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小ネタ箱

作者:羽田京
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東方
  大祖国戦争と人民の財宝

 
前書き
・本当はハーメルンに投稿するつもりだったのですが、思ったより筆が捗ったのでこっそり投稿します。 

 
・大祖国戦争は狂気とロマンに溢れています

 レミリア・スカーレットは転生者である。
 レミリア・スカーレットは共産趣味者である。
 レミリア・スカーレットはソ連共産党のトップである。


 けれども、レミリア・スカーレットは一般人(ごく平凡な日本人)だった。


 彼女()は転生者なだけである。ごく一般的な知識と経験しかない。 
 彼女()は共産趣味者なだけである。政治・経済を含む共産主義に詳しいわけではない。
 彼女()ソ連共産党のトップなだけである。誰かの上に立ったことなどなかった。


 けれども、レミリア・スカーレットは特別(チート転生者)だった。


 頭脳チートがあれば知識も経験も必要なかった。
 黄金律Exがあれば経済は勝手に成長した。
 身体チートで武威を示しカリスマExがあれば皆従った。


 では、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)は?
 財宝であふれていた? 否。中身は空だった。
 ソ連の財宝が勝手に収拾されていく? 否。手動で入れる必要があった。
 そう、それはただの巨大な倉庫だった。


(つっかえね~)


 レミリアはそう思っていた。――――あの日(大祖国戦争)までは。


◆ 

 21世紀に世界屈指の超大国として君臨しているソ連だが、意外にもその覇権を確立したのは20世紀の半分が過ぎてからである。
 何があったのか。有史以来国家が飛躍するときは、戦争と相場は決まっていた。1941年から1945年にかけて行われた第二次世界大戦――ソ連側通称大祖国戦争――である。


 レミリア・スカーレットは転生者である。なぜ彼女は悲惨な大戦を防ごうとしなかったのか?


 正確には防げなかったのである。彼女はチート転生者だったが、死亡したときただの高校生だった。そして、歴史選択は日本史だった。
 カタカナを覚える自信がなかったからである。


(マルクス・アウレリウス・アントニヌスとかなんだよ! エドワードとか何世までいるんだよ! うー、でも世界史選択しとけばもっと楽できたのかなあ) 


 ロシア人? あれは例外。ウラジーミル・イリイチ・ニコライ・ウリヤノフとかヨシフ・ヴェサリオノヴィチ・シュガヴィチリとか覚えるべき。Ура(うらー)


 要するに、彼女()は世界史の知識が皆無だった。世界大戦が二度起こっているのは知っているけれど経緯まではわからない。
 いや、それ以前に細々(こまごま)とした歴史を知らないから、ソ連を建国してもだいたい歴史通りに進んだ。それは修正力のせいかもしれないし、レミリアが干渉しなかったせいかもしれない。
 あるいは、人間の本質なんてどこでも変わらないというだけかもしれない。


 とにかく、概ね歴史通りに進んだ。大航海時代は起こったし、植民地戦争も起こったし、アメリカ合衆国も建国された。
 レミリアは内に引きこもってひたすら内政をしていた。シムシティとか好きだったんだよね。


(外の世界? 知るか! それより内政だ)


 しかし、決定的なのは第一次世界大戦だった。二正面作戦を避けられたドイツ帝国はシュリーフェンプラン通りにフランス共和国を粉砕してしまったのである。
 高みの見物を決めていた大英帝国とアメリカは慌てて救援に駆け付けたが、泥沼の試合の末、ドイツの勝利で終わった。


 ドイツ主導のもと国際連盟が結成され、初めて世界的な対ソ包囲網が作られた。ソ連側の妨害工作が失敗したのである。


 不気味な沈黙を続けるソ連に対して、18世紀までは人類世界は警戒していたが、人は忘れる生き物である。ましてや、人の寿命は短く、世代を重ねれば記憶は薄れた。


 建国初期にソ連に何度も侵攻し、大敗してきた歴史を人類は忘れていた。ゆえにこそ、人類で内輪もめができていたのかもしれない。
 どこかの世界(マヴラブ)では、敵対的地球外生命体(ベータ)相手に滅亡の危機にあっても内輪もめしていたしね。


