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ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃

作者:紅夜空
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第二部 英雄たちの策動
  つかの間の静穏

「ほら、腕をあげてくれ」

「……ん」

肌に包帯が巻きつけられる感覚。異物感というわけではないけれど、慣れない感触が気になる。
手際よく包帯が巻かれ、パチンと音がする。

「別に放っておいても治るのに……」

「フェニックスの涙を使うわけにはいかないが、早く治るように努力はするべきだな。近々、大きな実験をするのだから」

ぽつりと呟けば曹操の呆れたような声が返ってくる。
大きな実験……?もしかして、近々京都でやるとかいうあれの事だろうか?

「そもそも、こういう作業は女同士でやるのが妥当だろう。なぜ俺が」

「……」

確かに、包帯を巻いてもらうというのは肌を晒すということであり、ほかに人がいないならともかく、人手があるなら女性に頼むべきなんだろう。
でも……そのためには、この傷だらけの肌を見せなければいけない。あの頃よりはましになったけれど、それでも無傷の肌のほうが少ないこの肌を。別に気にするような人物でないことはわかっている。だけど……どうしても、私はそれを見せるのが怖い。
この前の店員さんは、訳ありだと察してくれたのか何も言わなかったけれど。それでも、やっぱり視線はどうしても気になってしまうのだ。その点、曹操なら前にも見せたことはあるし、まだ精神的なハードルが低い気がするから…。

「とにかく、今日一日は君は休暇だ。大人しくしておけ」

「……はぁい」

正直、休暇と言っても何をしていいのかわからないけど仕方がない。曹操にくっついて実験のお手伝いでもしようかな。
と思っていたら、曹操は部屋から出て行かずに書類を机の上に広げて何やら読み始めた。

「……行かないの?」

「君は放っておいたら休まないだろう」

間髪入れずに返された言葉に一瞬、むっとする。私を一体なんだと思っているのか。
休むべき時くらいわきまえてるし、そこまで子供じゃない。というか、曹操は過保護が過ぎると思う。
……でも。傍にいてくれること自体は、嬉しくて。
そのまま、何も言えないままに曹操の隣に座る。ふと気になって、広げている書類を見た。

「……“人造戦闘体量産計画”?」

「ああ。少し前の話だが、ゴグマゴグのような戦闘用の生命体を量産できないかという案が出されてね。外部からの協力者も交えて10体作ったのだが、その全てが制御しきれず反逆したとかで凍結になったと知らせが来たところだ」

「ふーん……結局、その10体は?」

「外部の協力者が持ち帰ったらしい。厳重に口止めはしたというが、果たしてどこまで秘密が守られるか」

皮肉っぽい口調の曹操とは別に、その協力者とやらに想いを馳せる。
禍の団に協力してきたということは、現状に対して何かしらの不満があるということ。はたしてそんな人たちが、引き取ったというならそれをどうするのか。そして何より、このやり口は……

「どうかしたか?」

「……なんでもない」

もしかしたらという疑念はある。でも今は、それを言葉にして曹操の心を乱すわけにはいかない。
だから、今は私の胸の中にこの疑念は仕舞っておこう。願わくば、杞憂であればいいのだけれど……
そんなことを考えながら、曹操の手元に広げられた書類からそっと視線を外す。
ちょうどそれを見計らったかのようなタイミングで、部屋のドアがノックされる。

「曹操、ここにいるのかい?」

「何だ、ジーク」

曹操が返事をすると、かちゃりとドアを開けてジークが入ってくる。

「ゲオルクが探していたよ。あれの捜索をしたいんだってさ」

「ああ、そうか。ならばすぐに行くと言っておいてくれ」

最近、曹操とゲオルクは何かを一生懸命探しているらしい。それがなんなのか、聞こうとは思わない。きっと大切なものなのだろうし、だったら一緒に過ごす時間が減ったなんて言うのは、わがままでしかないから。
視界の端で、曹操が立ち上がるのが見える。

「あ……」

行動は完全に無意識だった。気がついた時には、立ち上がってドアのほうに向かっていた曹操の袖を引っ張ってしまっていて。
突然袖を引っ張られた曹操はと言えば、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

「……どうした?」

かけられた声がわずかに心配そうで。
いまだに、そんな感情を向けられることに慣れていない私の感情が、少し波立つ。

「……ごめん、なんでもない」

掴んでいた袖を離して、首を横に振る。私のことは気にしないでいいから、曹操のやりたいことをやってほしい。
そう思っているはずなのに、なんで今―――離れたくないって、思っちゃったんだろう。
ままならない自分の感情を抑え込んで、曹操に大丈夫だよと頷いて見せる。
出ていく曹操を見て、自分の行動を思案する。さて、じゃあ私はどうしようか…



◆◇◆◇
「くそっ、あの女に魔導具を持たせるのは百歩譲って良いとしてもその日の内に壊してくるとは何を考えているのだ!素材も有限だというのに……」

「すまん、遅れた。そして何が不満だ、ゲオルク」

「遅かったな、曹操。大方、文姫のところに行っていたんだろう。不満と言えば―――この際だから言わせてもらうが、曹操。助け出したことで文姫に愛着が湧くのは分かる。だが構いすぎれば目的を見失うぞ」

