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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  Kaiju/破壊神



今までのあらすじ

判明するセルトマンの正体。


最初の人類
最新の人類

その二つの属性を、流転と循環で永遠に回し続ける。
源となる礼装は肋骨。

「泥の肋骨」を破壊しない限り、彼らにセルトマンを仕留めることはできない。


謎は解けた。
皆も帰ってくる。


しかし、勝ち目はいまだ曇るばかり。


------------------------------------------------------------





「打ち砕け」

セルトマンの砲撃が、短い言葉とともに腕から発せられていく。
空間を消し去るかのようなそれを、蒔風たちが左右に散って回避し、二人が一気に砲撃で反撃を試みる。

「獄炎砲!!」

「波動砲!!」


セルトマンへと紅蓮と漆黒の二柱が接近するが、魔力障壁で防ぎ弾き飛ばされてしまう。
そうして発生したその火花。バチバチと爆ぜるそれを利用して、翼刀が向かっていった。

「ラッッ!!」

「フン」

大きく振りかぶられたそのパンチを、セルトマン蹴りで弾いていく。
反撃の蹴りを防いでいく翼刀だが、一撃があまりにも重すぎる。

しかし、そのセルトマンの横から

「モード・ブレードショット」

「ッッ!!!」

ギャォオンッッ!!と、爆発音のような大きさで金属音が鳴り響いた。
セルトマンの胸横を狙った唯子によるレヴィンの刃射出が、セルトマンの魔力障壁によってかろうじて防がれたのだ。

だがその衝撃までは殺しきれなかったのか、メキメキと背骨を鳴らしながら身体を横にくの字にして吹き飛ぶセルトマン。
十メートルほど飛んだ後に、五度ほど地面を跳ねてからザシュゥと何とか踏みとどまる。

折れていたのか、左腕がバキバキと音を鳴らしながら再生していく中、その彼の背後で何かが光る。


「レイジングハート」

≪ディバイン≫

「チ!」

大きく舌打ちして、振り返りもせずにその場から飛び出すセルトマン。
飛びつくように先ほどまでしゃがみ込んでいた場所から逃げ出すが、砲撃に足が巻き込まれてしまい、予想外の衝撃に乱回転しながら吹き飛んでいく。


「おおおぉぉおおお!!!」

「よし、ここだな・・・・」

ブレブレの視界の中を飛んでいくセルトマン。
その飛んでいく身体をチラリと見てから地面を踏み、腰の刀に手を添える蒔風。

そして、セルトマンの胸元を正確に狙って、蒔風の刀が居合の速度で振り抜かれた。


「斬ッッ!!」

「んなろっ!!」

対し、セルトマンは胸元に手を当てて魔力障壁を張った。

障壁に刃が命中し、しかも手首から先を切り落とされてしまう。
だが、それでも胸部は守り切った。

吹っ飛ぶ身体は制御できないが、この勢いなら蒔風の後方に抜けていくはず。
結果として、その斬撃を何とか防ぐことには成功したのだ。


だが

「ライオット・ザンバー!!」

「な!?」


蒔風の居合を防ぎ、やり過ごしたと思ったところに、フェイトが出現した。
振るわれる大剣を、今度は左手で張った障壁で防御する。

また弾かれる身体。
そしてそのままフェイトの後方に抜け


「雷切――――!!!」

その先にいた皐月駆の握る雷切の刃が、雷と共に二の腕から左の腕を切り落とした。



「バカな――――!!」

「あなたの弱点はもう聞いてるよ!!」

「こうなったら遠慮はいらないな」

「打ち上げるゼェッッ!!!」


両腕を切り落とされたセルトマンは成す術もなく、真人のアッパーによって上空へと打ち上げられてしまう。
その打ち上がったセルトマンの身体を狙って、放たれるのは無数の弓矢。

「エイッッ!」

「ハァッッ!!」

カリス、まどかといったメンバーによる弓矢を、生えかけの右腕をふるって弾いていくセルトマン。
そして最後に放たれた、アーチャーによる偽・螺旋剣の一撃を、寸前に回復したその腕で握りしめた。


