように『絶対に人に見られない時間』があればいいんだろ?」
「え? そ、それはそうだけど……」
「よぅし、俺に任せとけ」

 不安げな表情を浮かべる彼女を元気づけるように、俺はドンと胸を叩いて立ち上がる。
 そして、すぅーっと息を吸い込み――

「皆さんッ! 落ち着いて聞いてくださいッ!」

 ――思いっ切り叫んだ。この喫茶店の隅から隅まで届くように。

「ちょ、ちょっと変態く――」
「シッ!」

 いきなり何をするのかと目を丸くする救芽井を素早く鎮め、俺は言葉を繋げる。ここで話を中断させようものなら、「なんだなんだ」と人が出てきてしまうかも知れないからだ。

「強盗達は逃げ出しましたが、この喫茶店に手榴弾を置いて行きました! しかも安全ピンが外れていて、わずかでも衝撃が走れば爆発する危険があります!」

 ここが重要だ。客達の動きを封じてテーブルから出さないようにするには、「動いたらヤバイ」という理由を付けなくてはならない。
 安全ピンが取れているという話は嘘だが、手榴弾があるというのはマジだ。倒れたオッサンの懐から出てきたモノだから、テーブルの下から覗いて見ていた人だっているだろうし、信憑性はあるはず。

「しかし、ご安心下さい! ここには手榴弾解体のプロがいます! 彼に掛かれば数分で手榴弾を無力化できるでしょう! それまで、皆さんはお静かにお待ち下さい! 数分以内に、私達が必ず手榴弾を処分して見せます!」

 そして、「自分達がなんとかするから静かにしといてね」という旨を伝える。状況が全く見えていない中で、出来るだけ詳しい情報を与えて信用させる。客達の身動きが取れないようにするには、それくらいしか方法はないだろう。
 さらに、絶対に「救済の先駆者」が救芽井だとバレないように、プロフェッショナルを「彼」と形容する。少しでも、与える情報と実際の状況に「齟齬を生じさせる」ためだ。

「へ、変態君……!?」
「俺に出来るお膳立てはここまでだ。お前じゃないと、この人は救えない! 頼む!」

 「腕輪型着鎧装置」を外して本来の姿に戻ると、俺は預かっていたモノを持ち主に返す。ここからは、「救済の先駆者」の本領だ。

「……わかったわ、ありがとう。――着鎧甲冑ッ!」

 そんな俺の意図を知ってか知らずか、彼女は「腕輪型着鎧装置」を素早く手首に巻き付けると、慣れた動作で音声入力しつつ、装着している手を掲げた。そんな変身ポーズあったんだ……。

 そして瞬く間に「救済の先駆者」への着鎧を果たした救芽井は、迅速に店員さんの救護に当たる。
 バックルの部分から管に繋がれた小さいアイロンのようなものを取り出し、彼女は流れ作業のように迷うことなくそれを胸に押し当てた。
 「なんだそりゃ?」と質問しようと口を開く瞬間、「バチッ!」と電気が弾けるような音がして店員さんの身体が跳ね上がり、俺はたまげてひっくり返ってしまう。
 横からコソッと矢村が教えてくれたんだが、これはどうやら「AED」を携帯用に改造したものらしい。確かに「AED」と言えば電気ショックを使う救命用具だけどさ……先に言ってよ! こっちは精神的に電気ショック喰らっちまったよ!

「……つーかなんで矢村がそんなこと知ってんだよ?」
「今朝に龍太が訓練しとる間に、いろいろ教えてくれたんや」
「俺には訓練ばっかりなのに……ひでぇや。男女差別だ」

 ……おや。心なしか「救済の先駆者」の視線が痛い。サーセン。

 しばらく救芽井のマスク越しのジト目に耐えつつ見守っていると、少しずつだが店員さんの胸板が上下に動きはじめた。上手く行ったみたいだ!

