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KAMITO -少年篇-

作者:redo
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波の国
  Cランク任務

鳥の(さえず)り、暑いくらい眩しい太陽、青い空に白い雲。木ノ葉はちょうど昼下がり。

今年卒業の新人下忍達は全員サバイバル演習を終え、残ったのはカミト達の班を含め、たったの3班だけ。合計9人の下忍が誕生したことになる。

そしてここ木ノ葉商店街は、多くの若い忍達が本格的に始まる任務に備えて買い物をする行き着けの場所。忍服の新調、忍具の補充、収納するためのポーチやホルスターなど、用件は人それぞれ。

すでに目抜き通りの商店街には無数の店が開店し、中には(のき)を重ねているものもある。外観も汚く狭い店もあるが、(ぼう)電気街的な混沌が好みという人も多く、それなりに賑わっており、商売は順調に成り立っている様子。

ただ__1人の《招かれざる客》を除いて。





賑わう商店街の中に、お馴染みの者達の姿もあった。

「もぉ!なんなのよあの試験は!?」

金色の長い髪をポニーテールに束ね、青色の眼をした少女《山中イノ》。

「でけぇ声出すな。めんどくせぇな」

黒髪の長髪を頭上にまとめて縛り、細い眼を持ち、いかにも無愛想な態度を振る舞う《奈良シカマル》。

「だいたい何よチームワークって!?そんなもん最初からわかってるってのに!」

イノは先日のサバイバル演習の結果に納得がいかず、怒りを募らせるばかりだった。

カカシと同様に10班も、下忍を騙すという方法で演習を受けたのだ。一応合格はでたものの、イノは試験内容に納得がいかずずっと愚痴を吐き続けている。

「無事に合格できたんだから別にいいじゃん。鈴を取らなくて済んだんだし」

怒りを募らせるイノを宥めようと、ポテトチップスを食べながら結果を主張する肥満体格の《秋道チョウジ》。

新たな《(いの)鹿(しか)(ちょう)》として結成された《第10班》は、午前中の打ち合わせを終え、翌日から始まる任務のため買い出しに来ていた。

「いいわね、あんた達2人はお気楽で。大体わたしはサスケ君と同じ班になれなかったし、よりにもよってサクラなんかが……」

話題がいつの間にか変わり、更に愚痴が広がった。

すると。

「これはこれは奇遇だな、お前ら」

突然、10班全員の耳に聞き覚えのある声が届いた。

「なんだよ、お前らも買い出しか」

愛想のないシカマルに今更驚くこともなく、自慢気に話す。

「まぁな。俺達も本格的に任務に乗り出すってことだ。なぁ、赤丸」

「ワン!」

灰色のジャケットとフードを被った《犬塚キバ》と、彼の頭に寝転がるように乗る白い子犬《赤丸》。

「こ、こんにちわ……」

「………」

キバの背後に張り付くように立つ2人のメンバー。

刈り込んだ青紫色のショートヘアをした《日向ヒナタ》。優しい性格に加えて人見知りで引っ込み思案な傾向があり、先ほどの挨拶ですら小声で、聞こえたかどうかも定かではない。

無口なもう1人は《油女シノ》。サングラスを着用し、上半身のコートでほぼ口元を隠している。寡黙かつ冷静沈着な性格で、いつも回りくどい話し方をする。

探索力に優れた感知チーム《第8班》もまた、商店街で忍具の買い出しに来ていた。

「任務つっても、どうせ内容は里の雑用だろ。本格的って言うほどのことでもねぇだろ」

新人下忍となった者は雑用や依頼物探しなど、危険を伴わない低い任務から受け、経験値を積んでいくもの。

「だからこれからバリバリ任務こなして、いずれ高いランクの任務を受けるんだよ!」

腹が立ったキバは、周囲に響くほどの大声で言い張る。

「き、キバ君……落ち着いて。みんなで、頑張ろうよ」

キバを落ち着かせようとヒナタが言葉を発した瞬間。

「この厄病神が!」

「っ!?」

突然、大きな罵声が商店街中に反響し、先ほどまで賑やかだった場所が一気に静まり返る。6人の下忍達が罵声の元になったと思われる場所に眼を向けると、店前に人集りが出来ている。

