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GS美神他、小ネタ集

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ボツネタ「ああっ、おキヌちゃん様」より

「あの… 美神さん」
「どうしたの? そんな深刻な顔して」
「実は…… 事務所を辞めさせて欲しいんです」
「ええっ!?」
 その言葉を発したのが横島なら、普通の横島独立物だったが、それを言ったのは、おキヌちゃんだった。
「どうしてっ? お給料が安いから? 私と一緒に住むのが嫌になったから?」
「いえ、そうじゃありません」
「そう、男ね、男と一緒に暮らすから、私とは住めないんでしょ! でもね、仕事まで辞める必要は無いんじゃないっ!」
 ここは正直に、失いたくないパートナーを必死に繋ぎ止めようと、一気にまくしたてる令子。
「ち、違うんです」
「まさかこいつっ? ダメよっ! こんな甲斐性無しで、浮気者の男なんて、おキヌちゃんが幸せになれるはずが無いわっ!」
 今度は冷静さを失い、自分の心を捻じ曲げて、もう一人のパートナーをキープして置こうと懸命になる。
「俺知らないッスよ」
「そうじゃないんです、すみません、すみません… うええ~~~~ん!」
「どうしたのっ? 泣かないでよ、怒らないから落ち着いて」
 すでに怒っていると言うか、おキヌが泣き出すほどの形相をしていたので、落ち着けと言う方が無理な相談である。
「そうだよ、美神さんだって、鬼…… じゃないんだから」
「今の間は何なのっ?」
「そんな場合じゃないでしょっ、ほらほら~、面白い顔~~、のっぴょぴょぴょ~~ん」
 泣き出したおキヌを見て、オロオロするばかりの二人。

 シュンッ
「仕方ありません、ここからは私がお話します」
「なのね~~」
「小竜姫っ、ヒャクメッ、どうして二人が?」
 また結界を越えて、平然と入って来た二人を見て、眉の角度が変わる令子。
「また何か危ない依頼? それもおキヌちゃんを犠牲にするような仕事なんでしょっ」
「いいえ、違います。 この話は、おキヌさんが自分で話したいと仰ったのでお任せしましたが、やはり別離の情には耐えられなかったようですね」
「「別離…?」」
 突然現れた神族と、泣いているおキヌをなだめて、応接間に移動した一同。

