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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第九十八話 私、ナイトハルト・ミュラー提督と結婚します。

帝国歴487年12月10日――。

白銀の雪が帝都を覆っていたが、この日は快晴であり、キラキラとした陽光に照らされた雪が白く輝いていた。
この日は特別な日だった。帝都オーディンのホテル・グラーズヘイムにおいてフィオーナとミュラーの結婚式が行われることとなったのである。片や貴族の家柄で有り帝国軍上級大将、片や平民で帝国軍大将であったが、身分や階級などはこの際二人にはどうでもよい事だった。そのような表面的な事象を越えた遥かな硬い結びつきが二人をしっかりとつないでいたのである。
 本来であれば軍人であるのだから平素は如何なるときでも軍服であれというのが規則であったが「結婚式で女性に軍服を着させられますか!?」と、女性陣から猛反対があり、軍務尚書のイルーナでさえ「だとしたら規則の整備が不十分だったのだわ。」と言い出す始末であった。そんなわけで一生に一度の晴れ舞台にフィオーナは軍服を着ずに、憧れのウェディングドレスを着ることができたのである。
「フィオーナ・・・・。」
新郎であるミュラーの腕にしっかりと自分の腕を絡めて、列席者の間を通るとき、声を掛けられた。純白のウェディングドレスに身を包んだフィオーナはちょっと驚いたように顔をあげた。
ローエングラム元帥府№2の参謀総長がこちらを見ていた。驚きと感動の入り混じった表情で彼女はかつての教官を見つめ返した。
「教官・・・・。」
涙がうっすらと彼女の瞳に宿っていたからである。半ば恥じた様にそれを指の淵で払うと、
「あなたのお父様、お母様がここにいらっしゃったら、何というかしらと思ったのよ。」
フィオーナの両親は娘が結婚する少し前に共に病に倒れてなくなっていた。
「ありがとうございます。後は・・・・ジェニファー先輩がここにいてくださったならば・・・・・。」
ジェニファーの死は転生者たちの心にいつまでも重荷となって残っていたのだった。
「私を恨んでいないでしょうか?ご自分は戦死なさったのに、私はこんなところにこんな姿で・・・・。」
「フィオーナ、それは違うわよ。」
彼女を指導した教官は今度は微笑んだ。
「あなたがそう思っていることを彼女が知ったら、むしろ怒りだすわ。彼女はそう言う人なのだから。」
かすかな遠い目をしたのは在りし日のジェニファーを、そして前世でのジェニファーを思い返していたからだろう。フィオーナにはそれがよくわかった。
「彼女もヴァルハラであなたを祝福してくれているわ。それでも気に病むのならば、彼女の墓前に報告にいきましょう。」
「教官・・・・。はい・・はい!」
かすかな真珠色の涙を目の淵にためている花嫁にうなずいた後、
「ミュラー提督。」
前世の彼女の元教官はミュラー提督に視線を向け、頭を下げた。
「この子のことを、よろしくお願いします。」
軽い驚きを示したミュラーだったが、彼は黙ってうなずいた。言葉を発さなかったのは如何なる言葉もこの場合においては上滑りすることを感じ取っていたからかもしれない。
出席者は帝国の双璧を始めとして諸提督は軒並み出ており、ラインハルトでさえもわざわざ午前中に公務を一時欠席して出てきていたほどだった。その際に記帳した出席者名前の欄には、帝国軍最高司令官でも帝国宰相代理でもなく、ただラインハルト・フォン・ローエングラムとサインしたというのが彼らしいエピソードだった。
結婚式が終わると、披露宴となり、そこにも大勢の人が詰めかけていた。
『それでは皆様方、新郎新婦が入場されます。会場入り口にご注目ください。』
司会の声とともにモーツァルトのピアノ協奏曲第19番が流れ出す中、重々しく扉が開かれたかと思うと、色直しをした二人の姿が招待客の感嘆の声と拍手を引き出した。
「あ~~~!!!私も早く結婚したいわ~~!!!」
と、いささか大きすぎる声でティアナが「つぶやいた。」のを隣にいたロイエンタールが冷笑と共にシャンパングラスを傾けていたのもまた、この二人らしいエピソードだったと言えるだろう。
 

こうしてフィオーナとミュラーの結婚式が盛大に行われているさ中でも、ローエングラム陣営の課題は山積されており、それを処理する手も休むことはなかった。


 この時期ローエングラム陣営内部では表向きはレンネンカンプが、そして裏からはケスラーとヴァリエが秘密裏に内通者の捜査を始めていた。ローエングラム陣営の強襲作戦をいち早く敵に漏らした人物がいることはほぼ確実で、だからこそあのような10万隻規模の大規模な出動があったのである。
 こと、同じ転生者であるジェニファーを戦死させられたヴァリエにとってはベルンシュタインは眼の仇であり、それこそ前世主席監察官の名に懸けて犯人をあぶりだそうと躍起になっていた。