「何、あれ?」

「なんかあったみたいだな。行くか?」

「うん、行ってみよう」

10班はほぼ同時に同意し、揃って足を動かす。

「俺達も行くか?」

キバの問いに、今まで無口だったシノがついに口を動かした。

「無論だ。なぜなら……あのような声を聞けば、気になるのは当然だからだ」

「わ、わたしも、シノ君に賛成だよ」

ヒナタとシノの微妙な同意に少々呆れるキバだが、この際2人の態度はどうでもよかった。

「なら急ぐぞ。10班の連中に遅れを取るなよ」

キバを先頭に、2人も跡に続いた。





一体何が起きたのか、まだ彼らにもわからない。不思議に思い、人混みを割って入って行く。奥に積めていくように進み続け、ようやく人々の注目する場に辿り着いた6人が見たものは、恐ろしく残酷な光景だった。

「忍具なんかくれてやるから、とっとと出て行け!!二度と店に入ってくんじゃねぇ!!」

怒り狂う忍具店の主人が店前で、1人の少年に罵声を浴びせていた。

忍具を補充するため、この商店街に位置する忍具店に(おもむ)いた緑髪の下忍__《千手カミト》。

相変わらずの残酷かつ猥雑(わいざつ)喧騒(けんそう)に出迎えられた。

「忍具を補充するため、また来ることにはなる。二度と来ない、てことはないよ」

「うるせぇ!!さっさと消えろ!!」

カミトは店主に背中を手で突き飛ばされ、前に押し出された。

なんとか買い物を済ませたカミトは、店主に盾突くことなくその場からオメオメと立ち去る。その光景を眺めていた周囲の人々が冷酷な視線と共に小声で罵る。

「見ろよあれ」

「下忍になったとは聞いていたけど、本当だったのね」

「火影様は何を考えているんだ?あんな奴が忍になったら……」

「化け狐が、いい気味よ」

あれ、それ、化け物、化け狐……。群衆から放たれる非情な言葉と、物や怪物を見るような冷たい視線に、カミトは眼を逸らした。

「何よ……あれ?」

「どうしてみんな……カミト君を虐めるの?」

イノとヒナタは、眼前の状況が把握及び整理できず、困惑した。

「やっぱり、カミトだったか」

「あれって、一体……?」

続いてシカマルとチョウジも不思議そうに顔を顰めた。

「おいおい、どうなってんだよシノ?」

「俺にも、何がなんだか……」

恐ろしい光景に冷や汗を流したキバの問いに、シノは答えられない。寧ろこの場にいる下忍全員が訊きたい事柄のはずだ。

理解が追いつけず、下忍達はただカミトの背中を見送ることしかできなかった。











木ノ葉の里を囲んでいる広大な森。その中で、カカシ率いる第7班は任務の真っ最中だった。

4人は散開し、ターゲットを追跡している。

『目標との距離は?』

カカシが無線《インターカム》を使い、下忍3人とコンタクトを取る。

『5メートル。いつでも行けます』

『俺もいいぜ』

『わたしも……!』

3人からの連絡を受け、カカシは緊張の面持ちで指示の時を待つ。カミト、サクラ、サスケの3人の前には、周囲を警戒する黒い影。

『……よし……やれ!』

カカシの指示を受けた瞬間、3人が勢いよくターゲットに飛びかかる。

そして。

「ニャーー!!」

ターゲットはカミトが両腕の中に捕まる。

「捕まえた!」

ターゲットである猫の捕獲に成功した。腕の中でもがき暴れる猫だが、猫を(いたわ)わろうと頭を撫で始めたカミトに癒されたかのように、猫は徐々に大人しくなっていく。

「活発な猫が、随分と大人しくなったわね」

「動物の扱いにはそこそこ自信があるんだよ」

「お前にしちゃ上出来だな、カミト」

カミトを尻目に、サスケは無線でカカシに連絡を入れる。

「猫を1匹捕獲した」

『右耳にリボン……目標のトラに間違いないか?』

透かさずカカシから連絡が帰ってくる。