「カラドボルグ!!」

「やかましい!!!」

回転し、猛烈な発熱体である以上に、サーヴァントによって放たれた強力無比の矢を素手で捕まえとめるセルトマン。
だがアーチャーはこれを爆破させる。それこそが、彼にとっての攻撃の真価。

の、はずが


「バカな・・・・壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)が発動しないだと!?」

「おいアーチャー。宝具の歴史は何年だ?もっと年代重ねてからのほうがよかったかもなァ!!」

ガラドボルグⅡの全身を、ズルズルとセルトマンの魔力が覆っていく。
そしてついにはその宝具の使用権を得るにまで至り、スタッと宙に立って彼らを見下ろす。


「きちんとレクチャー受けてこい。礼装だとかそういうのは、俺に投げるとこうなるぞってな!!」

「おい退避だ!!!」

アーチャーの叫びとともに、皆が一斉にその場から駆け出して離れる。
対して、アーチャーは上空に向かって腕を突き出し詠唱する。

展開するのは、鉄壁の花弁ロー・アイアス。
投げつけられるのは、先ほど奪われたカラドボルグⅡ。

だがセルトマンに奪われた以上、自分の想定以上の威力だと思ったほうが


ズンッッッ!!

「ぐむっっ!!!」

アイアスの盾に、カラドボルグが激突する。
本来投擲武器には絶対的優位性を持つはずのこの盾が、その物理的衝突だけで一枚花弁が砕け散った。

さらに、爆発。
セルトマンの魔力注入という魔改造に近い威力を誇る爆発は、アーチャーがアイアスで守った足場のみを残してその周囲を焼き払い、抉り取るほどの威力である。


だが、それでもアーチャーは耐えたのだ。
さすがにアイアスの盾。花弁を三枚残しての生還である。

それを見て、段差から飛び降りるようにトンっと前に出るセルトマン。
すると見えない足場がなくなったかのように、セルトマンは地面へと落下していく。

その後を追って、龍騎とナイトが落下していった。
ドラグレッダーとダークウイングとともに周囲を回り、落下するセルトマンを計四人で包囲していく。

ストライクベント、ソードベントとで攻撃を放っていく彼らだが、セルトマンはそれを軽くいなして足元の土煙へと入っていった。


その中でなおも戦闘を繰り返す龍騎とナイト。
だが、一気に二人が切りかかったところで弾けるように後退、土煙の向こうに消えていく。

直後、左に猛烈な光があったかと思うと、セルトマン自身がその光に飲み込まれていた。


エクスカリバーの極光が、土煙ごと彼を吹き飛ばそうと襲い掛かったのだ。
しかし


「不意打ちなら効くかもって?まあな。痛いって意味では効果あるよ、うん」

プスプスと煙を上げながらも再生していく、皮膚の炭化した左腕を眺めながらセルトマンが頷きつぶやく。
そんな余裕の態度のセルトマンだが、腕、足、身体と、次々にバインド魔法で締め上げられていってしまう。

さらには周囲には光の杭のようなものが突出し、完全にセルトマンの動きを封じ込める。


「今です!!」

「僕らが抑えているうちに」

「仕留めろ!!」

バインドをかけたシャマル、ユーノ、ザフィーラの言葉に応えるべく、セルトマンの周囲には遠距離攻撃を可能とする者が、グルリと取り囲んでいた。


《シュートベント》

「ティロ・フィナーレ!!」

「スターライト・・・」

「シューティングアロー!」

『バッシャーフィーバー!』

《Exceed Charge》

「ファントムブレイザー!!」

「ライダー超電磁ボンバァー!!」

《バーニングショット》

「ローゲフィンガー!!」

《ギガスキャン!!》

《FINAL ATTCK RIDE―――DE DE DE DEEND!!》

一斉に鳴りだす起動音。
同時に叫ぶ発射の合図。

そしてその引き金が、容赦なく引き絞られた。


一斉に飛んでいくエネルギー弾、火炎弾、砲撃、砲弾、光線、レーザー。

だがそれらを前にしてセルトマンが発したのは立った一言。



「うぜえ」

バォゥッッ!!!


