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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百二十二話 フレイヤ大返し


今回はエッシェンバッハ元帥編です。


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第百二十二話 フレイヤ大返し

帝国暦483年8月5日 午前10時25分

■ヴァルハラ星系内 演習場 ローエングラム星系警備隊旗艦ヴァナヘイム

メルカッツ提督に帝都での異変が届き、艦隊司令部では直ぐさまオーディンへワープを行うべく準備に入った。

「閣下、皇帝陛下はご無事でしょうか」
不安げなシュナイダー中尉である。
「皇帝陛下は強運をお持ちだ、信じるのみだ」

航法主任がワープ準備終了と報告してきた。その間僅か10分、何故ならビッテンフェルトの虫の知らせで、艦隊は既に準備を整え、後は目標座標内に異物が無いかを調べるだけになっていたからである。その異物検査もミッターマイヤー艦隊から、逐次報告があったため、僅か10分で終了したのである。

午前10時37分メルカッツ提督率いる、ローエングラム星系警備隊はオーディンへとワープを開始した。


帝国暦483年8月5日 午前10時25分

■オーディン軍務省 軍務尚書執務室

軍務尚書エーレンベルク元帥が皇帝陛下、皇太子殿下、皇女殿下が奇禍に遭われた事と、近衛の叛乱と言う事態を知らされたのが、10時25分の事であった。皇女殿下直々の連絡と指示を受けたのである。

「閣下、皇女殿下より直々にお電話が」
本来であれば、目下の自分が殿下の前にお伺いに行かなければ成らないのにもかかわらず、TV電話で殿下自らが連絡をしてきたので有るから、副官の歯切れが悪いのも当たり前であった。

元帥がTV電話対して畏まり、話を聞き始める。
『元帥、ノイエ・サンスーシで叛乱が起こったのです。父上や兄上の安否が不明です。直ぐさま艦隊をオーディンへ帰還させてください』

この言葉の後に侍従武官ヴィッツレーベン大佐が事情を説明し、エーレンベルク元帥は直ぐにエッシェンバッハ元帥へと連絡を入れたのであった。


帝国暦483年8月5日 午前10時35分

■フレイヤ星系 銀河帝国宇宙艦隊総旗艦ヴィルヘルミナ

レンテンベルク要塞へ訓練に向かう帝国艦隊に緊急連絡が入ったのは、午前10時35分であった。
「なに、オーディンからだと」
「はっ、軍務尚書エーレンベルク元帥より緊急連絡で有ります」

FTLで送られて来た映像に映るエーレンベルク元帥の顔には皺が刻まれ苦悩の様子がよく判った。いったい何が起こったのかと、エッシェンバッハ元帥《ミュッケンベルガー》は不思議がった。

『元帥、落ち着いて聞いてくれ。事も有ろうに、ノイエ・サンスーシで近衛が叛乱を行い、皇帝陛下と皇太子殿下の安否が判らない状態だ。更にテレーゼ皇女殿下がヘルクスハイマー伯爵に暗殺されかけたが、皇女殿下はご無事だ。現在、皇帝陛下に代わり指示をしておられる』

エーレンベルク元帥の話しにエッシェンバッハ元帥は驚きを隠せなかった。
「何ですと、それで陛下の安否も判らないと」
『口惜しいがその通りだ、断片的な情報だが、ヘルクスハイマー伯の後ろにはリッテンハイム侯が居る、更に今日謁見しているのが、クロプシュトック侯だ』

「元帥、もしやしてリッテンハイムとクロプシュトックが手を組んだと?」
『そうとも言えんが、リッテンハイムは常日頃、御令嬢を次期皇位にと酒の席や身内の集まりで言って居たらしい。それにクロプシュトックは陛下にお恨みがあろう』

苦悶の表情のエーレンベルク元帥であるが、聞くエッシェンバッハ元帥も同じ顔をしているのである。そんな話をしている最中でも、エーレンベルク元帥のスタッフが慌ただしく、元帥に現状報告の資料を渡していき、それに目を通しながら、エッシェンバッハとの会話を進めていく。

「しかし、余りにもタイミングが良すぎます、我々がレンテンベルク要塞へ向かうのを見越したのでしょう。此は間違えなくクーデターですぞ、直ぐさま対応せねば成りませんぞ。リッテンハイム、ヘルクスハイマー、クロプシュトック星系を押さえるために艦隊を派遣しますかな?」

『いや、皇女殿下の御機転でリッテンハイム、ヘルクスハイマーは既に収監している。其処で、元帥は直ぐさま艦隊を反転させオーディンへ戻ってきて欲しい』
「なるほど、当主が人質では艦隊も動けないと言う訳ですな」

『その通りだ、今必要なのは艦隊による威嚇だ、オーディンに艦隊主力が居ない方が遙かに悪い状態だ』
「判りました。大恩有る皇帝陛下の危機に何を手をこまねいて居ましょうか」

『安堵した、オーディンの現在の防御は、地上部隊はライムバッハーが指揮を掌握しているが、宇宙艦隊は2個分艦隊僅か3,000隻ずつだ、今メルカッツ提督の艦隊が急行中ではあるが10,000隻だけだ。此処で不平貴族に便乗叛乱でも起こされたら手が足りずに目も充てられないから。元帥頼みますぞ』

「了解した、元帥、オーディンのこと頼みますぞ」


エーレンベルク元帥との会話の後、エッシェンバッハ元帥は直ぐさま宇宙艦隊総司令部スタッフを集めて緊急ミーティングを行った。

100人を超す各艦隊司令官と参謀長を集結させた事に参加者は早くも訓練かと思いながら居たのであるが、エッシェンバッハ元帥の発した言葉に皆が皆絶句した。

「御苦労、卿等に集まってもらったのは、他でもない。オーディンに於いてクーデターが発生した」
クーデターの言葉に多くの者が、驚きを隠せない。
「現在、ノイエ・サンスーシが近衛により占拠され、皇帝陛下と皇太子殿下の安否が不明だ」

