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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―正義の味方―

 
前書き
明日香とイチャイチャする話を書けと言われたので初投稿です 

 
「どうしてこうなったんだ……?」

 何度目になるかも分からない呟きは、誰にも届くことはなかった。それはこちらの声が小さいとか、周りに人がいないとかいうことではなく、物理的に届くことはなかったのだ……この顔を覆っている何かのせいで。

「Jinzoの準備できましたー!」

 要するに被り物をしているわけだ。いや、被り物だけならばまだ良かったのだが、今の俺は全身を着ぐるみに包まれていた。チラリと鏡を見てみれば、そこに映っているのは見慣れた俺の身体ではなく《人造人間 サイコ・ショッカー》の着ぐるみであり、こちら側……アメリカ風でいうならばJinzoの格好だった。

 アメリカ・アカデミアの特別授業という名目で連れてこられたのは、現地で開設された海馬ランド。もはや世界中に創設されているような海馬ランドが、アメリカにあるとしても今さら驚きもしないが、まさかその現地に連れてこられるとは思いもよらず。ヤラセ一切なしのデュエルショーが有名とは聞いていたが、アメリカ・アカデミアの生徒が授業の単位として係わっていたならば、是非もなしと言ったところだ。

「……対戦相手は?」

 そうして『中の人』の一員となった俺は、敵役のサイコ・ショッカーとなった。スタッフの一人にマイクを取りつけられて、ようやく外部との会話が可能となって。詳しいことは知らないが、このマイクはデュエルショー向けの翻訳機にもなっているらしく、流石にショーの観客相手に向けるほどの英語力はない自分には非常にありがたい。

「遅れてくるってよ。なにせカイバーマンだからな!」

 そんな海馬コーポレーションの技術に感謝しながら、近くのスタッフに対戦相手のことを訪ねてみたものの、あまり要領をえない返答しか来なかった。海馬ランドのヒーローショーで敵役はこちらなのだから、対戦相手はカイバーマンなのは当然なのだが、スタッフからどうにも苦笑いを感じる。

「ほら、行ってこい!」

 そうして詳しい説明もなく腰を叩かれてステージに立ってみれば、なるほど、確かに一番人気のショーと言えども過言ではない客入りと熱狂だった。とはいえこちらからすれば、ショッカーのスーツのせいで動くことも出来ずに、ただ棒立ちすることしか出来ないわけだが。幸いなことにショー自体は他のスタッフの尽力により、敵ボスの中の人が棒立ちだろうが問題なく進行していて。

『カイバーマン様のご到着だ。後は頼むぞ』

「……了解」

 しかしてずっと棒立ちのままで許されるはずもなく。スタッフから届けられる通信に了承して、そろそろ出番かと気を引き締めるものの、肝心のカイバーマンの相手はどこにもなく。スタッフにもう一度だけ確認をしようとしたところ、突如としてかの《青眼の白龍》を模した戦闘機が、本当に目前を飛翔した。スーツを着ていたとはいえ、目の前に来るまで気づかなかったほどの消音と、こんな地面の近くを飛翔できるパイロットの腕前に驚愕していると。

「フハハハハハハ!」

 観客の頭上で一回転してみせた戦闘機のコクピットが開いたかと思えば、そのままパラシュートもなくパイロットがステージへと降り立った。主を失った戦闘機はそのままどこかへ飛翔していくが、ステージに着地するなり腕を組んだパイロットが、観客には隠しながらもリモコンのスイッチを押すと、何事もなかったかのように戦闘機もステージに着地する。飛び降りた意味は、と聞きたい衝動に駆られたが。

「待たせたなショッカー! 貴様との決着、ここでつけてやろう!」

 ――問題はその戦闘機から降りてきた人物が、対戦相手たるカイバーマンそのものだったからだ。そんなド派手な登場をするものだから、観客の期待値も大幅に上がってしまって今さら聞く雰囲気ではない。カイバーマンのデュエルの準備は台詞とともにすっかり完了しており、特注品のデュエルディスクはまるで竜の翼のようだった。

「ただでは死なん……地獄に貴公も連れていってくれる!」

 ……旅の恥はかき捨て、というか。まさかこんな台詞を言う日が来るとは、留学の際は露とも思わなかったが、これも今回の仕事の一部なのだから仕方ないと必死で自らに言い聞かせて。翻訳されるから恥ずかしくない、翻訳されるから恥ずかしくない、と思いながら、今回のショーのカバーストーリーを思い返しておく。カイバーマンに敗れ組織からも追放されたサイコ・ショッカーが、全てを賭けてカイバーマンに最後の挑戦を挑んでくる……という、まあ、ありがちなものを。

