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必死の努力

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第五章

「あんたと学部は違うけれどね」
「それでソフトボール部もじゃない」
「レギュラー目指して」
「あんたポジションショートでしょ」
「二番ショートよ」
「ショートって一番守備が言われるじゃない」
 内野の守備の要だ、このポジションの守備力が内野の守備のかなりの部分を占める。
「しかも二番バッターって言ったけれど」
「一番の娘を進塁させて自分が塁に出たり走ったりね」
「色々問われるじゃない」
「だからっていうのね」
「あんたも努力してるでしょ」
「まあそれはね」
 言われてみればだった。
「私もかしらね」
「だからね」
「私も努力してるっていうのね」
「さもないとよ」
「二番ショートでいられないのね」
「大学にも進めないしね」
「じゃあやっぱり私もなのね」
 望に言われて考える顔になって呟く様に言った。
「努力してるの」
「そうなるわよ」
「成程ねえ」
「やっぱり人間あれなのね」
 しみじみとした口調になってだ、望はあらためて述べた。
「努力しないとね」
「駄目ってことね」
「そうなるわね、天才だって言われても」
 望はここでモーツァルトを思い出した。
「九十九パーセントの努力ね」
「何もしなくてその分野の天才になれる?」
「その分野に入らないと」
「その為に動かないと」
「そうね、モーツァルトもエジソンも」
 その彼の名前をここで出した。
「音楽も発明もいつも動いていたから」
「モーツァルトは楽譜が見えているって言っていたけれど」
 そしてそれを楽譜に書いていたというのだ。
「それが出来るのもね」
「作曲し続けていて」
「子供の頃から作曲し続けていた位だから」
 それこそ天才と言えるだろうが言い換えるとその時からもう音楽と触れ合っていたのである。まさに音楽そのものが彼の生活であり人生だった。
「そこまでいったら」
「もうそれこそ」
「本人がそう思っていなくても」
「努力していたのね」
「そうなるわ、モーツァルトも寝たままだと」
 ピアノに向かわず楽譜さえ開かなければだ。
「何もならないでしょ」
「そういうことね」
「エジソンも発明に向かい合って考えないと」
 そして努力しなければだ。
「何もならないわ」
「そういうことね」
「そうよ。結局はね」
 クラスではこうした話をした、そうしてだった。
 望は家に帰ってだ、母からこんなことを言われた。
「安則叔父さんね」
「ああ、あの人?」
「何かまたなのよ」
「またって」
「そう、住み込みの勤務先にいられなくなってね」
 望達の叔父、父の兄弟だ。怠け者でそれでいて口だけは言うので一族から除け者にされ妻からも愛想を尽かされて逃げられ家賃すら払えなくなって一時は浮浪者にまでなった者である。 
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