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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百二十三話 ヘボ詩人頑張るか?


原作だと居ない皇帝ゲオルグ2世により迷宮の制作を命じられたと、ヘボ詩人が言ってますが、居ない皇帝じゃしょうがないので、荒れた時代のフリードリヒ3世が命じたにしました。
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第百二十三話 ヘボ詩人頑張るか?

帝国暦483年8月5日 午前10時15分

■オーディン 装甲擲弾兵総監部

テレーゼ皇女の護衛に向かったオフレッサーの部下から、テレーゼ皇女が暗殺未遂に遭ったと連絡が入ると、総監部では緊迫感と共に、直ぐさま犯人を八つ裂きにしろという物騒な叫び声が聞こえ始めた。その後、憲兵隊総監グリンメルスハウゼン上級大将からの連絡で、ノイエ・サンスーシでも異変が起こって、近衛の叛乱、皇帝陛下と皇太子殿下の安否不明の連絡に皇太子は別にだが、皇帝陛下をお守りしろと、幹部達も情報収集に動き出したのである。

午前10時27分にはテレーゼ自ら、ライムバッハー装甲擲弾兵総監に連絡をしてきた。ライムバッハー上級大将は驚くと共に、殿下の無事を知りホッとする。

「殿下、ご無事で何よりです」
「オフレッサーのお陰でこうして生きている。それより、ノイエ・サンスーシで近衛が叛乱を起こした、父上や兄上の安否が判らん、其処で銀河帝国第三皇女テレーゼ・フォン・ゴールデンバウムとして、卿に命ずる。装甲擲弾兵を持ってノイエ・サンスーシを包囲せよ、更に近衛の叛乱を鎮圧せよ。父上と兄上を救助するためなら、建物の破壊も仕方なし、更に無理な願いだが、関係のない女官や職員達を出来うる限り殺されぬようにして欲しい、責任は全て私が取ります」

「殿下、その様な事、後で殿下に咎があるやも知れません」
心配して、ライムバッハーは聞いてしまう」
「卿等の命を預かるのです。公人として命じる以上、責任を取るのが当たり前ですから」

皇女の普段と全く違う真剣さにライムバッハーも息を呑んで承諾する。
「御意。必ずや叛乱を鎮圧し陛下と殿下をお守り致します」
テレーゼ自身、母を助けてくれと言いたいのだが、皇帝代理として公人である以上優先順位を付けざるをえないのが、悔しいのであったが。

公人として、行く以上、責任を取るのが当たり前、その言葉が責任逃ればかりする腐れ貴族しか見てこなかった、ライムバッハーや幹部達、そして戦艦に乗り込んだ者達の心に響く。皆が皆感動し、殿下のために一肌脱ごうと心に決めるのであった。

士官学校を卒業して、大貴族初の装甲擲弾兵として任官した、アルフレット・フォン・ランズベルク伯爵は、遠洋航海に行かずに装甲擲弾兵見習いとして、ライムバッハーの副官見習いをしていたが、テレーゼの宣言を聞き感動に包まれていた。

「おお、テレーゼ殿下、このランズベルク伯アルフレット、感嘆の極みでございます。殿下のご意志を受け、この身を粉にしても皇帝陛下をお助け致しますぞ」
直ぐさま救援のために出撃するという中でのランズベルク伯の言葉を、相変わらずだという顔で幹部連中は見ていたが、その後のランズベルク伯に話を聞いて全員が喜んだのである。

「ランズベルク少尉、感動してないで直ぐさま非常招集を・・」
「閣下、直ぐにでも宮殿に向かいませんと」
「少尉、普段と違い、近衛が居るのだ、そう簡単に宮殿まではいけんぞ!」

現実を見ていないのかと、ライムバッハーも苛ついてくる。
「いえ、宮殿へ誰にも知られずに行けるのです」
「なんだと?」

「此は極秘だったのですが、我が家の先祖が、時の皇帝フリードリヒ3世陛下より、宮殿からの抜け道建築を命じられたのです、ノイエ・サンスーシの地下には迷宮が作られています」
「それは、本当なのか?」

「はい、歴代のランズベルク伯爵当主と皇帝陛下しか知らない事でございます」
「しかし、良いのか、その様な大事を我々に知らせて、卿が罰せられるのでないか?」

ランズベルク伯は、ライムバッハーの言葉に少しも動じることなく答える。
「我ら門閥貴族は皇帝陛下より、海よりも深く山よりも高い恩顧を受け今日まで生きて参りました、その御恩を頂いた皇帝陛下の危機に自らの身の安全を図るなど考えられない事でございます」

ランズベルク伯の真剣な目に普段のヘボ詩人の姿は見えず、一介の武人の姿が有ったのである。
「判った、潜入計画を立てるぞ、少尉案内してくれるな」
「無論です、小官の命、閣下にお預け致します」