「来るがいいショッカー! オレは全力を以て貴様を粉砕するまで!」

「貴公には玉砕がお似合いだ!」

『デュエル!』

カイバーマンLP 4000
サイコ・ショッカーLP 4000

「私のターン、ドロー」

 ……誰に言い訳するわけではないが、もちろんノリノリではない。断じて。信じてほしい。しかし対戦相手のカイバーマンはノリノリのようで、中の人が誰なのか激しく気になりはするものの、ひとまずはデュエルに集中する。なにせ勝てば単位だ。サイコ・ショッカーのスーツの問題から、普段から使っているデュエルディスクではなく、クロノス教諭が使っていたようなデュエルコートから五枚のカードを抜き取って。

「モンスターをセット。さらにカードを二枚伏せてターンエンドだ」

「ふぅん……ずいぶんと教科書通り、と言ったところか。オレのターン!」

 こちらの先攻1ターン目は、確かに凡庸な一手に終わる。今回はそのカバーストーリー的に、サイコ・ショッカーを主軸としたデッキを使うこととを義務付けられているため、普段の【機械戦士】デッキではない。それでも今回の仕事のために組んできたデッキであるし、相手も条件は同じであろうことは想像に難くない。いや、カイバーマンらしいデッキとなれば、実質構築不可能なかの【青眼の白龍】に限ってしまうため、こちらよりは構築自由度は低くないだろうが。

「オレは《E・HERO ブレイズマン》を召喚し、効果を発動! デッキから《融合》をサーチする」

 そうして召喚されたのはかのHEROシリーズの一種、《E・HERO ブレイズマン》。召喚するだけでデッキから《融合》をサーチするという有用な効果を持っており、HERO系のデッキ以外で採用されることも珍しくない。

「さらに魔法カード《愚かな埋葬》を発動。デッキから《E・HERO シャドー・ミスト》を墓地に送り、デッキから更なるE・HEROを手札に加える!」

 さらにデッキからモンスターを墓地に送る魔法カード《愚かな埋葬》の効果により、シャドー・ミストの墓地に送られた際の効果を更に発動する。その効果はデッキから新たなHEROをサーチする効果であり、カイバーマンは容易く手札に《融合》と新たなHEROをサーチしてみせる。ともすれば、次なる手は。

「《融合》を発動! 二体のモンスターを融合し、《E・HERO エスクリダオ》を融合召喚する!」

 もちろんHEROの十八番である融合。ブレイズマンと手札のモンスターを融合して、闇属性のHEROたる《E・HERO エスクリダオ》を融合召喚し、フィールドには漆黒の鎧を纏った影のような英雄が姿を見せた。その効果は墓地のHEROの数だけ攻撃力を上げる効果であり、現在のエスクリダオの攻撃力は2700。それは《愚かな埋葬》でE・HEROをサーチしたにもかかわらず、墓地に二体のHEROしかいないことを示しており、ブレイズマンとともに融合素材となったモンスターが謎であることを示していた。

「バトルだ! エスクリダオでセットモンスターに攻撃! ダーク・ディフュージョン!」

「破壊されたのは《クリッター》! デッキから攻撃力1500以下のモンスターをサーチする!」

 リバースカード二枚とセットモンスターという布陣にも、カイバーマンは何の恐れもなく攻撃を命じる。とはいえセットモンスターこと《クリッター》は破壊されるのが仕事であり、ダメージはなくデッキから新たなモンスターをサーチする。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する!」

「俺……私のターン、ドロー。《闇の誘惑》を発動し、デッキからカードを二枚ドローし、闇属性モンスターを除外する」

 ついつい出てしまった一人称がマイクに拾われていないことを祈りながら、闇属性専用の手札交換カードたる《闇の誘惑》をすぐさま発動して。先のターンで《クリッター》によってサーチした、このデッキのキーカードをコストに二枚ドローし、さらにリバースカードを発動する。

「伏せてあった《闇次元の解放》により、除外ゾーンから《人造人間 サイコ・ジャッカー》を特殊召喚する!」

「ふぅん……貴様自らのデッキを持ち出してくるとはな」

「まだだ! 速攻魔法《地獄の暴走召喚》!」

 そうして除外ゾーンを経由して特殊召喚されたのは、このデッキのキーカードである《人造人間 サイコ・ジャッカー》。速攻魔法《地獄の暴走召喚》によって、お互いにフィールドにいるモンスターをさらに二体ほど特殊召喚することが出来るが、エスクリダオしかフィールドにいないカイバーマンには、《地獄の暴走召喚》の恩恵を受ける権利はない。

「そして《人造人間 サイコ・ジャッカー》は、フィールドにいる時はサイコ・ショッカーの名となる……この意味が分かるな、カイバーマン!」

「まさか……!」

「そう……我が分身が二体、デッキより特殊召喚される!」

 しかも速攻魔法《地獄の暴走召喚》の発動キーとなったサイコ・ジャッカーは、フィールドと墓地では《人造人間 サイコ・ショッカー》という名前を持つ。つまり《地獄の暴走召喚》で特殊召喚されるのは、本家本元の《人造人間 サイコ・ショッカー》が二体。