「ゴォッッ!?」

「うぁ」

「きゃぁああ!!」

全身から吹き出した魔力放出に、それらの攻撃全弾がはじき返された。

自身の放った攻撃と、魔力放出の衝撃に前面を叩き付けられて吹き飛んでいくメンバー。
だがその中で、唯一残っていたのが


「――――ブレイカァーッッ!!!」

なのはである。
放たれたスターライトブレイカーは、セルトマンの放出する魔力すらをも吸収してなおも威力を増していく。


それを両腕で受け止めるセルトマン。
魔力放出が止まり、砲撃の増長も止まった。

しかし、元々が強烈なスターライトブレイカーだけあって、セルトマンも楽々というわけにはいかないらしい。
両腕で押し出すように砲撃を防ぎ、横にも上にもそらせないような膠着状態になる。


「なかなかの高威力。だが気づかないか?」

「・・・・・!!!」

スターライトブレイカーは、収束砲撃魔法。
元々の自分の魔力に、さらに周囲に漂う余剰魔力や拡散魔力をかき集めて放つ砲撃魔法だ。

砲撃には限界があるし、打ち続ければやがて威力も劣り、最後には止まる。
だが、今目の前のこれはそれ以上の速度で威力が減退していっているではないか―――――


「俺の根源は流転に循環。忘れていたならよほどの阿呆。それでも勝てると思うなら、そりゃ莫迦だ」

「スターライトブレイカーの魔力が吸われてる――――!!!」

セルトマンの腕へと、着実に溜まっていく高魔力。
しかもセルトマンは、この魔力を使うことなくこの砲撃を防いでいるのだ。


「さて、そろそろ好転とぉ・・・行きますか!!」

そしてセルトマンからも砲撃が放たれる。
先ほどのなのはの物とは比べ物にならない砲撃が、スターライトブレイカーを押しのけ、潰し、突き進んでくる。


撃ち込まれた砲撃の衝撃が先になのはへと到来し、レイジングハートの切っ先が弾かれてぶれる。
その瞬間、スターライトブレイカーは砲撃によって完全に消し飛ばされてしまい、セルトマンによる砲撃が彼女に襲い掛かる――――


「打滅星!!!」

が、その砲撃は蒔風の拳によって上へと逸らされた。
間に入り込んできた蒔風のアッパーが、砲撃を弾いたのだ。


「舜君!!」

「バックだ!!」

なのはを守り、身体を抱えて蒔風がバックステップで退いていく。
その蒔風の背後から、肩を蹴り、飛び出してきたのは


《トリガー!!マキシマムドライブ!!!》

「『トリガー、バットシューティング!!!』」

Wサイクロントリガー
その正確な弾丸が、一発に集約されてセルトマンの胸元へと突き刺さる。


バチィ!!という音と主に、セルトマンの上体が揺れた。
大きく身体を逸らして、そのまま後ろへと倒れていった。


そして、沈黙。
もし狙い通りなら、これで「奴」の肋骨は破壊できたはずだ。


「・・・・どうだ?」

『確かに、言われた通り右胸の肋骨に命中した』

「あいつの弱点なんだっていうから狙ったけど・・・これでいいのか?」

なのはを下ろし、Wの横へと駆け寄る蒔風。
周囲では、魔力放出で倒れた仲間が立ち上がり始めている。

どうやらアーカイヴ封印、解放で回復しているらしく、この程度ではまだやられないらしい。


「だいぶ戻ってきてるな」

「あっちのほうにいるメンバーとも連絡ついたぞ」

ショウが「EARTH」(仮)との連絡を取って、彼らの存在を確認する。
唐突に帰ってきて、目の前のセルトマンを攻撃してきた彼らに蒔風が事のあらましを簡単に説明する。


