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GS美神他、小ネタ集

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ああっ、おキヌちゃん様2

 最近、おキヌちゃんが黒いとお嘆きの貴方に。 ボツネタ「ああっ、おキヌちゃん様」より抜粋、追加。

 美神の元を離れ、小竜姫、ヒャクメの指導により、三級神族補助技能士に認定されたおキヌ。 高位の神族から推薦があったため、実技試験は免除され、学科試験も一発合格した。
 但し、付帯条件として、心眼等の着用が義務付けられたので、ヒャクメの予備の目を借りて、以前のように耳に下げていた。
「ありがとうございました、これもお二人のおかげです」
 電光掲示板の前で、素直に合格を喜ぶおキヌ。 しかし、付き添いに来ていた二人は妙な顔付きをしていた。
「でも… この推薦状があったら、補助どころか、いきなり二級神族も狙えたかも知れないのね~~」
 震える手で推薦状を持つヒャクメ、そこには魔族の指導者から「ブッちゃん」と呼ばれる人の名前が書いてあった。
「そ、そうですね… 確かに三界を救った一人ですし、今までの功績を考えれば、その方が相応しいかも知れません…」
 その推薦状は、別に今回限りでは無いので、試験会場にさえ来れば、あっと言う間に自分達より出世しそうなおキヌを見て、すっかり引いている二人。
「そうだったんですか~? でも私にはまだ難しい法律とか分かりませんし、見習いか補助で十分です」
「うっ」
 その無欲な笑顔が、眩しすぎたヒャクメ。 仏道に帰依していたとしても、最下級の調査員扱いで、アシュタロス事件の時は見捨てられた自分と、おキヌの待遇の違いに、嫉妬の炎が燃えたとしても、誰にも責められはしない。
「すぐにおキヌちゃんの方が、私より出世しちゃうのね~」
「そんなの関係無いですよ、お二人はずっと「先輩」ですから」
「うっ」
 今度は小竜姫が、その笑顔から顔を背けた。 ハヌマンと言う、かつて天界を荒らした上司を持ち、人も通わぬ場所に建てられた道場の管理人。 それは明らかに閑職で、出世コースとはかけ離れていた。
 それに比べ、大都会の中に建てられた神社で、信仰と祈りを一身に受けるおキヌ。 すぐに霊格や力も、自分を上回るのは間違い無かった。
「と、都会の神社ですからね… お祈りや願掛けに来る人も多いでしょう。 それが貴方の霊格になるんですから、すぐに私達など追い抜いてしまいますよ…」
「そうなんですか? だったら小竜姫様がこっちに来て下さい。 私には「あくせすぽいんと」なんて管理できませんし、守るだけの力がありませんから、お掃除や小間使いでもしておきます」
 パーーーッ
「「ああっ」」
 余りの眩しさに、目を覆ってしまう二人。 ヒャクメは覆い切れない目で、おキヌの背後に後光がさしているのを見た。

 その後、仮設の神社が出来上がったと知らせを受け、早速、御神体として入ったおキヌ。 すでに空腹や渇きに泣く恐れの無い体にはなっていたが、別れた人々への思慕は募るばかりだった。
(横島さん、お腹空かせて無いかな? 週に一回は余分に材料買って差し入れに行かないと、ずっとラーメンかパンの耳だったし…… あっ、でもあれって、美神さんのお金で買って横島さんに上げてたから、泥棒になるんじゃあ…? えっと…)
 小竜姫から貰った、「試験に出る神族の法律」を持ち出し、調べ始めるおキヌ。
(でも、貧しい人のために喜捨するのは、天に財産を積み上げる行為で、美神さんのためにもなる訳で… う~ん)
 分かりやすく解説してある書物には、そこまで細かい事例は書いていなかったが、この場合、おキヌの行為は正しかった。
 美神も、おキヌが買って来た食材や釣銭までは詮索せず、毎日カロリー計算までした暖かい食事を用意し、洗濯や身の回りの世話までしてくれたおキヌには、メイドとしての給料を払っても良い「かな?」と思っていた。
(美神さん、一人でもちゃんとやってるかな? シロちゃんだってまだ子供だし、タマモちゃんだって、自分の事はできても、人の事は絶対しないタイプだし… また必要なお札を忘れて怒られてないかな? そしたらまた横島さんから文珠を無理矢理……)
 そこまで考えて、おキヌは笛を取った。 未練を断ち切るように、そしてその思いが美神達に届くように笛を吹き始めた。
 ピリリリッ、ピィーーーーーーッ!
 地脈に繋がる道で、救われない霊達の気配を感じながら、吹き続けるおキヌ。 交通事故や事件で、自分が死んだ事も知らないで、いつまでもその場所に縛り付けられている霊。 家族、物、お金、様々な物に未練を残し、成仏出来ない霊に向けて、笛の音が届くよう懸命に吹いた。
「おお、泣いておられる…」
「邪魔するんじゃないよ恐山、姉さんは迷ってる霊の悲しみを感じて同調してるんだ」
 一度倒されて一目置いていたのと、実はおキヌの方が神としても格上だったので、石神は「あねさん」と呼ぶようになっていた。
(姉さん、あんたには、あたしらには無い力がある。 幽霊のまま神を倒せる女なんて、あんただけだ)
 霊達と同じように、笛の音を聞いて涙する石神。 やがておキヌはトランス状態に入って、地脈と一体になった。
(地脈に根が… 死津喪比女ですね…、貴方もあれ程の力を持たなければ、きっと…)
 片方は相手を封じ、もう一方はその呪縛から逃れようともがいていたが、今にして思えば、まるでおキヌが神になるまで試練を与え、包み込んでいた繭のようにも思えた。
(今度芽吹く時は、人のためになるよう緑を繁らせて、きれいな花を咲かせて下さい…)