「さらにサイコ・ジャッカーの効果発動。このカードをリリースし新たな人造人間をサーチすることで、相手のセットカードを確認する!」

「何!? 貴様ぁ……オレのフィールドを土足で!」

「それだけではない。相手のフィールドに罠カードが伏せられていた時、手札の人造人間モンスターを特殊召喚することも可能なのだ。トラップ・リサーチ!」

 セットカード確認効果にやたらと怒りを示すカイバーマンをよそに、サイコ・ジャッカーは自らの本領を発揮する。まずは新たな人造人間モンスターをサーチするとともに、相手のフィールドにセットされたリバースカードを確認すれば、こちらの攻撃に反応して発動する罠カード《ヒーロー・シグナル》。フリーチェーンの発動も不可能な罠カードであり、サイコ・ジャッカーは自らを犠牲に新たなモンスターを呼び出していく。

「我が分身! 《人造人間 サイコ・ショッカー》!」

「三体のショッカー……だと……!?」

 こうしてこちらのフィールドには、三体の《人造人間 サイコ・ショッカー》が揃い踏みとなる。その着ぐるみを着込んでいる自分自身も含めれば、四体のサイコ・ショッカーがフィールドを席巻している異様な光景だが、幸いなことに観客からはそんな声は聞こえてこない。

「永続魔法《エレクトロニック・モーター》を発動!サイコ・ショッカーでエスクリダオを攻撃! 電脳エナジーショック!」

「迎え撃て! ダーク・ディフュージョン!」

 最後に発動した永続魔法《エレクトロニック・モーター》は、自分フィールドの機械族モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせるカード。巨大なモーターから電力を受け取ったサイコ・ショッカーの一体は、偶然にも同じ攻撃力であったエスクリダオと相殺してみせ、フィールドに残ったのはこちらのサイコ・ショッカーが二体。

「トドメだ、カイバーマン! 二体のサイコ・ショッカーでダイレクトアタック! ダブル・電脳エナジーショック!」

 カイバーマンのフィールドには伏せられている罠カード《ヒーロー・シグナル》のみ。確かに強力なカードではあるものの、罠カードである以上は《人造人間 サイコ・ショッカー》の罠を無効にする効果の前には無力となる。そうして二体のサイコ・ショッカーが発したエネルギー波がカイバーマンを襲うものの、その前に一体のモンスターが壁のように現れていた。

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外することで、その攻撃を無効にする!」

「だがそれも一体だけの話だ!」

「ぐあああ!」

カイバーマン LP4000→1300

 どうやらエスクリダオの融合素材となっていたのは、墓地で効果を発揮するモンスター《ネクロ・ガードナー》だったようだが、その効果が発揮できるのは一回のみ。サイコ・ショッカーの攻撃はカイバーマンを直撃し、そのライフポイントを大きく削っていた。

「どんな気分だ、カイバーマン。さらにカードを一枚伏せ、ターンを終了……」

「ふぅん……悪くない気分だ。貴様の力に、オレも全身全霊を込めて応えてやろう! オレは《E・HERO プリズマー》を召喚する!」

 とはいえカイバーマンの戦う意思にはなんら陰りは見られず、ドローをするなり即座に《E・HERO プリズマー》を召喚してみせる。その迷いのなさから見るに、どうやら先のターンでシャドー・ミストからサーチしたモンスターらしく、つまりあのプリズマーこそが相手のキーカード。

「《E・HERO プリズマー》は、デッキから融合素材を墓地に送り、同名モンスターとなる。オレが墓地に送るカードは、こいつだ!」

 プリズマーが自身の効果を発動した瞬間、それだけでフィールドにある種の緊張感が走った。本来ならばプリズマー自身が鏡合わせのように姿を変化させるはずだが、今回はどうしてかそうすることはなく、プリズマーの背後から守護霊のようにそのモンスターが姿を現していた。

 純白の翼。青い瞳。その荘厳な存在感。この世界に三枚しか存在しないはずの、それでも世界一有名なカードとして、知らぬ者はいないだろう。

「――《青眼の白龍》!」

 その轟きは世界を震わせて、対するこちらは無意識に足を退けてしまう。そんな足に気づいた俺は、アレはプリズマーの効果で現れただけの幻影だと言い聞かせ、なんとか足をその場に留まらせて。するとカイバーマンはそんな反応こそが見たかったとばかりに、ニヤリと笑いながらも愛おしそうに《青眼の白龍》を見ていた。

「これで一時的にせよ、プリズマーは青眼の力を得た。魔法カード《龍の鏡》を発動し、青眼の力を得たプリズマーと、墓地の青眼を融合する!」

 青眼の衝撃も冷めやらぬままに、カイバーマンは墓地の青眼とフィールドの青眼の力を得たプリズマーを、魔法カード《龍の鏡》によって融合していく。もちろんわざわざプリズマーの効果を発動した以上、融合召喚されるのはただのE・HEROではなく、時空の穴から銀色の龍が姿を現した。