サスケは猫の特徴を確認すると、冷静にカカシに報告した。

「……ターゲットに間違いない」

『よし、迷子ペット《トラ》の捕獲任務……終了!』

カカシは、任務終了を宣言した。





やっとの思いで迷い猫捜索を終えた第7班は疲労困憊(ひろうこんぱい)で里に戻り、三代目火影《猿飛ヒルゼン》に任務結果を報告をするため、火影屋敷にある審査部門へと(おもむ)いた。

「ああ〜!あたしの可愛いトラちゃん!死ぬほど心配したのよ!」

「ニャーー!!」

トラは依頼主である、火の国大名の妻《マダムしじみ》に強引に連れて行かれた。婦人のペットに対する扱いが手荒く、トラは必死に抵抗していた。

「あんな人が飼い主じゃ、逃げたくもなるよ」

自分が目の前の婦人に飼われる猫だったらと思うと、悪寒を感じずにはいられなかかった。

「……わたしもそう思うわ」

カミトの意見に、サクラは同感だった。

「ふんっ、くだらん」

サスケはあくまで興味なし。

哀れなトラの最後を感慨深く見送る下忍3人組。

「さて、カカシ隊第7班の次の任務は……」

そんな3人を尻目に、ヒルゼンは再び任務を与えるべく手元の資料を確認した。

「子守り、お使い、芋掘り……こんなところかのぉ」

一人前の下忍になって3週間が経過。これまで里の雑用任務を文句なしで受けてきたカミト達だったが、さすがに勘弁してもらいたかった。

ヒルゼンは粛々と任務を振り分けようとするが、とうとうカミトが意見を主張した。

「あの、三代目……できれば雑用よりもう少し上の任務を受けさせてもらえませんか?」

(一理ある)

こればかりはサスケも同感せざるを得ない。

途端、ヒルゼンの隣に座る《うみのイルカ》が説得しようと立ち上がった。

「カミト、お前の気持ちもわからなくはないが、まだお前達は新米なんだ。誰でも最初は簡単な任務から場数を踏んで繰り上がっていくものだぞ」

「それは……そうですけど……」

イルカのもっともな理屈に、カミトは返す言葉もなかった。

忍者の任務というものは、依頼される任務の難易度によってS・A・B・C・Dの5つのランクに分類される。火影を始めとする上層部と審査部でその依頼に適した忍を振り分け、任務が成功すれば依頼主から報奨金が入る。

新米の下忍には、Dランク任務が適している。と言っても、やっていることは護衛・雑用・依頼物探しなどと言った危険を伴わない任務ばかり。カミトも任務の振り分けは承知しているが、それでも上の任務を受けたいという考えは変わらない。

忍の世界は出来高制。任務をこなすほど給料が入るシステムである。しかし、金に困っている訳でもなく、ほとんど森で狩り生活を送っているカミトは、金を持て余している。里で買い物をしようとしても、以前のように疫病神扱いされて買い出しもままならない。

使い道のない金を増やすより、ランクの高い任務で経験を積み、己を鍛えるほうがよほどためになる。

「火影様……どうしますか?」

カミトの事情を理解するイルカは、思わずなんとかしてあげたくなり、隣に座るヒルゼンに尋ねる。

「うむ……」

ヒルゼンは瞼を瞑り、瞑想するように考え込んだ。

「そうじゃな……」

しばらくして、眼を見開いた。

「新人下忍でもできそうなCランク任務が、あるにはあるが……」

Cランク任務は、護衛・素行調査・猛獣の捕獲といった忍同士の戦闘を除いた任務遂行者の負傷が予想される任務。このランクの任務に相応しい忍は下忍及び中忍クラスの忍とされる。

しかし、場合によっては命の危険も伴われるため、Cランク任務を任せる下忍は実戦経験の豊富なベテランが普通だ。まだカミト達第7班はベテランと言うほどには至ってはいないため、この任務を任せるべきかどうか迷う。しかし、ヒルゼンの心底ではすでに答えが出ていた。