「では結論から言います、おキヌさんは神族になって頂きます」
「「ええっ?!」」
「約三百年、死津喪比女を封じた功績。 さらに一連の活躍で人類と三界を救った功績。 数え上げれば、きりがありません」
「そんなっ、じゃあ私達はどうなの?」
「貴方たちの心は~、世俗の欲望に汚れ切ってるからダメなのね~~。 このメーターだと~、もうすぐ魔族転落コースなのね~~」
 雇い主と丁稚どんは、お互いを睨み合って、「あんたのせいよ」「あんたのせいや」と目で語り合い、自分の穢れを相手のせいにしていた。
「もちろん、美神さんの前世が魔族メフィストであった事。 横島さんとルシオラさんが融合している事も、除外対象になった理由なのは否定しません」
「ええ、ええ、どうせ私達は魔族同然ですよ」
(俺は魔族より性質が悪いと思うぞ…)
「何か言った?」
「いえ、別に…」
「何よりも、おキヌさんが街角で見かけた幽霊を説得し、笛で成仏させて来た行いは特筆に値します。 今もこの事務所の周りが、成仏できない霊達の駆け込み寺となっているのは、ご存知のはずです」
「すいません… みんな私と同じように見えて、どうしても放って置けなかったんです… 幽霊でお金が払えない人や、動物達でしたから、美神さんの仕事の邪魔はして無かったですよね?」
「ええ…」
 もちろん、そんな浮遊霊や動物霊が成長して怨念を溜め込むと、GSの出動となって利益に繋がるが、おキヌはそれを小さな芽のうちに摘み取っていた。
「他にも、幽霊達の世話役であった事や、周囲からの推薦。 荒神であった石神を折伏し、地域を安定させた功績も忘れてはいけません。 おキヌさんは自分には才能は無いと仰いましたが、すでに三百年間、山の神であった所からも、十分な資格があります」
「資格よりも、おキヌちゃんの気持ちはどうなのっ?」
「えっ? あの、その…」
「こんな気の弱い子に、また重荷を背負わせるつもり? 私は反対だわ」
 頬杖をついて目を逸らし、目の前の現実からも逃避する令子。 一旦仲間や家族になった者に対しては、非常に弱い一面があった。
「何も私のような戦士になれとは言っていません、ヒャクメのように調査能力を生かした神族もいます。 おキヌさんの場合、どこかの地脈の上に神社を建立して、そこで心穏やかに笛を吹いて下されば、それだけで多くの霊が慰められ、付近が霊的に安定するのは間違いありません」
 一人づつ対面して成仏させるのではなく、地脈に連なる道々で、哀れな霊達が救われると言うのも、おキヌにとって魅力的な話だったが、美神事務所には迷惑な話であった。
「先程のメーターですが、おキヌさんの場合、既に地霊や仙人の霊格を振り切っています。 これ程の方を在野に放置してはおけません。 悪鬼に魅入られて堕落させられたり、利用されれば大変なことになります」
 これもおキヌを決心させた要因で、自分が美神に迷惑をかけたり、倒せない相手として立ち塞がるなど、耐えられない事だった。
「すでに東京都とも話し合って、神社を建立する許可も取りました。 後は皆さんの了解を得て、おキヌさんが御神体として納まって下されば良いだけとなっています」
「随分手回しがいいのね、何を企んでるの? そう… 妙神山が壊されたから、都心にアクセスポイントを作るつもりでしょ? それって米軍と一緒で、喉元にナイフを突き付けられるのと同じよ」
「神族にそのような悪意はありません、江戸に都が移ってから、何度も計画がありましたが、魔族との合意が得られず流れて来ました。 これはいい機会だと思っています」
「そう… 結局、おキヌちゃんはどうしたいの?」
「わ、私はお受けしたいと思ってます。 でも… 美神さんの仕事の邪魔になりませんか?」
「そんなの気にする必要ないのよっ、それより、貴方の女としての幸せはどうなるの? 一生独身? 織姫みたいに交代が来るまで年取って行くの?」
「その心配もありません、私達のように年は取らなくなります。 それに巫女や乙女でいる必要も無いのですから結婚も可能です。 但し、同じ時を過ごせる長命な神である事が望ましいでしょう」
 また浦島太郎のように、時を超えて全ての知人を失うおキヌ。 幽霊の頃も明るく振舞っていたが、それは誰の目からも芝居のように見えていた。 自分と同じように…
「そんな辛い人生、私ならお断りだわ。 おキヌちゃんはそれでもやって行けるの?」
「すみませんっ、すみませんっ……」
 母親にまで騙され、貧しい教会で暮らした日々を経てからは、現金と自分だけが頼りになった女と、自分の命すら犠牲にして来た、何もかも正反対の娘は妙に馬が合った。 根底に流れる何かが同じだったかのように。
「わかったから泣かないで。 貴方の人生なんだから、周りも誰も気にしないで、好きなようにして、好きなように生きればいいのよっ」
「グスッ、はい…」
 自分の善行と徳によって、神にまでなれると言うのに、まるで美神を裏切って、悪い事でもしたようにいつまでも泣いて謝っていたおキヌ。 それは二人の神族に連れられ、転移して消えるまで続いた。