「融合召喚! 現れろ、《青眼の双爆裂龍》!」

 かの《青眼の白龍》の融合体と言えば三体の青眼を融合した《青眼の究極竜》が有名だが、俺の前に現れたのは二体の《青眼の白龍》の融合体こと、《青眼の双爆裂龍》。プリズマーを経て二つの首がこちらを威嚇するようにいななき、海馬ランドを我が物顔で飛翔していく。

「《青眼の双爆裂龍》は、それぞれの首に攻撃力を持つ! ショッカーどもを蹴散らせ!」

「っ……!」

サイコ・ショッカー LP4000→3400

 その二つの首は伊達ではないらしく、それぞれの首から放たれた光線に二体のサイコ・ショッカーは一瞬で破壊されてしまう。永続魔法《エレクトロニック・モーター》のおかげでダメージは軽微で済んだが、あっという間に盤面は逆転されてしまったと言っていいだろう。

「よくも……!」

「……余計なことを考えている者に勝てるデュエルなどない」

 そもそもあの《青眼の白龍》たちは本物なのか。本物だとすれば、こうして対戦している相手は――とまで考えたところで、こちらの心中を読んだかのようにカイバーマンは語りだした。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「言ってくれる……私のターン、ドロー!」

 本物だの考えている暇があるならば、デュエルに集中しろと。そう諭されてカイバーマンに内心で感謝しながらも、ひとまずは敵役として悪態をついておいて。ひとまずはデュエルに集中せんと、デュエルコートから新たなカードを引き抜いた。

「私は《マジック・プランター》を発動。永続罠カード《闇次元の解放》を墓地に送ることで、カードを二枚ドローする!」

 無意味にフィールドに残っていた《闇次元の解放》をコストに二枚ドローしながら、まずはお互いの攻防も終わったフィールドを確認する。これで俺のフィールドは永続魔法《エレクトロニック・モーター》に、リバースカードがさらに二枚でモンスターはいない。対するカイバーマンのフィールドは、攻撃力3000を誇る《青眼の双爆裂龍》に、うち一枚は《ヒーロー・シグナル》と判明しているリバースカードが三枚。ライフポイントはこちらが3400、あちらが1300とこちらが有利に見えるが、あの《青眼の白龍》に対してはまるで無意味な有利。

「私は伏せていた《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地の《人造人間 サイコ・ジャッカー》を特殊召喚し、その効果を発動する!」

「ええい……チェーンして罠カード《融合準備》を発動! デッキから融合素材を、墓地から《融合》カードを手札に加える!」

 《人造人間 サイコ・ショッカー》がフィールドにいない今、罠カードに発動の制限はない。伏せていた《リビングデッドの呼び声》により、先のターンと同様に《人造人間 サイコ・ジャッカー》の効果を発動するが、カイバーマンにも同じく《融合準備》が発動される。ただし人造人間をデッキからサーチしながらも、相手のリバースカードを確認するとともに、罠カードがあれば人造人間モンスターを特殊召喚するサイコ・ジャッカーの効果を止めるものではなく、お互いに効果を発動する。

「手札から《人造人間 サイコ・リターナー》を特殊召喚し、速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動!」

 《融合準備》は発動されてしまったものの、残る二枚のうち一枚には確認するまでもなく、伏せられたまま発動できていない罠カード、《ヒーロー・シグナル》がある。サイコ・ジャッカーの効果でサーチした《人造人間 サイコ・リターナー》をそのまま特殊召喚し、サイコ・ジャッカーに並ぶキーカードである《地獄の暴走召喚》によって、デッキからさらに二体のサイコ・リターナーを特殊召喚する。もちろんカイバーマンのフィールドの《青眼の双爆裂龍》は融合モンスターのため、《地獄の暴走召喚》の恩恵に預かることは出来ない。

「それでどうする? 攻撃してくるか?」

「……伏せられた《ハイレート・ドロー》を発動! 自分フィールドのモンスターを全て破壊し、その数だけドローする!」

 カイバーマンの挑発通りに今しがた特殊召喚した、サイコ・リターナーには相手に直接攻撃出来る効果がある。ただし問題はカイバーマンのフィールドに伏せられた《ヒーロー・シグナル》ではない、もう一枚のリバースカードだった速攻魔法《コマンド・サイレンサー》の存在だ。その効果はバトルフェイズを終了するとともに、カードを一枚ドローするというものであり、このターンの攻撃はもはや防がれたも同然だ。