「よかろう、これも良い機会じゃ。お主達第7班にCランク任務を与えよう」

「「「!?」」」

7班のメンバー3人は、当然すぐさま驚いた。

「任務内容は、ある人物の護衛じゃ」

ついに本格的な任務に乗り出せると思うと、カミトは全身を興奮させる。

「では、今からその護衛する人物を紹介する」

ヒルゼンは次室で控えていた依頼人を部屋に迎え入れる。

「では、入って来てもらえますかな……」

ヒルゼンが掛け声を放った瞬間、大きな音を立てて扉が開いた。

「なんだぁ!?超ガキばっかしじゃねぇかよ!」

そこから入って来たのは、ねじり鉢巻をし、片手には一升瓶を持った大柄な老人。先ほどの言葉といい態度といい、かなり柄の悪そうな人物である。

自分達の護衛対象に、カカシ以外の7班全員が拍子抜けした。そんな彼らを気にすることもなく、老人は自己紹介を始めた。

「ワシは橋作りの超名人、《タズナ》と言うもんじゃ。ワシが国に帰って橋を完成させるまでの間、命を懸けて超護衛してもらう」





木ノ葉隠れの里の出入り口。2つの門の片方それぞれに大きく《あ》《ん》と書かれた大門は、里と外を繋ぐ唯一の門である。そこにはすでに、カカシ率いる第7班と、依頼人のタズナが準備を済ませ、出発を控えていた。

しかし、タズナは下忍3人を未だ頼りに思えず、これからの任務を任せても大丈夫か心配する。

「おい……本当にこんなガキどもで大丈夫なのかよぉ?」

「ははは、上忍の私がついています。心配いりませんよ」

愛想笑いで誤魔化すカカシから眼を背けたカミトもまた、心配だった。

(こんな人が依頼人だと、逆にこっちが不安になってくるよ)

カミトを含め、サスケとサクラも一抹(いちまつ)の不安を覚え、《波の国》への長い道のりが始まるのであった。











木ノ葉を出発して間もなく、カカシ率いる第7班はタズナの護衛任務のため、林に囲まれた街道を波の国に向け突き進んでいた。

「ねぇ、タズナさん。タズナさんの国って、波の国でしょ?」

「それがどうした?」

道中、サクラはふと疑問に思っていたことを口に出した。

「ねぇ、カカシ先生?その国にも忍者はいるの?」

初めての里外任務で緊張していたのか、サクラは今回の任務で忍者と戦うのではないかと心配していた。

「いや、波の国に忍者はいない。だが、大抵の国には文化や風習こそ違うが、隠れ里が存在し、忍者がいる」

カカシはせっかくなので、この機会に里の外の忍者について説明することにした。

「大陸にあるそれぞれの国々にとって、忍の里は国の軍事力に当たる。つまり、それで隣接する他国との関係を保っているわけだ。まぁ、かと言って里は、国の支配下にあるもんじゃなく、あくまで立場は対等なんだ。波の国のように他国の干渉を受けにくい小さな島国なんかでは、忍の里が必要でない場合もあるし」

ここからは、忍なら誰でも必ず知っておくべき重要な話に変わった。

「それぞれの忍里を持つ国の中でも、火、水、風、雷、土の五ヶ国は、国土も大きく、力も絶大であるため、忍五大国と呼ばれている」

次いで、忍里とそれを治める(おさ)ついての話題に移行した。

「火の国・木ノ葉隠れの里、水の国・霧隠れの里、風の国・砂隠れの里、雷の国・雲隠れの里、土の国・岩隠れの里。この各隠れ里の長のみが、影の名を語れることを許されている。その、火影、水影、風影、雷影、土影。いわゆる五影は、全世界何万の忍者の頂点に君臨する忍者達だ」