 余勢をかって、国際連盟軍はソ連へと侵攻した。だが、待ち構えていたソ連側の激しい抵抗により失敗に終わる。
 ソ連側の逆撃によりドイツ軍は壊滅し、国際連盟は解体された。ソ連の工作により戦艦ポチョムキンの水兵が反乱を起こすと、ドイツは降伏せざるをえなくなったからである。
 この "背後からの一撃" はドイツ国民に "俺たちは戦って負けた訳ではない" という幻想を抱かせる一因となった。


 ここで、なぜソ連が東ドイツを占領してこなかったのかという疑問がある。


「フラン? なんでヨーロッパを占領しないかって? えーっと、それは……そう面倒だからよ!」


 それは、レミリアが日本人だったからだ。なんとなくドイツに親近感を持っていた彼女は、ヨーロッパにはあまり手を出さないでいた。
 もっとも、抵抗が激しく現実的に難しかったという理由もある。


 ハイパーインフレーションに苦しんだドイツは、史実通り国家社会主義ドイツ労働者党(ナチスドイツ)が台頭した。
 アドルフ・ヒトラーの名前を聞いたとき、レミリアは卒倒しそうになった。


 慌てて軍備を固めるように指示をしたが、ソ連の動きは鈍い。長年平和が続いたソ連は、平和ボケが激しかった。一度も負けたことがないという驕りもある。
 そして、その驕りはレミリアを含めた上層部にもあった。


 レミリアなんて ――――


「ソ連の科学力は世界一ィィィィィィ!!!」


 ――と根拠なく思い込んでいた。しかし、その実態はお粗末なものだったのである。
 

 技術はいつ飛躍するか? 答えは戦争である。
 平和を謳歌していたソ連と戦争を繰り返した人間諸国では、いつしか技術レベル(テクノロジー)の差がなくなっていた。


 指示を出したもののレミリアは大祖国戦争なんて起きないと高をくくっていた。理由はソ連の力を過信していたのもあるし、ヒトラーとの密約もあったからだ。
 平身低頭ソ連との不可侵を頼み込むヒトラーを見て、優越感をくすぐられたレミリアは、うっかり信用してしまったのだ。


(やべええええ、あのヒトラーが俺に頭さげてるよ! うー、感動すなあ)


 1941年、西部戦線で勝利したドイツ軍は電撃的にソ連に侵攻した。レミリアはヒトラーが欠片も攻めてくるとは思っていなかったし、刺激してはまずいだろうと、国境付近の兵力を薄くしてしまっていた。


 初戦はソ連の大敗。対応に追われたレミリアは非情な命令を下した。


ソ連国防人民委員令第227号(一歩も下がるな!)を俺が出す羽目になるとは……みんなごめん)


 その後、フラングラード、レミリアングラード、パチューリングラード、ユゥーカリングラードなどで激しい攻防戦が起きた。
 とくにレミリアングラードの戦いは凄まじくワンブロック占拠するのに1個小隊が消滅することもあったという。


 包囲戦で防衛側最大の弱点とは何か? それは物資である。
 史実レニングラード、スターリングラードの死者数が膨大なのは餓死者のせいでもある。とくに一般人への被害が大きかった。


 レミリアもスターリングラード攻防戦の悲惨さは一応知っていた。共産趣味者の嗜みとして、大祖国戦争だけは大まかな知識があったからだ。
 もっとも油断によってまさに史実通りの展開になってしまったのは皮肉だったが……。


「フラン、私はレミリアングラードに行くわ」
「お姉さま!? どうかおやめください!」
「……飢えに苦しむ同志を、私の名を冠した都市を見捨てられないの。それにね。私には秘策がある!」


 そして、射命丸率いる空軍の護衛を受けたレミリアは上空から大量の物資の投下に成功した。


「我が策成れり!」


 信じられないほどの量の物資が空から次々と降下される光景は、味方を勇気づけ、敵を(おのの)かせた。レミリアングラードの奇跡と呼ばれ大祖国戦争の語り草となったという。


(ただ王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)に詰め込めるだけ詰め込んだ物資を落としただけなんだけどね。うー、使えないなんて言ってごめんよ)


 それ以来、レミリアは、王の財宝を人民の財宝(ゲート・オブ・ソビエツキー・ソユーズ)と呼んで愛用している。 
 

 
後書き
・バルバロッサ、セバストポリ、モスクワ、クルスク、バグラチオン、ベルリンなどなど。大祖国戦争の見せ場は多いですが、東方キャラで書くならどれがいいですかね?
 
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