「だがサイコ・リターナーは墓地に送られた時、墓地からサイコ・ショッカーを蘇生する効果を持つ! 再び立ち上がれ、我が分身!」

「ほう……」

「カイバーマン。貴公を倒すため、私は新たな力を手に入れた! 二体のサイコ・ショッカーでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 ならば戦闘は出来ずとも、せめて《青眼の双爆裂龍》だけでも破壊すると、《ハイレート・ドロー》と《サイコ・リターナー》のコンボを発動する。三枚のカードをドローしながらも、再びフィールドに《人造人間 サイコ・ショッカー》を三体ともフィールドに揃えると、そのうちの二体でオーバーレイ・ネットワークを構築する。

「刻まれた時を極め、今こそ天を掴め! エクシーズ召喚! 《甲虫装機 エクサビートル》!」

 いっそ大げさな口上でエクシーズ召喚されたのは、素材となったサイコ・ショッカー二体とは似ても似つかぬ、甲虫装機シリーズのランク6モンスター。エクシーズ召喚された際に墓地のモンスターを装備し、そのステータスの半分を吸収する効果を持つが、装備したモンスターは下級である《人造人間 サイコ・リターナー》。もちろん大した強化にはならず、守備表示でのエクシーズ召喚となる。

「エクサビートルの効果! エクシーズ素材を取り除くことで、お互いのフィールドから一枚ずつカードを墓地に送る!」

「なに!?」

 しかしてエクサビートルの効果は戦闘が本分ではなく。装備したサイコ・リターナーを砲弾にして撃ちだすことで、相手モンスターを破壊する効果を持つ。もちろん標的は《青眼の双爆裂龍》であり、カイバーマンの態度から何かしらの耐性効果を持っていたのかもしれないが、それは発揮されずにサイコ・リターナーとともに墓地へ送られた。

「そしてサイコ・リターナーが墓地に送られたことにより、墓地からサイコ・ショッカーを蘇生! バトル!」

「リバースカード、オープン! 《コマンド・サイレンサー!》」

 そして再びサイコ・リターナーの蘇生効果が発動し、墓地から《人造人間 サイコ・ショッカー》が蘇生される。先のターンと同様に二体のサイコ・ショッカーの攻撃が放たれるが、それは伏せられていた速攻魔法《コマンド・サイレンサー》によって失敗に終わる。とはいえこの展開は予想できていたことで、特に動揺することもなくメインフェイズ2へ移行する。

「だがサイコ・リターナーの効果で特殊召喚されたサイコ・ショッカーは、エンドフェイズ時に破壊される!」

「ならば進化するのみ……メイン2。私は二体のサイコ・ショッカーをリリースし、《人造人間 サイコ・ロード》を特殊召喚する!」

 確かにカイバーマンが宣言した通り、サイコ・リターナーの効果で蘇生したサイコ・ショッカーは、エンドフェイズ時に破壊される。ただしそれはサイコ・ショッカーのままであった時のみで、二体のサイコ・ショッカーはどちらも《人造人間 サイコ・ロード》へと進化を果たすことで、その自壊の運命からは免れながら力を増して。

「サイコ・ロードの効果。フィールドの罠カードを全て破壊し、その数×300ポイントのダメージを与える!」

「ふん……痛くも痒くもない」

カイバーマン LP1300→1000

 サイコ・ショッカーをリリースするという召喚条件に相応しく、サイコ・ロードはサイコ・ショッカーの正当な進化系だ。まずはサイコ・ジャッカーの蘇生に使った後、無意味にフィールドに残っていた《リビングデッドの呼び声》をコストに、小刻みながらも確実にバーンダメージを与えていく。

「それはどうかな。さらに永続魔法《トラップ・リクエスト》を発動!」

「む……?」

 とはいえカイバーマンは剛胆にも、たかが300ポイントのダメージだ、と気にする様子はない。それでも必殺のコンボの射程圏内に入ったとばかりに、永続魔法《トラップ・リクエスト》を発動する。

「私はこれでターンエンド。ああちなみに、《トラップ・リクエスト》は、私のターンのスタンバイフェイズ時、貴公のデッキから永続罠カードを私が自由に発動することが出来る。そして発動された罠カードが破壊された時、貴公は1000ポイントのダメージを受ける……言っている意味が分かるな?」

「オレのターン、ドロー……《トレード・イン》を発動し、さらに二枚ドロー。つまり?」

「つまり、次のターンに貴公の敗北は決定した!」

 永続魔法《トラップ・リクエスト》の効果。それはこちらのターンのスタンバイフェイズ時に、相手のデッキから永続罠カードを強制的にセットさせつつ破壊したらバーンダメージを与える効果であり、さらに手札にはセットされたカードを発動させる魔法カード《強制発動》が存在する。つまり、次のこちらのスタンバイフェイズ時に強制的に永続罠がセットされ、さらに《強制発動》で発動した永続罠カードを《人造人間 サイコ・ロード》の効果で破壊すれば、《トラップ・リクエスト》のバーンダメージでカイバーマンのライフは0となる。故に次のターンで終わりだと語るものの、カイバーマンにはもちろん諦める様子などなく。

