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魔法少女リリカルなのは ~最強のお人好しと黒き羽~

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第四十三話 また会うために

 家族が増えた。

 未だ目覚めない姉さんにフェイトのことを紹介したところで、俺はようやく自分に義理とはいえ妹ができたのだと実感した。

 さて、妹ができたからには、俺は兄貴らしく立派な姿を見せないといけないだろう。

 妹に嫌われない兄。

 妹に好かれる兄。

 そんな存在になれるよう、まずは妹のお願いごとにはなるべく応えるようにしたい。

「明日、私とデートして欲しんだけど……い、いい、かな?」

 緊張と不安が入り混じった表情で願ったフェイトに、俺は断ると言う選択肢はなかった。

 即答でOKし、翌日となった本日、フェイトとデートをすることになった。

 待ち合わせ時間より一時間ほど早く到着したのは、海鳴公園の時計塔の真下。

 ここの地理に詳しいわけじゃないフェイトの代わりに俺が用意した待ち合わせ場所だ。

 人通りが多いわけじゃないし、広い公園の中で一番目立つものだ。

 まぁデバイスがルート案内をしてくれるだろうから、街中でもいいのだが、せっかくデートと言われたのだから場所にはこだわりたい。

 とはいえ、デートなんてしたことのない俺が選べたのは、普段からランニングでよく使っていた公園の目立つ場所ってだけ。

 これでいいのだろうかと思ったが、アマネが問題ないと言ってくれたので安心した。

 待ち合わせ場所はアマネも考えに参加してくれたけど、そのあとは俺一人で考えろと言われたので、朝日が昇るまで考え続けた。

 おかげさまでほとんど寝てない、眠い。

 一応、三ヶ所ほど目的地を決めることができたが、あとはぶっつけ本番だ。

 本当は下見をするべきだったのだが、昨日の今日でそんな時間もない。

 普段から外出し、見識を広めるのが大事だと姉さんが言っていたが、今ならその意味がわかる気がする。

 戦いや捜査のみならず、プライベートでも必要になってくるものだとは思わなかった。

 そう考えるとデートと言うのは奥が深い。

 自分好みの場所ならばいくらでも思いつくが、そこで相手が喜ぶとは限らない。

 俺なんかで言えば森の中とかこういう公園がそれに当たるわけだが、森の中を女の子と歩いて、果たしてそれをデートと言えるだろうか?

 というか女子で虫嫌いが多いわけだし、フェイトがどうかは知らないけど、そういう危険もあるのに行こうとは思わない。

 公園は……二人で何をすればいいのか分からない。

 いや、森も分からないけど、公園も正直よくわからない。

 遊具で遊ぶ……のは絵的にキツイ。

 バドミントンとかやるか?

 フェイトがどんな服装でくるか想像できないのでそれも避けたほうがいいだろう。

 もしミニスカートだったり運動に不向きな靴だったらと思うと、やっぱり避けたい。

 ――――なんて、相手の色んなことを気にしながらプランを立てるのがデートだと知った。

 そして、こういうことを積み重ねて異性は関係を深め、いつかは結婚するのだろう。

「難しいな……」

「何が?」

 デートの難しさ、結婚までの遠さを実感していると、俺の目の前に立つ一人の少女がいた。

「あ、フェイト?」

「ごめん、待った?」

 黒の半袖ワイシャツに白のショーツに黒い紐でツインテールを作ったその子は、なんかいつもより可愛らしく感じた。

 これはデートの雰囲気がそうさせているのだろうか?

「……どうしたの?」

「あ、ああ……ごめん。 服、似合ってるよ」

「ホント!?」

「ああ。 良く似合ってる」

「ふふ、嬉しいなぁ」

 その言葉通り、フェイトの頬は緩みきり、今にもスキップを始めそうなほどウキウキしてるように俺も微笑ましい気分になる。

「さて、それじゃ行こうか?」

「うん!」

 嬉しそうな勢いそのまま、フェイトは俺の右腕に抱きついて歩き出す。

 この絵は兄妹と言うより、恋人っぽいけれどフェイトはそれでいいのだろうか?