『右胸というのはそういうことだったのか』

「だがもう俺たちの攻撃でセルトマンの野郎は」


「なんだって?」


「!?」

『そんな、確かに―――うァッ!?』

会話に紛れ込む声。
それに驚いているうちに、Wが頭を踏みつけられて地面に押し付けられていた。

「翔太郎!!」


バックステップでなのはと下がりながらとっさに叫ぶ蒔風。
退いた蒔風に対し、ショウはセルトマンへと攻撃を繰り出していた。


「セルトマンテメェいい加減にしろよ!!」

「どっちがだよ。しつけーよ」

ショウの強烈な足払いを、脛を上げて受けるセルトマン。
骨が合金でできてるんじゃないかと疑いたくなるような音が双方からし、にもかかわらずさらに蹴りを繰り出していく両者。

「ショウ、無茶すんな!!」

「できる時にやらないでどうする!!」

ショウの反論に舌打ちしながら、仕方ない奴だな!!と蒔風も再び向かっていく。
その後ろから、さらにほかのメンバーも駆けていき、援護へと向かうが


「横やり入れんな!!」

セルトマンの腕から発せられる砲撃。
後方の仲間を見やり、そしてそれを拳で弾く蒔風。

その隙にショウが魔導八天を展開し、セルトマンの胸元を狙っての連続剣を叩き込んでいく。


「器用に受けるもんだなぁおい!!」

「魔力障壁ガリゴリ削っといてよく言う!!」

と、そこでセルトマンがついに魔導八天をとらえた。

八本のうち二本の剣を掴みとり、それを止めたのだ。
だが二本止めた程度では、残り六本が襲い掛かるだけ。

しかしセルトマンは手に握った二本を、刃を握ったままで振るいその六本を弾き飛ばしたのだ。


すべてを弾き、剣を投げ捨てるセルトマン。
だが、その眼前にショウの掌が向けられる。

「チェックメイトだ」

高速回転していくエネルギー。
ショウの掌から、漆黒の波動砲が溜めこまれていっていた。

その高音を聞きながら、セルトマンの顔が引きつった。
さすがにこの至近距離で直撃すれば、顔面は吹き飛びやられるだろう。

防ぐ術はない。
ならば、どこかにやってしまえばいい。


「フンっ!!」

「ぐ!?」

とっさに伸ばした右足。
内回し蹴りで、右足の右側面がショウの腕を弾く。

放たれる波動砲が、セルトマンの右側を突き抜けて飛んでいった。
それと同時に、セルトマンの左腕がショウへと突き出される。

この場合のセルトマンの腕は、拳ではなく発射口だ。
セルトマンの中でその魔力砲撃のトリガーが引かれる。


だが一瞬前にショウの右肘がそれを押しやり砲口を逸らす。
対して、自分の右手はセルトマンに。

同時に放たれるエネルギー砲撃。
片や魔力、片や波動。

命中するかに思われていたショウの波動砲は、しかし落ちるように体勢を崩したセルトマンには当たらなかった。


倒れていくように沈むセルトマンの身体。
だが右手が地面を掴み、その体を留めて上下が反転する。

突き出される蹴りがショウの顔面を掠め、起き上がりと同時にセルトマンの砲撃。
その砲撃に対して、ショウも砲撃で迎え撃った。


両者の手の距離は、30センチもない。
そんな至近距離で相殺しあっていく砲撃戦など、見たことがない。


一方、それを眺めていた蒔風は即座に皆を散開させて周囲に散らせた。
こんな戦い方をされては、飛び込もうにも無謀が過ぎる。

ならば、当たらぬように散っていつでもセルトマンに仕掛けられるよう備えておくのみだ。


「にしても、砲撃でガン=カタする奴なんて初めて見たぞ・・・・」

その光景を、あきれるやらなんやらで眺める蒔風。
飛んできた砲撃を、軽く首を倒してヒョイと躱す。



正面からぶつかり合う砲撃。
その反動でショウとセルトマンの距離が離れ、反動から体を戻すと同時に互いに掌を向けあった。


「おいセルトマン。まだ続ける気か?」

「ん?もうやめたくなったか?降参?」

セルトマンのありえない申し出に、するかバカと返してからショウが続ける。


「これ以上続けてもお前に勝ち目はないし、オレ達もこれ以上やるなら命を奪うことになる。だったら、これ以上続けることは無意味だと思わないか?」

「・・・・なるほど。確かに、お前らは諦めないことに関してはスペシャリストだもんな」

ショウの言葉を理解しながら笑い、そして砲撃を放つセルトマン。
その砲撃を蹴り飛ばし、なおも手のひらを向けるショウ。しかし、今度はそこに波動のエネルギーを充填させて、だが。