五影の説明に感心したカミトは、以前にも増して火影という存在を誇らしく思った。

「すごいじゃん!やはり火影の名を受け継いだ三代目様はすごい忍だよ!」

少しも疑うことなく火影ヒルゼンを尊敬するカミトとは裏腹に、サクラとサスケは疑いの念を抱いた。

(何万人の頂点って……あんなしょぼい爺いがそんなに偉大なのかしら?なんか嘘臭いわね)

(……いかさまじゃねぇのか)

「サスケ、サクラ」

2人の失礼な考えはお見通しだったカカシは即座に2人を呼ぶ。

「お前ら今、火影様を疑っただろ?」

「「!?」」

完全に心を見透かされたサクラとサスケは、ギクッと身を強張らせる。

「ん?」

カミトだけは意味を理解できず、2人の様子に首を(かし)げている。

「ま……安心しろ。Cランクの任務で忍者対決なんてのはないから」

そう言いながらカカシは、終始緊張の面持ちだったサクラの頭に手を置く。

「なんだぁ〜、よかった」

カカシの言葉に緊張が少しは(ほぐ)れたのか、サクラは一息ついた。

「………」

しかし、なぜかタズナは先ほどから暗い表情のままで、忍者対決というカカシの言葉に微かな動揺の色を見せた。

その様子に、サスケだけが気づいていた。





カカシ一行は道端の大きな水溜まりを通り過ぎ、道のりをどんどん進んで行く。

しかし、水溜まりを眼にしたカミトは何やら違和感を感じていた。

(なんで水溜まりが……?今日は雨は降っていないはず……)

その瞬間。

ピチャ、と微かな水音と共に、風邪を切る音が背後から響く。

「何!?」

一行が突然の出来事に身を固めた僅かな瞬間、すでにカカシは刃の付いた鎖に身体中を巻かれていた。

その時ようやく、木ノ葉の全員が把握した。

__忍者の襲撃。

「「1匹目!」」

襲撃してきたのは2人の忍。

その2人の忍は片腕に大きな手甲を着け、1本の長い鎖が2人を繋いでいた。カカシに巻かれた鎖を同時に操り、一気に引っ張り、カカシの身体をバラバラに引き裂いた。

「キャアァァァ!!」

「カカシ先生!!」

引き裂かれたカカシの身体が鮮血と共に地面へ落下。その冷酷な光景にカミトとサクラは完全に動けなくなってしまった。

「「2匹目!」」

しかし、次の瞬間には、2人の刺客はカミトの背後に回り込んでいた。

「!?」

一瞬、遅れて敵に気づいたカミトは、未だ固まったまま。その時、サスケだけが敵をしっかり捉えていた。

「ちっ!」

サスケはジャンプで飛び上がると、太股に装備されたホルスターからクナイと手裏剣を取り出し、刺客を繋いでいる鎖を背後の木に打ち付け、一瞬で動きを封じた。

「ぐ!動けねぇ!」

動きを封じられた刺客達が油断した瞬間を狙い、サスケの柔軟(じゅうなん)な鋭い両足蹴りが2人の顔面に入り、ドン!と鈍い音が周りに響く。

(す……すげぇ……)

その緊迫していた時でさえ、サスケの鮮やかな手捌きにカミトは心を奪われそうだった。

「こうなったら!」

刺客達は手甲から鎖を外して自由になり、今度は前方のカミトではなく後方にいたサクラとタズナに狙いを変え、低い姿勢で地を這うように駆け出した。

「カミト!!ボサッとするな!!」

「……はっ!!」

呆気に取られたいたカミトが、サスケの呼び掛けで我を取り戻す。

(く……来るっ!!わたしがやらなきゃ……やらなきゃ!)

