| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

辛い愛

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二章

 四人で何とか逃げようとした。しかし家を出た瞬間にだ。
 その家が崩れてしまった。あまりもの揺れで。その崩れ落ちる家にだ。
 家族の最後尾にいた明菜が巻き込まれた。上半身は何とか無事だった。下半身の殆ども。
 しかし右足を挟まれてしまった。足は手首からそうなってしまった。
 その明菜を見てだ。最初に叫んだのは春奈だった。
「明菜、大丈夫!?」
「え、ええ」 
 右足を挟まれてうつ伏せになった姿勢でだ。明菜は駆け寄ってきた姉に答えた。
「大丈夫よ。けれどね」
「右足、挟まれてるね」
 手首のところでそうなっていた。崩れた家の間にだ。
 それで動けなくなっていた。それを見て春奈はすぐにだ。
 傍にあった木の柱、家が崩れてそこから出たそれを崩れた家と家の間、明菜のすぐ傍に挟んでだ。梃子の要領で引き揚げようとした。
 渾身の力でそうしながらだ。彼女はこう妹に言ったのである。
「もう少しだからね」
「助けてくれるの」
「そんなの当たり前じゃない」
 渾身の力を込めている顔でだ。春奈は妹に答えた。
「だって。ずっと言ってるじゃない」
「私がお姉ちゃんの妹だから」
「ええ、だからよ」
「私を助けてくれるの」
「ええ、そう決めているから」
 だからだ。明菜を助けるというのだ。
「そうするからね」
「有り難う。けれど」
「けれどって?」
「足、無理みたい」
 明菜は絶望した顔で春奈に答えた。
「ちょっとね」
「無理って」
「だって。何か凄い崩れてるよね」
「そんなことないから」
 春奈はあくまでこう言って明菜を励ます。
「大丈夫よ。絶対に助けられるから」
「ううん、もうこれはね」
 駄目だとだ。明菜は首を横に振って春奈に言った。
「無理よ。本当に」
「だからそんなことないって」
「わかるから」
 それでだとだ。明菜はここでこう言ったのだった。
「だからね」
「だから?」
「私のことはいいから」
 明菜はこう春奈達に告げた。
「先に逃げて」
「えっ、明菜今何て」
「だから。私運よく火事とかが起こらなくて何もなかったら」
 そうなればだというのだ。
「助かるから。そのうち誰か助けに来てくれるから」
「救助隊の人達が?」
「そう。それで助かるかも知れないから」
 実際はそう思ってはいなかった。姉達を先に行かせる為の方便だった。
 それで言ってだ。姉を何とか行かせようとするのだった。両親達も。
「早く行って」
「そんなの絶対に嫌よ」
 春奈は自分の下で蹲る、足を挟まれたままの明菜にこう言い返した。
「出来る筈ないじゃない。明菜を見捨てて行くなんて」
「けれどまた揺れるかも知れないし」
 この恐怖もあった。周りの家々は夜だがそれでも倒壊しているのがわかる。
 家も壁も電柱までもがだ。無残に倒れている。皆逃げ惑っている。
 そして遠くには赤いものが見える。お父さんとお母さんがそれを見て言った。
「まずいな、火だ」
「ええ、火が出て来たわね」
「今はかなり遠くだがな」
「ひょっとしたら」
「ほら、だからね」
 明菜は両親の火の話を聞いてだ。さらに言ったのだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