 一方、先の要塞攻防戦で捕虜となった多数の同盟軍将兵についてであるが、多数は付近の惑星に分派させて収容している。ラインハルトの指令で捕虜たちには厚遇、というわけではなかったが、それでも同盟の捕虜収容施設と同等の待遇が与えられていた。捕虜たちには収容惑星の環境に応じた仕事を課し、スポーツや娯楽の自由をある程度認めた。頻繁に各種の大会が行われたのは、対抗心をけしかけることで、本来生じる恐れがある無用の軋轢を削減しようという狙いに他ならなかった。
 この運営には転生者の一人であるロワール・ルークレティア少将が特任を受けて当たることとなった。
 捕虜と言えば、この春行われた捕虜交換の際に徹底的に臨検させた甲斐があって、多数の工作員が捕虜となった。ただ、その中の数名はわざと泳がせている。接触状況を図るためだ。全員に休暇と一時金が支給され、軍への復帰も各人の意志に委ねられた。そして、復帰如何にかかわらず、全員に月に一度それぞれの最寄りの憲兵司令部に身分証を持参のうえ出頭するように義務が課されたのである。
 今回の同盟捕虜に関しても第二次捕虜交換によって同盟に送還することが内々定していたので、辺境惑星に集中させた。ひいてはそれは辺境貴族における産業の一つとさせる目的もあったのである。
 もっとも、例外もいる。
「で、いかなる理由からエリーセル上級大将閣下殿は、非才の身を神聖にして不可侵であられるゴールデンバウム王朝の総本山にお連れくださったのですかな?」
と、5階級も上の相手に公然と毒舌を浴びせたのは誰あろうワルター・フォン・シェーンコップ大佐殿である。これに対して当の本人は顔を赤らめながらこう答えた。それは相手の口ぶりに腹が立ったのではなく、恥ずかしかったからである。
「あなただけではないではありませんか。ブルームハルト中尉、リンツ大尉、デア・デッケン中尉――。」
「で、我々をどうなさるおつもりですかな?帝都の動物園の檻にでも入れて見物料をせしめようと言うつもりだとしたらやめた方がいい。ああいうのは見目麗しい美男美女がよろしいのですから。」
この私は条件を満たしていますが、他の面々がね。と、臆面もなく言ってのけるところがシェーンコップらしい。それを聞きながらフィオーナの心境は複雑な文様を描いていた。

 以前イルーナがフィオーナに注意したことがある。

「あなたの優しさは充分に長所であり、私もそれを誇りにしているところだけれど、全ての人に適用されるなどと思わないことよ。」
確かに帝国軍の諸提督と転生者との間にはおおむね友好的な関係が築かれていた。もっともそれも最初の頃はだいぶ怪しいものであったのだが、今は違う。
 だからこそ、というのではなかったが、いずれ同盟の登場人物との間でも友誼を築き上げることができるのではないか、という淡い期待が彼女の中にあったことは否めない。だが、今のところそれは成功を見ていなかった。もっとも彼女の「面接」の最初の試験官がワルター・フォン・シェーンコップ大佐であったことが、彼女を不幸にしてしまった一因だったかもしれない。
「・・・・・・・・。」
思わず俯いてしまいそうになる自分にカツを入れた。こんなことでどうするのだ。シェーンコップの毒舌の中で、これは初級中の初級、まだほんの初手に過ぎない。彼女はその心境とは別ににっこり笑ってこう答えた。
「いいえ、見世物等にするにはシェーンコップ大佐、少々あなたの風貌は『生臭すぎます。』から。」
フィオーナらしからぬ応酬だった。隣に立っていたティアナもバーバラも、そしてレイン・フェリルもアリシアもこれには一斉に驚きの眼を彼女に向けたし、当のローゼンリッターの面々も面食らった様子で彼女を見た。この清純そのものの帝国軍上級大将がシェーンコップの数々の情事を知悉し、しかもそんな表現をするとは予想だにしなかったのである。
 当のシェーンコップは内心どう思っていたかわからないが、表面上は軽い笑い声を立てただけだった。
「褒め言葉と受け取っておきましょう。なんでしたらあなたにも一度御指南差し上げてもよろしいですが。」
彼女は顔色一つ変えずに左手の薬指をちょっと横手に掲げたのち、丁重にそれを断った。そして顔色を新たにしてローゼンリッターの面々にこう述べたのだった。
「実はあなた方に一度見ていただきたい物があるのです。」