 なんて、それを聞くのはきっと野暮なのだろう。

 それに俺自身、こうして可愛い妹と仲良くしているのは嬉しい。

 だから今はただただ、この貴重な時間を心ゆくまで楽しもう。

 そう思いながら、俺とフェイトは他愛もない話しをしながら海鳴の街に出た。


*****


 ――――そんな二人の後をつける三人の少女がいた。

 高町 なのは、逢沢 雪鳴、逢沢 柚那の三名である。

 三名とも、今日が黒鐘とフェイトのデート日であると(なぜか)知っており、こうして二人が楽しそうに会話をしながら歩く姿にこれでもかと言うほど嫉妬していた。

「「「いいなぁ」」」

 三人とも、抱く感想は全く同じだった。

 思えば知り合ってから、再会してからというもの、黒鐘はジュエルシードの件やフェイトの件が原因で気を抜く時間なんてほとんどなかった。

 みんなを心配させまいと笑顔を振りまいたりしていたが、彼を取り巻く環境は彼を戦場へ導いてばかりで、三人の中で特に印象的だったのはやはりイル・スフォルトゥーナとの最終決戦だろう。

 ボロボロになっても立ち向かう最愛の少年の姿に、彼女たちは心を痛めた。

 いっそ、死を迎えてでも楽になって欲しいとすら思ったほどに、彼の姿を見るのは辛かった。

 そんな戦いが終わり、ようやく訪れた平穏。

 そこで今、彼がフェイトに向けている笑顔は、明らかに今まで見せてきたものとは違って、力みがなく、意識的なものがなく、ただただ自然に出した彼の素の笑顔だった。

 ――――ちなみに普段の彼なら、この三名のストー……ではなく尾行にも気づいているのだが、今日に限ってはそういうのも忘れるほど楽に過ごしている。

 それを見て少女たちがキュンとしたのはさて置き、そんな笑顔を向けてもらえてるフェイト・テスタロッサが羨ましくてしょうがないのだ。

 自分にもその笑顔をぶつけて欲しい。

 そんな独占欲が三人の心の大半を占め、しかし僅かに残された理性がそれを堪えさせていた。

 そう。

 黒鐘とフェイトのデートには、ちゃんとした理由があるのだ。

 それを知っている三人だからこそ介入せず、二人の笑顔を遠くから見つめていた。

 二人とも、苛烈な日々を過ごしていた者同士だ。

 二人とも、親を失い、居場所を失い、互いの目的のために争ったこともある。

 そんな二人が手を取り合い、こうして義兄妹になって仲良く歩いている。

 それを見て、憧れ以上に平和になったことが嬉しかった。

 自分たちもそのために戦っていた日々がある。

 それらが全て、この瞬間のためにあったと思えば、今までの苦痛も少しは報われるだろう。

 そう思いながら二人の後をつけ、そしてやっぱり思ったのは、

「「「いいなぁ~!!」」」

 そんな幸せな日常に入り込めない、二人のイチャイチャ空間への嫉妬だった。


*****


 歩いて最初に到着したのは、潮風が気持ちいい海岸だった。

 テトラポットに波がぶつかった音が癒しなのと、ここにはちょっとした思い出があったから訪れたのだ。

「ここ、俺が始めてなのはと出会った場所なんだ」

「あの子と?」

「ああ。 フェイトと仲良くしたがってた茶髪の子……まだ、アイツが魔法に目覚める前のことなんだけどな」

 波打ち際を歩きながら、俺はなのはとの出会いから今に至るまでを話した。

 最初は苗字で呼んでいたこと。

 ジュエルシードを最初に発見して、一緒に探したいとお願いしたこと。

 なのはの実家で一緒に夕飯を食べたこと。

 思い出せば案外、短い期間なのに色々な出来事があったものだと感心する。

 地球で最初に仲良くなった相手も、そう言えばなのはだ。

 アイツがいたから、すずかとアリサとも知り合えた。

 改めて思えば、なのはとの出会いが全ての始まりだったかもしれない。

 この場所で叫び続けていた少女の姿は、今でも昨日のことのように鮮明に思い出せる。

「むぅ……」

「ん、どうした?」

 懐かしいことを思い出しながら語っていると、俺の右腕を抱きしめる力強くなり、そちらに視線を移すと膨れっ面でこちらを睨むフェイトがいた。

 いやまぁ、右腕に抱きついてるのがフェイトなんだからそりゃそうなんだが、なぜか怒ってる雰囲気なので驚いてしまった。

「あの子の事、詳しいんだね」

「え? ……まぁ、ジュエルシードの件では、一番長く一緒に関わってきた相手だしな。 俺が魔法を教えたのもあるし、ある意味一番弟子というか」

「弟子?」

「ああ。 ……なんか変か?」