「うむ」
その言葉により早急に潜入計画が練られ始めた、時間がないので移動中の装甲兵員指揮車からであったが、陛下を御助けするの一念で装甲擲弾兵は皆、テレーゼ殿下のご無事を喜び、皇帝陛下ご無事でと祈るのであったが、此処でも影の薄い皇太子は忘れ去られていた。



帝国暦483年8月5日 午前10時〜

■オーディン リッテンハイム侯爵荘園競馬場

決闘を見に来ていた貴族達が唖然とする中、テレーゼの命令により、テレーゼ側のSPに守られて邸宅へ帰宅する姉クリスティーネ皇女以外、誰1人逃げ出す事が出来ずに、SP達により一カ所に集められ、身元の確認と身体検査、所持品検査が行われていく。

無論、反抗する者、反論する者や顔を隠して身分を判らなくしていた者も居たが、それすら皇女命令の錦の御旗により、黙らせられていく。ラインハルト達も検査の対象になったが、不味い事にキルヒアイスが、ラインハルトの危機の際に使おうと思っていた小型ブラスターを懐に隠して居た事が判明したのである。

「所持品検査をお願い致します」
「判りましたわ、貴方たちも協力しないとダメよ」
男爵夫人も私人としてのテレーゼではなく、公人としてその場を差配しているテレーゼ皇女の発した命令に従い、自分を含み、ラインハルト達にも所持品検査を受けるように宥めた。

ラインハルトは、姉上に恥をかかせるわけにはいかないと、仕方が無しに検査を受けているが、キルヒアイスは中々検査を受けようとはしない。

「キルヒアイスどうしたのだ?」
「何でもありません」
普段なら、『何でもありません、ラインハルト様』というのにもかかわらず、突き放したように話すキルヒアイスにラインハルトは違和感を覚えた。

「どうしのだ?お前らしくないぞ」
「さあさあ、キルヒアイス男爵もお見せなさい」
男爵夫人も公人としてキルヒアイスをせき立てる。

SPが集まりだしてきた為に、等々観念したのか、キルヒアイスが身体検査を受けた。
「申し訳ありませんが、此も任務ですので」
サングラスのSP達が、高圧的な態度を取ることなく、すまなそうに挨拶してから、所持品と身体検査を行い始める。ジャケットの懐を探っていたSPが小型ブラスターを発見した。

途端に緊張が走り、キルヒアイスが両手を捕まれた。
ラインハルト、男爵夫人の前で、キルヒアイスの懐から小型ブラスターが没取されたのである。
「申し訳ないが、此は何ですかな」

「護身用のブラスターです」
キルヒアイスが説明するが、隊長らしき男が質問をしてくる。
「護身用と言っても、此処は神聖な決闘の場所です。其処に無粋な武器を持ち込む事態が可笑しいのではありませんか?殿下の暗殺を計ろうとしたのではないのですか?」

隊長の言葉尻は丁寧だが緊迫感が在り在りと判る冷静な口調で尋問し始める。
「そんな事は有りません」

男爵夫人は何故ジークが迂闊にもブラスターを持ち込んだ事を、驚きこのままでは大変な事に成ると心配していた。後ろ手に手を捕まれているキルヒアイスを助けたいが、姉上の事が気になり動けないラインハルト。

「正直に言っていただかないと、シェーンヴァルト男爵も暗殺未遂の不敬罪犯として連行いたすが」
アンネローゼ様に迷惑をかけられない、更にラインハルト様にも同じだ、そう思い自分の浅はかな考えを言い、キルヒアイスは、2人に罪がかからないようにする事にした。

「実は、自分が勝手に考えた事ですが、シェーンヴァルト男爵が、決闘で危ないときに、加勢しようとしてブラスターを所持していました」
その言葉を聞いて、ラインハルトはキルヒアイス、俺のためか?しかし俺はそんなに頼りないのかと考えて居た。

男爵夫人はなんて馬鹿な事をとジークの未だ未だ幼い考え方を憂いていた、そしてアンネローゼにどう言ったら良いのかを悩み始めていた。

隊長以下がキルヒアイスの答えに憤慨し始めた。
「嘘を言うのならもう少し捻った嘘をつくものだ」
「嘘ではありません、神聖な決闘ですが、シェーンヴァルト男爵の腕の未熟さを憂いたのです」

キルヒアイスもアンネローゼとラインハルトを守る為には、多少ラインハルトを貶しても守るためと割り切ったが、言われたラインハルトにして見れば、面白くない状態である。

隊長が何か言おうとしたが、其処へ1人の中佐が現れ、キルヒアイスに話しかけて来た。
「キルヒアイス少佐、卿は心配性過ぎたな」
「貴方は」

話しかけて来たのは、ラインハルトに火薬式拳銃の撃ち方をレクチャーしてくれた、ルッツ中佐であった。

「ルッツ中佐何故此処に?」
隊長達が慌ててルッツに敬礼を行っている。
「いやな。弟子の晴れ舞台を見に来ないわけにはいかんからな」

ルッツの言葉に緊張感のあったこの場所に若干の安堵感が流れる。
「中佐殿、キルヒアイス少佐は、どうなさいますか?」
「うむ、少佐の言って居る事は本当だな、しかし少佐、余りにも迂闊だぞ、気を付ける事だ」