 数週間後…
「美神さ~~ん!」
「どうしたの? おキヌちゃん… いえ、もう神様だったわね。 本当はずっと年上だし、おキヌ様の方がいい?」
「やめて下さいっ、今まで通りでお願いします」
「そう、でも御神体がこんな所に来てもいいの?」
 仮設の神社を抜け出して、美神事務所まで来たおキヌ。 警護の気配は感じたが、人工幽霊一号も、おキヌの入室はフリーパスだった。
「はいっ、笛を吹くのは夜だけ、丑三つ時の方が効果があるそうです。 だから昼間は自由にしても… 美神さんのお手伝いをしても良いそうです」
「ほんとなのっ?」
「はいっ、またここに来ても… 一緒にお仕事してもいいですか?」
「あたりまえでしょ、ここはおキヌちゃんの家なんだから」
「はい… グスッ」
「もうっ、神様が泣いてちゃだめじゃない」
「はいっ」
「やった、良かったね、おキヌちゃんっ!」
 すかさずセクハラダッシュ、と言うか、この場合は喜んで無意識に抱き付こうとした横島だったが…
「どすこ~~~いっ!!」
 ドカーーン!
 強烈な張り手で吹き飛ばされ、エジプトの壁画のように、横向きのまま壁に張り着いた。
「あんたはっ?」
「はっ、恐山でごわす、この度、おキヌ様のふんどし担ぎ… いえ、警護役を仰せつかりました」
「大丈夫ですか? 横島さんっ! この人はお友達ですっ(ボソッ)とっても大切な……」
「わかり申した、以後気を付けます。 しかしこの男、余りに獣欲に満ちておりましたので、まわしを取られただけで穢れが移ります、お気を付け下さい」
「こ、こいつ…… 感動の再会に何しやがる……」
 壁から落ちて絵文字になっていた横島が、息も絶え絶えに答えた。
「ごっつぁん言わんかいっ!!」
「それは「ああ播磨灘」や…」
 軽々しく神様に抱き付こうとした横島が許せなかった恐山、そして…
「次はあたしの技を喰らわせてやろうか?」
 隣では柔道着姿の石神も現れ、ボキボキと指を鳴らしている。 多分、妙神山の右門と左門の鬼より怖いに違いない。
「け、結構です…」
「あんたはちゃんと「様」を付けて、3メートル以内に近付かないようにする事。 影も踏んじゃだめよ」
「はい……」
 自分の丁稚が神様に良からぬ行いをしないよう、美神からはストーカー並の判決が下りた。
「それにしても、別れ際にあんなに泣くから、一生会えないのかと思ったじゃないっ」
「すいません… 私もてっきり前みたいに、封印されて動けなくなると思ってましたから」
 本当の姉妹のように、泣きながら抱き合って再会を喜ぶ二人。 美神には良い印象を持っていないはずの恐山も、横島のように張り飛ばしはしなかった。

「ねえ… 今度はお給料、いくらがいい?」
 やはり金、神様し対しても、まずは金の交渉から始める美神令子。
「いえ、お給料は貰えないので、神社の方にお賽銭をお願いします」
「まあ、おほほほほっ、いいわよ、これからもよろしくっ」
「はいっ!」
 またはした金で、こき使えると思って笑っている女と、自分の日常を取り戻し、損得抜きで喜んでいるおキヌ様。 この辺りが二人の人生を分ける分岐点だった。
 それからは、日帰りできる場所なら「神様」が吹く笛で大抵の霊は成仏し、お札などの必要経費も無くなり、「ただ同然」の文珠を併用し、精霊石も使わなくなった美神事務所は、大層繁盛したと言われている。
 もちろん宗教法人である氷室神社を隠れ蓑にして、脱税し放題だったのは言うまでも無い……

 そんな平和な日々が、いつまでも続くかと思えたが…
「堕落させてやる」
「ええ、姉上」
 どこかの姉弟が、おキヌや横島達を狙って、邪悪な笑みを漏らしていた。 今回の指令は、美神令子と言う強欲で我侭な、魔族ギリギリの女を味方にして、自分達のアクセスポイントを都心に建設する事だった。

 その後… 美神事務所は魔族のアクセスポイントになり、令子ちゃんはメフィストの名前を回復して、丁稚どんも下級「間」族として長生きしたらしい。
 そして双方の管理人である、メフィストとおキヌは妙に仲が良く、毎日がデタントと言うか、お茶会が開かれ、平和の名の元に風俗が非常に乱れたと言われている……

 ボツ理由
1、小竜姫様と、おキヌちゃんが、天然で世間知らず同士で掛け合いをして、ヒャクメが突っ込んでも盛り上がらない。
2、↑程度のオチしか出なかった。
3、真面目に横島独立物から始めている若い人の、イヤミにしかならない。
 3で封印決定でしたが、辞め際ですので上げておきます。
 
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