「……あ、あはは」

「え?」

 突如、何かを悟ったように乾いた笑みをこぼすフェイトに、俺は頭に疑問符を浮かべる。

「お兄ちゃんのそういう所、嫌いじゃないけど……」

「どういうことだよ、嬉しくないぞ」

「う~ん……私が言うのは、ちょっと違う気がするし」

 と、フェイトは俺のわからない何かを理解した上で、しかし言葉にしていいのか悩んでいるようで、額にしわを寄せて唸っていた。

 そんな仕草すら可愛らしく見えるのだから、今日の俺はデートに浮かれているのだろう。

「てい」

「あうっ!?」

 左手人差し指でフェイトの額を小突くと、可愛らしい悲鳴を上げて右手で突かれた部分を撫でた。

 それでも左腕だけは俺の右腕を離さず抱きしめているのだから、この状態を気に入っているのだろう。

「今日はデートなんだろ? そんなに考え込んじゃもったいないぞ?」

 今日は悩むのは少なめにして、目の前の時間を楽しみたい。

 それを望んだのはフェイトで、そして俺もそれを望んだ。

 ならば考えるのは懐かしい思い出だけでいいはずだ。

 小難しいことは、デートが終わってからでも遅くはないだろう。

「うん!」

 フェイトは再び笑顔で両手で俺の右腕を抱きしめ、引っ張るように小走りを始めた。

「おお、ちょっ!?」

「えへへ。 次はどこに行くの?」

 無邪気な笑顔が、打ち上がった水飛沫と太陽の光に反射して、宝石のようにキラキラと輝く。

 そのあまりの美しさは、写真に収めたいと思ってしまうほどで、見惚れて、そして思った。

 ようやくここで、俺の中でジュエルシード事件が終わったのだと。

 フェイトが笑って過ごせる日が来た。

 そのために、必死になった。

 時には本当に死にかけた戦いもある。

 フェイトと戦ったこともある。

 救えなかった人もいる。

 俺は、自分のしたことが正しかったのか、正直よくわからなかった。

 そういう意味では、俺の中ではまだジュエルシード事件が終わってなかったんだ。

 だけど、フェイトのこの笑顔が見れたら、納得した。

 終わったんだ。

 全部、終わったんだ。

 正しいとか、間違ってるとか、そんなものは全て後付けで、今はわからなくても、いつかわかる時が来るのだろう。

 そして今分かるのは、この事件は終わったってこと。

「……ははっ」

「お兄ちゃん……泣いてるの?」

「え?」

 フェイトが俺の顔を覗き込みながらそう言って、左手で頬を触ると、そこには海水とは違う、汗とは違う、少し熱を帯びた液体が流れてるのに気づく。

 これは……涙?

「え……俺、なん、で……」

「お兄ちゃん……」

 左手で必死に拭うけど、止まらない。

 不思議だ。

 こんなに泣いたのは久しぶりで、しかも、嫌な気がしない。

 清々しい涙を、どう止めればいいのか分からず、だけど

「大丈夫……大丈夫、だから」

「ホント?」

「ああ。 これは別に、嫌な涙じゃないから」

 そう言って、俺は涙ながらに笑みを見せる。

 それは作り笑いじゃない。

 心の底から出した、俺の素直な感情だ。

 ならばきっとこの涙は、嬉し涙だ。

 俺は左手で、必死になって救った少女の頭を撫でながら、その瞳を見つめる。

「よかった。 君が、笑顔になって」

「……うん。 私を助けてくれてありがとう、お兄ちゃん」

「……ああ」

 互いに思いの丈をぶつけ、そして笑い合う。

 さて、終止符はちゃんと打った。

 これ以上は、ホントにデートなんて雰囲気じゃなくなる。

 涙は止まった。

 そろそろ行こう。

「さて、飯でも食いに行くか」

「うん!」

 もう一度、俺たちは歩き出す。

 今度は新しい一歩を、しっかりと心に刻みつけながら。


*****


 二ヶ所目は喫茶店・翠屋。

 そう、なのはの実家だ。

 洋菓子もそうだが、ここは主食も普通に提供されている。

 数は少ないが、それでも充分にお腹が膨れるものが食べられる。

 雰囲気もいいし、海鳴じゃ人気の店だ。

 デートにはピッタリだろうと思いながらそこで食事を取っていると、なのはの母こと桃子さんが嬉しそうな表情で紅茶をサービスしてくれた。

 小さな気遣いだけど、十二分に嬉しかった。

 流石にフェイトからケーキを一口あ~んされた時は恥ずかしさで倒れそうだったが。

 食べましたけどね!?

 なんだったら俺の方からもあ~んをやりましたけどね!?

 周りからの暖かい眼差しがなんとも言えない時間でしたよ!?

