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動く瘤

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第二章

「それで魚はね」
「魚は?」
「そう、魚もあるから」
 池山の好物のそれが出るというのだ。
「それも日本にはいない魚だよ」
「ピラニアはアマゾンですよね」
「ああ、アフリカにはあそこまで怖い魚はいないからね」 
 この辺りアマゾンとは違う。
「それは安心していいよ」
「そうですか」
「けれど変わった魚だよ」
 日本にはいない、そうだというのだ。
「これは珍しいっていうね」
「どんな魚ですか?」
「それは見てのお楽しみだよ」
 プロデューサーはその魚が何かは今は言わなかった。そうしてだった。
 料理をする前に池山に水槽の中のその魚を見せる。それはというと。
 背中は黒く腹は白い。鰻の様だがさらにずんぐりとしている。鰭の付け根の辺りから細長い触覚に似たものが一対ずつ生えている。池山は首を捻ってこう言った。
「何ですか、この魚」
「肺魚だよ」
 プロデューサーは笑ってその魚の名前を言った。
「これはね」
「肺魚?」
「アフリカとか東南アジアとか熱帯にいる魚でね」
「そうなんですか」
「うん。乾季になると泥の中に潜ってそれをやり過ごす魚なんだ」
「また変わった魚ですね」
「独特だね。それでここではね」 
 プロデューサーの話は本題に入る。
「ここの人達はこの魚も食べるんだよ」
「鰻みたいにしてですか」
「蒲焼にはしないけれどね」
 日本独自の食べ方はなかった。当然と言えば当然であるが。
「焼いて食べるよ」
「ああ、切って」
「生では食べない方がいいだろうね」
 プロデューサーはここでこうも言った。
「やっぱりね」
「ああ、そうですねそれは」
「まあ食べてみよう」  
 プロデューサーは笑顔でまた言った。
「この肺魚もね」
「とにかく生では食べないんですね」
「川魚だしね」
 プロデューサーもわかっていた。魚の恐さを。
「よく熱さないとね」
「虫ですね」
「虫は恐いよ」
 プロデューサーはこれまでとは違い真剣な面持ちになって言う。
「烏賊もそうじゃない。アニサキス」
「海にいてもですからね」
「川のはもっと恐いし熱帯だから」
 熱帯の虫は他の気候のものよりも種類も数も多くそしてその性質も人間にとって悪質だ。それでだというのである。
「用心しよう」
「じゃあ」
 こうしてだった。彼等はその肺魚を生で食べることなくよく熱して食べた。彼等にとっては真面目にそうした。
 池山はレスラーであり巨大な体格を持っているので他の誰よりも食べた。その肺魚も他のメンバー達と比べて三倍は食べた。その後でこう言った。
「味は」
「まずかったですね」
「肺魚は」
「うん、外見がよくない魚って美味いっていうけれど」
「肺魚は外れでしたね」
「どうにもなりませんでしたね」
「もう二度と食べないよ」
 池山は苦笑いと共に言った。
「これはね」
「うん、企画でもね」
 当然プロデューサーも食べた。それで言うのだった。
「もう肺魚はね」
「ええ、勘弁して下さい」
「結局食べるものがないとね」
 野生の中では食べるものも常に手に入るとは限らない。それでなのだ。 
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