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キズナ

作者:shoogel
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森の秘密

 
前書き
キズナにログインしたサクマ。
サクマは熟練度上げのために歩いていく。 

 
黄色い光が視界を包み俺は仮想世界へとログインした。

「よしっと!じゃあ熟練度上げでもするかな〜!」

俺は昨日ログアウトした場所から離れ、そこらの雑魚を倒しながら歩いて行く。
すると森らしき生い茂った木々の塊が視界に入って来た。

「ん…?森か?」

森といえばRPGの醍醐味、やはりマップの広さである。
RPGあるあるでは、意外と森には隠しアイテムなどがある。
俺はゲーマー魂が奮い立つのを感じた。

「くぅ〜堪んねえなぁ!!よっしゃあ行くぜ!」

俺は浮き足立つ足を気持ちで抑えつつ、森へと足を運んだ。
森なんて現実でも小学校で行ったのが最後だろうか。
虫取り以外の理由で訪れたこともないほど、ほぼ俺には無縁の場所だ。
しかしゲームでは無縁ではない。
レベリングもできるし、マッピングもできるし楽しいばかりだ。

俺は森に入るとマップを広げた。
どうやらマップは初期アイテムとして入っていたようだ。

「ふむふむ。このマップを起動しながら進むとマッピングされて行くわけだな」

俺はマップを起動させると、そのままストレージに納める。

「よし、気を引き締めていくか」

森に入るとすぐにモンスターが現われ熟練度上げには最適な場所だった。
相手の平均levelは2~3程度であり、手ごたえもあり非常に楽しい。
ただあまり女性のプレイヤーは近づくことはお勧めはできない。

「まあ予想はしてたけど、虫型のモンスター多いよなぁ⋯」

俺がそう呟いた通り、見渡す限り虫、虫、虫。

正直気持ち悪い。
俺がさっきから倒していた【フォーモス】という幼虫のモンスターが地面、木、葉の裏など至る所に潜んでいる。
まあ強くはないし、攻撃力も低いが、切り裂いたときに独特な声で鳴くのが余計に気持ち悪い。

「なんか思い出したら鳥肌が立ってきた⋯」

俺は思い出したことを後悔しながら歩みを進めていく。

俺はメニューを開き時刻を確認する。

「あ、もう森に入って一時間経つのか。そろそろ森から出てカレンを待つか」

俺が引き返そうと後ろに振り替えると俺は異常なことに気づいてしまった。

「何処だここ?」

俺の視界に入ったのは今まで歩いていた森ではなかった。
白い霧が木々を覆いさっきまでいたフォーモスの姿すらない。

俺は慌ててマップを広げる。
しかしそこに表記されたのは《現在地不明》というものだった。

そして俺はマップの左上に表記されている森の名前を見て、息をのんだ。

「《ambivalence forest》⋯」

つまりここは迷いの森ということだ。
確かにRPGなどではよくある設定だが、実際に体験することになるとは⋯。
状況を理解した俺だが、冷たい風や森のザワザワという音が余計に俺の不安をあおってくる。

「マジかよ⋯。でも動かないとどうしようもないな、歩くか⋯」

俺は無言のまま歩いていく。
もう三十分は経っただろうか、俺は「ふうー⋯」と息を吐くと木の根に腰を掛けた。

「ずっと同じところを歩いてるな⋯」

間違いない。俺はずっと同じ道を歩いている。
最初は疑問に思っていなかったが、流石に違和感を感じたのだ。
証拠として俺がさっきオブジェクト化させて置いておいたオークの皮が目の前に落ちている。

「俺のゲームの知識としてはやはり元凶のモンスターを倒すか、時間ごとにエリアが変わっていくかだと思うんだけどなぁ」

時間はもう19時を回っている。
時間でエリアが変わるとしたら、もう変わってもいいはずだが。
勿論、そんな気配も全然微塵も感じない。

「というか⋯、完全にカレンとの約束を守れそうにないな」

俺はそう言いながらメニュー画面のフレンドを開くとカレン《ログイン》、ユウ《ログイン》
と表記されているのを見て、ため息をついた。

「あー!くそっ!!」

俺は叫びながら俺が腰かけていた木に拳を叩きつけた。
その時だった。

ドクン⋯ドクン⋯ドクン⋯

俺の拳を通じて確かな脈打つような感じが伝わったのだ。

「えっ⋯?」

俺は思わず後退りをしてしまう。

ドクン⋯ドクン⋯ドクン⋯

間違いない。

俺はそれの正体に気づいてしまった。
木なんかじゃない。

俺はそれを確認し腰に付けていたノーマルソード、バックラーを装備した。

「これは蛹か⋯!?」

俺が探していた元凶はすぐそこにいたのだ。
息を潜めてまるで嘲笑うかのように。

俺のゲーマーとしての勘が俺の身体を動かした。

(これが羽化したらヤバイ⋯!!)

俺はがむしゃらにノーマルソードを蛹に打ちつけていく。

ガンガン! ガンガン!

しかし流石に蛹と言ったところか。
鈍い音が辺りに響くだけで蛹のHPは全く削れない。
実際は手が痺れることはないのだが、手が痺れると勘違いするほどの反動が手に伝わってくる。

俺の努力は虚しく俺が想定していた最悪の光景が今まさに始まろうとしていた。

蛹は羽化し———蝶となる。 
 

 
後書き
サクマ「腹くくるしかないな⋯」 
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