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ソードアート・オンライン 神速の人狼

作者:ざびー
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ー いざ、決戦へ ー

場所は第75層の主街区の転移門がある広場。
時刻はお昼を少し過ぎた頃。
石段に腰掛けて座る私とユーリを行き交う人々が二度見して通り過ぎていくのもかれこれ10回目だ。
中には、立ちとまりじっと眺めてくるデリカシーのない連中もいた。

ボス戦が開始されるまで一時間弱あるな、と頭で考えつつ手を動かす。 灰に銀粉をまぶしたような不思議な色合いの髪を一房手に取ると、ブラシで髪を梳き、三つ編みに編んでいく。 髪の毛を編まれているのはユーリであり、そのユーリが借りてきた猫のように大人しいのをいい事に、黙々と進めていると、髪の毛と同色の獣の耳がピクピクと小さく動いた。
その直ぐ後、転移門から新たに現れた一団がガチャガチャと鎧を鳴らしながら広場へと踏み入れてくる。 このワンコはどうやら人の往来にも敏感らしい。
高性能な犬耳に関心していると二人分の足音がこちらへと向かってくるのに気がついた。

トンダ失礼な輩もいたものだ、と呆れ半々。邪魔者の出現に怒り半分。
殺気を込めた視線を上へと上げた私は、珍しい顔ぶれに目を丸くしたのだった。

「よぉ、嬢ちゃん。 元気してっか?」

と頭の赤いバンダナがオシャレな(ダサい)野武士面のクライン

「相変わらず仲がいいようだな」

とバリトンボイスが耳に心地よいのは、スキンヘッドな戦士姿が様になっているエギルだ。

前回のボス戦からの再会だから、かれこれ一週間以上顔を合わしていなかったことになる。

「なんだ生きてたのかお前ら」
「相変わらず手厳しいなぁ、ユーリの字はよぉー」

孫か親戚の子供にそうするように頭を撫でようとクラインが手を伸ばすが、ユーリによって容赦無くはたき落とされる。
哀れクライン、好感度を上げてから出直して欲しい。

クラインがイッテー、と手をさする横で私とユーリを交互に見たエギルが呆れたようにため息を零した。

「で、お前さんらは何やってんだ」
「暇つぶし」

……文頭に「ユーリで」がつくが。 もっともそれを言うとユーリがキレるので口が裂けても言えない。
諸々の事情を察したのか、エギルはユーリの様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべている。
艶やかな銀の髪の毛を腰に届くほどに伸ばした格好で、石段に腰掛けていれば絵になるというもの。 加えて、心機一転、野暮ったい黒のローブから萌葱色の羽織りにそれに合わした和装に変えたこともあり、お人形のように見えるのは私だけだろうか、いやない。

とはいえ、普段のユーリなら人形の代わりみたいな事をさせてもらえない。

「で、嬢ちゃんは今回はどんなマジックを使ったんだ?」
「なにおう!? 私が悪者みたいな言い方あ!」

本当かよ、と怪訝な視線が突き刺さる。

「どうしてこいつはこんなに大人しいんだよ」
「装備を『メイド服にしてあげるね☆』って提案したら、喜んで髪結わせてくれたよ!」
「「え、えげつねぇー」」

揃って非難の声を上げる二人に、ユーリがコクコクと無言で頷いた。
完全に私が悪者の空気だが、少し待って欲しい。 メイド服を着た犬耳が、刀を片手にボスに切った張ったを繰り広げる。 さぞかしボス戦は盛り上がるだろう。 と提案してみたところ非常に微妙な表情を浮かべられた。

「カオスかよ」
「カオスだな」

おそらくメイド服を着たプレイヤーが暴れまわる様子を想像したのだろう。 二人が意味深に呟くと、ユーリを哀れなものをみる視線で見下ろした。

「な、なんだよ」
「いやお前さんも苦労してんな、って」
「嬢ちゃんも相方を労ってやれよ? そのうち愛想尽かされるぜ? それが家庭円満の秘訣だ」
「くっ、言葉の重みが違う……て言うか、労わるのは夫であって、逆だよね!?」


喧々囂々。 喧しくも楽しい時間は、あっという間に過ぎて行く。 途中合流したアスナにユーリが犬可愛がられるハプニングこそあったが平和そのものだった。 とてもこれから死地に赴くとは思えないほどに。 今の時間が永遠に続けばいいとさえ思ったりもした。

しかし、時間は無情にも進む。

そして、時刻1時半。 第75層ボス攻略が開催される時間がやってきた。
回廊結晶によって、一団ごとボス部屋の前まで転移しており、緩んだ雰囲気はなく、空気が冷たく張り詰めている。

相棒のユーリでさえも、少し近寄り難い雰囲気を醸し出し、大扉の奥で待ち受けているであろう敵を睨みつけていた。
そんな彼を見て、ユーリが手の届かないところに行ってしまうような言いようのない不安と寂しさに駆られる。
気がつけば、空いた手がそっと着物の袖を掴んでいた。

「……ねぇ、ユーリ」
「ん?」

単純に私の神妙な様子に疑問を持ったのだろう。 首を傾げると、言葉の先を促してくる。

「このボス戦が終わったら、さ」
「お、おう」

一拍置き、続く言葉を満面の笑みとともにぶちかました。

「ーープロボーズしてね?」
「死亡フラグじゃねぇか!!」

ピンと犬耳を立たせてツッコミをするユーリの様子がおかしくて、安心出来て、体の強張りが解けていく。
私のふざけ癖は、ただの強かりだ。 ずっと一緒にいるユーリもそれを理解しているのだろう。 額に手を当て、深いため息を吐き出すがそれ以上は何も言ってこない。

「……あはは、って痛ったぁ!?」
「自業自得!」

せいぜい頭をはたかれたくらいだ。

「よーーし! やる気でた! 悪魔でも、ドラゴンでもドンと来い!」
「あぁ、もうどうにでもなれ!」

私の隣でユーリがヤケクソになって叫ぶ。
ボス部屋と迷宮を隔てる大扉が開け放たれ、ヒースクリフの号令が掛かる。

「行くぞ、皆! 戦闘開始!」

差し出された手のひらを握り、漆黒の闇が満たす室内へと雪崩れ込むレイドメンバーに私たちも続いた。
 
 

 
後書き
ユーリの影が薄過ぎて、正直シィちゃんが主人公じゃないのだろうかと思う今日この頃です。
まぁ、ヒロイン=女主人公って意味だから、あながち間違いじゃないよね!

と言うわけで、次回第75層ボス戦となります。

ではまたノシ

誰か自分に速筆のパフかけてくれーー!(切実
 
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