* * * * *
2時間後――。

フィオーナらが訪れたのは帝国の公文書館である。既にラインハルトを通じて許可を得ていたので、一同はすんなり入ることができた。同盟の捕虜を入れるなどとは前代未聞のことであるが、機密レベルの文書は地下深くに秘匿されていて地上に出てくることはないし、そこに行くまでには幾重にもチェックを受けなくてはならない。
「自由惑星同盟と帝国が幾重にもわたって交戦している中、当然捕虜交換も幾たびも行われてきたことは既にご存知でしょう。」
「前置きは結構ですから、要点を述べていただきたい。」
リンツ少佐の言葉に転生者たちはうなずき合った。
「では、要点を。同盟に帰還したあなた方の捕虜が、その後どういう待遇をされたのか、知りたいのです。」
「・・・・・・・・。」
ローゼンリッターのカルテットの面々は顔を見合わせた。
「こちらはその代わりに過去の捕虜の待遇、そして今の捕虜の待遇を教えます。」
「それをどうするのですか?」
「全銀河に公表します。」
意表を突いた答えにまたもカルテットの面々は顔を見合わせた。
「帝国同盟双方の実態を、主観を交えることなく双方に伝える。これが私たちの、そしてローエングラム公の掲げる目標の一つです。そのためにはあなた方の協力も不可欠の一つなのですよ。」
レイン・フェリル中将が補足する。
「この話だけ聞けば、おそらく99%の人間があなた方の頭脳の仕組みを疑うでしょうな。ネジが二、三本抜けていると言われても不思議ではないでしょう。」
「失礼ね~。」
ティアナが両手を腰に当てたが、怒った様子はない。どちらかと言えば面白がっている様子だ。だが、フィオーナはそれを流さなかった。
「現状に満足している人は人と違うことをしようとする人を必ず異端者扱いをする・・・・。その中身をロクに検討もせず。あなた方もその例外ではなさそうですね。」
「フィオ?!」
この発言には思わずティアナをしてたじろがせるほどの響きが込められていた。
「我々が果たしてそうだと言えますかな?」
「言えます。あなた方がローゼンリッターだから、という理由は通用しません。この世界に生きる一員としてのあなたたちが、私をそのように見ているのですから。」
「・・・・・・・・。」
「150年間の戦争を止め立てするとしたら、誰だと思いますか?英雄?確かにそうかもしれません。ですが英雄だけでは足りないのです。」
「・・・・・・・・。」
「そのような人を生み出すのもまた時代の流れかもしれませんが、その人が時代の波に乗りわたっていけるかどうかは同時代に生きる私たち次第だと思うからです。」
「・・・・・・・・。」
「そして、英雄が誰であるかなどという事は今の私たちの誰もわかりません。英雄を定義するのは後世の人だからです。」
「・・・・・・・・。」
「私たちがなさなくてはならないことは、現状に皮肉を飛ばすことでも、嘆くことでもなく、行動することだと思います。その行動が正しいか間違っているか・・・・それを恐れていては何もしないのと一緒です。それではいつまでたとうとこの戦乱は解決しませんよ。」
未だかつてこれほどの言葉を連隊長に言ってのけた人間をリンツ達は知らなかった。が、転生者サイドにとってはそれほどのものではなかったらしく、ティアナに至っては。
「またフィオの真面目っぷりが出てきたわ。」
とでもいわんばかりの表情で親友を見守っていた。
「仕方のない御仁だ。」
しばしの沈黙ののちにシェーンコップが口を開いた。
「あなた方はご存じないかもしれませんがね、同盟の中にもとかく酔狂な人間はいたものです。ですが、あなた方はそれ以上だ。」
シェーンコップの眼から皮肉の色が消えた。初めて面白がっている色がうかんだのだ。
「いいでしょう。」
「大佐殿、よろしいのですか?」
ブルームハルト大尉が後ろから話しかける。
「捕虜に禁じられているのは軍事機密の漏えいだ。だが、この見目麗しい女性陣が求めているのは果たして軍事機密か否か、だがね。」
シェーンコップはフィオーナに視線を戻した。
「良かれ悪しかれあなた方は今までの帝国人とは違う人種だ。神様もとんでもないいたずらをしたものですな。だが、あなた方のその言葉には無下にできない何かがある。私自身それが何かは言い表せんのですがね。あなた方のその酔狂な話に乗ってみることにしましょう。」
「では――!」
「ただし、これは私の気紛れでして、明日には気が変わっているかもしれませんことをご承知おきいただきたく。」
ワザとらしく丁寧な一礼をした相手に、フィオーナはうなずいた。そして――。
「感謝します、シェーンコップ大佐。」
という言葉と共に手を差し出したのである。

 4秒後、皮肉交じりの笑みと共に差し伸べられた相手の大きな手と若き帝国軍女性上級大将は握手を交わしたのである。




そして、帝国歴487年12月23日――。

 新婚生活を終える間もなく、フィオーナは出征の途に立った。
彼女を総司令官とする遠征軍がブラウンシュヴァイク星域に出発したのである。
 
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