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ソードアート・オンライン 神速の人狼

作者:ざびー
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ー破滅への序曲ー

『偵察隊全滅』という報せを受け取った翌日には、攻略組に席を並べるギルド、及びソロプレイヤーたちから選りすぐりの高ランクプレイヤーを選出し、短期決戦が決行されることが決まった。

 本来ならば、ボスアタックは何度も偵察部隊を出し、ボスの行動パターンを割り出してから行われるべきなのだが、第75層ボス戦――第三のクォーターポイントは、今までと仕様が違う。 転移脱出不可、そして一度入ったら最後、ボスかプレイヤー……どちらかが死ぬまで出ることは叶わない。 緊急離脱ができた今までとは違い、 プレイヤーへの殺意溢れる変更に攻略組の面々は気を引き締め、同時に命がけのデスゲームであることを実感した。

 そして死闘への準備が進められるなか、ユーリたちは馴染みの武具店へと足を運んでいた。



 第49層『リンダース』に店を構えるリズベット武具店の店主リスベットは、カウンターに置かれた大鎌とその情報が表示されたウインドウを見比べ、うへっと苦言を零し、形の良い眉を寄せた。

「銘は『魔剣 ハルペー』。 『異形(モンスター)』に対して、ダメージ超増加って……また見たことない効果があるわね。 しかも、魔剣クラス(最高ランク)とか」

 それを見て、にゃははと楽しそうに笑う件の武器を持ち込んだ張本人――シィ。 実は歴史や神話に詳しいシィによると、この武器(ハルペー)は英雄ペルセウスが怪物《ゴルゴーン》の首を切り落とした不死殺しの魔剣をモチーフにしているらしい。 本来は刃の部分が鎌のように湾曲した剣らしいが、大鎌なのはゲームの拡大解釈故だろうと推測する。 


「こんな武器を入手できるクエストってそんなのあり? 性能からして、完全に生産職プレイヤーに喧嘩売ってるんですけど!」
「まぁ、ボス戦には間に合ってよかったよね〜」
「いやまぁそうだけどさ。 そこに一匹、ダウンしてるんですけど……」

 言いつつ、壁際に椅子を寄せてうつらうつらと舟を漕ぐ犬耳を生やしたプレイヤーを見る。 シィ曰く、件の大鎌は徹夜でクエストを進めた挙句、最後に中ボスクラスのモンスターを倒して手に入れたものらしい。 片や今にも眠りに落ちそうなほど疲弊し、片やボス戦明けとは思えないほどハイテンションだ。 苦労の底が知れないユーリに内心で労いの言葉を投げかけつつ、改めてシィを見やる。

「で、こいつの強化はどういった割り振りにするの?」
「んー。 丈夫さ三割に、鋭さ七割で。 素材は持ち込みで、足りない分はお願いね」

『丈夫さ』は武器の耐久度が上がり、『鋭さ』は武器の切れ味が上昇し、部位破壊の確率が上がる。 他にもクリティカル補正が上がる『正確さ』や単純に武器の重量が大きくなる『重さ』などがある。
 オーダーとともに、皮袋にどっちゃっりと詰められた強化用素材を前にして、思わず頬が引き攣る。 『最高ランク(魔剣クラス)』の武器となれば、強化施行回数は10や20では済まない。
 加えて、武器の強化は100パーセント成功ではなく、武器のステータスが下がってしまう『失敗』も確率上、存在する。 もっとも、鍛冶師の熟練度や強化素材によって、成功確率を最大95パーセントまで上げられるが。

 しかし、5パーセントというハズレがあるギャンブルを何十回も連続で続けるのは本当に苦難である。

 新たな相棒を任してもらえるのは鍛冶師として名誉なことだが終わった頃、私は無事だろうか……精神的に

 しかし、避けては通れない道であることは明らかであり、私のいい加減な仕事が原因で持ち主が危険な目に会ったらきっと立ち直れないだろう。

 ふぅ~と大きく息を吐き、覚悟を決めるとニっと広角をあげ笑みを作る。

「……まったく。 今度、美味しいものでも奢りなさいよね」
「イエス、マム!」
「……ほんと、あんたってそういうところは調子いいわね」
「それが私のとりえだからね~」


 ビシッと敬礼のポーズをして、元気よく返事するシィに毒気を抜かれる。 他に注文がないことを確認し、素材の入った袋を片手に工房へと向かおうとした時、丸椅子に腰掛けた状態でこくりこくりと不安定に揺れるユーリが見えた。

「おーい、そこのわんこ」
「…………。」

 言葉の代わりに、ぴくぴくと犬耳を前後に動かして返事をするわんこ――もといユーリ。 わしゃわしゃと撫でたくなる衝動を必死に抑え、言葉をかける。

「よかったら、そこの揺り椅子使ってもいいわよ」
「…………ん」 

 窓側にある揺り椅子は、ちょうど今の時間帯なら暖かい日差しが差し込み、昼寝するなら絶好の場所だろう。
 本来ならば、お気に入りの場所を誰かに使わせたくないが、明日には苛烈な戦いが待っているから、しっかりと休ませてやりたいと思っただけだ。 決して他意はない。
 んみゅ……と謎言語で返事をしたユーリは犬耳をへたりと倒したまま立ち上がりフラフラとしながら、揺り椅子へと移動する。 寝やすい体勢を取ると、安心したように表情を緩ませ、すぐに寝息をたて始めた。
 シィはと言えば、私が淹れたコーヒーと自前のお茶請けをお供に、裁縫作業に没頭している。

「……妹や弟が出来たらこんな感じなのかしらね」
「ん?……何か言った?」
「なんでもないわよ。 さて、私も仕事しますかね!」

 
 

 
後書き

なぜか話を書くとほのぼの系ばっかりなのはたぶん犬耳のせいです 
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