本来であれば隠すべき事を、敢えてエッシェンバッハ元帥は伝える事で、全員の心を一つに纏めようと考えたのである、陛下の軍政改革により、帝国軍に巣くう宿痾が取り除かれ、一般兵に至るまで精強になりつつある帝国軍である。陛下に対する情愛の念は計り知れないものが有る、それを信じて話したのである。

多くの将官が、固唾を呑んでエッシェンバッハ元帥の次の言葉を待っている。
「同時に皇女殿下も襲われた」
その言葉に、若手の将官が目を見開いて殿下はご無事かと訴えてくる。

「安心せよ、皇女殿下は無事だ。現在皇女殿下が皇帝陛下に代わり指示を行っているそうだ」
その言葉に不安半分期待半分という感じで将官達が頷いている。
「で、犯人はわかったのですか?」

エッシェンバッハ元帥は、言わねばならない事だが、言い辛い事だと思いつつも話す。
「ノイエ・サンスーシについては、不明だが、皇女殿下を襲った輩は、ヘルクスハイマー伯の手の者だ」
その言葉に、多くの将官がざわめく。

「そうなると、艦隊の内幾らかは、ヘルクスハイマー伯爵領へ侵攻せねば成りませんな」
ケルトリング中将が訴えた。
「いや、ヘルクスハイマーとその後ろ盾のリッテンハイム侯は皇女殿下の御機転で収監されている」
「そうなりますと、直ぐさまオーディンへ戻らねばなりません」

祖父と同じ少壮の戦術家である、シュタイエルマルク中将が直ぐさま答えをはじき出した。その言葉に殆どの将官が頷いた。エッシェンバッハ元帥はこの事を待っていたのである。
「皇帝陛下の御為に各艦隊準備でき次第発進せよ」
「「「「「「「「「「「はっ」」」」」」」」」」

将官達が立ち去っり、次々と旗艦へと帰って行く。旗下旗艦へ帰ってきた司令官からの話に、多くの参謀がそれぞれの持ち場に着いていった。帝国軍宇宙艦隊が全力を持ってオーディンへと向かうために全員が自分の持てる限りの力を発揮していく。

帝国暦483年8月5日 午前11時、フレイヤ星系に集結していた宇宙艦隊主力10個艦隊総数15万隻が驚くべき速度で準備を終了し、緊急帰還を開始したのである。練度は未だ未だ低いが帝国の未来を考える猛者達に育とうとする雛たちの第一歩になったのである。


帝国暦483年8月5日 午前12時

■レンテンベルク要塞

レンテンベルク要塞に、先着していた宇宙艦隊先遣隊に、宇宙艦隊本隊が急遽オーディンへ帰還するとの連絡と先遣隊も帰還せよとの指令を受け、大慌てで参謀達が仕事に走っていたが、参謀の1人である長身で若白髪のある黒髪で薄く引き締まった唇を持つ表情に愛嬌がない中佐が司令官に近づいてきた。

「司令官閣下」
「卿は?」
「はっ、作戦参謀パウル・フォン・オーベルシュタイン中佐です」

その中佐は最近の人事異動で来たばかりだったため、司令官も顔と名前が一致していなかったのである。

「その中佐が、何用だ?私は此でも忙しいのだが」
「閣下、エッシェンバッハ元帥が、オーディンのお戻りならば、時間をお掛けになった方が宜しいかと存じます」
中佐の言葉に何をいうのだという感覚が沸き起こる。

「時間などかけれ等無い事は、卿も承知であろう!」
さっさと此の苛つく相手から去ろうとするが、更に喋り賭けてくる。
「エッシェンバッハ元帥が、このままお帰り成っても、クーデターは既に鎮圧されていましょう」

「結構な事ではないか」
「エッシェンバッハ元帥にとっては、甚だ不本意な事に成るやも知れません、更にエッシェンバッハ元帥府所属の閣下にとっても」
いい加減にせよと、言いたいが、何やら不気味な存在が空恐ろしくなってきた。

「いい加減にせよ」
「鎮圧の功績はメルカッツ提督に帰します」
元帥閣下のライバルであるメルカッツを引き合いに出すとは、痛いところを突いてくる奴だ。

「それでも良いではないか」
「本当にそうでしょうか。このままで行けば、エッシェンバッハ元帥の地位を脅かすやも。間に合わなかった宇宙艦隊司令長官と鎮圧を指導したメルカッツ提督を比べて、メルカッツ提督を宇宙艦隊司令長官にとの声が上がるやも知れません。そうすれば、閣下の進退にも影響が生じるはずです」

「その様な些細な事、私は気にせん」
些か動揺しているが、気にせずに反論したのであるが。

「此処は、先にリッテンハイム、ヘルクスハイマー両家の所領を制圧すべきかと、そうすれば、元帥閣下の功績も又揺るぎなき事になります」
「卿も聞いたであろう、元帥閣下は即刻オーディンへ帰還だ、もう良いな」

司令官は、強い口調で中佐を下がらせた後、何やら胸にトゲが刺さったようないやな感じがしたため、さっさと忘れようとしたのであった。この件は結局表沙汰には成らずに、その後何の咎めも無かったのは、その後のゴタゴタで、司令官自体が忘れ去ってしまった事が原因であろう。

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オーベルシュタイン、強引過ぎたかな。

オーベルシュタインのシーンを宇宙艦隊本隊から、レンテンベルク要塞先遣隊に変更しました。
 
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