「右胸の肋骨。それさえ潰せばお前は終わる」

「ちょっととったぐらいじゃ再生するぜ?さっきもピンポイントでこれだけ破壊しようとしていたが・・・・」

トントン、と親指で胸を指すセルトマン。
そこにあったはずの傷は、すでにきれいになくなっている。

「並の攻撃じゃ破壊は不可能だ。つまり、こいつを狙って俺を無力化するってことは、俺のここにデカい穴開けなきゃ無理ってことだ」

それはつまり、セルトマンの絶命を意味する。
とはいえ、簡単に「穴をあける」といってもそれにいったいどれだけのエネルギーと攻撃が必要になるか分かったものではないが。


「だったらなおさらだな、セルトマン」

セルトマンの背後の蒔風が、さらに言葉を続けて告げていく。


「お前の召喚していっている再生怪人ももうネタが尽きてきたぞ。あっちを手伝ってるほかのメンバーももうこっちに来始めている。そうなったら、お前でももう防げないだろう?」

そしてこれ以上続ければ、「EARTH」としてはセルトマンを殺さなければならなくなる。
降参してくれれば、投降してくれるのならば、これ以上の戦いも負傷もないのだ。


「勝ち目はないぞ、セルトマン!!!」

「・・・勝ち目、か」

ショウと蒔風の言葉に、はぁと溜息をついてから伸ばしていた腕をだらりと下げる。
観念したか?と正面にいるショウへと視線を飛ばすが、ショウから帰ってくるのは同じように疑問の視線だ。


「ああ、そうかもしれないな」

息を吐き出すようにつぶやきながら、ショウを指し

「アーカイヴは解放され」


蒔風を指し

「俺の正体や弱点も知られ」


周囲を指し

「しかも四面楚歌と来た」


腰に手を当て

「わかるわかる。すごくわかる。おれ、すごい不利だもんな」


やさしく笑い

「そうだよなぁ。お前らからしたら、確かにそう思いたいのは山々だよな」


「――――――あぁ?」

「ここまでしたんだ。セルトマンを追い詰めているんだーって思うよな。あーうん。でもそれ残念だけど――――――」


「ショウッ、翼刀ォッ!!!」

「あの野郎―――」

「まだ・・・ッ!!」


「――――あくまでも、お・も・い・こ・み、だ」


蒔風の咆哮と、その必要もなく察知したショウ。
そして冷や汗を垂らした翼刀が、一斉に駆け出してセルトマンへと向かっていく。

この距離を詰めるのに、時間は一瞬。
だが、セルトマンの工程はわずか刹那に終わる。


セルトマンの手が、地面に触れる。
そして


『大地から悲鳴が聞こえる。おお、この叫びは我が息子の怨嗟の叫び』

「止め――――」



大地咆哮(アベル・スクリーム)

ド――――――――ゥッッッ!!!




大地が咆哮した。
浸食などという、生易しいものではなかった。

一瞬にしてセルトマンを取り囲んでいた皆がいる範囲の地面が、一瞬にしてドス黒く変貌したのだ。

よく映画で地面が爆発するときに音が消える演出があるが、それは演出でもなんでもなく現実に起こるものなのだとわかる攻撃だった。


大地に立つのはもちろん、逃れようと空にいようとも逃げ場はない。
ゴンッッッ!!という音がしたような気がして、直後にそれが自分の身体が叩き付けられたことで発せられた脳内の音だと認識するのだ。

吹き上がる咆哮に全身を殴打され、刺され、身体が浮き上る。
だがそれも一瞬。直後に引き付けられるように大地に叩き付けられ、例外なく総てのメンバーが大地に倒れ伏していた。

