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マルクス通りにはならない

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第四章

 その共産圏の実態を見てだ、かつて前川から共産主義のことを聞いていた彼等は口々に言った。
「全然違うな」
「そうね、理想郷じゃないじゃない」
「官僚主義だよ」
「労働者や農民は使われていて」
「システムは旧式で」
「技術も文化も」
「同じドイツでもどうだ」
「東西で全然違うぞ」
 特に分裂していた両国が言われた。
「資本主義の西ドイツと共産主義の東ドイツで」
「全然違うぞ」
「西は繁栄しているのに東は何だ」
「ガムもバナナもないのか」
 西ドイツではどっちも普通にある。
「服はボロボロで車はトラバント」
「あれで共産主義の優等生だからな」
「他の東欧諸国ときたら」
 その中には当然総本山のソ連も含まれている。
「秘密警察はあるし言論の自由もない」
「店の商品の質は悪くて店員は無愛想」
「しかも品不足じゃない」
 日本のスーパーと違ってだ。
「全然違うぞ」
「資本主義の方がずっといいじゃないか」
「革命が起こったらああした国になるのか」
「それなら願い下げよ」
「全くだ」
「北朝鮮なんか」
 この国に至ってはだった、言うまでもなく前川はこの国についても極めて好意的で手放しで賛美していた。
「拉致にテロ、独裁に秘密警察に強制収容所」
「しかも軍隊にばかり金使って階級社会だ」
「とんでもない国じゃない」
「無茶苦茶だろ」
「あれが共産主義か」
「とんでもないなんてものじゃないぞ」
 彼等だけでなく日本の多くの者が共産主義の実態を知って唖然となった、それは崩壊寸前の古ぼけた国家達でありイデオロギーだった。
 それでだ、彼等は確信した。
「共産主義は駄目だ」
「マルクス通りにはならない」
「革命の後は地獄だ」
「それが共産主義よ」
「ナチスとソ連の何処が違うんだ」
 こうした言葉も出て来た。
「共産主義と社会主義の看板の違いがあっても」
「どっちも全体主義だ」
「全体主義だ」
「日本はそんな国にならなくてよかった」
「共産主義革命が起こらなくて」
 こうも言った、彼等はソ連等共産主義の実態を知って共産主義は完全に否定した。
 しかしだ、彼等に共産主義を言っていた前川はというと。
 定年まで共産主義を賛美していた、しかも。
 彼に教わっていたあの寺の息子も住職になり寺の仕事に励んでいると街の公園で抗議活動が行われていた。
 それを見てだ、彼の妻が言ってきた。
「あなた、あれ」
「ああ、デモだな」
「ええと、基地がどうとか原発がどうとか」
 妻は彼等の主張や掲げているプラカード等を見て言った、そのプラカードも旗も鉢巻きもやけに赤いものが多い。
「言ってるわね」
「最近時々いるな」
「ええ、数は少ないけれど」
「騒がしいものだよ」
「そうね、前も見たけれど」
「前は駅前だったか?」
 彼は思い出した、その前に見た時のことも。
「そうだったか」
「そうだったわね、ここも政令指定都市だし」
 それも人口が百万以上いる。 
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