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とある3年4組の卑怯者

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57 成功

 
前書き
 クラスメイト・平井やすあきの行きつけのラーメン屋「ラーメンわかば」へと取材にいったみどり達。みどりは緊張しながらも店長へ質問をするという役割を見事にこなし、グループワークに充実感を持つのだった・・・!! 

 
 入江小学校の3年4組の教室で、リリィは笹山に声をかけられた。
「リリィさん、今度ウチでクッキー作らない?教えてあげるわ」
「くっきーって、ビスケットのこと?いいの?ありがとう・・・」
「うん、前に約束したからね」
「そうね、楽しみだわ!」
 リリィは自分でお菓子作りができるようになりたいと思っていた。以前、城ヶ崎のピアノの応援のために大阪へ向かった時のことだった。ホテルで笹山がお菓子作りが得意であるということを知り、料理の経験も殆どないリリィにとっては笹山が羨ましく思えた。もし自分でお菓子が作れたら自分が好きな花輪や想いを馳せてくれている藤木にもより喜ばれるのではないかと思っていたのだった。

 江尻小学校の3年3組の教室では、みどりの班がラーメン屋の取材で作成したポスターを黒板に貼って発表していた。
「これで俺達の発表を終わンます!」
 賢島先生がコメントをする。
「発表ありがとう。そうだね、ラーメン屋の店長が戦争という苦しい時を乗り越えてながらも長くラーメンを作り続けている店長さんの思いがよく伝わりました。そして、清水港で釣れる魚を具材に入れていることで地元の食材を有効に使っていることが分かりましたね。先生も是非その『ラーメンわかば』に行ってみたくなりました」
(先生も褒めている・・・)
 みどりは先生から良い感想を言われて嬉しくなったことは初めてだった。今までは何もできず、このような発表でさえもただ木のように立っているだけだったが、今回は違った。自分も班の仲間の一員として仕事をこなした。だから、自分も喋る機会を平井から与えられ、自分の存在感を皆に感じさせることができたと思えていた。
 
 下校時、みどりは堀と共に下校していた。
「堀さん・・・、あの私、堀さんがいなくても頑張れました」
「そうね、私も吉川さんがいつもより輝いて見えたわ。よく頑張ったわね」
「は、はい・・・」
 その時、後ろからみどりの名字を呼ぶ声がした。二人が振り返ると、平井だった。
「平井さん!?」
「吉川ァ、おめェもよくやったじゃねェか。俺はァおめェを見直したぜ」
「ひ、平井さん・・・」
 みどりは乱暴な平井に褒められるなど信じられなかった。そして平井にも優しさはあるのだと気づかされたのだった。
「ンじゃァなァ、おめェ、これからもしっかりやれよォ!」
 そう言って平井は去った。
「吉川さん、平井君に褒められるなんて凄いわね。私なんて話しかけにくかったのに」
「いえ、ただ同じ班だっただけです・・・。あ、そうそう、あのラーメン屋さん、平井さんがよく行っているんです。実際に取材しましたら本当に美味しそうなメニューばかりで・・・。そうだ、私あのラーメン屋さんのラーメンを食べたくなって、今度の日曜、是非一緒に食べに行きませんか?おじいちゃんに頼んでみますし、まる子さん達もお誘いしますので」
 みどりは「ラーメンわかば」に堀を誘うことを思い出し、誘ってみた。
「ありがとう、でもごめんね。今度の日曜なんだけど、転校前の家に住んでたおじいちゃんとおばあちゃんの家に行くことになってるの」
「そうですか・・・」
 みどりは落胆した。みどりは泣きそうになったが、我慢した。なぜなら堀との約束を守り抜きたい、かつ守らなければならなかったからである。
「わかりました。まる子さん達と行きます」
「吉川さん・・・」
 この時、堀はみどりが一回り成長したように感じていた。

 みどりは放課後、まる子の家にお邪魔した。そしてその「ラーメンわかば」の話をしていた。
「へえ~美味しそうだね」
「ええ、それで今度の日曜に是非まる子さんも一緒にそこへ食べに行っては如何でしょうか?」
「え?うん、いいね、行くよ!」
 まる子は拒否したら、また泣かれると思い、承諾した。
「あとそれから藤木さんもお誘いしたいのですが、宜しいでしょうか?」
「ふ、藤木を?!わかった、一緒にアイツの家に行こうか」
「え、は、はい、ありがとうございます!!」
 みどりは藤木の家に行けると思って心をときめかせた。

 その頃藤木は家で一人で宿題をやった後、漫画を読んでいた。その時、ベルが鳴り自分を呼ぶ声がした。藤木は玄関へ向かい、戸を開けた。
「ああ、さくらか」
 その時、まる子の後ろからみどりが現れた。
「こ、こんにちは、藤木さん」
「みどりちゃん!?一体どうしたんだい?」
「みどりちゃんがアンタに話したいことがあるんだって」
「話したいこと・・・?」
 藤木は二人を家の居間に通した。みどりは藤木を誘うことに緊張した。しかし、恥ずかしがっては気が済まないと思っていた。社会科実習の時に自ら質問係を名乗り出た時のように藤木を誘う事に積極的にならなければと思った。一方藤木はみどりはは何の用で自分に会いに来たのか謎に思っていた。
「で、みどりちゃん、どうしたんだい?」
「あの、私の学校で社会の授業で社会科実習がありまして、それでラーメン屋さんを取材したんです。そこのラーメン凄い美味しそうで、是非今度食べに行きたいと思うんです。宜しければ藤木さんも是非ご一緒にと思いまして・・・、如何でしょうか?」
「う~ん、そうだね・・・」
 藤木は返答に詰まった。
(ここで断ったらまた卑怯になってしまう・・・、もしリリィや笹山さんに知られたらなんて考えるな・・・!!)
 藤木は前に、みどりが学校でできた友達を藤木に紹介したくて、まる子を介して藤木に頼んだ事を思い出した。その時は藤木はみどりといる事をリリィや笹山に知られたら嫌われてしまうなどと不安になって後にリリィに誘われて彼女の家に行くことを理由に断ってしまった。その結果、みどりを泣かせてしまった。そしてまる子から卑怯と咎められた。また誘いを断って彼女を泣かし、まる子から卑怯呼ばわりされるのもたまらないので今の自分には行くしか選択肢がないと感じていた。
「うん、いいよ、僕もラーメン好きだし」
「あ・・・、ありがとうございます!!」
 みどりは藤木と共に行けると思い、嬉しくなった。
(藤木さんとラーメン屋さんへデート・・・。ああ、待ち遠しいわ・・・)
(リリィ達にバレなければ・・・)
 藤木は好きな女子に知られないことを祈った。その後、まる子とみどりに緑茶を御馳走し、やがてみどりとまる子は帰った。みどりは家に帰った後、祖父に「ラーメンわかば」の話をして行ってもいいか聞いたが、祖父はすんなり許可した。 
 

 
後書き
次回:「御馳走(おすすめのラーメン)
 「ラーメンわかば」にみどり達と行く事になった藤木。皆はそれぞれ多様な種類のメニューを注文し、そのラーメンを楽しむ。そして帰った藤木を待ち受けていたのは・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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