内臓がドロドロになって重くなってしまったかのようにうねり、筋肉がさび付いたかのように軋んで動かない。
どこから血が出ているか、ではなくどこなら血が付着していないかと探したほうが早いような状態。



その光景を、まるで観光地を回るかのように見回しながら進むセルトマン。

「俺がこの礼装に頼りきりだと思ったか?膨大な魔力の砲撃と障壁、それに蹴り技だけだと思ったか?ん?」

まるでそこに蒔風が立っているかのように語り掛けるセルトマンだが、その当の本人は離れたところで地面に倒れている。
地面はカサカサになり、生えていた草はそのエリアだけきれいに枯れ果てていた。

荒野、というのが正しいかもしれない。
先ほどと同じように地面が染まっているが、今度は大地がドス黒くなる理由がセルトマンのものではなく、ここに倒れている彼らによるものだという違いがある。


「ぐ・・・・」

「それに、お前らアーカイヴ解放したからって俺の目的阻止したとでも思ってんのか?」

「な」


ギョロリと睨みつけてニタリと笑うセルトマンに、蒔風が驚愕する。

こいつがアーカイヴを封じたのは、その分を使って目的である「王」とやらを「創造」するため。
それを解放したのだから、それは実行できないはずでは―――――


「ショウたちは蜘蛛倒したみたいだけど、あれはあくまでも封印と、その保護目的のもの。あれが倒されても、アーカイヴの接続は切れない」

それはわかっている。
聞きたいのはそうじゃない。

そう訴える蒔風の視線を察してか、セルトマンは言葉を続ける。


「アリスが説明してたろ?ありゃいい例えだった。確かに、パソコンで言うメモリをあけるために俺はアーカイヴを封印した。じゃあその分埋まったら、止まるってのか?」

「―――――まさか、あくまでも処理速度を上げるためだけに・・・」

「そう。実行自体は可能だった。たださらに二日ほどかかっちまうだけだ。まあ最後まで終わらなかったが、あれだけの時間でもかなり進んでたんだ」

「じゃあ、さっきまでの戦闘は」

「残りの分の時間稼ぎ。お前らはアーカイヴメンバーが消失するからって焦ってたみたいだけど、俺の目的はそうじゃねーのって」

ケラケラと笑いながら、セルトマンが両腕を広げる。
ついに、やっと。彼の目的は達成されるのだ。


「処理速度は落ちたが、残りわずかな処理には今の状況でも十分だった。そして、時間稼ぎに俺の身体はちょうどいい―――――」

セルトマンの腕に、魔力がたまっていく。
さらに足元に魔法陣が展開されては、彼の腕に吸収されていく。

まるで、用意したプログラムを組上げているかのように。



「人類には決して打倒することのできぬ「王」。世界をも破壊しうる最強の「王」!!!はたして極限にまで「人間」を高めた俺に、かの「王」は打ち倒せるのか!?」

実に楽しみだと、セルトマンが笑う。


そう


その「王」は、決して人類の手にはかからなかった。
ただ一つの、化学兵器を除いて。

しかし最後にはその存在を、生き延びてきた最強の「王」

ならば、究極の「人間」と化した自分には、その「王」を乗り越えることはできるのか?