「まだよ。次は呼吸を復活させないと!」

 俺の思考を読んだかのように、救芽井は険しい声色で次の処置に移る旨を口にする。もうコイツ、エスパーでいいだろ。

 そっと包み込むように顎を持ち、彼女は自分の唇……の部分に当たるマスクを店員さんのそれと重ね合わせる。いわゆる人口呼吸の図だ。
 ……って、「マスクのデザイン」の唇でそんなことして意味あんの?

「あの唇みたいなマスクの部分、バックルの中にあるちっこいタンクから、人口呼吸用の酸素を噴き出す仕組みなんやって。水を吸い出す機能も兼ねてるから、かなり効果があるらしいんよ」

 そんな俺の脳内疑問に、矢村先生が聞いてもいないのに答えてくれました。エスパー二号あらわる!
 っていうか、あのマスクの唇型ってそんな機能があったのか……。正直、設計者の趣味だと思ってました。ゴメンナサイ!

 ◇

 ――やがて「救済の先駆者」こと救芽井の処置が功を奏し、店員さんの心拍と呼吸は順調に回復した。
 ……と言っても「最低限の処置」を施したくらいで、本格的な治療は病院で行われるものらしい。それでも、一命を取り留められるのは間違いないと見ていいのだそうだ。
 また、強盗達は逃げた奴やピストルのオッサンを含め全員逮捕され、喫茶店の客達に怪我人は一人も出なかったらしい。
 そして、表沙汰になったのは「噂のスーパーヒロインに酷似したスーパーヒーローが現れた」という話題くらいで、救芽井や俺の素性が露呈する事態はなんとか避けられたようだ。

「いやぁ〜、無事で良かったよ龍太君。でもこれに懲りたら、二股は控えた方がいいよぉ?」
「だから違うって言ってんでしょ!」
「はっはっは! 元気がいいようで何より! では、本官はこれにて退却ぅ!」

 相変わらずませている、商店街の交番のお巡りさんによる事情聴取を終え、一件落着を果たした俺達は、さっきの喫茶店から大分離れたファミレスに落ち着いていた。

「――変態君。その……助けてくれて、ありがとう。あの時、かっこよかったよ」

 向かいの席で、ちょっと照れ臭そうに救芽井がお礼を言ってくる。普段の扱いが扱いだから、こうまともにそんなこと言われたら、こっちもこっぱすがしいんだよなぁ……。

「……いーよ、別に。役に立ったんなら、それでいい」
「ムッ! なにをいい雰囲気作っとんや!? アタシだって頑張ったやろ!?」

 俺にズイッと顔を寄せながら、矢村が食いついて来る。そうそう、コイツだって怖かったはずなのに、よく戦ったよなぁ。あそこに座ってたのが俺だったら、終始ビビって何もできなかったと思うわ。
 しかしあんなことの後だってのに、我ながらよく落ち着いてこんな場所に来れたもんだ。これでまた強盗が出て来たら笑うしかないよな。

「……変態君。さっきの強盗が持ってた武器だけど……やっぱりどう考えても普通じゃないわ。ピストルはともかく、手榴弾なんてそうそう手に入るものじゃない」

 一難去ってお気楽ムードかと思いきや、救芽井さんがいきなりクソ重い話をぶち込んできた。いや、気掛かりなのはわかるけどね、ファミレスでする話じゃないでしょ?
 ――などと言いたいところだが、今回ばかりは他人事じゃないから真面目に聞くとしよう。確かに、ただの強盗にしちゃあ手榴弾はやり過ぎな気がする……。

「私の見立てなんだけど、もしかしたらこれは――」

 その時だった。救芽井の言葉が終わる前に、彼女を含めた俺達三人が凍りついたのは。

「――僕の仕業、だったり?」

 ……おい。強盗より断然ヤバいのが来たんだけど。全然笑えねぇんだけど。

 ――古我知さんが、来てんだけど。

 ……ファミレスに。
 
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