「さらに《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊し二枚ドロー。……なかなかやると褒めてやりたいところだが、貴様に勝利の時は訪れん!」

 手札のレベル8モンスターを、セットされたカードを、それぞれコストに二枚のカードをドローする魔法カード《トレード・イン》に《ブラスティング・ヴェイン》。それら二枚のカードで手札の大幅な交換を果たしたが、このターンで二体のサイコ・ロードを破壊しなくては、カイバーマンは敗北する。

「オレは《E・HERO プリズマー》の効果を発動! 力を借りるのは、もちろんこのモンスター! 《青眼の白龍》!」

 そうしてしばしの後に召喚されたのは、HEROと青眼という2つのカテゴリを繋ぐカイバーマンのデッキのキーカード、名前を変更する効果を持つ《E・HERO プリズマー》。先のターンと同様に、その効果で名前を得る……もとい力を借りるモンスターは、当然のことながら《青眼の白龍》。

「さらに《闇の量産工場》を発動。墓地から通常モンスターを二体、手札に加え……貴様に神を超えた力を見せてやる。《融合》を発動!」

 《闇の量産工場》で手札を補充しながらも、カイバーマンはまたもや《融合》を発動する。先と同様に、二体のサイコ・ロードを破壊できる《青眼の双爆裂龍》の融合召喚か、と思った段階で、その考えは間違いだということに気づく。先のターンの《融合準備》で肝心の《融合》とともにサーチしたモンスターと、このターンの開始に《トレード・イン》のコストとなったモンスターに、今しがた《闇の量産工場》で回収されたモンスター……それが全て、同じモンスターだとすれば。

「三体……融合……!」

「 進化した最強ドラゴンの姿、その目に焼き付けるがいい! 融合召喚! 今こそ現れよ、《真青眼の究極竜》!」

 その可能性に思い至った瞬間、三体の龍を束ねた最強のドラゴンの姿がフィールドに現れる。いっそ美しくもあるその姿に見とれてしまいそうになったものの、目の前に立つソレは芸術品ではなく、立ちはだかる最大の敵だということをすぐさま思い出せた。

「バトル! 《真青眼の究極竜》の攻撃! アルティメット・バースト!」

「ぐああっ!」

サイコ・ショッカー LP3400→1800

 その一撃の前に、このデッキの切り札たる《人造人間 サイコ・ロード》は一瞬にして消え去った。全てを破壊するという単純な、かつ力強い光に対抗することも出来なかったが、まだ残る一体のサイコ・ロードはフィールドに残っている。サイコ・ロード一体と永続魔法《トラップ・リクエスト》に手札の《強制発動》が残れば、カイバーマンのライフを削りとるコンボは完成する。

「《真青眼の究極竜》は、エクストラデッキから青眼を墓地に送る度に、三回まで攻撃が可能となる!」

「っ……!?」

「二体目のサイコ・ロードも逃さん! ハイパー・アルティメット・バースト!」

「っつあああ!」

サイコ・ショッカー LP1800→300

 ――しかしそんな願いが果たされることはなく。エクストラデッキから青眼を墓地に送ることによる無慈悲な連撃が、《真青眼の究極竜》から二体目のサイコ・ロードにも放たれ、一体目とすぐさま同じ運命をたどる。カイバーマンが言い放ってみせた通り、サイコ・ロードと《トラップ・リクエスト》のコンボは出来そうにない。

「最後だ! 消えろ、雑魚モンスター!」

 その三つ首が示すように、《真青眼の究極竜》の連続攻撃回数は三回までが限度らしく、最後の一撃は《甲虫装機エクサビートル》に放たれた。幸いにも守備表示での特殊召喚だったためにダメージはないが、永続魔法《エレクトロニック・モーター》による機械族強化がなければ、この瞬間にライフポイントは0になってしまっていた。

「究極竜の攻撃を喰らってもまだ虫の息があるとはな。少しは褒めてやろう」

「ええい……私のターン! 永続魔法《トラップ・リクエスト》の効果が発動し、貴公のデッキから永続罠カードをセットする!」

 そうしてカイバーマンのフィールドに《真青眼の究極竜》は健在のまま、またもやこちらのフィールドは焼け野原となってターンは移行する。もはやサイコ・ロードとのコンボは不可能で、代用となる相手の魔法・罠カードを破壊するカードも手札にないが、手札の《強制発動》とのコンボは可能だ。皮肉めいた話ではあるが、相手のデッキから逆転の手札を探す。

「ええい、リバースカードだけでなくデッキまで盗み見るとは……どのカードを選ぶ!?」

「すぐに分かる。魔法カード《強制発動》! 貴公のフィールドにセットされた罠カード《輪廻独断》を発動し、ドラゴン族を選択する!」

 デッキを覗かれたことを怒るカイバーマンのデッキから選択した永続罠カードは、お互いにフィールドと墓地の種族を全て指定した種族に変更する罠《輪廻独断》。戦士族を主とするHEROとドラゴン族である青眼、それら二種類を統一するためであろうその罠カードにより、お互いのモンスターは全てドラゴン族カードとなった。