探求心に限界はない。
好奇心は無限にある。


求めだしたら止まらない。
たとえそれが九つの魂を砕くことになろうとも、私はそれを追い求める―――――


「召喚だ!!出でよ、最強の―――――!!!!」

叫ぶ。
放たれた腕は、海の方角に。


「EARTH」ビルから海は、そう遠くない距離だ。
とはいえ、海岸ではなく塀のある、釣り場に適したものだが。



その海に、魔法陣が落ちた。
展開される。



渦巻いていた海が、轟いていた波が、見る見るうちに静まっていく。



まるでそのエネルギーが、海底のそいつに吸い込まれているかのように。




そのころ、「EARTH」の様々な観測計のいくつかが異常な反応を示していた。

一つは、波浪計。
静まっているというのにもかかわらず、波を観測するブイが激しく浮き沈みをしているというのだ。

もう一つは、地震計。
地面の揺れを観測し、震源地を割り出すこの計器によれば、海底のほうから振動がやってきていると。震源が移動していると、表示されていた。



最後に、これの針が異常に振り上がっていた。
どんどん上がっていく針は、ついには限界まで降り上がってしまう。

これに関しては、あまり大きな数値を図れるものではなかった。
当然だ。こんな街中でそこまで大きな数字が出るほどのものを観測するなど考えられないものだから。

その計器の単位は「Bq」と記されている。
読み方は「ベクレル」。


これは、放射能の測定器である―――――――







「騎士王、英雄王、脇役王!!夜天の主に、聖王、覇王。さらにはオルフェノク、ファンガイアにも王は存在する!!」


青ざめていく。
蒔風だけではない。


翼刀も、唯子も
ショウですら、その存在に声も出ず、ただ恐怖を感じた。



かの破壊神は、当時大地と海洋において最強とされる生物からその名を与えられた。

そして、この世に誕生して半世紀。
それは幾度となく我々の前に現れては破壊を尽くしてきた。

それは、この世界には結合していない存在だ。
だからこそ、セルトマンは作り出したのだろう。



「呼び名は様々!!破壊神、最強の怪獣、水爆大怪獣!!だが今回ばかりはこう呼ぶことにしよう!!」

「怪獣王―――――――!!!」


漆黒の体躯が、せり上がる海水を押しのけて出現した。

無数の背鰭が、通過する空気を切り裂いていく。

極大の脚部が、大地を踏みつぶして前進する。

その眼光は総てを敵と見做し

その咆哮は、総てを焼き払わんとする憎しみに染まっていた。




怪獣王・|呉爾羅≪ゴジラ≫


召喚


打破する術は、人類にはない。







to be continued
 
 

 
後書き

セルトマンの目的は、怪獣王の召喚だった―――――!!!
そりゃあれ乗り越えられたあら人類としては最高ですわ。

日常編の獅龍日和でてできたテロ組織は、何気ないこれの伏線だったんだよ!!


というかあいつを完全に殺す方法って「オキシジェンデストロイヤー」だけやん。
結局二体目出てきたし。


そういえば途中のセルトマンの周囲から一気に遠距離攻撃するのあったやん

蒔風
「ああ、やってたな。反撃くらったけど」

あれ失敗した理由あるんや

蒔風
「何故?」

バッシャーフィーバーがあったからだよ!!

蒔風
「お前バッシャーこれ以上いじめんなよ!!」




砲撃ガン=カタとか周り超怖いだろ
とか思いながら書きました。

劇場版のマミさんとほむら脳内再生しながら。




セルトマンの広範囲攻撃「大地咆哮」の元ネタは、いうまでもなく「カインとアベル」です。
この二人、アダムとイブの息子なんですけど、カインは人類最初の嘘つきで殺人者って言われてます。

簡単に言うと

カイン
「収穫物を収めに来ました!!」

アベル
「僕は牧羊していたので肉持ってきました!!」


「おお、ありがと。アベルの供物いいじゃん。カインのはいらね」

カイン
「ぐぬぬ。己アベルゥゥウウウウウ!!」



カイン
「カッとなって殺した」

アベル
「殺された!!」

カイン
「死体埋めた!!」

アベル
「うぐぅ」



アダム
「息子よ。お前の弟アベルどこ行ったよ」

カイン
「知らんがな父ちゃん」←人類最初のウソ(らしい)

アベルの血
「地面から染み出してきたよ!!ここにいるよ!!カインに殺されたよー!」


「マジかよ」

みたいな感じです。
嫉妬って怖い。

ちなみにこの後、カインさんは誰にも殺されないよう刻印(こいつ殺すと七倍の復讐が待ってるよ、というもの)をされたのちに放り出されたらしいです。
このころにはほかの人間ってもういたんですね。


大地に詰まった怨嗟吐き出すとか、そりゃ一気に全滅もしますわ。

セルトマンマジチート。






蒔風
「次回。俺たちは――――勝てないのか・・・!!」

ではまた次回
 
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