 それから時間にして2時間近く吹き続け、おキヌは眠るように崩れ落ちた。
「おキヌ様っ!」
「姉さんっ!」
「大丈夫なのね~、でも毎日これじゃあ、霊体が持たないから~、1時間ぐらいで休ませて、体が慣れて来たら、もう少し続けてもいいのね~」
「「はいっ」」
 石神に抱き起こされ、そのまま寝所へ連れて行かれたおキヌ様。 その心は遠く、もう一つの氷室神社まで飛んでいた。
(死津喪比女……)

 翌日、おキヌ様は、ある気配を感じて目を覚ました。
「おはようございます、姉さん、もう体は大丈夫ですか?」
「ええ、昨日はどうなったんですか?」
「2時間も笛を吹いて、そのまま倒れてしまったんです。 ヒャクメ様からも、体が慣れるまでは無理をしないようにと」
「はい、分かりました… ちょっと外へ」
「姉さんっ、どこへ?」
 おキヌ様と、追いかけて来る石神は、神社の敷地の一角へと急いだ。
「おはよう、もう来てくれたんですね」
 おキヌ様は、建設中の神社の傍に、新芽が生えているのを見付けた。
「こりゃあ、何の芽ですか?」
「これは、死津喪比女さんです」
「ええっ!?」
 関東一円に地震と花粉の被害を起こし、自分の管理していた辺りにも根を張っていた、恐ろしい妖怪の名を聞き、摘み取ろうとする石神。
「あっ、だめですっ、摘まないで下さいっ」
「でも…」
 まるで飛び梅のように、以前の氷室神社から、新しい氷室神社に飛んで来た木の芽。 しかし、その芽からは、以前のような禍々しい気配は感じ取れなかった。
「どうされ申した? ここは工事現場の近く、ささ、仮の社にお戻り下さい」
「あの、恐山さん、この子の周りに柵を作ってあげたいんですけど。 工事の方に、少し材料を分けてもらって頂けませんか?」
「分かり申した」
 やがて死津喪比女の新芽の周囲には、恐山と石神が持って来た鉄骨の柵が作られ、例えクレーンが倒れて来ても大丈夫な、頑丈な物が出来上がった。
「(な… 何もここまでしなくても…)ありがとうございました… これでこの子も安心です」
「はっ、これしきの事、いつでもお申し付け下さい」
 文字通り、この程度の仕事は朝飯前の恐山。
「あんたタフだね…」
 石神の方は、ちょっと苦しかったらしい。
「でも、死津喪比女さんの名前って、全部忌み名なんですね、ちょっと変えてみましょうか」
 そして新芽の柵の前にはこう書かれた、「工事中折らないで下さい 静母姫の木」

 やがて数日が経つと、その心配は無くなった。 笛の音を聞く度に成長し、柵を壊すほど大きくなった静母姫は、また根を伸ばして行った。
 そして以前、自分が張っていた枯れた根と合流すると、再び関東一円に根を伸ばし、笛の音に操られるように、地盤を縫い付け、地下水を吸い、液状化を防いで行った。
 やがて富士の山に届いた頃には、火山性ガスさえ徐々に抜き取り、おキヌ様がいる限り、大きな地震や噴火さえ収まったと言われる。
「こんなに早く大きくなって、さすが静母姫さんですね」
「しかし、花粉症になり申した… グスッ」
「あだしも…」
「目がっ、全身の目がかゆいのね~~っ!」
 以前のように、吸い込んだだけで麻痺や痺れを起こす被害は無かったが、神やその警護役にまで、目の痒みと、鼻炎の症状を起こしていた…

 いつか笛の音がやんだ時、またこの木は今の名を失い、恐ろしい忌み名に書き換えられるかも知れない。
 しかし、それは遠い日の事。 おキヌ様がこの地を離れるまでは、笛の音と共に関東を守る御神木としてそびえ立つに違いない。
 そして少女が転生し、その声に呼ばれた時、また数百年間繋がって繭のように包み込み、この少女を育む儀式が行われるであろう……
 
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