「申し訳ありません、中佐殿」
「ああ」
「中佐殿、キルヒアイス男爵の処遇は?」

「普通に武器を預からして貰って、他の連中と一緒に暫く禁足で待って貰うことにしろ」
「はっ」
キルヒアイスとラインハルトにしてみれば、ルッツがここに来たのも不思議であるが、何故SPにテキパキと指示を出せるのかも不思議であった。

実際にレクチャーを受けた後で、ラインハルトの野望のために人材を調べているキルヒアイスは、ルッツ中佐の所属や経歴を調べて居たのであるが、皇女の侍従武官であるとの記述はものの見事に記載されておらず、優秀な人材であるとしか判らなかったのである。此もテレーゼの差配によるもので有ると悟らせない為であった。

「ルッツ中佐、キルヒアイスを助けて頂き、申し訳ない」
ラインハルトもお礼を言っているつもりなのだろうが、些か敬語が成っていない。
「気にせんで良いよ。此も仕事の一環だ」

ルッツの言葉に2人の顔に疑問が起こる。
「今、小官は皇女殿下の侍従武官をしていてな」
その答えに、2人の顔色が変わった。

ラインハルトは、あの小娘に優秀な人材を奪われたという感覚と、小娘のお陰でキルヒアイスが助かるのかという複雑な心境が蠢いていた。

キルヒアイスは、自分の浅はかな対応を、ルッツ中佐によりすくわれた事と、その様な事をして、ルッツ中佐が咎めを受けないかと心配をしていた。此処がキルヒアイスの優しい所で美点であり、命取りになりかねない欠点でもある。

「ルッツ中佐、小官を開放して中佐の責任にお成りになるのでは?」
「心配して貰って恐縮だが、此は殿下もご承知の事でな。大丈夫だ」
「殿下が・・・」

殿下が承知の言葉にラインハルトはあからさまにいやそうな顔をし、男爵夫人は流石テレーゼと安堵し、キルヒアイスは、感謝の念を抱いた。

ルッツ自身はテレーゼが忙しい中、キルヒアイスを許すようにと命じられたために動いたのであるが、銃訓練時にあったとき、為人も確認済みであったため、暗殺犯などでは無いと確信したのである。


身元確認、身体検査、所持品検査の進む中、オフレッサーの傷の手当てが行われた。

「オフレッサー、傷は痛むか?」
「かすり傷でございます」

手当を終えていたオフレッサーだが、防刃着により威力の劣った鉛玉はオフレッサーの鍛え上げた筋肉に多少の傷を負わせてはいたが、殆ど害をなしていなかったのであるが、此から降下してくる戦艦なら軍医も居るので、見て貰おうと思いテレーゼが声をかけたのである。



帝国暦483年8月5日 午前10時40分

■オーディン リッテンハイム侯爵荘園

ミッターマイヤーからの命令でテレーゼ皇女をお迎えに上がる役目を受けたドロイゼンは超緊張しながら細心に細心を計りながら、リッテンハイム侯爵荘園の湖に戦艦トレプトウを見事に着水させると、直ぐさま装甲擲弾兵と共に競馬場へと進んだ。

競馬場では、取り調べが終わった者も未だの者も、上空から降下してくる戦艦に驚いていた。

暫くすると、兵員装甲車がSPの先導で馬場に乗り込んで来て、装甲擲弾兵と共に若い中佐が降り、テレーゼの元へSPにより案内されてきた。テレーゼの前で中佐は片膝をつき頭を垂れて挨拶を行う。

「お待たせ致しました。皇女殿下、小官はヨハン・グスタフ・ドロイゼン中佐であります」
「御苦労、ドロイゼン、頼むぞ」
「御意」

皇女の凛とした声にドロイゼンは身が引き締まる思いがした。
「皆、早速、軍事宇宙港まで行く」
テレーゼの言葉に此処に残り事後処理を行うSP達を除く者達が戦艦へと向かい始める。

「ヴェストパーレ男爵夫人、シェーンヴァルト男爵とキルヒアイス男爵をお願いします」
普段のおどけた風を見せない、テレーゼの冷静な口調に男爵夫人は只単に、承諾の言葉を発するだけであった。
「殿下、承知いたしました」

その言葉が終わると、オフレッサーに守られたテレーゼは装甲兵員車に乗り込み戦艦へと向かっていった。リッテンハイム侯、ヘルクスハイマー伯も屈強な装甲擲弾兵に両脇を抱えられながら、戦艦へと連行されていった。その後、テレーゼ達が去った後でも競馬場に居た者達の拘束が解かれる事はなく、事件の全容を知るのは翌日になるのであった。

 
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