迫り来る2人の刺客を前に、サクラは恐怖に震えながらも自分に言い聞かせる。

「おじさん!下がって!」

サクラは1本のクナイを両手で構えると、眼をギュッと瞑り、決死の覚悟でタズナを庇おうと刺客の前に立ちはだかった。

次の瞬間、カミトは猛然と地面を踏み付け、風を切り裂くように飛んだ。サクラとタズナに向かっていく刺客の頭上を飛び越え、瞬く間にサクラの前に降り立った。

「え?カミト!?」

驚くサクラを気にする暇もなく、カミトは背中に吊った刀の柄を掴みながら、迫り来る敵に備える。

刺客の攻撃がカミトに届く寸前、《千切斬(ちぎりざん)》を鞘から抜き取り、優雅な技を放つ。

「喰らえ!」

ズバァン!!という衝撃音と共に、2人の刺客の胴体に一直線状の傷が負わされた。

「「ぐわあぁぁぁ!!」」

あまりの激痛に刺客達は悲鳴を上げ、もがき苦しみながら勢いよく地面に倒れた。

その太刀筋(たちすじ)が眼ですら追いきれなかった。慌てて刺客からカミトに眼を向けると、刀を真正面に振り切った形で立っていた。

まだ状況がよく理解できないサクラだが、とりあえず危機を脱したことに胸を撫で下ろしていた。

「よ……よかったぁ〜」

緊張が解れた途端、ペタンと張り付くように地面に座り込んだ。

「ふぅ、やれやれじゃわい」

タズナも、九死に一生を得る、といった具合に安堵(あんど)のため息を吐いた。

何とか場が落ち着きを取り戻した時、カミトは一時的に忘却されていた記憶を掘り起こした。

「そうだ!カカシ先生は!?」

「「……あっ!?」」

カミトの一言に、場の空気が一気に凍りついた。

「ああぁ〜 !!そうじゃった!!超まずいぞこれは!!」

「おっ!おおおお落ち着いておじさん!!こ、こういう時は、えっと……!!」

完全にパニック状態に陥ったサクラとタズナを見てうんざりしたサスケは、カカシの亡骸を指差した。

「あれを見てみろ」

そこには、カカシの遺骸はなく、バラバラになった木片だけが転がっていた。

「いや〜悪いねぇ、君達!」

すると背後の藪から、こそこそとカカシが(わる)びれる様子もなく、頭を掻きながら照れ臭そうに出てきた。

「ふんっ!遅いぞカカシ」

「生きてたのか」

「よかったぁ〜」

サスケ、カミト、サクラの順に声が上がり、カカシの無事が明快となった。

「生きてるならもっと速く出て来てくださいよ!本気で心配したんですから!」

一息つくのもほどほどに、カミトは食って掛かるように文句を言う。

「カミトの言う通りよ!カカシ先生ほどの実力者なら、こんな奴ら簡単に倒せるじゃない!」

サクラの抗議にカカシはまったく反省せず、他人事のように()()らぬ顔で対応する。

「いや〜、そうしたいのは山々だったんだけど、お前達の戦い振りに感激しちゃってねぇ〜」

カカシはそう言うと、一転真剣な顔つきで3人を見据える。

「ま、これくらいの相手、俺抜きで戦れるようにならないとな。特にサスケ、カミト、お前らはよかった。サクラ、お前は注意力も足りないようだから改善が必要だな」

カカシからの講評を受け、サスケは鼻で笑い、カミトは素直に喜び、サクラは少し反省するように俯いた。

「ところでタズナさん、ちょっとお話があります」

「な、なんじゃ!?」

明らかに動揺しているタズナは、カカシに警戒心を抱いた。

「まずはこいつらを縛りましょう。詳しい話はその後で」

そう言ってカカシは、カミトに斬られ負傷した刺客達に眼をやった。





それから数分後、刺客2人をロープで近くの木に(くく)り付けると、カカシは冷静に分析を始めた。

「こいつら、霧隠れの中忍ってとこか……。こいつらは、いかなる犠牲を払ってでも戦い続けることで知られる忍だ」

すると、悔しそうに、刺客の1人が口を開いた。

「なぜ我々の動きを見切れた?」

「数日雨も降ってない今日みたいな晴れの日に、水溜まりなんかできないでしょ」

刺客の爪の甘さに呆れたようにカカシはしれっと言い放った。

その言葉に、カミトは道中に見かけた水溜まりのことを思い出し、カカシの考えに共通した。

(やっぱり……カカシ先生もあの水溜まりが怪しいって気づいてたんだ)

