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Unoffici@l Glory

作者:迅ーJINー
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1st season
  7th night

 
前書き
 前回の続きから! 

 
 横羽線に突入したエボⅤ、インプレッサ22B、F40の3台だが、安定性に優れるエボとインプが先行し続け、ジリジリと差が開いていく。パワーとトルクでこそF40の方が上ではあれど、高速コーナーでの安定性に欠けるため、どうしても前の二台と同じスピードでは飛び込めない。

「くっそ……なんでだ?なんで追いつけねぇ!」

 彼なりにタイヤがコントロールを失うギリギリまで攻め込んでいながら、それでもまだ中高速コーナーでの脱出速度が劣る。古い車体設計、ピーキーなミッドシップレイアウトは、このエリアではドライバーに牙を剥く。

「これでもこっちはフェラーリだぞ……どうなってやがる!?」

 ジリジリと前の二台との距離が離れていく。ただでさえ過酷なスポーツ走行にタイヤがとうとう悲鳴を上げ始めた。限界を感じ、スローダウンするF40を、まるで嘲笑うかのように1台の車が鮮やかにパスしていくのは、黄色のRX-8。

「バカな、なんでRX-8がこんなところであんなに速ぇ……?」



 唖然とするF40のドライバーを尻目に、助手席に座る「雷光の疾風」は尋ねた。

「なんであのF40抜くとき、一瞬溜めてわざわざ見せ付けたンです?」
「最近チョコチョコ若いのにちょっかいかけてやがるらしいから、そろそろちと大人しくなってもらおうと思ってね。慣らしの最後は実戦テストと行こうか」
「お願いします。限界の動きを、私も見ておきたい」

 ドライバーは「雷光の疾風」ではない。以前とあるファミレスにアルトで乗り付けた、バスジャック事件の主人公に似ている男だ。どうやら、「雷光の疾風」とは師弟関係にある模様。

「どうだ?生まれ変わったこいつの乗り方、少しはわかったかい?」
「ええ……十分に」
「そいつは重畳。流石にR4AのR35にはこのあたりのエリアじゃ勝てないが、そんじょそこらの連中なら蹴散らせる程度には仕上げたつもりだ」
「なら、『Dの遺産』……アレが相手ならどうですか?」

 RX-8は、前のランエボとインプレッサを焦ることなく追跡する。まるで、狩るタイミングを見計らっている狩人のごとく。彼は同じクラスとして相手取るに丁度いいと見たのだろう。

「さぁて、ね。わからん。そもそもソレがどういうものかが何もわかっちゃいない。得体の知れない噂話相手じゃ、予測の立てようもないって奴さ」
「やはり、そうですか……」
「まぁ、あえて聞くが……もし逢えたら、ヤる気かい?」
「当然ですヨ。そんな不気味なモンでフケ上がってる連中を叩きのめす。伝説は、生きてる人間が作るモンです」
「上等!ならますます見てもらわないとな」

 前の2台をにらみつけながら、青年は覚悟を固める。それを見た彼は満足そうな笑みを返した。

「この世界で死んだ奴が、半端に残した伝説なんかいらねぇ……俺の手でカタをつけてやるさ」

ロータリー乗りの師匠を隣で見続けてきた「雷光の疾風」、覚醒の時は近い。



 3台がもつれながらもバトルは続行、現在は平和島を通過。前を行くランエボとインプレッサの挙動が少しずつ乱れだし、立ち上がりで十分にアクセルを踏み込めない。

「くっそ、タイヤもブレーキも限界か……目一杯踏み込んで突っ込んでるのに、なんで奴は平然とついてきやがる!?」

 エボⅤの青年の焦りとインプレッサの迷いが、挙動の乱れとなってチラチラと隙を見せ始めた。それを見た彼は少しずつラインを変え、攻めの姿勢へと移る。

「そろそろ決めるか。よく見ておけよ」

 羽田トンネル出口の右コーナー進入でアウトにラインを振った2台だが、RX-8はそのイン側を悠々と抜けていく。勝負どころまでコンディション低下を限界まで抑え、スムーズに決着をつけた。当たり前のことを当たり前に、しかし高いレベルでこなす。彼はまさに職人ドライバーと言えよう。

「ざっとこんなもんだ。ロータリーでも乗り方考えりゃ、案外どうにかなるもんさ。ましてやNAだからな、俺のみたいにカタツムリついてるよりは負荷は軽いもんよ」
「……すげぇ」

 これには「雷光の疾風」も開いた口が塞がらない。自分があえて避けてきた、長い距離を走り続けてからのバトルに平然と挑み、かつ鮮やかに置き去りにしていく。時代や車重に差があるとはいえ、彼でなければとろうとしない戦術だったろう。