「構うな。責任は俺が取ればいいだけだろう」

「曹操!……少し、まずいかもしれないな」

◆◇◆◇

部屋に留まっていると絶対に気は休まらないので、ふらふらと外に出る。
別に部屋が居心地悪いというわけではない。ただ、英雄派の中には私が気に入らなくて仕方がない人が何人かいるのだ。まあ、普段からリーダーにくっついている、(表向き)特に何をしているわけでもない人間なんて、敵視されるだけの十分な理由にはなるかな。
自分の部屋にいて、曹操が出かけている場合にはそう言った人たちが暗殺しようといわんばかりにちょっかいを仕掛けてくるから、部屋にいると気が休まらない。無力化()してもいいのだけれど、組織の動ける人員をまさか減らすわけにもいかない。
そんなわけで適当に離れた隠れ場所まで足を延ばしたのだけれど。

「我、文姫の膝に座る」

……オーフィスがいた。まあ、前々からここで会えることは知っていたのだけれど。
どうやら、私が避難場所として選んだ場所は、オーフィスもお気に入りだった場所の様で。初めてここに来た時、鉢合わせしたのだ。まさかこんなところで無限の龍神に会うなんて思ってもいなかったため、かなり動揺したのは覚えている。
と言っても、オーフィスはこちらに興味を抱くわけでもない。私も、別に向こうが危害を加える気がないなら、こちらからはどうこうする気はない。
そう思って、なんとなく一緒にいたらなぜだか、こちらに視線を向けてきて。
なんだか、私の中の『万霊殺しの霊刃(カース・オブリビオン)』はオーフィスの本質に「近しい」らしく、それに興味があるとかで。自己紹介をした後、そのことについて聞かれた。
その縁で少し話をしたことで、どうやら懐かれたようで。会うたびに、なぜか膝の上に乗ってくる。

「オーフィス。私の中の力、分かる?」

「文姫の力、我に近い。虚ろにして無、価値なきモノへと落とす。でも我の力、毒にはならない。そこが違う」

オーフィスの言葉は端的で、、謎かけのように感じることもある。慣れてしまえば意外と楽しいと感じるようにもなった。
オーフィスの「虚無」と「万霊殺し」は、似て非なるモノ。だから同じ「匂い」を感じ取って引き寄せられるから懐かれるのだろうと、曹操は言っていた。
いまだに解明の進まない私の力。だけど少しずつ、進展も見えてきた。
使っている私の実感としては、この力は多分――――
ピピピ、と無機質な音が私の思考を断ち切る。

「……メール?」

持たされている携帯電話を開く。任務用と、私用の二つを持っているけど、さっき鳴ったのは私用のほうだ。開くと、案の定一通メールが来ている。
開いてみると、差出人は数少ない友人で。同じ禍の団の、違う派閥に属する魔法使いだ。
近況を問うその文面に、何を書こうかと一瞬思案する。んー……赤龍帝に会ったことでも書いてみようかな。
文面を組み立てて送信する。すると、一分もしないうちに返信が来た。

「『おっぱいドラゴンに会えるなんて羨ましいです!』………おっぱいドラゴンて、何?」

聞きなれない名称に首を傾げる。赤龍帝の事を書いて送ったはずなのに、おっぱいドラゴンて何……?
考えてもわからないので、とりあえず返信で聞いてみることにする。
案の定、またすぐに返信が来た。

「……冥界での特撮ヒーローを、赤龍帝がやってるの?それが『乳龍帝おっぱいドラゴン』……?」

何だろう、悪魔って特撮アニメなんて言うのもやっているの?というか、アニメってまず何?
……メールに『ぜひ見てみてください!』って書いてあったし、曹操が返ってきたらお伺いを立ててみようかな?
そう考えていると、膝上のオーフィスの視線を感じる。

「オーフィス?」

「文姫、ドライグに会った?ドライグの気配、する」

「赤龍帝?昨日、確かに戦ったけど…」

オーフィスに感知できるような何かが残っていたんだろうか。
もしかして、万霊殺しで消しきれなかった残滓でもあるのだろうか…?
だとすれば、万霊殺しの力では消しきれなかったということになる。その傾向を分析すれば、もしかして万霊殺しの正体の解明につながるかもしれない…
でも今は曹操がいないから、しばらくはここでのんびりしておこう。押し付けられたものとはいえ、休暇は休暇だし……たまには、こういうのんびり日向ぼっこもいいかな。
膝に座ったオーフィスを抱える。何か反応があるかなと思ったけれど、なすがままになっている。
そのままオーフィスを抱えてしばし、日向ぼっこをしているとポケットの私用携帯が再び鳴る。先ほどとは違う専用メロディーに、慌ててポケットから取り出す。この着信音は、曹操専用のものだ。

「もしもし?」

『文姫。少し話したいことがある。すぐに帰ってこれるか?』

「うん、大丈夫。なるべく早くいくよ。会議室?」

『ああ、頼む』

通話を切って、オーフィスを抱き上げて地面に下す。

「ごめん、オーフィス。私、ちょっと行ってくるね」

「我、ここにいる」

オーフィスの頭を一つ撫でて立ち上がる。
とりあえず、曹操の話とやらを聞こうかな。なんにせよ、それからだ。




~おまけ~
「曹操」

「どうした?」

「おっぱいドラゴンのアニメ、見ていい?」

「……君は見なくていい。というか、見るな」

「なんで?」

「……君には刺激が強いからな」
 
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