「さらに《二重魔法》を発動! 手札の魔法カードをコストに、貴公の墓地から魔法カードを一枚、手札に加える! 私が手札に加え、そして発動するのは《龍の鏡》!」

 どうしてドラゴン族を選択したかの答えは、さらに発動した《二重魔法》と《龍の鏡》が答えとなっている。サイコ・ショッカー役と聞いて投入はしていたものの、まさか使うことになるとは思っていなかったが、ありがたく使わせてもらう。カイバーマンの永続罠カード《輪廻独断》により、ドラゴン族へと変化した機械族を五体、融合素材として除外していく。

「カイバーマン……我が真の姿を見るがいい! 《F・G・D》!」

 そして五体のドラゴン族を融合したモンスターといえば、もちろんこの融合モンスター《F・G・D》。真の姿などとアドリブをかましたからか、撮影班が空気を読んだのか、《F・G・D》のソリッド・ヴィジョンが俺を包み込むように現れる。内部からはまるで自分がサイコ・ショッカーから《F・G・D》になったかのようで、外部からもそう見えていることだろう。

「この真の姿が現れた以上、貴公にもう勝ち目はない!」

「確かにな……その究極竜をも超える力、心が騒ぐ。だが真に強靭! 無敵! 最強! がどのモンスターか、次の瞬間には貴様の心に刻まれることとなる!」

「……バトル! 《F・G・D》で、《真青眼の究極竜》に攻撃!」

 対峙する《真青眼の究極竜》と《F・G・D》。強化などもなく攻撃力4500と5000の交錯に、フィールドはひりつく雰囲気が流れていた。それでも自らの勝利を一片たりとも疑うことのないカイバーマンに対して、俺はただ《F・G・D》に攻撃を命じるしかなかった。

「迎え撃て! アルティメット・バースト!」

カイバーマンLP1000→500

 その強大な力に反して、二体の竜のぶつかり合いは一瞬にして終わっていた。500の僅差とは言えども攻撃力の差を補うことはなく、《真青眼の究極竜》は《F・G・D》が放った一撃に脆くも崩れ去っていく。その衝撃はそのままカイバーマンのライフを削るが――

「無窮の時、その始原に秘められし白い力よ。鳴り交わす魂の響きに震う羽を広げ、蒼の深淵より出でよ!」

 ――片手にカードを一枚、カイバーマンは口上を述べていた。そうして崩れ去っていた《真青眼の究極竜》の眼光が鋭くなるとともに、まるで脱皮するかのように傷ついた鱗をはねのけ、新たな竜として転生していた。

「《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》! 」

 文字通り、生まれ変わったかのように。たった今しがた破壊したはずの《真青眼の究極竜》は、新たな青眼……いや、《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》として甦っていた。今までの青眼と違ってどこか女性的な雰囲気を漂わせていたが、その甲高い轟きは全てを威圧していた

「ディープアイズ……!?」

「ディープアイズはフィールドの青眼が破壊された時、手札から特殊召喚される。そしてディープアイズを呼び覚ました者は、墓地のドラゴンたちの種類×600ポイントの怒りを受ける!」

 《F・G・D》の内部から見てもなお美しい姿とは対称的な、苛烈にして全てを焼きつくす効果。皮肉にも永続魔法《トラップ・リクエスト》によって俺が発動した罠カード《輪廻独断》によって、HEROたちも交えることとなった墓地のドラゴン族の数は六種類。3600ポイントのバーンダメージとして、ドラゴンたちの怒りが《F・G・D》に直接的に叩き込まれていた。

「うわああああ!」

サイコ・ショッカー LP300→0

 耐えられるはずもないそのバーンダメージに、彼方へ飛翔していくディープアイズを見送りながらも倒れ伏した。もちろんソリッドビジョンの《F・G・D》の姿ではなく、サイコ・ショッカーの着ぐるみとなってだ。

「潔く……認めよう。カイバーマン……貴公の、勝ちだ」

「貴様もなかなかだった。この称賛とともに地獄に落ちるがいい」

 フラフラになりながらもどうにか起き上がって、最期の言葉をカイバーマンにぶつけてみれば、今度はソリッドビジョンの爆発が足下で巻き起こった。やられた怪人が爆発するのは万国共通のようで、盛大にもほどがある爆発を隠れ蓑にしながら、ほうほうの体で舞台裏へと隠れていく。

「お疲れー!」

 そうしてみればスタッフの方の拍手とともに、温かい言葉が迎えられてきていた。特にありがたかったのは冷えた水で、ストロー付きでサイコ・ショッカーを着ながらでも飲めるのが最高だったが、もうショーも終わって着ている意味はないことに気づくのには遅れてしまう。しかしてそんなことより重要なのは、共にショーをしたカイバーマンのことで。