「ただし、こんな長いバトルはできて一日に1回きりだ。タイヤやブレーキだって下手っていくし、そもそも熱に弱いコイツに無茶させちまうと、いざってときに限界超えてブロー。運が悪けりゃスクラップ間違いなしだ。人間の集中力にも限界があるしな」
「ええ、ソレは痛いほどわかってます」
「ならよし。今日シートで感じた感覚を忘れるなよ」
「はい……ありがとうございました」

 ドライバーはバックミラーに2台が映っていないことを確認すると、RX-8のペースを落としてそのまま静かに今宵のステージを終えた。



 同じころ。ガレージ・フェイトを訪れる一人の青年がいた。DC2インテグラを持ち込み、タバコをふかしながら店員と何やら話し込んでいる。

「連絡受けたから来たけども、お前さんがこんな立派な店構えてたとはな……」
「まぁ、なんとかやりくりしてるって感じだな。あのど変態メカの腕のおかげだよ」
「あのど変態、腕だけはいいからな。売り物は普通に仕上げてくれるからいいけどさ」

 彼らは大学時代の自動車サークルからの付き合い。インテグラの青年はそのまま就職を決め、「金色の不死鳥」は自動車整備士としての経験を経てから当時の仲間を引き連れて独立し、今は企業経営に頭を悩ませる日々を送る。

「もっと早く連絡すればよかったな。アンタがこの世界に首突っ込むとは思わなかったよ」
「私も予想外さ。まさかこんなにのめりこんでしまうなんてな」
「勝負事そのものには興味ないなんて抜かしてた癖によ。ま、ここはある意味野獣共がのさばるサファリパークには違いねぇから、サバイバル好きなアンタにはピッタリかもな」
「勝たなくてもいい、生き残れというのがルールだし、私の性に合っていたのかも知れないな」

 ガレージの中には、「金色の不死鳥」が駆るこの店のデモカー、黄色のR8が悠然と佇む。ボディのあちこちには提供されたパーツのメーカーステッカーが所狭しと張られてはいるが、その中で異彩を放つのはこのショップのステッカーだろう。黒い全身タイツを纏いデフォルメされた金髪美少女が、ショップの名前が入ったボードを抱えて支えるといったデザインなのだから。

「それに、オカルト大好きなアンタのことだ。例の『Dの遺産』が気になったんじゃねえかと思ってな」
「否定はしない。だが、ああいうのはあくまで脳内のエンターテインメントとして楽しむものだろう?」
「言ってることはわからなくもないが、変に理屈臭いのも変わらねぇな。アンタは」

 甘い香りのする黒いタバコをふかしながら、メガネの青年は返答せず苦笑で返した。

「まぁ、何かの縁だ。うちに預けてくれるなら、フルメンテナンスと多少のチューニングはやっとくよ。工賃代わりにうちの看板背負ってもらうけどね」
「それくらいならお安い御用さ。けどこの店、スーパーカー専門じゃないのかい?」
「最初は金持ちから営業資金ふんだくってやるつもりだったからそうだったんだがね。あのど変態、 何をトチ狂ったか、C1最速の黒のセリカぶっちぎる車作りたいとかぬかしやがってな。その方向の客も呼び込もうって言い出しやがった」
「車もそうだけどそれ以上に腕とドライバーだよ、アレに勝つには」
「会えるかどうかもわからねぇしな。ひょっとしたらアイツ、チギられたのかも知れねぇ」
「確かに。そうでなきゃターゲットにはしないだろうしな」

 彼らの話にある黒いセリカとは、「気紛れな旅人」という正体不明のドライバーだ。ZZTセリカというFFスポーツとしてライトチューンドベースには適した車ではあるが、決して出力を稼げるわけではない。必然コーナリングスピードで勝負しなくてはならず、なおかつストップアンドゴーの繰り返しで軽やかな加速勝負が必要なC1だからこそ、現在最速でいられるとのこと。かつてはC2レインボーブリッジ周回ステージにて最速を誇っていた赤いFD3Sとも、C1においては互角の戦いだったという。

「まぁ確かに、アレと戦うなら私の車は的確かも知れないな」
「せっかくDC2なんだ。横浜仕様にしとくかい?」
「やめてくれ、私は別にショータイムがしたくてこの車を選んだわけじゃないし硬派でもない。弟はいるが」
「いやまぁ、一応ね。あのど変態なら悪ノリで外装を平然とネタにしやがるからさ」
「あぁ、奴はそうだろうな……」

 黒いタバコを灰皿に押し付け、ガレージを去る青年。

「車は任せた。私はまず、あのCL7を撃墜とす」
「やる気だな、わかった。完成したら連絡しよう」
「頼んだぞ、店長」
「代車はいるかい?」
「必要ない。普段のアシならスクーターがある」
「そうかい。じゃ、気を付けてな」
「お互い様だ。そっちもな」

 手を降りながら歩き去る青年。その背中にはどこか、哀愁のようなものが漂っていた。 
 

 
後書き
最近本当に筆が乗らない() 
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