 なんてことを終えた俺達が最後に向かったのは、少し山道を登った先にある無人の神社だ。

 小さな山の頂上とはいえ、そこからみた海鳴の景色はとても綺麗だ。

 それを見に行くのもデートの醍醐味だろう。

 そしてここは、俺とフェイトの思い出の場所でもある。

「ここで、私とお兄ちゃんは戦ったんだよね」

「ああ。 出会ったのは、街中でちょっとぶつかった時だけどな」

 そう。

 ここは俺とフェイトが、まだお互いの事も知らなかった時、ただ敵だと判断して戦った場所だ。

 あの時から、気づけば今日まで色々あったなと、また思い出してしまう。

「今度、アルフも連れて一緒に来ような」

「うん。 あと、お姉さんも一緒に」

「ああ。 きっと、姉さんも喜ぶよ」

 今日は気を使って俺たちだけにしてくれたが、今度は四人でこの場所を訪れよう。

 そしてまた、語らい合おう。

 今度はきっと、今より楽しい時間になる。

 今より明日。

 明日より明後日。

 未来はきっと、現在より楽しい時間になるって自信があるから。

 そのためには、

「フェイト」

「何?」

「今日、俺をデートに誘ったってことは、しばらく会えなくなるってことだろ?」

 ちゃんと、終わらせることは全部終わらせなきゃな。

「……お兄ちゃんは、すごいね。 私の考えてること、いつも全部分かってる」

「フェイトがわかりやすいだけだよ」

「酷い」

「ごめんごめん」

 表情一つ変えず、俺たちはそんな他愛もない会話を交わし、少しだけ沈黙した。

 どちらから言葉を紡げばいいのか、ちょっとだけ戸惑ってしまったんだ。

 それでも、先に口を開いたのはフェイトだった。

「クロノから連絡があって、今日、アルフと一緒に管理局に戻るんだ」

「そうか」

 それは恐らく、ジュエルシード事件に関しての裁判に出頭するようにと言う命令が来たのだろう。

 首謀者のプレシアは行方不明となり、重要参考人はフェイトとアルフだけだからな。

 そして俺は長期休暇扱いで、書類上では事件に直接的な介入はしていない扱いになっている。

 つまり、俺とフェイトはここからしばらくの間、会えなくなるわけだ。

 そんな日が来るのが分かっていた。

「裁判、いつからだ?」

「来月くらい」

「そっか」

「でも、裁判自体はすぐ終わるみたいで、終わったら私……アルフと一緒に管理局の嘱託魔導師登録をしようと思うの」

「なんでまた?」

「私は今回の事件で迷惑をかけたから。 今度は、役に立てることがしたいの」

「……そっか」

 それは、俺が一度も相談されなかったフェイトの未来。

 兄になったのだから、一度くらいは相談して欲しいものだと思ったが、それはそれで俺に甘えすぎなのだろう。
 
 自分の生き方は自分で決める。

 フェイトはそれを実行している。

 ならばそれをさみしいとは思わず、兄として喜ぶべきだろう。

「フェイト、頑張れよ」

 俺はその場でフェイトのことをギュッと抱きしめ、右手で頭を撫でる。

「……うん、お兄ちゃん」

 最初は驚きつつも、最後は緊張は抜け、感情が赴くがままに抱きしめ返してくれた。

 事件の最中はこうして抱きしめると、ほんの少しだけ、フェイトは遠慮がちに体を固くしていた。

 それは無意識なのだろう。

 まぁ年頃の女の子が異性に抱きつかれれば、そりゃ当然の反応とも言えるけど、親の愛情をほとんど与えてもらえなかった少女は、他者から与えられる愛情に混乱して、どう受け止めればいいのか分からなかったのだろう。

 だけど、こうして少しだけ、フェイトは変わっている。

 俺は兄として、それを心の底から喜ばしく思う。

 そして同時に、いつか、どうしようもなく不可能な奇跡が叶ったとしたら、あなた方に伝えたい。

 プレシア。

 リニス。

 そして、アリシア。

 あなた方がこの世界に残してくれた少女は、自分の道を、自分の足で歩き出しています。

 そしてその隣には、たくさんの友達の、たくさんの笑顔に溢れていて、

「さて、そろそろ時間だろ?」

「うん。 名残惜しいけど、行かなきゃ」

「大丈夫。 帰ってきたら、また一緒にデートをしよう。 約束するよ」

「うん!」

 そんな幸せに溢れた世界で、フェイトも幸せですよ――――。
 
 

 
後書き
さて、そんなわけでリリカルなのはの原作のほぼラストの、なのはとフェイトの別れのシーンの少し前のお話を描きました。

なので本編は以上となります。

次回はエピローグとなり、ようやく無印編が終わります。

下手な作りで投稿も遅い作品を、最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました。

次回のラストが残されていますが、先に感謝の言葉を述べさせていただきます。

本当に、ありがとうございました! 
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