「あの……あなたは、まさか……」

「……そのスーツでは難しいだろう。運び込め!」

「はい!」

「え?」

 おずおずと問いかけてみれば、返ってきた答えは意味のわからないもので。どういうことか聞き返そうとするより早く、どこからか現れた黒服の男たちに全身を掴まれ、そのままカイバーマンが乗ってきた青眼の姿をしたジェット機の後部座席に乗せられてしまう。

「え、ちょっ、まっ……」

「次の場所の客はデュエルの中身を重視する。貴様本来のデッキを用意しておけ!」

 そうして慣れた様子でカイバーマンはコクピットに飛び乗ると、まるで躊躇もなく発進する準備を整えていくと、俺に質問する暇も与えず青眼ジェット機は離陸する。回らない頭でカイバーマンに言われたことを反芻すると、どうやらこのまま次の海馬ランドへ向かっていき、そこで同様にデュエルショーをするらしいが――

「まずはカナダの海馬ランド! 全速前進だ!」

 ――正直、そこからの記憶は曖昧だった。世界各地を高速ジェット機で回りながら、どこにでもある海馬ランドでデュエルショーをした記憶はおぼろげながら残っていたものの、それよりは単純に疲労感がずっしりと身体を締め付けていた。何より世界各地であらゆる手を使おうとも敗北していれば、体力以上に気力がどうしようもなかった。

 その日の……いや、最初のデュエルをしてから次の日の休日の昼間、青眼ジェット機からパラシュートで落下して寮の部屋に戻ると――皮肉にも、パラシュートの使い方は今回の世界旅行でプロ並みになった自信もある。そうしてシャワーを浴びて着替えた瞬間に体力の限界を迎え、ベッドまでたどり着けずにソファーで倒れたのが最後の記憶だった。

 ――いや、その日のソファーの寝心地は、枕が非常に心地がよい思い出があった。


「……遊矢? 帰ってきてたの?」

 朝に学校で多少の用事を終わらせてきた明日香は、留学生の寮に降りていったパラシュートを見ていた。一瞬だけ理解に苦しんだものの、とにもかくにも遊矢が帰ってきたのかもしれないと、アカデミア教員のスーツのネクタイを緩めながら彼の部屋の扉を開ける。昨日と同じくチャイムを押しても反応はないが、鍵もかかっておらず、いまさら気にする関係でもないと部屋に入っていくと。

「遊……って、まったくもう」

 部屋に入って一番最初に明日香の視界に入って来たのは、アカデミアのジャージを着てソファーに倒れ伏す遊矢の姿だった。そんな姿を見て最初の数回は慌てたものだが、もはや心地よく響き渡る寝息のおかげで惑わされるわけがない。授業前なら叩き起こすところだが、あいにく今日の遊矢は全休だと把握している。

「せっかく海馬ランドのバイトの話、ドローパンでも食べながら聞こうと思ったのに」

 遊矢の寝顔がよく見える対面のソファーに座りながら、手土産に持ってきていたドローパンを片手に明日香は小さく呟いて。それともそんなに疲れるバイトだったのかと、仰向けの遊矢の寝顔を起こさないようによく見てみれば……何やら苦しんでいる様子で。悪い夢でも見ているのか、何やらうなされている表情だった。

「……もう、しょうがないわね」

 苦しむ遊矢とは対称的に少しばかり嬉しげな表情になった明日香は、遊矢を起こさないように慎重にその首を浮かすと、その隙に自らも遊矢が寝ているソファーに座る。そうして浮かしていた遊矢の首を自らの膝の上に乗せることで、ソファーではなく自身の膝枕を彼の枕として提供して。

「ちょっとやってみたかったのよね、膝枕……よしよし」

 誰に語るわけでもなく呟いていた明日香はすっかり気をよくして、自らの膝の上にある遊矢の頭を、赤子にするかのように撫でてみせる。そのかいあってか緩やかに遊矢の寝息は、苦しんでいた時から普段の明日香がよく知る寝息に変わっていて、どうやらリラックスさせられたようだ。

 ……惜しむらくは、いくら見下ろそうとしても自身の胸部が邪魔で、明日香の視界からは彼の寝顔がまったく見れないことだったが。それに明日香自身は気づいていないものの、明日香が少しでも身を屈めれば遊矢の顔面にはその胸部が押しつけられ、呼吸困難による窒息が待っているだろう。幸いにも寝心地がいいと遊矢も太鼓判を押したソファーは、身体が沈みこむほど柔らかいタイプのために、そんな不幸な事故は起きなかった。

「おやすみなさい、遊矢……」

 そうしているうちに、早朝から用事を終わらせてきた明日香も、あくびとともに目をつぶって。静かに彼へ語りかけた後に、彼女もまた意識を手放していた。

 
 

 
後書き
明日香とイチャイチャする話→\カイバーマン/ 
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