雨も降っていない数日の間に水溜まりができるとすれば、人の仕業としか思えない。

「まさかあんた、それを知っててガキどもにやらせたのか?」

タズナの言い分はもっともだった。護衛任務だと言うのに、上忍のカカシが手を抜く理由などないと思った。

「私には知る必要があったんですよ。こいつらのターゲットが誰であるのかを」

「どういう意味じゃ?」

タズナはわざとらしく意味を問う。

「我々はあなたが忍に狙われている、なんて話は聞いてはいない。依頼内容はギャングや盗賊などと言った、ただの武装集団からの護衛だったはず。これだとBランク以上の任務になります。依頼は橋を作るまでの支援護衛という名目だったはずです」

カカシの冷静な言葉に、タズナはどんどん表情を曇らせる。

「敵が忍者であるならば、迷わず高額なBランク任務に設定されていたはず。何か訳ありみたいですが、依頼で嘘をつかれると困ります。これだと我々の任務外ということになりますね」

他の忍者と戦う可能性がある以上、これはすでに下忍の行う任務ではない。先ほどの戦いでサクラの意思はとうに折れていた。

「この任務、まだわたし達には速いわ。……やめましょ!」

怖じ気ついたサクラは、任務の放棄をカカシに訴える。そんなサクラと残りの2人を見たカカシは、現在の状況を整理する。

「ん〜、確かにこりゃ荷が重いな。里へ戻るとするか」

上忍1人と下忍3人のフォーマンセルだけで依頼人を忍者の襲撃から守り続けるには戦力も人数も不足である。これでは任務続行は至難だろう。

サクラの訴えに応じたカカシも、任務放棄を決心した。

「………」

そう言われ、タズナは観念したように俯いた。その様子は、どこか悔しく、悲しみに満ちている。それにカミトだけが気づいていた。

「先生……!」

「ん?」

カカシはすぐさま反応。

「もう少し……」

暗そうな顔で小声で呟くような一言から、大きく一転。

「もう少しだけ……一緒についていてあげたいんです」

カミトこの依頼を放棄するつもりはなかった。忍者が襲ってくる以上、何か特別な理由がある。そして、そんな状況に置かれたタズナを無視して里に帰るなどできなかった。

「カミト、先生の話聞いてたの!?これはわたし達がどうにかできるような任務じゃないわ!次は本当に殺されちゃうかもしれないのよ!?」

サクラの怯えたような大声に次いで、カカシが跡に続く。

「サクラの言う通りだ。さっきはどうにか敵を撃退できたが、次もこう上手く行くとは限らないぞ」

辛辣(しんらつ)なカカシの言葉にも一理あるが、絞り出すようになんとか気持ちを伝えようとした。

「でも……カカシ先生は演習の時、俺達に言いましたよね?」

心の内に深く刻んでいた言葉を、カカシに向けてぶつけた。

「忍の世界で、ルールや起きてを破る奴はクズ呼ばわりされる。でも……仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ」

「っ!?」

カカシは、今までにないくらいの驚愕と道徳に見舞われ、眼を見開いた。

「一応、タズナさんは今の俺達にとって仲間のはず。その仲間の事情も知らないまま見捨てるなんて……納得できませんよ」

カミトは拳をギュッと握り、悲しくなりそうな自分を必死に抑え込みながらもカカシに哀願する。

その様子と先ほどの言葉が積み重なり、カカシの心に迷いが生まれた。

里へ帰るべきか、それとも任務の続行か。

しばらくして、やれやれ、といった具合にカカシは頭を掻いた。

「……そうだな。確かに、このまま任務放棄って訳にもいかないな」

「せ、先生!?」

明らかに不安を覚えたサクラは、中途半端に首を突っ込めば面倒事に巻き込まれるのは眼に見えていた。

「まぁ、とりあえず……波の国に着くまでは、タズナさんに同行しよう。ついでに、移動しながら事情も聞けばいい。タズナさん、いいですね?」

「……あ、ああ。今は、それで構わん」

ひとまず安心したタズナは返答した。

第7班の任務は__まだ始まったばかりだ。
 
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