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AL MAGE

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第三章

 何となくだが納得して。そして言った。
「そうなんですか」
「納得されましたか」
「はい」
 こう応えて。それでだった。
 俺はカウンターの席に座った。客は俺以外にも何人かいた。だが他の客には特に顔を向けないで。
 そのうえでカクテルを頼んだ。そしてだった。
 俺はこの日からこの店では少し飲むだけだった。そうなった。
 そんな俺にだ。同僚達はこう問うてきた。
「で、博多まで行くのかい?」
「あの人追いかけるのかい?」
「どうするんだよ」
「そんなことしないさ」
 素っ気無くだ。俺は同僚達に答えた。
「そんなことしても何にもならないしな」
「まあな。ああした人はな」
「結局そうするのも仕事だからな」
「御前もそれわかってて贈りものしたんだろう?」
「それじゃあな」
「終わったさ」 
 失恋だった。言うなら。
 けれど悲しみは感じなかった。寂しさは感じても。それでだった。
 仲間にだ。こう言った。
「ならそれでいいさ。夢は終わったんだよ」
「終わったねえ。あっさりとね」
「相手が消えてそれで終わり」
「それでなんだな」
「そうだよ。完全に終わったよ」
 本当に素っ気無く言った。俺自身にも。
「じゃあまたな」
「また?」
「またって何だ?」
「今日も飲むか」
 あの店で。俺はこうも言った。
「カクテルを一杯な」
「もう貢ぐ相手がいなくてもか」
「それでも行ってか」
「飲むんだな」
「ああ、あの店自体が気に入ってるからな」
 ついでに言えば今の兄ちゃんもだ。そこそこ気に入っている。それに兄ちゃんの作るカクテルもだ。充分過ぎる程美味かった。それで毎日飲むようになっている。
 それに店には。まだ」
 あの人の残り香があった。もう未練はないし追いかけるつもりも会うつもりもない。けれどその残り香、甘くて濃くて癖になってしまいそうな。そんな麻薬みたいな香りの中に入る為に。
 俺は今日もあの店に行くことにした。それでだった。
 周りにだ。こう言った。
「今日も行くさ」
「そうか。それじゃあな」
「これからは健康的に飲めよ」
「恋愛だってな」
「ああ。遊びは終わったよ」
 俺にとってもそうだった。そのことも今わかった。
 それでだった。俺はこうも行った。
「じゃあ今度はな」
「真面目な恋愛だな」
「結婚するんだな」
「大人の遊びの恋愛の後はな」
 次に来るのは何か。それは。
「大人の純粋な恋愛だからな」
「それが結婚か」
「そうなんだな」
「結局そうなんだよ。遊びは何時か終わってな」
 それでだった。その後に来ることが問題だった。
「真剣なことがはじまるんだよ」
 そしてその真剣な恋愛にだ。俺は向かうことにした。相手を見つけることから先でも今度の愛はそうしたものだとわかっていた。そこには退廃はない。
 その代わりに本気と純粋、そして家族があった。俺は今度はそれを見ながら恋愛をすることにした。遊びは終わって残り香が消えたらもう。あの人のことは完全に忘れていることを自分でも察しながら。その恋愛のことを考えていた。残り香はすぐに消えるものだから。


AL MAGE   完


                            2012・2・5 
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