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とある3年4組の卑怯者

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26 回顧

 
前書き
 藤木とリリィらが別荘に行っている間、そのころの笹山さんを描写したいと思います。同時に第11~13話で描写しきれなかった笹山さんの心情もここで補完させていただきます。
 

 
 笹山は菓子作りをしていた。ケーキやクッキー、マドレーヌなど、彼女は菓子作りをするのが好きだった。時々友人を招待してご馳走させる事もあった。この日はたまたま月曜が祝日で休みだったためにマフィンを母と作っていた。
「お母さん、このマフィン友達にも食べさせてあげたいと思うけど、いいかな?」
「ええ、もちろん。誰に食べさせるの?」
 笹山の母は承諾と同時に質問をした。
「まだ決めてないけど・・・」
 笹山は答えた。誰にあげるか迷った。
(城ヶ崎さんとか、さくらさんや穂波さんがいいかな?それとも・・・)
 笹山は頭の中で一人の男子の顔を思い浮かべた。
(藤木君、喜んでくれるかな・・・)
 笹山はえっ、と気づいた。藤木が頭に浮かんで自分でも驚いた。
(藤木君か・・・)
 笹山は藤木の想いに気付いたあの日を思い出した。

 授業中、急に2組の堀内竜一という男子が4組の教室に入り込んだ時、笹山は堀内から嫌がらせを受けていた。その時、一人の男子が助けに入った。それが藤木茂だった。彼は必死で堀内を追い出そうとした。そして皆が加勢して一旦のところ騒ぎは収まった。
 笹山は藤木に感謝した。そのため、授業が終わったとき、藤木に礼をしたのだ。そして、また堀内が因縁をつけて藤木に襲い掛かった。笹山は助けてくれてたのに襲われる藤木を放っておけなかった。さっきのお返しで今度は自分が藤木を守らなければと思い、藤木を蹴りつけようとする堀内の前に立ちふさがった。そして、自分が藤木の身代わりで顔を負傷した。そして、騒ぎが大きくなる中、保健係に保健室まで連れて行って貰った。

 保健室にいる間、笹山はなぜ藤木を守ろうとしたか改めて考えた。それは藤木は自分にとって大切な存在だったからかもしれない。1年生の時初めて会ったときから彼が心配で気の毒に思っていた。藤木の空回りで機嫌を損ねたこともあったが、それでも藤木を見捨てられなかった。いつも卑怯と言われて可哀想に思ってしまうからだったからかもしれない。話を戻す。自分を必死で守ってくれたのに、藤木がやられる光景など痛々しく、そのままにできなかった。だから藤木を守ったのだ。

 3年4組の教室に戻ったときも、自分の家に見舞に来た時も藤木は非常に罪悪感を感じていた。笹山は藤木は悪くないと慰めた。見舞いに来たリリィと城ヶ崎が帰って藤木と二人きりとなった時、藤木から変に思わなかったか聞いてきた。堀内からの嫌がらせを受けた時は気が動転していて何も感じなかったが、以前藤木からケーキの形の消しゴムを貰ったときは嬉しかったと同時になぜリリィが好きなのに自分にもくれたのかが気になった。藤木の「他に好きな人がいる」という答えにえっ、と感じた。
「その人は一年生の時から好きだったんだ。卑怯と呼ばれる僕にもいつも優しくしてくれて、お返しにその人に何かしようと消しゴムをあげたり今日も困っているところを助けようとしたんだ」
 あの藤木の台詞にある「その人」というのが紛れなく自分に当てはまった。
(え?じゃあ、藤木君はずっと私の事が好きだったってことなの・・・?)
 笹山は動揺していた。そして藤木の話の続きを聞いた。藤木は好きだっていうと自分に嫌がられるかもしれないと思っている。そして自分よりも花輪や大野、杉山といった男子が笹山にはお似合いだと言っていた。そして、藤木は泣きながら部屋から出て行ってしまった。
 確かに花輪はお金持ちでかっこいいし、女子からの人気も抜群だ。大野も杉山もスポーツ万能で頼りがいがある。しかし、それでも笹山には絶対という好きな人がいるわけではなかった。誰にでも平等に接しようとする気持ちがあるためである。しかし、笹山にとって一番誰よりも気にかけ、思いやろうとしていた相手は藤木だった。その藤木が自分を好きになっていたのだ。なぜ今まで気づかなかったのか、笹山は藤木に済まなく思っていた。

 藤木は卑怯じゃない。気が弱いのだ。笹山はそう思っていた。だから嫌われるのが怖くて藤木は自分に好きだと言えなかったのだ。「好き」という代わりに自分に何かプレゼントをしたり、(大抵は失敗に終わるが)親切な行為をしようとしていたのだ。さらにリリィが転校してきてから、笹山は藤木がリリィが好きだという事を知ってから勝手にその恋を応援していた。藤木はどちらを取るか思い悩んでいたことを知らずに。

 次の日学校で会ったら藤木を少しでも楽にさせようとした。自分は藤木は優しいところがあるから嫌いではない。むしろ、好きだと知って嬉しかったのだと。しかし、歯医者によって遅刻した自分に多くの友人が心配してきたので藤木に近づくことができなかった。そして、次の休み時間、藤木は堀内と乱闘を起こしていた。笹山は自分を心配してくれ、好いている藤木にこれ以上傷ついてほしくなかった。だから必死で「もうやめて!!」と叫んでしまった。藤木は困惑していたが、堀内はあたかも笹山の味方をしているような発言をした。しかし、事の元凶は堀内だ。そんな人に味方になっても嬉しくはなかった。藤木のほうが気の毒だった。だから堀内をビンタし、罵倒した。そして堀内は自分に襲い掛かる。しかし、藤木が守ってくれた。藤木は自分が好きだから、大切にしてくれているから守ってくれたのだと思った。

 藤木の本心を知った今、これからも藤木の友達であり続け、そして藤木の事を大切に思いやりたい。そして自分とリリィ、どちらかを選ぶ時を待つ。笹山はそう決意した。

「かず子、どうしたの?」
 母に呼び掛けられ、笹山は現実に戻った。
「ううん、ちょっとボーっとしてたの」
「そうだったの。マフィン、上手く焼けたわよ」
 オーブンの蓋を開けるとマフィンの匂いが漂った。
(すごい美味しそう・・・)
 笹山はこのマフィンを藤木に食べてもらいたいと思った。

 休日が明け、笹山は学校で藤木を見るとすぐ声をかけた。
「あ、藤木君」
「笹山さん・・・」
「昨日家でマフィン焼いたの。よかったら私の家に来て食べない?」
「え、僕でいいのかい?」
「もちろん!」
(笹山さんに誘われた・・・。嬉しいなあ!)
 藤木は喜んだ。その時、どこからともなく小杉が現れた。
「おう、マフィンだって!!??おう、笹山、俺にもくれよ!!」
「え・・・、ええ、いいわよ・・・」
「よっしゃー!!楽しみだぜ!!」
 満面の笑みで去る小杉。藤木と笹山は小杉の邪魔のせいで嫌な予感がした。
「笹山さん、それじゃあ、楽しみにしてるよ・・・」
「ええ、楽しみにね・・・」 
 

 
後書き
次回:「真心(マフィン)
 笹山家に上がり込み、マフィンをご馳走になる藤木と小杉。笹山は藤木に対してこれまでと異なる何らかの想いを抱いてゆく・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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